■感想など■

2009年06月13日

第7章「オレの先生は宇宙人」

■■【5】■■
 場合によっては女のまま受胎するかもしれないけれど、男に戻る可能性だって、あるのだという。

 美智子は言う。

 重要なのは『星人』の遺伝形質が、この星の現住生物である人間と自然状態で子孫に遺せるか……ってこと。
 『星人』のテクノロジーを使えば簡単だけど、それじゃあ意味は無いんだ。
 男とイッパツやって、男の精液を膣内で感知した時、お前の肉体が強烈なストレスを感じるようであれば、たぶん女から男に戻れるかもしれない。女として子孫を残すより、男として子孫を残す選択肢の方が、よりストレス無く良質な状態で“子”を成す事が出来るなら、それに越した事は無いからな。
 男は自分の子孫をより多く残すために相手と心が通い合わずとも性交出来るのに対し、女は、より質のいい子孫を残すために相手を吟味しないと行動に移れない。
 より最良の方法で上質な遺伝を成し得るのは、「数打ちゃ当たる」か「厳選方式」か。
 もっとも、男に体を自由にされる女が、女の体を自由にする男よりストレスを感じるとは、必ずしも言えないからな。
 ひょっとしたらお前の体は、女のまま子孫を残す事を選ぶかもしれない。
 それでも良ければ、試してみるといい。
 私達も期待してる。
 お前が、私達の“命”を地球の者の命を結び付けるその時を。
 なんたってお前は、私達の希望の星なんだから。

 話し終えた美智子は、席を立って保健室のテーブルの上の急須に、ポットからお湯を注いだ。
 「飲む?」とジェスチェアで湯飲みを示してみせるが、圭介は呆然としたまま気がつかなかった。
「ショックがデカすぎたか?」
 圭介が男に戻るには、健司と物理的にも精神的にも遠く離れ、その上で他の女性に恋しなければならない。
 それが出来ないのであれば、誰でもいいから男と寝て、中出ししてもらって、精液を膣内で感じた時に強烈なストレス感知を期待するしかない。
 それは、今の彼にとって苦渋の選択…………いや、きっと血を吐くような決断を強いているに違いなかった。
「そんなに……」
「ん?」
 不意に口を開いた圭介に、湯飲みへお茶を注いでいた美智子の手が止まる。
「そんなにオレが大事なら、なんであの時、他の医師にまかせようと思った?」
「あの時?」
「オレが倒れた日の昼、ここで目覚めた時」
「ああ…………そうだっけ?」
「あの時、由香に言ったんでしょ?オレの目が覚めて、それでも気分が悪かったらちゃんとした医者に見せろって」
「けど、行かなかっただろ?」
「それは結果論で……」
「まあ、ホントに病院行かれても、ここ(地球)のケチな設備でなんかわかるほど、私達のテクノロジーはやっすいモンじゃないからねぇ。それにあの時点では、お前の体は間違いなく男だったわけだし」
「で、でも、そのまま病院に入院とかしたら、まずかったんじゃないですか?もし病院で変化とかしたら」
「その前に手ぇ回して、家に連れ帰ってただろうさ。お前のオヤジならね。もっとも、そんな事しなくてもこの街の病院は私達のコミュニティの息がかかっているからヘーキ。小学2年生の時、お前のオヤジはここの病院にお前を移したんだよ?覚えてないのか?」
 ……覚えてなかった。
 けれど、街一つ、まるまる圭介のためだけに用意してしまう『星人』達の事だ。ウソとは思えなかった。
「ま、それはそれとして、これから自分がどうするか、よーく考えるこった」
 圭介は黙って、湯飲みを差し出した美智子を見上げた。
「で、なんだっけ?もう一つ用があったんじゃないのか?」
「あ……うん……」
 圭介の視線が、自分の胸に落ちる。ほっそりとした体には全く不釣合いな、“どかん”とヴォリューム満点の乳房に、美智子の顔が悪戯小僧のような笑みを浮かべる。
「胸…………か。まあいい。痛いか?」
「まだ、少し……」
「……とりあえず見てみるか」
 保健室の窓のカーテンを引き、ドアには鍵をかける。そうしてから美智子は、椅子を引き寄せて圭介のすぐ正面に座った。彼女の吐息を感じるくらいに近い距離だ。ちょうど、医師が患者の具合を診る時の距離と同じだった。
「脱いでみ」
「……ぜ、ぜんぶ?」
「全部脱ぐ必要は無いよ。前だけ捲り上げればいい」
 一瞬、圭介は躊躇したけれど、すぐに、覚悟を決めて紐タイを外し、ブラウスのボタンを一つ一つ外してゆく。そしてブラウスの前を開くと、2枚重ねで着込んでいたTシャツを一度に捲り上げた。
 カーテンに遮られた淡い陽光の中に、真っ白で乳首だけが綺麗な赤の、豊か過ぎるほど豊かな乳房が“ぶるんっ”とまろび出る。「巨乳」とか「爆乳」とか、『異常です』という差別的語彙を変容させただけの形容名詞(?)が、ぴったりくるような乳房だった。
「でかっ!!なんだこりゃ!?バケモンかオマエは」
「ひ……ひでぇ……そこまで言う?!」
 まるでいきなり凶器でも突きつけられたかのように、ぎょっとしてのけぞった美智子へ、圭介は今にも泣きそうな顔を見せた。

「しっかし……こんなちっちゃい体に、よくもこんなにでっかいもんが実ったなぁ……」
「実ったってゆーな」
 ぶーたれる圭介は、すっかり涙目だ。『バケモン』と言われたのがよほどショックだったらしい。
「あの……けーちゃん……?」
 その時、控えめなノックと共に由香の声が聞こえた。ためらう圭介に構わず美智子がドアに近づき、あっさりと鍵を開ける。
「……あ……えっと…………お取り込み中……??」
 保健室に入ってきた由香は、ブラウスの前をはだけ、Tシャツを捲り上げて椅子に座っている圭介を見て目を丸くした。両手で乳首を隠しているため、ただでさえ豊かな乳房が押されて、さらに豊かに見える。カーテンが引かれているために淡い光となった陽光が、白い肌に優しい陰影を落とし、ちょっと幻想的にさえ見えた。
 …………雑誌のグラビアみたいだった。
 しかも、ちょっと芸術寄りの。
「けーちゃん……きれい……」
「ばか、早く入ってドア閉めろよ」
 苦笑する美智子が由香のために椅子をもう一つ用意するのを見ながら、圭介は少し恥ずかしそうに言った。
「あ、うん」
「あれ?もう昼休みって終わる?」
「ううん。そうじゃないけど、ちょっと気になっちゃって…………」
 ほにゃっと笑みを浮かべる由香に、美智子が椅子を示す。キャスター付きの椅子は2つしか無いので、由香にはパイプ椅子だ。
 由香はその椅子を圭介の側まで引き寄せて、彼の胸を見ながら腰を下ろした。
「あ。体育の前に見た時より、良くなってるね」
「まあなぁ……さすがに、あの斑(まだら)が残んなくてホッとしたよ」
 さっきまで美智子と話していた事はキッパリと忘れ、今は由香に話を合わせなければ……と圭介は思った。
 まだ、彼女に自分が普通の人間ではないのだとは知られたく無かったからだ。
「んじゃ、改めて見せてみ」
「…………ん」
 美智子が椅子に座ると、圭介は乳房から両手を離した。由香にはトイレで一度全部見せているし、美智子にも見られている。今さら恥ずかしがる事でも無いから、2人の目前に晒(さら)してしまう事にさほど抵抗は無かった。
 ぷくぷくしたほっぺたがほんのり赤いのは、たぶん気のせいだ。
「……っ…………」
 “ゆさり”と重たげに揺れる乳房を見て、由香が、さっきとは違う意味で息を飲んだ。
 “ぷるっ”でも“たぷっ”でもなく“ゆさり”である。
 実に重そうだ。
「…………けーちゃん…………エロい」
「エロ…………」
 『バケモン』の次は『エロ』ときた。
 …………もし健司に見せたら、なんて言うだろうか?
『いや、見せるなんてありえねーし』
 途端に顔が火照ってくるのを無理矢理鎮め、圭介は、指を伸ばして乳房を突付こうとした由香の右手を、“ぺちっ”と叩いた。
「ほら、じっとしてろ」
 由香と圭介の静かな攻防に苦笑しながら、美智子は彼の椅子を掴んで自分の正面に向かせる。
 圭介はTシャツが下がってこないように両手でたくし上げているけれど、そんな心配は全く無用だろう。
 彼の首はほっそりとして、ちょっと短い。背が低いのでことさらにそう見えるのかもしれないけれど、首筋と鎖骨の描く線は、ひどく幼い感じがした。その鎖骨から薄い胸板へとなだらかな稜線が走り、そこからみっちりと重たく盛り上がった白い乳房へ、急激にカーブを描いている。半球を描く「お椀型」と、釣鐘(つりがね)状に前方へ突出した「紡錘(ぼうすい)型」の中間くらいの、きれいなカタチだった。
「こりゃ、どっからどー見てもカンペキにおっぱいだな」
「そんなのは見ればわかるってば」
「ちょっといいか?」
 圭介の返事を待たず、美智子は両手で圭介の乳房を両手で下から掬い上げるようにして持ち上げた。
「んっ」
 ぴくっと圭介の肩が震える。美智子の手が、思ったよりもずっとひんやりと冷たかったのだ。
 乳房は、主に乳腺と脂肪のカタマリだ。だから、圭介のように体格と不釣合いな重さだと、いくら肌が若々しくてもどうしても少し下垂してしまう。けれど、彼(彼女)の乳房は歳を取って“だらん”とだらしなく垂れているわけではないので、持ち上げる……というより、下から手を添えて押し上げるといった形になった。
「それにしてもでけー……。しかもイイカタチしてやがんなぁ……ええいチクショウ」
「なんですかチクショウって……」
 生殖機能が無く、外部生殖器も実質的には『飾り』でしかない美智子にとって、乳房は邪魔なものでしかなかった。少なくとも19年前までは。だからこういう体にしたのだし、それで特に不都合も不満も無かったはずだ。
 ……はずだったのだけれど。
『私もかなり毒されてんなぁ……』
 もにもにと圭介の乳房を触診しながら、美智子は心の中で苦笑した。

 乳房が「女性」や「母性」の象徴であり、「豊かさ」「慈愛」のシンボルだというのは、地球の文化を知る事で美智子にも理解出来た。男性が強烈なセックスアピールを感じる事も、理解出来る。豊かな胸は、かつて人間が獣(猿)だった頃、主に後背位(バック)で性交していた頃の名残だろうと言われている事からも、それはわかる。直立する事で、発情時に肥大する豊かな尻肉を露出する機会が失われ、その代わりに乳房が膨らんで、性交可能であることを雄に報せるのだという。
 生殖能力が無く、“子”を成すことの出来ないからこそ、美智子は数年前から時々、自分にも豊満な乳房が欲しいと思うようになっていた。もちろんその気になれば、美智子はすぐにでも豊満な乳房を胸に盛り上がらせる事が出来るけれど、この学校にいる限り、それは『できるけれどしてはいけないこと』だった。いきなり体型を変えて、生徒の注目を浴びたりするのは得策ではないからだ。
 圭介が肉体変化を起こしてすぐ保険医の肉体も変化すれば、その間になんらかの因果関係を感じる者も必ず出て来るだろう。
『出来れば……記憶操作はしたくないからな……』
 人間の脳のシナプシス反応を操作して、一定時間内の記憶を消去したり改竄(かいざん)したりする事は、『星人』の技術をもってすれば不可能ではない。けれど、それをこの惑星の住人に行うには、絶えず危険が伴う。シナプシスの化学反応による電気信号伝達で形成されたネットワークは、炭素系生物では珍しいものではない。けれど、この惑星の記憶構造は、他の惑星人に比べてひどく脆弱であり、微細な調整が難しいのだ。
 だからこそ、記憶操作は極力せず、もししなければならない事があっても、最小限の改変に留める事が決められていた。これは全て、この星の人間を愛するゆえの、涼子の決めた不文律(ふぶんりつ)なのだ。

 圭介の乳房は、白くて、もちもちと手に吸い付くような肌をしていた。適度にやわらかく、あたたかく、いつまでも触っていたくなるほど気持ちが良い。
「女子に揉まれただろ?」
 乳腺の発達具合を確かめながら、美智子は悪戯っぽく聞いた。
 途端に圭介の顔が、あからさまにうんざりしたものになる。
「…………イヤんなるくらい。人の触るなら自分の触れっつーんだ。オレのおっぱいはオモチャじゃねーぞっての」
「まあそう言うな。自分に無いから触りたいんだろうし、それにたぶん、触った時のお前の反応が面白かったんじゃないのか?」
「それって結局、オモチャにしてるってことじゃねーか……」
 唇を突き出して、子供っぽく拗ねたような顔をする圭介を見ていると、オモチャにしたくなる女子生徒の気持ちがよくわかる。
 艶やかなセミロングの黒髪。
 小さい頭と整った顔。
 細いけれどキリリと意志の強さを感じさせる眉。
 長い睫とクッキリとした二重瞼(まぶた)。
 パッチリとした少し釣り目気味の目。
 鼻筋は通っているけど、ちょっと上を向いた鼻がやんちゃな悪戯っ子を思わせる。
 すっきりとしていながら、ほっぺたはぷくぷくとやわらかそうだ。
 その上、体つきもほっそりとして背も低く、まるで少し前の少女漫画の主人公みたいだった。
 そんな、『可憐』とか『可愛らしい』とか『子犬みたい』とか『ポケットに入れて持って帰りたい』とか言われそうな少女の胸に、大人顔負けの豊かな乳房が重たげに揺れている図……というのは、“その手のシュミの方々”なら、まず間違いなく大喜びしそうなシチュエーションだった。ちょっと生意気そうながらも、可愛らしくあどけない『ロリータ顔』に、“どかん”とでっかい『爆乳』……というのは、昨今のセクシャル系グラビアアイドルの傾向と、ぴったり合致しているからだ。
「もう痛みは無いのか?」
 美智子が乳房の上部……胸元の少し赤くなっている部分を指で押さえながら圭介に聞いた。
「ん…………うん」
 触診とはいえ、何度も揉まれ、撫でられて、圭介はすっかり大人しくなってしまっていた。口を塞ぎ、赤いほっぺたのまま、自分の乳房を美智子の白い手が動き回るのをじっと見ている。
「ナニ感じてんだ?」
「……ばっ……ンなこたねーよ……」
 10円玉より少し大きいくらいの乳輪に、小豆くらいの可愛らしい乳首。その淡い桜色の乳首は少し赤味が増し、その上しっかりコリコリと勃起している。美智子はそのことに気付いていたけれど、あえてそれについては何も言わなかった。
「言うほど痣(あざ)も残ってないしな、たぶん体質的なものもあるんだろう」
 美智子は言外に、『星人』の肉体的特性であることを含めて言った。由香がそばにいる以上、その話は出せないからだ。
 けれど、ちゃんとそれが伝わったのか、圭介の顔がふっと緩んだ。
「ホッとしたか?」
「うん。やっぱり……ね」
「そうか」
 体に傷や後が残る事を心配するのは、女性的な感性だ……と美智子は思った。圭介は、思ったよりも急速に精神までが女性化しつつあるらしい。
「乳腺もしっかり成長してるし、脂肪の感じも特に異常は無さそうだ。そういえば、もうカップは測ったのか?」
「カップ?」
「バストカップだよ。知ってんだろ?」
「なんだそりゃ?」
「おい川野辺……お前、彼女だったんならそれくらいカレシに教えとけよ。下着買ってもらう時に困るだろ?」
 じいい……と、なんだかもの欲しいんだか羨ましいんだか、圭介の乳房を見ていた由香は、美智子の言葉に慌てて両手を振った。
「かっ……彼氏じゃありませんっ!そ、そんな!そんなけーちゃんにわたしなんか」
「じょうだんだ。本気になるな」
 その慌てっぷりに、くくく……と美智子が笑う。由香はたちまち憮然となり、ぷうっとほっぺたを膨らませた。
「トップとアンダーはわかるよな?」
 圭介の乳房を解放し、美智子は椅子に体を預けて腕を組む。すっかり今の本職である、保健教諭の顔をしていた。
「…………上と下……」
「そうじゃなくて…………あーもういい……川野辺、そこにメジャーがあるから取ってくれ」
「あ、はい」
 立ち上がり、とててっと壁際の戸棚に由香が向かう。前面がガラスの観音開きになっている戸棚には、消毒薬や包帯、ハサミやアルミ製の箱などが置いてある。メジャーは、その一番下の棚にあるはずだ。
「Tシャツはいいからブラウスだけ脱げ。そのままだと測りにくいから」
「……はい」
 圭介が言う通りにすると、今度は後を向いて両腕を上げるように言う。
 そして由香がメジャーを持ってくると、手馴れた手付きでメジャーを引き出し、彼の体に回した。
「んひゃっ!?」
「なんて声出してんだ?」
 あまりにも可愛らしい悲鳴に、美智子は“ぷっ”と吹き出してしまった。
「いや……ちょっと冷たかったから……」
「可愛い声だけど、そういうのは男の下で出すもんだ」
「男の下?………………なんだよそれ」
 顔が真っ赤だった。どういう意味なのか理解したに違いない。
「じゃ、おっぱいを持ち上げな」
「は?」
「トップサイズってのは、ブラをつけた時と同じ状態で測った、乳首の位置でのサイズのことだ。エロい雑誌とかでバスト90センチとかって書いてあるアレだ。まあいいや。川野辺、ちょっと見てやんな」
「あ、はい」
 由香が圭介の前に回り、乳房を寄せ上げるように言う。
「こ、こう?」
「脇のお肉も持ってきてね」
「脇のお肉って……」
「ここ」
「あひゃっ」
「もうっ……ヘンな声出さない」
「だってさぁ……」
「ほら、自分でやる」
「う……うん……」
「そう。うん、もうちょっと。あ、持ち上げ過ぎ。……ん、そう。あ、あ、あ、ストップ。うん。ここ」
 背中越しに2人の会話を聞いていると、普通の女の子同士の会話だとしか思えない。片方は、たった一週間ちょっと前までは、正真正銘の男の子だったというのに。
「いいかー?測るぞー?」
「んぅっ……」
 乳首を“しゅるっ”と擦ったメジャーに、圭介は小さく声を上げた。
「い……いま、わざとやったでしょ?」
「あ〜……ソラ先生ってばえっちー」
「ばか。じっとしてろ」
 耳たぶまで真っ赤にした圭介と、ほにゃほにゃとした笑みを向ける由香に、美智子はわざと怖い顔を作って言った。

 乳房のカップの測り方は、トップバストとアンダーバストの差で決められる。由香のようにぺったんこの胸だとさほど苦労は無いのだけれど、今の圭介のようにたっぷりと豊かな胸は、一人では正確に測る事が出来なくて、誰かの手助けを必要とした。
 トップバストのサイズは、乳房の一番大きな(高い)部分の、胴を含めた周囲のサイズだ。方法としては、ブラジャーを付けているのと同じ状態を作り、乳首の上でメジャーを通す。手で持ち上げるのがいいけれど、とりあえず測るだけなら、ゆったりめの仮ブラをつけて、それで測ってもいい。
 手でおっぱいを持ち上げて乳首の位置を上げる時、脇に流れた肉を寄せる事を忘れてはいけない。男が思うよりも簡単に、乳肉は『移動』するからだ。手で脇肉を掻き集め、寄せ上げてそのままおっぱいを維持し、メジャーを回してトップを測る。一人では正確に測れないのは、明白だ。
 それに対してアンダーバストのサイズは、比較的簡単に測る事が出来る。バージスラインのすぐ下を測ればいいだけ……だからだ。
「バー…………なに?」
「バージスライン。覚えとけ。この、乳房の下の、ふくらみの輪郭線の事だ」
「ちょっ……んっ…………くすぐったいって」
「我慢しろ。お前みたいに乳房そのものが馬鹿でかい場合、大抵はそこを少しキツめに測って、逆にトップバストはゆったりめに測ると、カップに少し余裕が出来て胸が苦しくないぞ」
「馬鹿でかい…………」
 今度は『馬鹿』ときた。
 『馬鹿みたいにデカイ乳』……と言いたいのだろうけれど、どうしても『乳にばかり栄養がいって脳味噌カラッポの馬鹿』と聞こえてしまうのは、圭介の被害妄想かもしれない。
「んんん……??……アンダー65.5……の、トップが………………87.5か…………限りなくGに近いFカップだな」
「すごっ…………」
 由香が目を丸くして、改めて圭介の乳房を見た。
 テレビや雑誌などではよく見かけるものの、こうして同年代の女の子の「生Fおっぱい」を見たのは、由香はこれが初めてだった。今までこの学校で見た事のある胸は、大きくてもせいぜいがDカップくらいで、それも、実際には形が良くなかったり、水増しして申告していたりするものばかりだった。だからこうしてその大きさを実感しながら目の前で測って、そして出た「F」というサイズには、どうしようもない衝撃を感じずにはいられなかったのである。
「さっきも言ったが、トップはちょっと余裕を持って測ってあるから、実際はEカップくらいじゃないかな?」
「それでも十分でっかいです」
 なんとなく打ちひしがれたような顔で、由香は軽い口調の美智子を見た。『うらやましくなんかないもん!』という、健気(けなげ)な意志がその瞳に宿っている。
 美智子は“きょとん”とした圭介の胸と、“むうっ”と唇を突き出した由香の胸を交互に見て、
「まあ、がんばれ」
 と、由香の肩をぽんと叩いた。

 カップサイズで最も小さいのは、AAAの5.0センチだ。トップとアンダーの差が2.5センチ大きくなるに従い、カップもランクアップしてゆく。7.5センチまではAAカップ、10センチまでがAカップ…………Fカップは22.5センチまでで、Gともなれば25センチほどになる。
 もちろん、カップの容量だけで乳房の大きさ……バストサイズを表す事が出来ない事も確かだ。
 圭介のバストサイズは、アンダーが65.5センチでFカップなので、F65(65F)などと表記される。実は、カップの容量だけを考えれば、そのF65はE70と同じカップ容量とされているのが現実だった。同様に、E70はD75と。D75はC80と、同じカップサイズとされている。そして、その要領でサイズをシフトしていくと、F65のカップは、AA95のカップ容量と同じという事になってしまうのである。
 では、それで本当に見た目のバストサイズが同じかというと、決してそんな事は無い。
 見た目のヴォリュームは、全て相対的なものだからだ。乳房そのものが容量が大きくても、アンダーバストが大きければ乳房そのものの豊かさには結び付かない。
 圭介の乳房に対して美智子や由香が絶句したのは、圭介が今、中学生程度の体格しかないためなのだ。

 グラビアアイドルなどには、プロフィール欄に身長163センチでバストは93センチのGカップ……などと、平気で明記しているものがあるけれど、その数値が本当に正しいかどうかは甚(はなは)だ疑問だ。Gカップともなれば、トップとアンダーの差は25センチにもなる。となれば、アンダーサイズは68センチとなるはずだが、身長160センチ以上の成人日本女性で胸骨の外周が68センチ以下だと、まともな心肺機能さえ望めない虚弱な体……となってしまうだろう。もちろん、では身長が160センチ以下ならば納得出来るのか?と問われればそれも不信感は拭い得ない。その場合、胸以外は中学生レベルの体型だということになり、全身の脂肪分布に著しい偏りがある事を自ら示す結果となってしまうからだ。
 大抵の場合、プロダクションの意向でタレントのプロフィールなどはどうとでも改竄される。要は、『売れれは良い』のであって、数値が正しいかどうかは、全く別の問題なのだ。タレントは『商品』なのであって、売れるようにデコレーションしたりディスプレイするのは、資本主義としては正しいカタチなのだから。
 また、時には屈み込んで乳を垂らし、それでトップバストを測ってカップサイズを底上げする場合もあるというから、サイズなど本当に自由に申請してしまえるのである。
 同様に、ウエストサイズが58センチから60センチであるのも、その数値を好む男性(客)が多いからそうなのであって、実際にそのアイドルのウエストが58センチかというと、決してそうだとは限らないのが今の常識となっている。プロダクション申告のその数値を鵜呑みにして、グラビアアイドルのプロポーションこそが理想であり、数値を超えた女性は全て「太っている」と思うのは、よほど女性に慣れていないか、幻想を抱いているか、現実を見ようとしないかのどれかだ。内臓が本当に入っていれば、健康的に育った18歳以上で160センチ以上ある女性のウエストが、60センチを下回る事などほとんど無いのである。
 そういう人間は、平気で身近な女性を傷つける。自分の狭窄(きょうさく)な視野でしか認識していない不完全な知識を振りかざし、それ以外を認めようとしないからだ。だが、マスメディアの情報を鵜呑みにして視野を自ら狭めて行くそんな男性が増えているのも、また確かなのである。

 そういうモロモロの意味を踏まえた上で圭介の体を見た場合、明らかに中学生レベルの体型(しかもほっそりとしたコンパクトサイズ)にFカップというのは、驚異を通り越して既に異常だと言えた。

 圭介はじいい……と自分の乳房を凝視する由香の視線から隠すように、Tシャツをそそくさと下ろした。体育前のトイレでは、あんなに恥ずかしがっていたのに、由香の、この変わりようはどうだろう。明るいところで長時間露出した事で、彼女の好奇心を無駄に刺激してしまったのだろうか?
「けーちゃんは、体が細いからよけいに胸がでっかく見えるんだよね。お腹や脚にお肉ついてないのに、胸ばっかりお肉ついてるのなんて反則だよ。代わって欲しいくらい」
「反則って…………オマエな……これ、すげー重いんだぞ?代わりたいのはオレの方だ」
 Fカップともなれば、乳房自体の厚みは優に12センチを超える。重さに至っては筋肉よりも比重が軽いとは言っても、片方の乳房だけで800グラムにもなるのだから、両乳房で1.5キロを軽く越えてしまうわけだ。どのくらいの重さなのか実際に知りたければ、500ミリリットル入りのペットボトル3本に並々と水を入れて、それをまとめて首からかけてみればいい。1時間もそうしていれば、いかに豊か過ぎる乳房というものが女性の肉体に負担を強いているか、嫌でもわかるだろう。
 実際、圭介の肩は、まだ昼だというのにカチコチに凝っていた。首を回すだけでごりごりと鳴る気がする。
「やっぱりいい……」
「うわっ、すげーイヤそうな顔……」
 苦笑しながら、圭介はブラウスのボタンをはめて、袖を軽く捲(ま)くる。制服用のブラウスは胸がとても入りきらないので母のものを借りてきたのだけれど、身長や胴回りが違うため、胸以外はちょっと(?)余るのだ。
「あ、チャイム鳴っちゃう!」
 時計を見た由香が、慌てて立ち上がってメジャーを戸棚に返しに行った。借りたものをちゃんと元あった場所に返すところは、由香の美徳だと圭介は思う。彼女の母は躾(しつけ)には厳しくて、だからこそ圭介も由香の『女の子チェック』が決して的外れなものではない……と思えるのだ。
「わかってると思うけど、明日は身体測定だから、もうちょっと正確に測ってもらえるんじゃないかな?」
 この学校の身体検査は健康診断も兼ねていて、主に街の総合病院が担当している。美智子は書類を揃え、やってくる医師や看護士のサポートをするだけだ。それでも雑用が多いので、忙しい事に変わりは無い。
「実は今日、帰りにブラを買いに行くんです」
 何がそんなに嬉しいのか、由香はにこにこと言いながら圭介の腕を引き、立ち上がらせる。「ちょ、ちょっと待てって」と彼が言ってもおかまいなしだった。
「……そうか、じゃあ丁度良かったな。ちゃんと可愛いの買ってこい」
 この分では、圭介はまだ女性用下着売り場に行った事など無いだろう。そんな彼が、女の花園の代名詞のような下着売り場で、いったいどんな反応を示すのか、美智子はひどく好奇心を刺激される。果たして、顔を赤らめ“あたふた”とするか、それとも、色とりどりの綺麗で可愛い下着に目を輝かせるか……。
「すっごく可愛いの買ってきます!」
「…………なんかやだ」
「うわっ、すごくイヤそうな顔……」
 由香にからかわれながら保健室を出て行く圭介を、美智子はひどく優しい眼差しで見つめていた。
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