■感想など■

2009年08月09日

第15章「獰猛な欲望」

■■【5】■■
 その夜、山中家には久しぶりに家族が全員揃っていた。

 そこには、いつにも増して、とてもとても“あたたかいもの”があった。
 相変わらず父親は「馬鹿」で、桂がなんだか熱っぽい顔をして“ぼ〜っ……”としているのを「発情したか?」などとからかっていたけれど。
 相変わらず母親は、夫にべったりで“娘”にべったりの、家の外とかテレビの映像の中とはまるで違う「“熱愛”妻」で「“超過保護”母」な表情が全開だったけれど。
 それでも、出張とかで一週間に何日もいない父と、芸能人だから……で片付けてしまうにはいささか責任放棄気味な母と、なんだかんだ言っても桂はこうして一緒にいる時間が好きだったのだ。
 2人はいつも仲が良過ぎるくらいに良くて、桂が生まれてから17年経った今でも、2人で頻繁に旅行に出かけているくらい、互いを認め合い、信じ合い、必要としていたから。
 だから、母の涼子がいつものようにノロケ全開大暴走で父親の善二郎とライトなキッスを“ちゅっちゅっちゅっ”と何度もしながら
「そうだ。あのねけーちゃん。お母さんと善ちゃんね、ちょっと旅行に行ってくるから」
と言った時も、少しは寂しくは思ったものの、別段、驚きはしなかった。
 だから、桂だっていつものように、何も考えずに、
「勝手に行けば?」
 と言ったのだった。

「んもうっ……けーちゃんったら冷たい……」
 外見32歳……実年齢はあまり考えたくない『星人』である母は、とてもオトナとは思えない顔で拗ねたようにテーブルの上で「の」の字を書きながら桂を上目遣いで睨んだ。「抱きたい女優」のベスト5にいつも入るくらい、色っぽくて、クールで、妖しくて、時に可愛い…………と評される彼女がそうすると、なまじテレビとか映画のポスターとかのビジュアルイメージを目にした事があるだけに、その激しい落差に眩暈すら感じてしまう。
 桂は「はいはいはい」と、街角キャッチに対するデート前の女子大生より適当に返事を返すと、うんざりしたように若過ぎる母を見た。
「で? どこ行くのさ?」
「んとね〜……ドイツを中心にして東欧から北欧にかけて周って、チベットにも寄ろうと思うの」
「……チベット……」
 母の「あの」話が確かなら、チベットは母の「目覚めの場所」のはずだ。
「……やっぱり『星人』関係か何か?」
「ま、そんなとこね」
「…………外国は危険なんじゃないの?」
 桂は以前、父と母が、『星人』と彼らのテクノロジーを求める者達から逃げ回っていたことを、他ならぬ母自身の口から聞いているのだ。
「そっち方面は、ここ10年でだいぶ大人しくなったからダイジョーブ! イロイロ手を尽くしたから、当分何もしてこないと思うわ」
 “ぶいっ!”と箸を持った右手でVサインを作る母を、桂はぼんやりと見る。
 ……何をどう『イロイロ手を尽くした』のか、あえて聞かない事にしておいた。

 それにしても、と桂は思う。

 確かに自分は学生だし、来年は受験だし、しかも『星人』の資質を備えてはいても別段特殊な力なんて無いし、まだ『ナーシャス(深きもの)』(『星人』達の精神ネットワークへのアクセス端末とでもいうべきもの)も完全にコントロール出来ていないし、きっと、たぶん、ぜったい、足手纏いになるのはわかっているのだけれど……。
 正直、『星人』関係の事であるのならば、自分にも全く関係が無いわけではなく、むしろ、“これから”の事を思えばきちんと相談してから決めて欲しかった……というのが桂の気持ちなのだ。
「……まあ、死なない程度に気をつけてよ」
 自分がその「旅行」に最初から含まれていない事がなんとなく面白くなくて、桂は両親の顔を見ないで食事に専念することにした。
 『星人』関係と聞いて、実は結構心配だったりもするのだけれど、ニコニコと、とろけそうな笑みを浮かべながら善二郎の茶碗におかわりをよそう母を見ると、心配する自分が馬鹿に思えてきたりしたので口には出さない。

 今日は「豚の生姜焼き」と「人参とジャガイモと鶏肉の煮物」と「モズク酢」と「塩もみキュウリと生ハムとグリーンピースのマッシュポテト」で、「モズク酢」以外は全て父の手製だった。
 「味オンチ」で、愛情だけではフォローしきれないほど壊滅的に料理の下手な母に代わって、“娘”の桂から見ても正体不明な父は、時々その手腕を如何無く発揮するのだけれど、彼の料理は、そこらの定食屋などではとても太刀打ち出来ないほどの腕前なのである。
 桂が中学生で反抗期真っ只中の頃は、父の料理を食べた後では母の料理などは到底食べられるものではなく、よく何度も「不味い!」と言っては残してしまい、彼女をさめざめと泣かせてしまった事を思い出す。もちろん、今ではたとえ塩と砂糖を間違えていようが、親子丼に蜂蜜がたっぷり入っていようが、カレイの煮付けがカレー風味になっていようが、極力努力して食べるようにはしているのだけれど。
「オヤジが一緒に行って、その……役に立つの? 『星人』関係でさ」
 父と『星人』について話すのはいつぞやの夜以来だ。
 そう思いながら、桂は晩酌のビールをぐびぐびと美味そうに飲み干すアロハシャツ姿の父親を見た。
 ――どうしてアロハなのか……は、もう突っ込むのも面倒なのであえて無視している。
「お? 父上をナメめるなよ? 涼子さんを護って世界中を旅した腕は衰えてねーからな」
 目尻のシワを深くして、父はスパイ映画の、ちっともスパイらしくない超絶女ったらしみたいな笑みを浮かべた。
「……オヤジ……ナニと戦いに行く気だ……」
「ひ・み・つ♪」
 桂の父の善二郎は、黙って座ってれば「夫が単身赴任で寂しさに熟れた体を持て余す団地妻」とか、「早婚したはいいものの新婚2年目にして既にセックスレス1年のプチセレブな人妻」とかが、殺虫剤を吹きかけた虫のようにわずか1秒で“コロリ”と簡単に撃墜してしまえそうな顔をしているのだ。
 そんな中年親父が人差し指を立ててウインクをかます図……というのは、背筋が“ぞわぞわ”するくらい気色悪かった。
 そして、そんな風に誤魔化してしまう父親にちょっとムカつく。
「どうせ……何しに行くのかなんて、聞いても教えてくれないって最初から思ってたけどさ」
「あらぁ……どうしましょう善ちゃん……けーちゃん、拗ねちゃったわ」
「ん〜〜……涼子ちゃんは気にしなくてもいいんだよ? 子供はこうして親離れしてゆくんだから」
 桂は『その前にてめーが子離れしやがれ』…………と言いたかったけれど、言うとまた調子に乗って騒ぐので黙って煮物のジャガイモを口に放り込んだ。
 そして、ふと浮かんだ最も根本的な疑問を口にしてみる。
「で? いつから?」
「明日から」
「はあ?」
「明日の午後の便だから、桂が学校に行ってる間だな」
「な……なんでそんなに急に……」
「善は急げ」
「思い立ったが吉日」
 桂は、2人して『急いては事を仕損じる……って言葉を知らないのか』……と、目の前に揃って正座させて小一時間問い詰めたい気分でいっぱいになった。
「2人して留守にして、その……心配じゃないのかよ。その間……ボク一人なんだぞ?」
 上目遣いに母の顔を見ながら豚肉の生姜焼きを少し食べ、御飯を“もきゅもきゅ”と租借する。
 そんな桂の言葉に、母は目をパチパチと瞬かせて首を傾げた。
「何が?」
「何が……って…………その、女……なんだぞ? 今、ボク」
「それが?」
「それが……って……フツー心配するだろ? 一人む、娘を残していって、何か間違いがあったりとかさぁ……」
 自分で自分のことを「一人娘」と言うには、まだちょっと“覚悟”が足りない桂だった。
「間違い? したいの?」
「!! ……そ、そうじゃなくて、不用心じゃないかって言ってんの!」
 桂がほっぺたをふくらませると、涼子は可愛らしい子猫を見るような目でくすぐったそうな顔をした。
「今までだって何日も留守にした事あったけど、けーちゃん、ちゃんとしてたでしょう?」
「…………でも、それは男だった時の事で……」
「恐い?」
「……べ……別に……こわかないけどさぁ……」
「大丈夫、すぐにまた逢えるから」
 一瞬、母の顔に今まで見たことが無いような寂しい微笑みが浮かんでいたように見えたけれど、
「ん? けーちゃん、おかわり?」
 と、いつもの笑顔を向けられては、気のせいだと思うしかなかった。
 あまつさえ
「お母さんと善ちゃんがいない間、寂しいと思うけど泣いちゃダメよ?」
 などと言われては、
「誰が泣くかっ! さっさと行っちまえ! せいせいするっ!」
 と言うしか、無かったのである。

         §         §         §

 部屋に戻ってドアを閉め、一人になった途端、桂は“くたくたくた……”とその場にへたり込むようにして崩れ落ちてしまった。
両親と一緒の時には何とか抑え込んでいたものが、ここにきて一気に噴き出してきたのだ。
「ぁぁ……」
 消え入りそうなほど小さい声が、艶やかな唇を割って漏れる。
 その声はすっかり甘く濡れて、わななくように震えていた。
 色気のカケラも無いグレーのスウェットの下では、透き通るように白い体が汗ばんで、桂が身をくねらせると、しっとりとした肌が生地の中で蛇のようにうねる。
 体全体が火照り、発汗が続いていた。とはいえ、真夏の炎天下で流れる玉の汗などではなく、薄く皮膚表面を湿らせる程度の汗だったけれど。
 窓は開いていたけれど、夜気は生暖かく、決して涼しくない。その湿気が、全身を覆う汗を意識させる。
「……ん…………」
 ブラを着けていた方が良かったかもしれない。
 そう、ちらりと思う。
 動くたびに重たいおっぱいが“ゆさゆさ”と揺れて、スウェットの目の粗い裏地に乳首が擦れ、乳房の中にますます“じんじん”とした痺れと熱がこもってゆく。
『ちくび…………』

 弄りたい……と、思う。

 いますぐにでもスウェットの中に両手を入れて、もったりとした重くやわらかくあたたかい乳房を揉みしだきながら、中指と親指で摘み、引っ張り、押し潰すように乳肉の中へ押し込んでしまいたい…………!!
「んっ……」
 ぺたんとお尻を床につけていると、ぬる……と、あそこから滲み出たいやらしいぬめりをハッキリと感じてしまう。

 ――溢れていた。

 “とろとろ”だ。

 実際に指で触れなくても、ハッキリとわかる。
 洪水で、水浸しで、壊れた蛇口のようだ。でも、溢れ出ているのはさらさらの水などではなく、もっと粘性の高い“ねっとり”とした『花蜜』なのだ。
 “もじっ……”と腰を少し動かしただけで、ぺたりと床につけたお尻のせいで大陰唇がおりものシートの表面と擦れて、全身が“びりっ”と痺れた。全身が敏感になっていて、何をしてもそれが全て性感に繋がってしまう……というのは、一種の拷問に近い。
『……ぉ……おかしく……なっちゃ……う……』
 けれど、その性感を昇華することも出来ず、ただひたすらにじっと我慢するしかない……というのは、まさしく拷問そのものだと言えた。
 不意に、京香達と一緒に見たAVとか、男だった時に見た「エロ本」などの知識が、桂の脳裏にありもしない虚像を結ぶ。

 後から抱きすくめられ、大きな手で思うままにおっぱいを揉まれる。

 耳や、首筋や、背中や、腰を、丁寧に丁寧にたっぷりと時間をかけてキスされる。

 だっこされたまま、前にまわされた両手であそこを“ぐちゃぐちゃ”と水音を立てながら弄りまわされる。

 何度もキス。

 息が出来ないほどの。

 眩暈がするほどの。

 脳がとろけるほどの。

 情熱的で官能的で貪るような。

 そのキスで唇を塞がれながら、体中のあらゆる部分を撫でられ、揺らされ、弄られ、弄ばれる。

 脳を犯されている気がする。
 いやらしい想像で、頭がぱんぱんに膨らんでいるみたいだった。
 その淫靡で淫猥なイメージは、何度も何度も浮かんでは消え、それを果たして自分が望んでいるのか、夢で見たあの淫夢であるのか、それとも“もうすでにこの身で体験してしまったこと”なのか、混濁した意識の中に混じり潜み忍び込み、彼女自信にも判断がつかなくなりつつあった。
 イメージの中で桂の体を這い回る二本の腕の、その10本の指が触れる部分が、そのイメージそのままに熱く火照り、甘い感触が滲んだ。
『やだ…………もうやだ…………』
 “かはっ”と吐息のカタマリを吐いた。
 “はあっ”と吐いた溜息は、濡れて震えていた。

 泣いても。

 鳴いても。

 啼いても。

 決して許されない。

 「アレ」が欲しいと口にしなければ、その甘い「拷問」は終わらない。

『アレ?』
 そう。
 わかっている。
 それが何を示すのか、「オンナ」である桂には、本能的にわかっている。

 ――それは。

『あっ! …………ああぁぁ〜〜…………』
 “きゅうううんっ”と子宮が下がるような感覚。
 膣が何度も収縮して、触れているわけでもないのに“びくり……びくり……”と腰が震える。
『欲しがって…………る? …………ちんち…………を? …………』
 いつもの自分ではなく、誰か、どんでもなく淫乱でだらしのない変態に体を乗っ取られたような気がした。
 これは女の感覚ではない。
 もっと動物的で即物的で暴力的な性衝動だった。
 今では思い出すことも無くなった、男の感覚に近いものがあった。
「ぅあ…………ふぁっ…………ぁっ……」
 “くに……くに……くに……”と、自覚の無いまま腰が動き、床にあそこを擦り付ける。スウェットとパンツとおりものシートの、3重のガード越しでありながら、その刺激は涙が出るほどに気持ちが良かった。
 その脳裏に、鮮烈なイメージが稲妻のように閃く。

『だから、あと1日だけオナニーを我慢しろ』

『生理機能を正確に診るためには、自己的な強い性的刺激から一定時間以上は切り離した状態になってもらわないと』

 ソラ先生の言葉がぼんやりとした頭に理性を呼び戻そうとする。
「そうだ……」
 我慢しなくちゃ…………」
 ふら……と立ち上がり、学習机に両手をついた。そうしておきながら、自分がどうしたかったのかわからず、ただ両手で机の天板の上を撫でた。ふるっ……とおっぱいが揺れ、硬く尖ってスウェットに“ぽっちり”とした突起を浮き立たせている乳首から“きゅんっ”と刺激が全身に走った。
「んっ……」
 桂は両手をついたまま、無意識にお尻を後に突き出し、そのまま太腿を擦り合わせるようにしてくねくねと腰を振った。
 本当に、無意識だった。
 思いもしなかった。
 たとえその姿が、バックからの男の挿入を請い待ち望む、欲情した女の姿であったとしても。
「……っは…………ぅ……ふっ……」

 “じゅくじゅく”と。

 “にちゃにちゃ”と。

 “ちゅぷちゅぷ”と。

 粘液の音が耳に届く。
 聞こえていないはずの音さえも、明確に耳に届く。
 ふくらみきった欲望の熱が全身を火照らせ、喘ぐように開いた口からたっぷりとその熱を含んだ吐息が甘ったるい声と共に漏れ出て行く。
「……は……ぁあ〜〜…………あぁ〜〜…………」
 泣いてしまいたい。
 許しを請いたい。
 思いきり全身を愛撫して、あそこを愛撫して、イッてしまいたかった。
 これでは生殺しも同然だ。
 いや、それよりも、もっとひどい。
『窓……閉め……なくちゃ……』
 脚を引きずるようにして窓辺まで歩き、のろのろと緩慢な動きでサッシを閉めてカーテンを引いた。
 そうして、机の上のリモコンでエアコンの電源を入れる。

 それが、限界だった。

「っ……は……」
 手を離れたリモコンが床を転がり、壁に当たって硬い音を立てる。
 気がつくと体が崩れ落ち、床に両手をついて四つん這いになっていた。

 ――ケモノの姿だった。

 尻を高く上げ、ゆらゆらと揺らしている様など、まさに雄の交尾を誘う雌の動きだ。
 体の下で、もったりとして重たく、熱く張り詰めたおっぱいが“ゆらゆら”と揺れる。重力に引かれたその乳肉は、汗で蒸れたスウェットの中で「誰か」に触れて欲しくて、揉んで欲しくて、嘗めて欲しくて、しゃぶって欲しくて、雨に濡れた小兎のようにふるふると震えていた。
「やだ…………やだ…………」
『いれて……入れて……奥に……深くに…………もっと……奥に……いれて……』
 口では拒否を、心の奥底からは堪えきれないオンナの肉の悲鳴が沸き起こる。

 ――――このままでは狂ってしまう…………。

 桂の自我が押し潰されそうになりながら恐怖に慄(おのの)いたその時――
「けーちゃん……」
 いつの間にかドアを開けて、涼子が部屋に入って来ていた。彼女は、小さく透明なカップに「蜂蜜みたいなトロリとした金色の液体」を持っている。
『……ネクタル…………』
 痛ましそうに桂を見る涼子が、彼女を抱き起こし、自分の膝の上にのせて、まるで幼児をあやすように髪を撫でる。
「か……さん…………かあさん…………かあさん…………」
 桂は心細さにぐずぐずと泣きじゃくり、母のいい匂いのする胸元に頬を寄せた。
「けーちゃん……これ、飲んで。少しは楽になるから」
 その夜の桂の記憶は、そこでプツリと途切れている。
 ただ覚えているのは、喉を滑り落ちる『ネクタル』の冷たさだけが、桂のどうしようもなく火照った体を、ゆっくりと鎮めていった事だけ。
 闇に落ち行く中、ふと浮かんだのは、
『お風呂…………入らなくちゃ…………』
 ……という、思いだけ……だった。
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