■感想など■

2009年06月14日

第7章「オレの先生は宇宙人」

■■【6】■■
 ホームルームが終わり、担任のはるかちゃんに部活を休ませてくれるように言うと、圭介と由香はさっそく昇降口へと急いだ。駅前の商店街やスーパーで買うのは、圭介がさすがにどうにも恥かしいと思ったため、2つ駅を越えたところにある大型店舗へ行く事にしたからだ。
 由香が所属しているテニス部は県下一の弱小部で、インターハイなど夢のまた夢、唯一出場出来る先輩も去年卒業してしまって、今では『やる気』をどこかの青空フリーマケットでさっぱりきっぱり売り捌(さば)いてしまったかのように覇気が無い。由香のような運動神経『切れてる』子でも所属出来ている時点で、並みの運動部とは一味違う。いきなり「休みます」でOKが出てしまうのが、その証拠だった。
 ――圭介には、「由香は練習してもムダだ」と早々と『戦力外通知』を出されてしまっているようにも感じなくはないのだけれど。
「けーちゃん、はやくっ」
「お、ちょ、待てよ、クツが……うわっ」
 下駄箱からクツを取り出し、履きかけたところでつんのめり、危うく転びそうに
「おっと」
「あ、ごめん」
 通りすがりの女子生徒に、後から抱えられるようにして引き起こされる。
 誰だろう。そう思う間もなく、正体はすぐに知れた。

たぷたぷたぷたぷたぷたぷ…………

「あのー……やめてもらえます?」
 無言で後から両手で胸を弄ばれながら、圭介は極めて冷静に言った。中指と薬指を使い、巧みに「たぷたぷ」と乳房を揺するその指使いは、ものすごく怪しい。
「ふむ。E……いやF……か。育ったな」

たぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷ…………

「なんでわかるんですかっ!?…………じゃなくて、杉林部長……」
 背後に立つのは、三つ編みで黒縁眼鏡の立派なヘンタイさんであるところの美術部部長、杉林素子(もとこ)だった。
 ここは3年生の昇降口では無いはずなのだが、なぜか、いた。
 ――ひょっとして、待ち伏せていたのだろうか?
「もう私は部長ではないが」

たぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷ…………

「引き継ぎは……んっ……あ……明日でしょう?」
「ふむ。そうだった」

たぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷたぷ…………

「いいかっらっ……はっ……て、手を離して……下さいよっ」
「ん?なぜだ?」
「ひっ人の胸を、ここ……んな、ところで揉んでるってのは、イケナ……イことなんですよ」
 帰るために昇降口に来た者、たまたま通りがかった者…………彼等は、いきなり公衆の面前で繰り広げられた破廉恥な行為を、“なまあたたかい目”で見守っている。その目には例外なく“私じゃなくて良かった”とか“ああ、杉林先輩かぁ。それじゃあ仕方ないよな”とか、わかりたくなくてもわかってしまう非常に薄情な感情が浮かんでいて、圭介は人の世の世知辛(せちがら)さをまざまざと思い知った。
 あの由香でさえ、“あららら”という顔をして見ているだけだ。
『急いでるんじゃなかったのかよぉっ!』
 ……と瞳に力を込めて見つめても、「ごめーん」と顔の前で手の平を立てられるだけだ。
「毎日圭ちゃんの胸を大きくするために私は努力すると約束したではないか」

たぷっ……たぷっ……たぷっ……たぷっ……

「いや、これ以上でっかくなってもこま……困るし。……っていうか、約束してないし」

むにむにむにむにむにむに……

「約束はしたぞ?私が私にした果たすべき盟約だ」

もにゅっ……もにゅっ……もにゅっ……

「め……めい……って……ひっんっ……」
 むにむにたぷたぷと胸を揉みしだく動きも止めず、部長はわざと圭介の耳元で囁くように言う。ただでさえひどく理知的な声は、同性なはずの圭介の背中をゾクゾクを震わせる。この部長が女でありながら「女殺し」とか「メイデン・キラー(処女殺し)」とか言われている片鱗を、味わいたくないのに味わってしまった圭介であった。
 ブラをしていない乳房は、部長の指の動きをダイレクトに感じてしまう。胸が“きゅうう”と切なくなり、その中心に“ぽっ”と火が点ったような気がした。
「あひゅ……ふっ……」
「ん?感度は良いようだな」
「い……いいかげんに……」
「ほれ」

くにゅっ

「んひゃんっ」
 硬く尖ってしまった乳首を、部長の中指が“くりっ”と嬲(なぶ)ったのだ。
 部長の眉が、驚いたように跳ね上がった。
「……可愛い声じゃないか」
「お、怒りますよ?怒るとひどいですよ?めちゃくちゃひどいですよ?!」
「どうひどいのかね?」

くにゅっ……ぷるっ……

「んぅあんっ」
「どうひどいのかね?」
「……せ……先輩のこと、めっめちゃくちゃキライになりますっ!!」
 その瞬間、“ぱっ”と両手を離して部長は圭介から離れた。
「ふむ。君に嫌われるのは私の本意ではないしな」
「……じゃ……じゃあ、さいしょから……し……しないで下さい……よぉ……」
 くたくたくた……と下駄箱の前の簀(すのこ)の上にお尻をぺたりとつけて座り込んでしまいながら、圭介はにくたらしくも美しいヘンタイ部長を睨みつけた。うっすらと瞳に涙の膜がかかり、熱く潤んでいるように見える。ピンクに染まったほっぺたが、彼の可愛らしさをいっそう引き立てていた。
 そんな圭介を、部長はニヤリと見下ろして言った。
「本当にイヤだったかね?」
「あたりまえですっ!」
「本当の本当にイヤだったのかね?」
「あたりまえだって言ってるでしょ!?」
 すると、部長は“すっ……”と圭介の耳元にその赤い唇を寄せ、
「本当に全然気持ち良くなかったのかね?」
「…………ッ!!!…………」
 途端に、ぼっ!と首まで真っ赤になった圭介に、部長は「ふっ」と笑うと、
「今日は華道部に連れていこうと思ったのだが、また今度にしよう。急用なのだろう?」
「はい」
 圭介ではなく、由香が答えた。
「どこへ?」
「けーちゃんの下着を買いに」
 『下着』の部分だけ声を潜めて、由香が答える。
「そうか!圭ちゃんの下着か!それはブラかね?!それともパンツかね?!Fカップではなかなかいいのが無いぞ?!」
 大声で言われ、由香の努力が2秒で無駄になった。
 圭介は恥かしさのあまり卒倒しそうになりながら、由香の手を引いて走って逃げた。
「む?なぜ逃げる!?あてはあるのかね?!通販はどうだ!?なんなら私の方で用意してもいいが!?いや、むしろそうしよう!」

 ……後は一度も振り返らなかった。
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