■感想など■

2009年05月23日

第4章「トモダチ」

■■【3】■■
 指が動く。
 自分の意志とは無関係に。

 ぬるぬる。

 指に絡みつく、ねっとりしたもの。

 自分の中から出てきたもの。

 それをすくい、ぬりつけ、そしてこする。
 ゆっくり。
 時間をかけて。
 はやく。
 火がでるくらい。
 刺激は“そこ”を中心にさざめきのように広がり、腰を揺する。
 動く。
 意識がどんどん押し上げられ、白く濁ってゆく。
「……ぁ…………あ…………」
 声が漏れる。
 恥ずかしい……っ!!
 枕に顔を押し付け、声を殺す。
 声を殺した事で、もっと大胆になる。
 腰をくねらせてみた。
 そのいやらしさを想像する。
 毛布の中でうつ伏せになり、お尻を高く上げて、スウェットのズボンを膝まで引き下ろして、そしてお尻を振る、そのいやらしさ。
 えっちな、格好。
 それを自覚するたびに、自虐的な想いが胸を焦がす。
「……んっぁっ…………ーちゃん…………けーちゃん……」
 愛しい人を呼ぶ。
 見て。
 えっちな私を見て。
 こんなにあなたが好きで、あなたを想ってこんなにえっちになっちゃう、いやらしい私を見て。
 途端に、ぐんっと意識が舞い上がる。
 高みに。
 真っ白なところに。
「んんぅん〜〜……」
 赤ちゃんがむずがるように。
 何かを請うように。
 しゃくりあげ、腹筋が“びくっびくっ”と痙攣するようにひくつき、足の指がシーツを突っ張る。
「……けーちゃん……けーちゃぁん…………」
 キス。
 記憶の中の彼。
 意志の強そうな唇。
「けーちゃん……けーちゃん……」
 その唇で、おでこを、ほっぺたを、唇を、ついばむように、キスされる。
 そして指。
 胸に、お腹に、そしてあそこに触れる彼の指の、

 ビジョン。

「んあっ……」
 枕に押し付けた口が、感極まった声を洩らす。
「…………ぁ…………」
 そして彼女は、高みに到達する。
 あとは…………真っ白な、闇。

         §         §         §

 由香は、ベッドの中で“くたっ……”と体を横たえ、深く溜息をついた。
『なにやってんだろ……私……』
 もう、“在りし日の彼”を想い描きながら自慰をするのは、これで最後にしよう。
 ……そう思いながら、もうこれで3回目だ。自分はこんなにもえっちだったのか……と、由香は自己嫌悪に陥ってしまう。
 なんて、未練がましい女だろう。
 小学三年生から始まった彼女の『初恋』は、つい先日、意外な形で唐突に終わってしまった。
 彼に嫌われたわけでも、彼に彼女が出来たわけでもない。
 けれど、彼を嫌いになったわけでも、彼以外の人を好きになったわけでもなかった。
 彼が、女になってしまったのだ。
『サイテー…………』
 正確には『女になった』のではなく、『女だった事が判明した』のだけれど、由香にしてみればそれはものすごい“裏切り行為”だった。たとえ彼自身に由香を騙していた自覚が無くても、彼女が8年間も騙されていた事実に変わりは無い。
 それ故に覚悟が出来なくて、彼が目覚めてからも彼に会いに行く事が出来なかった。
 健司に言われても、曖昧な返事しか出来ない。
 彼が嫌いになったわけではないのが、余計に由香を苦しめている。
 『女性かせいはんいんよー』とかなんとか言う変な病気(?)だかなんだか知らないけれど、8年間もあたためて、あたため過ぎて熟成しきってしまったこの恋心を、いったいどうすればいいというのか。
『忘れちゃうのが一番なんだけど……』
 忘れて、また、元の関係に戻るのだ。
 また仲の良い、ただの幼馴染みに、戻るのだ。
『できるわけないじゃない……そんなの……』
 圭介からメールをもらって彼の家に行った時、彼の部屋にいた可愛らしい少女。
 『美少女』と言ってもいいそのセミロングの少女が、自分の恋した少年だと知った時の衝撃は、きっと誰にもわかってもらえないのではないだろうか?
『東京に上京した恋人に逢いに行ったら、ニューハーフに……しかも自分よりもっと綺麗になってゲイバーで働いてる……って聞いた時の心境と同じかも』
 「ふざけんなバカ!」とか言って彼の顔にビンタの一発も張って、それで全てを忘れてしまえればどんなにか楽だろう。
 馬鹿なことを考えてる。
 由香はそう思いながら、ひとりえっちの余韻からようやく身を起こした。
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