■感想など■

2009年06月28日

第10章「ドキッ!?女だらけの勉強会!?」

■■【2】■■
 閉じられたカーテンの隙間から、梅雨月の夕方の、とても弱い陽光が差し込んできている。

 壇上に上がった可憐にして厳粛なる議長は、一息ついて、ゆっくりと自分に注目する一同の顔を見渡した。
 教室に集まったのは、全部で8人の女子生徒だ。どの顔も、期待と興奮に目を輝かせていた。
 ――――ただ2人を除いて。
「ではこれより、2年C組女子生徒有志による、第6回定例会議を行います」
 『美しい』という形容が似合う長い黒髪の少女がそう宣言すると、6人の女生徒が一斉に拍手する。
 ただ、一番前の席に座っている2人の女生徒だけは、なんとなく半目になったまま冷ややかに壇上の議長を見上げた。
「何か不服そうね?」
 議長の女の子が『心外だわ』とでも言わんばかりに2人を見下ろした。
「……いや、不服とか、そーゆーんじゃないけどさ……」
 2人の少女の内の一人…………山中圭介は、呆れたような半目のまま、プロジェクターのスクリーンに映し出された『今回の議題』に目を移した。
「コレ、なに?」
 スクリーンにはデカデカと、こんな文字が貼り付いている。

『淫乳艶歌〜お姉さんの果実〜』

 壇上に立つ議長……桑園京香は、左手で長い黒髪を耳の上にかきあげて、優雅に後のスクリーンを振り返り、
「今回の研究テーマよ」
 これ以上無いくらいに厳(おごそ)かな表情でキッパリと言った。
「違うだろ?それってアダルトビデオだろ!?」
「男女の生殖活動を題材にした、赤裸々な観察記録よ」
「何が定例会議だよ。つまりはAV鑑賞会じゃないか」
「失礼ね。これはあくまで研究会。ただAV見てオナニーするだけの男と一緒にしないで欲しいわ」
「胸張ってゆーな!…………しかも、もう第6回…………」
「圭ちゃん?研究は継続しなければ意味は無いのよ?」
「なんだよそれっ!なんでオ……ボクが憐(あわれ)れむような目で見られなくちゃいけないわけ!?」
「なによ。せっかく泣かせちゃったお詫びに御招待してさしあげたのに。感謝されこそすれ非難されるいわれは無いわ」
「いや、ゼンゼンお詫びになってないし。しかも、自信たっぷりに言う事かコレが!?」
「圭ちゃんの知らない知識を分け与えてあげようってのよ?だいたい、いきなり実践しても失敗するだけじゃない。だからこうやって事前に知識を身につけておけば、いざと言う時に役立つじゃないの」
 『そんな事もわからないの?』といった顔で真面目に言われて、さすがの圭介も“ぐっ”と言葉に詰まった。
 助けを求めて隣に座る由香を見れば、顔を赤くして押し黙ったままだ。まるで役に立ちそうに無い。

 圭介としてはもともと男だったのだから、男がどうされたら喜ぶかなんて知ってる(つもりだ)し、まだ男とセックスする覚悟なんて無いのだから「見ても仕方ない」と思っている。
 けれど、今ここでそれを言っても京香はきっと納得なんてしないだろう。ましてやこんな「ヒミツ」を知った後では、何を言っても無駄のような気がした。
「……で?んなこと言うからには、研究は進んでるんだろーな?」
「一応、一通りは」
 “ふふん”と京香は意味ありげな顔をして、
「フェラ・クンニとかのオーラル(口淫)系、おっぱいを使ったパイズリ・ソープテク、アナルとか素股とか手コキも基本は。
 ソフトSMはタオルとかアイマスクを使ったものくらいでムチとかスパンキングはまだね。
 ローソクは興味あるけど、あれは男の子の方に自制心が無いと危なくてやってられないわ。
 後は縛りとスカトロだけど、聖水プレイと浣腸プレイは臭くて汚くてダメね」
 二重で切れ長で涼やかな目をした、一見清楚なお嬢様風の京香の口から、エロエロで淫靡(いんび)な単語がつらつらと飛び出し、圭介は呆気にとられてぽかんと口を開けた。
 由香を見ると、なんだか可愛そうなくらい真っ赤になってすっかり俯いてしまっている。赤くなるという事は、その意味を知っているということだ。圭介は由香の頭の辞書の中に、「フェラ」とか「クンニ」とか「パイズリ」とか「アナル」とか「素股」とか「スパンキング」とか「スカトロ」とか「聖水プレイ」とか「浣腸プレイ」とかの言葉が、どれくらい記録されているのかちょっと見てみたくなった。
「……あのな、頼むからそーゆー事をキッパリゆーな」
「どうして?」
「いや、普通、女の子が口にするような言葉じゃないだろ?」
 圭介が顔を赤くしながら憮然と言うと、京香も、そして圭介と由香の周りの女生徒も、おかしそうにくすくすと笑った。
「本当にかわいいわねぇ、圭ちゃんって」
 その目は、ゾクッとするくらいいやらしくて妖しい。
『ああ……そうだった』
 圭介は唐突に思う。
 桑園京香という女は、こういうヤツだった。エロエロでエッチ大好きなセックスマニアなのだ。たぶんこの、LL教室を借り切っての研究会……いや、セックステクの『講習会』も、京香の発案に違いない。
 講習会とはいっても、内情はAV鑑賞会そのままだ。もし男子生徒がLL教室を借りようとしても、内容はどうあれ、はるかちゃんは絶対に許可してくれないだろう。でも、級長で成績も優秀な京香が言えば、たぶんきっとはるかちゃんは二つ返事で許可してくれたのではないだろうか?
『ありえる……』
 「勉強もほどほどにね?」とかなんとか言いながら自分のクラスの優等生を信じきって鍵を渡す新米教師の、まだ幼さが残る顔が目に浮かぶようだった。
『…………女って…………ずりぃ……』
 京香達が放課後に仲間内だけで集まって、密かに何かやってるのは圭介も知っていたけれど、まさかこんな事をしているとは思ってもいなかった。
 正真正銘のアダルトビデオだ。
 しかも流出モノの裏ビデオだ。
 そうなると中身は当然無修正で、あんなところもこんなところも、あれもこれもそれもぜんぶ丸見えの赤裸々に違いない。
 男だった時に知っていたら、なんとか手を回して借りようとしたかもしれなかった。スケベ大魔王の吉崎あたりにバラしたら、きっと涎をたらさんばかりに喜んだだろう。
 今はもう、ぜったいに教えてなんかやらない気分だけど。


 結局、ビデオは最後まで見てしまった。
 放課後に部活を休んでまで何をしているのか。そう思わないでもない。最初は、さすがに丁重に辞退してしまおうかと思ったのだ。
 でも、京香に「なぁんだ。圭ちゃんってやっぱりお子ちゃまなのね」とか言われて、それでもやめるのはなんだか癪だったので、嫌がる由香を説得して最後まで見た。
 ちょっと、後悔した。
 なにしろ、裏モノだ。見たくないものまで全部見えてしまうのだ。
 圭介は自分のあそこだってまだちゃんと見たことないのに、人のものなんてそれこそ一度も見たことなんてなかった。
 マジで、びびった。
 出演しているのは、圭介もちょっとは知ってる爆乳AV女優だった。プロダクション申告でHカップの、モデルでも通りそうな、背が高く、顔はともかくとしてスタイルのキレイな女性だ。胸にシリコン入ってるという噂があったけれど、その真偽は定かではない。確か、健司の部屋にあったエロ本にも、載ってた気がする。
 ……思い出して、ちょっとムカッときた。

 話は単純で他愛の無いもので、設定としては近所に住む幼馴染みのお姉さんに、彼女に憧れる童貞高校生が大学入試のための家庭教師をしてもらう……というものらしい。とても高校生には見えない、真黒に日焼けして筋肉質な男優が、背中や腕に当たるお姉さんの爆乳に我慢出来ずに襲ってしまう……という馬鹿みたいな内容だった。
 最初は嫌がっていたお姉さんも、青年が(とても青年には見えないけれど)「ずっと好きだった」と告白すると「恋人にはなれないけれど、キミの初めてになってあげる」と優しく体を開いてくれちゃったりなんかする。
 ――なんて都合の良い話だろう。
 こういうものを見ると、アダルトビデオというのは、つくづく頭の悪いリビドー溢れる中学生が、悶々とした妄想の果てで考えそうな内容だと思えた。

 セックスシーンそのものは、キスから始まり、セーターをブチ破って飛び出してしまいそうなくらいでっかい乳房を愛撫しながら、服をはだけ、股間をねちっこく指でいじくってゆく……という、至極オーソドックスなものから始まった。
 女子生徒達はそれぞれ、「あったまわる〜」とか「んなわけないじゃんねぇ」とか「ドーテーの指使いじゃないじゃんよ」とか、本当に好き勝手言っている。
 それでも、女優の耳や首筋や背中、脇、腰、ヘソ……などへ、男優がキスしたり嘗めたりしながら少しずつライトグリーンのワンピースを脱がせてゆくと、それまで男優に対して「コイツ腹筋割れてるよ〜」とか「顔、濃いねぇ」とか「キス上手そう」とか言っていた女生徒達が、徐々に揃(そろ)って無言になっていった。
 教室の明かりを消しているため、画面に集中しやすくなっているのかもしれない。ちらっと教員用机に座る京香を見ると、ちょっと冷めたポーズを取りながらも興味深々……といった感じで画面に見入っていた。

 LL教室の前と後の入り口のドアには鍵がかかり、しかもカーテンが引かれているために中は決して見られないとはいえ、バレやしないか別の意味でも心臓がドキドキした。音を出すわけにはいかないので、もちろんスピーカーは切って、音声は生徒各個人が生徒ブースの端子からヘッドホンで聞いている。けれど、だからこそ余計に音がクリアに聞こえて、女優の喘ぎ声や男優の息遣い、ぺちゃぺちゃとした唾液の音やキスの音が、ぞわぞわと耳を刺激するのだ。
 たっぷりと大きくやわらかな乳房へ、男優が美味しそうにかぶりつき、しゃぶる。画面一杯に映し出されたその情景に、圭介の胸がむずむずした。
 “もにゅもにゅもにゅ”と、たっぷり時間をかけて乳房を揉み、ぺろぺろと嘗め、ちゅばっ!と高く音がするくらい強く吸う。まるですぐそばで聞いているかのようだ。音に、耳を『犯されて』いる気がする。思わず目を瞑ってしまってから、はっと気付いて教員用机の方を見ると、京香がにやにやしながらこちらを見ていた。
 (なんだよ)と声を出さずに口をパクパクさせると、(べぇつにぃ?)と同じく口パクだけで京香が答える。なんだか見透かされている気がしておもしろくなかった。
 スクリーンでは男優が女優のパンツをするするする……と脱がせている。
 圭介は、女優が少し腰を浮かせて、男優が脱がせやすくしているのに気付いた。
『そうか』
 と思う。
『ああすれば、スムーズに……』
 ……と、そこまで考えて
『ナニ考えてんだオレ……』
 と、自分で自分にツッコミを入れる。

 やがてカメラは少し引いて、男優が女優の両足を“がばっ”と大きく開くのを映した。
 そしてすぐに“そこ”にズームアップする。
 ……重ねて言うが、裏モノである。
 あんなところもこんなところも、あれもこれもそれもぜんぶ丸見えの赤裸々だった。
『うげっ』
 と思った。
 隣を見ると由香も同じ感覚を抱いたのか、顔を顰(しか)めていた。
 “あんなもの”が自分の股間についてるだなんて、あまり信じたくない気持ちだ。「赤」と「肌」と「ピンク」と「黒」と「茶色」が、ごちゃごちゃに交じり合って濡れて光ってただれていた。
 もしゃもしゃとした陰毛と、少し変色した赤い亀裂は、内臓の色そのものだ。お尻の穴の周りはココア色で、そのシワが放射状になった穴は、とろとろとした粘液にまみれてヒクヒクと動いていた。男優が“くぱっ”と大陰唇を指で開くと、びらびらとした貝みたいなピンク色の…………というか内臓色の襞の中に、ぬるぬるとした『穴』が見えた。
 膣口だ…………と思った途端、気が遠くなった。
 自分に“あんなもの”がついてるというだけでもショックなのに、セックスの時はあれを相手に見られるのだ。そんな恥ずかしくて恐ろしいこと、出来るわけが無い。
 圭介はそう思った。

 男優は女優の肩に手を回し、彼女の体を起こしてねっとりとしたキスをした。甘えて鼻を鳴らす女優の、その脚が閉じられようとするたびに、男優は舌をいやらしく絡めながら「脚をいっぱいに開いていろ」と言わんばかりに右手で彼女の膝小僧を払う。白くて大きくてやわらかい乳房が、ゆらゆらと揺れてひどくいやらしかった。
 やがて、男優が右手の中指を口に咥え、たっぷりと唾(つば)をつける。ぬらぬらとしたその指を「どうするのだろう?」と思った途端、男優は手を女優の股間に伸ばし、唾のいっぱいついた指でクリトリスをくりくりと嬲(なぶ)った。
 「やだぁ……」と、ヘッドホンの外から声が聞こえる。ちらっと由香を見ると、彼女は両手で顔を隠すようにしながらもしっかりと指の間からスクリーンを凝視していた。
 “ちぷちぷ”“くちゅくちゅ”と、粘液質の音が響くたび、女優が甘ったるい声を上げながら体を、腰を揺する。重たそうな乳房がゆさゆさと揺れ、腿の内側に“さっ”と紅が差した。
 時間をかけて股間を嬲ると、やがて男優は自分の唾液と女優の粘液の絡んだ指を再び口に含む。そしてたっぷりと唾をつけ、今度は中指と薬指を揃えて、ずぶずぶと彼女の膣口へ沈めていく。
「あ〜……」
「……はぁ……」
「やだ……」
「ぅん……」
 周囲から、吐息のような声が漏れるのが聞こえた。みんな、自分が彼氏か誰かにされているところを想像でもしているのだろうか?

 圭介は、もちろんあそこに指を入れた事なんて、まだ一度だって無い。痛いし、怖いし、しかも2本も入れるだなんて、とても気持ち良くなるとは思えないからだ。
 今まで3回だけした自慰にしても、せいぜいが、指の腹で裂け目の合わせ目をすりすりとなぞるのが精一杯だった。小陰唇の中にまで指を入れる事なんて、お風呂で洗う時以外にはしようとも思わない。
 けれど、スクリーンの中の女優は、ものすごく気持ち良さそうだった。うっとりとして、小鼻が広がって、口を開けて「あんあん」と喘いでいる。体を“びくっびくっ”と震わせるたびに、豊かに実ってツンと上を向いた乳房が、勃起した乳首をのせてぶるぶると震えた。
 圭介は思わず「ごくり」と唾を飲み込んで、その音があまりにもハッキリと聞こえてしまったために、恥ずかしくて思わず誰かに聞こえやしなかっただろうかと不安になった。
 男優は指を“ぐちゃぐちゃ”と出し入れしたり、手首を使って“ぐりぐり”と捻るようにしたりする。その間にも男優は女優にキスしたり耳を嘗めたり耳たぶを噛んだり、首筋をべろべろと嘗めたりしている。
 気持ち悪い。
 気持ち悪いだろうそれは。
 気持ち悪いに違いない。
 そう思いながらも、圭介は“ぞくぞく”がお尻の上の、腰骨のところでわだかまって消えてくれない事に気付いていた。

 女優の耳は男優の唾でべとべとのどろどろになり、それでも女優はうっとりと目を瞑ってほっぺたを真っ赤にしたまま甘い啼き声を上げている。やがて男優の右手の動きは速くなり、それこそ男が自慰をする時に素早く手を動かし、何度も出したり入れたりを繰り返した。指は2本とも根元まで挿し込まれ、ぐいぐいと奥の方まで押し込まれている。「気持ちいい」とか「よくないとか」そういう問題じゃなく、圭介には……もう、なんだか、「痛い!」としか思えなかった。
 そのうち、男優が指を少し浅めにして、さらに素早くそこを擦り始めると、たちまち女優の声が、余裕の無い切羽詰ったものになっていった。そして、
「いやっあっだめっ!いやっいやっいやっいやっいやっ」
 と、何度も声を上げて、彼女の膣口の上から“びゅっ!びゅっ!”と透明な液体が立て続けに迸(ほとばし)った。
 あれが『潮吹き』と呼ばれるものだという知識は、圭介にもあった。けれど、尿道口から出るものだとは思わなかった。てっきり膣口から迸るものだと思っていたのだ。
『じゃあ、やっぱりあれってオシッコ…………なのかなぁ…………』
 こんな状況だというのに、圭介は思わず腕を組んで、う〜ん……と唸ってしまった。
『……ということは、だ。つまり…………お漏らし?』
 あまりにも恥ずかし過ぎる結論に、ぐあっと顔が熱くなる。あんなに気持ちの悪い……言ってみれば映画『エイリアン』に出て来るフェイス・ハガー(第一幼生体)の裏側みたいな“ぐちょぐちょ”のあそこを見られた上、指を突っ込まれて乱された挙句、泣きながらオシッコを漏らす…………………………………………たぶん、死にたくなる。

 男の時は単純に「お〜すげ〜!!」とか「うわっナンダコリャ」とか言ってたセックスという行為は、いざ女の立場で見ると、なんて恥ずかしくて恐くて苦しそうな行為なんだろうか。男に戻らない限り、自分はいつかあんな事をして子供を産まなくてはいけないのだ。いや、男に戻るとしても、健司から離れて女に惚れない限り、結局は男とセックスして膣内で精液を受け止めなければならない……。
『…………おいおいおい…………』
 改めて、自分は、なんて『危機的立場』に立たされているのだろう!……と思う。
 健司と離れたくない。
 でもセックスはしたくない。
 …………それが許されるなら…………。
『女を「やって」もいいかな……ってやっと思えてきたのに…………』
 面倒な事や恐い事はたくさんあるけれど、そんなに悲観的な事ばかりではない……と、ちょっと前向きに考えはじめていた矢先に、まさかアダルトビデオを見て自分の立場を再確認するとは思わなかった圭介だった。

 男優が指を抜くと、膣口は“くぱぁ……”と開き、カメラはその奥の肉色までもハッキリと映し出していた。ひくひくと、女優の白いなめらかな腹がしゃくりあげるように痙攣し、うっとりとしたその顔は快感の余韻を味わっているように見える。
 みっともない、と思った。
 なんて無様な姿なんだろう。
 けれど、目が離せなかった。男だった時に見た時とは、違う意味で、目が離せなかった。
 男だった時は、男優に自分を重ねて見ていた。だから胸に満ちたのは、征服欲とか支配欲とかいう感じのもので、「穢(けが)してやったぜ、へっへっへっ」とでもいった感情だった。
 でも、女になった今、こうして見ていると、いつの間にかあのぐったりとして恍惚の表情で全身を震わせている女優に重ねてしまっていた。

 恐い。
 苦しい。
 恥かしい。

 死にたくなるくらい恥かしい。

 ううん。

 きっと死んじゃう。
 アイツにあんなことされたら、きっと死んじゃう。

 アイツ?
 アイツって、だれ?

 ああ…………でも。
 でも。
 男におっぱいを揉まれたり、吸われたりすると、あんなに気持ち良いの?
 男にあそこを指でくりくりされると、あんなに気持ち良いの?
 男に指を中まで入れられて、それでぐちゃぐちゃされたら、あんなに気持ち良いの?

 胸がどきどきした。
 息が苦しくて、顔が熱くて、あえぐようにして呼吸した。
 両手を胸元に当てて、右手で喉元を押さえた。
 心臓が、キツネに追われた野ウサギみたいに跳ねまわっていた。
 “ごくっ”と喉が音を立て、何度も瞬きを繰り返す。
 そしてそんな圭介を、教員用机の上の京香がじっと見つめていることに、彼は気付いていなかった。

 画面は変わり、寝転がった男優の脚の間に女優が正座していた。カメラは、その女優のポニーテールの茶髪を後から撮っている。なめらかな肩から背中、腰に至る線。その腰に続く、まるくて豊かなお尻。
 そしてズームアップ。
 女優が腰を少し上げる。お尻の肉の山の間のものが、全部カメラに映る。ココア色の穴も、ぱっくりと開いた大陰唇も、充血してはみ出した小陰唇も。
 カメラが切り替わって、見下ろすアングルになる。仰向けの男優の股間に、女優が顔を伏せている。上下にリズミカルに動くその頭の上で、ポニーテールが文字通り馬の尻尾のようにフリフリと揺れていた。
 カメラが、女優の口元にズームする。
『あ……』
 圭介が、ふと我に帰る。
 形はずいぶんと大きくて、いびつで、色も黒っぽいけれど、見慣れたモノが画面にインした。2週間前には毎日のように見ていた、男性器…………男のちんちんだった。
 それを、女優が愛しそうに、美味しそうに、嬉しそうに、嘗め、しゃぶる。
 涎にまみれ、ぬらぬらと濡れ光るソレを、圭介は不思議と「気持ち悪い」と思わなかった。
 ちんちんというものをイヤと言うほど知っている圭介は、ソレがオシッコをする器官だと知っている。
 仮性包茎のちんちんは、ちゃんと皮を剥いて洗わないと恥垢が溜まってしまうことを知っている。
 それでも、スクリーンの女優とシンクロしてしまっていたからか、その“「汚い」はずの男性器を「しゃぶる」行為”を、彼は気持ち悪いとは、少しも思わなかった。
 いや、むしろ。
 自分がもう失(な)くしてしまったものだからだろうか。

 愛しいと、思った。

 赤黒くて、ツヤツヤとした先端部分。
 血管が浮いて「がんばってるゾ!」とでも主張しているような幹(みき)。
 一口大のウズラの卵のようにコロコロと転がる、デリケートな精巣を包んだ玉袋。
 勃起したソレは、火がついたみたいに熱いのだ。
 “びくんびくん”と、命の鼓動を伝えて跳ねるのだ。
 手で、触れて。
 愛しい愛しいひとのそれを。
 いとしいいとしい、それを。
 舌で。
 唇で。
 口の中で。
 いのちを。
 あついいのちを。

「コホン」

 はっ……とした。
 慌てて京香を見る。彼女は、そ知らぬ顔でスクリーンを見ている。
 圭介は、どっと汗が吹き出るのを感じた。
『……見てた?……』
 気がつくと、自分は口をうっすらと開き、舌を歯の上に、唇の上に走らせていた。
 まるで、御馳走を前にして舌なめずりでもするかのように。
「…………ッ……」
 左手を口元に当て、スクリーンから目を逸らした。けれど、ヘッドホンからは、女優が男のちんちんを嘗めしゃぶる音が聞こえ続けている。

 ぴちゃっ……ぴちゃっ……ぴちゃっ……

 くちゅっ……

 ずるるっ……ずっ……じゅちゅっ……

 じゅっ……じゅるるっ……

 べちゃ……

 んあっ……は……っん……

 画面を見た。
 引き寄せられた。
 見ずにはいられなかった。
 圭介の中の「女」の部分が、じんじんと熱く疼く。
 視線が、吸い寄せられ、引き止められ、縫い止められる。
 やがて女優は、自慢のHカップの乳房で、男のちんちんを挟み、しごき、乳首でくにくにと赤黒い先端を刺激した。
『……おっぱい…………あんなふうに…………』
 両側から両手でもったりと持って、体全体を使うようにしてちんちんを刺激する。滑りが悪いと思ったのか、女優がもごもごと口を動かして、唾液をとろりと乳房の間から頭を出しているちんちんに垂らした。その唾液を潤滑油にして、女優はさらに圧迫と摩擦による愛撫を加えていく。
『そうか……つば……で……』
 無意識に、圭介は自分がする時の事を考えていた。

 緊張して唾が出なかったら、どうするんだろう?
 唾でしたら、臭くなったりしないんだろうか?
 相手が「汚い」とか、思わないかな?

 圭介は、自分でもそれに気付かない。

 そして女優は、満足そうな笑みを浮かべると上半身を起こし仰向けの男の身体を跨(また)いで、そのまま腰を落とした。剣道で言うところの蹲踞(そんきょ)の構えに似ているけれど、脚の開き具合が男優の身体を跨いでいる関係で、女優の肩幅より少し広いところが違う。そこから、和風便器にしゃがみ込むような格好になって、女優は右手で男優のちんちんの根本を指の間に挟むと、自分の股間のぱっくりと開いた肉の亀裂に当てた。
 カメラはそれを、女優の背後のお尻の肉の間からアップで撮っていた。

 あんな太いものが入るのか。

 圭介も由香もそう思ったけれど、女優はゆるゆるとお尻を振ると、ちんちんの先端を亀裂の中へ押し進めた。
『ちがう……』
 押し進めたのではなく、女優自身が腰を落としているのだ。カメラは女優の正面からになり、女優の顔に浮かぶ、まるで貪欲な猫科肉食獣を思わせる笑みを映した。
『……喰う』
 圭介はそう思った。
 『喰われる』ではなく、『喰う』。
 男のちんちんを腹に収め、その“いのち”を自分のものにする。
 その立場。
 自分の、立場。
『ふと……い……』
 圭介の、指1本も入らないあそことは違う。女優のそこは、男優のモノをじりじりと飲み込んでゆく。
「ああ……あ〜〜〜……」
 女優は男優の汗ばんだ胸に両手をつき、お尻を揺すりながらその白い喉を震わせる。上を向き、伸びやかなその首を精一杯伸ばして、嬉しさの満ちた声で淫猥(いんわい)に啼く女優は、獲物を捕らえ、切り裂き、噛み砕いて嚥下(えんか)する、永久凍土を駆けるオオカミのようだった。
 ぐっ……ぐっ……ぐっ……と、お尻を揺すって腰を落とし、根本まですっかり胎内に男のちんちんを収めてしまうと、女優はその重く熟れた乳房が男の胸に触れるくらいまで身体を前傾させた。乳房はそれ自身の重みで少し垂れ下がり、正面から見るよりもずっと豊かに、重たく見える。女優の顔には悪戯っぽい小悪魔の笑みが浮かび、自分の固く大きく尖った乳首を男優の乳首に当てて、円を描くようにくりくりと刺激した。
『……あんなことまで……』
 豊かな胸だからこそ出来る…………気がした。
 そしてカメラは再び女優の背後からズームで迫り、男優のちんちんを根本まで飲み込んでいるあそこを画面いっぱいに映した。デリケートな玉袋が、女優のたっぷりと豊かなお尻に圧迫されて、なんだかぱんぱんにふくらんで見える。
『痛いかな……?』
 と圭介が思った途端、女優がお尻を上下させて、ねっとりとした粘液の絡んだちんちんが、ぬらぬらとした光を纏わりつかせながら姿を表した。
『ぜんぶ……入ってる…………あんなに……太いのに……』
 圭介は、「オンナの身体」のしなやかさ、力強さ、貪欲さ、そして包容力を、一度に見せられた気がした。
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