■感想など■

2009年06月08日

第6章「自覚と淫夢とふくらんだ胸」

■■【6】■■

 胸がものすごく痛かった。
 涙が出た。

 圭介は3時間目の体育を休んで、生理休暇の制服組と一緒に体育館の隅で見学していた。
 この学校は、県下でも早々とブルマを廃止した部類に入る。基本的に体操服はジャージのみ学校指定で、他は自由だ。だからこそ圭介もブルマを履いて恥ずかしい思いをしなくて済んでいた。
 ただし、「自由」とは言っても思春期の男女を不必要に刺激しないように、体の線がハッキリと出るタンクトップやチューブトップ、そしてスパッツなどは禁止……とまでいかなくても厳重注意対象となっている。
 というわけで、圭介は女になる前とほとんど変わらない服装で壁際に座り込んでいた。上はTシャツにジャージを羽織り、下はハーフパンツという姿だ。男だった時は短パンだったけれど、さすがに女になってからは裾から下着が見えてしまう事が多々あって、教師にハーフパンツに変えるよう指示されたのだった。
『ちくしょー……』
 一応着替えはしたけれど、着替えに使った保健室にソラ先生がいなかったので、胸を診(み)てもらう事が出来なかったのだ。圭介が来るのを彼女が手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えているだろう場所に、自分一人だけで行く……というのは、まだ抵抗があった。でも、由香も一緒だったので大丈夫だろう……と思ったのだ。
 時間が経つにつれ、おっぱいの上の胸元のひりひりとした痛みがひどくなってくる。
 おっぱいの付根部分も鈍く痛んだ。
 コートの中の由香が、心配そうにこっちを見ている。手を軽く振ってやると、ホッとしたように微笑む。……が、あぶない!と思う間もなく、頭にボールが当たって宙高く跳ね上がった。
『なんだかなぁ……』
 保健室に行く前に、近くのトイレへ由香に連れられるようにして入った時の事を思い出す。
 あまりにも圭介が痛がるので、心配した由香が引っ張っていったのだ。
 個室に入ってすぐ、
「ね、けーちゃん、胸出して」
 真面目な顔で詰め寄られた。
「こんなところでか?」
「だからトイレまでわざわざ来たんでしょ?」
「う、うん……」
 圭介はブラウスのボタンを外し、Tシャツを二枚とも捲り上げて“ぶるん!”とたっぷりした重たい乳房を放り出した。
「ぜっ、全部出さなくてもいいってば!もうっ!」
「え〜……」
 同性なのに真っ赤になって目を覆ってしまった由香を見て、圭介までが赤くなる。
「いいよ」
 圭介はトップを両手で隠しながら、天井の蛍光灯の光が当たるように角度を調節して由香に見せた。ただでさえ豊かな胸が、両手で少し押えるようにしている事で深い谷間が強調され、さらに豊かに見える。これで少し前屈みになって恥ずかしそうに微笑んで見せれば、どんな男だってたちまち野獣になって襲いかかってきそうだった。
 けれど今ココにいるのは由香一人であり、その彼女は、乳房そのものよりも、その上の部分に目を吸い寄せられていた。
「うわ……」
 思わず由香は息を飲んだ。圭介の乳房の上部、急激な盛り上がりを見せるその部分が、内出血で痛々しく紫色に腫れていた。
 左手で捲り上げたTシャツを押さえ、右手の人差し指と中指でおそるおそる触る。ぷにぷにとした触感とあたたかな体温に、由香は、なぜかどきどきした。
「……痛い?」
「そりゃあ……」
「…………これ、痕(あと)にならないといいけど……」
「え?」
「今日だけならまだいいかもしれないけど、毎日こうだと、やっぱり…………」
 由香の言った言葉に、思わず圭介は息を飲んだ。こんなみっともない斑(まだら)模様が一生残るなんて、考えただけでゾッとする。
「……ね…………今日、ブラ買いにいこっか」
「…………うん」
 思わず素直に頷いた、圭介だった。

 目の前で、レシーブを打つ女生徒の、体操服に包まれた胸が“ぷるっ”と可愛く揺れた。圭介のように、笑ってしまうくらい盛大に揺れたりしない、歳相応の揺れ方に見える。
『いいなぁ……』
 しみじみと思う。
 重たい胸は、走る時にしっかり固定しておかないと、毛細血管がぶちぶちと切れる。そりゃあもう景気良く断裂する。そして、切れた所は内出血を起こし、腫れて、引き攣りを起こし、鈍い痛みになる。
 よく、巨乳・爆乳アイドルなどが白い砂浜で、おっぱいをぶるんぶるんと盛大に揺らしながら画面奥から走ってくる映像などがあるが、あれはきっと相当痛いのを我慢しているに違いない……と圭介は思う。
 仕事だから出来る事なんだろうけれど、自分なら仕事でもやりたくないと圭介は思った。
 今は若いからいいかもしれない。
 でも、肌に張りが無くなったら、揺らしまくったツケはスグ、確実に、乳房に訪れる。伸びきった皮下細胞は、大胸筋だけでは重量のある乳房を支えられずに、だら〜んと垂れてしまうのだ。古いコントで老婆役のコメディアンが、長く伸びたタクアンみたいな乳房を「よいしょ」と肩にまわすシーンがあるが、自分の胸がもしそんな風になったら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない……と圭介は思った。
『やっぱり買おう……。由香についてきてもらって、ちゃんとしたブラ買おう……』
 体育のバレーの授業の間、圭介は体育館の壁際で生理休暇の女生徒に混じりながら、じっと一人で決意を新たにしていた。
 長く伸びきった乳房を肩に背負う自分の姿を、必死に振り払いながら。

 体育が終わり、圭介は着替えるために由香と保健室へ向かった。
 最初から休むのであれば着替える必要も無かったのだけれど、ソラ先生にも用はあったので仕方ない。
「いた」
 中を覗くと、ソラ先生(空山美智子)がなんだか疲れた様子で机に足を投げ出し、椅子にふんぞり返っている所だった。
 年齢不詳のソラ先生だけれど、前にはるかちゃんから、彼女ははるかちゃんの2つ3つ上だと聞いた事がある。何でも、この高校に着任した時の歓迎会で、一度だけ歳を教えてくれたらしい。それが本当だとすれば、今は25・6のはずだが…………とても結婚適齢期の女性とは思えない“色気の無さっぷり”だ。
 圭介達がそろそろと部屋に入ると、
「やっと来たか」
 ソラ先生は圭介達とは“反対側を向いたまま”そう言って、くるうりと椅子を回しこちらに向き直った。
 ニヤリと笑ったその顔は、とてもとても“男らしかった”。
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