■感想など■

2009年07月13日

第12章「お母さんになれるということ」

■■【4】■■

 後悔。

 泣くことしか出来ない。

 ボクは、いつもいつもそうだ。
 失敗ばかりする。

 ――――――ああ、どうして――――

 急速に暗い闇の中へと意識を引き擦り込まれながら、圭介は胸を掻き毟られるような痛みに心を震わせていた。
 健司をからかったわけじゃ、ない。
 でも、心配してほしくなんか、なかった。
 女に見てもらえないのなら、女みたいに優しくされるのは勘弁だ。
 「女だなんて思えないんだよ」と思うのなら、優しくなんかするな。
 わかってる。
 理不尽だ。
 それでもそう言い続けるしかない。心の中では、ずっとそう言い続けるしかない。
 でないと、壊れてしまうから。
 あったかくてきもちいい「オマエ」は、そのあったかくてきもちいい心で、ボクに世界で一番残酷なことをしようとするんだ。
 「オマエ」がボクに優しくしようとするたびに、「オマエ」は少しずつボクの心を壊してしまうんだ。
 そう、圭介の心が震える。
 泣いて、震える。

 健司の体温を感じた時、下腹部が“きゅうん”とした。

 直感で、子宮が「啼いた」のだと思った。
 「健司が欲しい」と、まだ男を知らない女の部分が、男のキモチを無視して啼いたのだ。
 なにが、『友達でいい』……だ。
 そんなものはウソっぱちだ。
「健司くん!」
 揺れる世界の中で、健司を呼ぶ由香の声が聞こえた。
 冷たい。
 地面についた手が水溜りで濡れた。じゃりっとした砂が、手の平を擦る。
 そして頭に、肩に、

 雨が。

「けーちゃん!」
「……!? …………健司くん見ちゃダメ!」
「ゆ……え?」
「あ、ううん。はやく」
「う、うん」

 ばか。
 なにあわててんだよ。

 揺れる。
 気持ち悪い。
 吐きそう。
 胃が、ぐるっ……と動く。
 でも吐けない。

「いい?」
「うん」
「お尻、触らないでね?」

 お尻?
 ボクの?

「どこ?」
「保健室。一番近いし、ソラ先生もまだいると思うから」

 揺れる。
 大きな背中。

「大丈夫かな?」
「大丈夫、だと思う。でもたぶん初めてだから」

 ああ…………そういえば、あの日もこうして、大きくてあったかい背中に…………。

 そして意識が途切れる。
 先に待つのは海よりも深くて墨よりも黒い闇。
 けれど。

 ――――闇は、思ったよりずっと優しく、圭介を包み込んでくれた。
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