■感想など■

2009年08月29日

第18章「ラヴ・セックス」

■■【5】■■
 身体の奥で、健司のモノが“びくびく”を脈動している。

 ――射精して、いる。

 エロ本とか頭の悪そうなティーンズ向けセックス本とかでよく書かれているような「熱いもの」を感じるかと思ったけれど、それは肉体的なものではなく概念的なものなのだと、桂は今日この日、自分の体で知った。
 実際、アソコだけでなく下半身全部がじんじんとしてぐったりと力が入らず、まるで泥にでもなったようだ。
 お尻に力を込めて“きゅ”と彼のモノを締め付けてみても、膣口周辺は感覚すら希薄だった。
 その中で健司のちんちんの動きを知覚出来たのは、膣口付近の粘膜が思ったより柔軟でしなやかな感覚器官を持っている証拠のようにも思えた。
 直前、健司が「いくよ……いくよっ」と、うわずった声で告げたような気もするし、自分もそれに対して首を振った気もする。
 「このまま、なかにっ」と告げだような気もするし、はしたなくも「なかにだしてぇっ」とうわごとのように泣きじゃくった気もする。
 全てが夢のようでもあり、非現実な夢想のような気もする。
 けれど、ただ一つの事実は、健司のモノが桂の膣内の奥深く、子宮口に向かって力強く精液を迸らせたことだった。

 桂がゆっくりと目を開ければ、いつしか自分はベッドに仰臥し、上から健司が覆い被さるようなカタチで微笑みながら見ているのが見えた。
「…………ばか……見るな……よ……」
 喉がひりついて、どこかしゃがれた声になっている。
 今さらながら、いっぱい声を上げてしまった事に気付いて、桂は健司の視線から逃げるように顔を背けた。
 唾を飲み喉を鳴らして目をぎゅっと瞑れば、目尻から耳にかけて涙が伝い落ちる。
「けーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫…………じゃない」
「…………俺、胎内(なか)に出しちゃったけど……」
「……今日は大丈夫な日だから……たぶん、大丈夫」

 ウソだ。

 以前、成長期は生理不順なのが普通で、周期ごとキッチリくる方が稀だから、安全日とか危険日とかあてにしない方がいい……とソラ先生が言っていた事を思い出す。
 だから、正直に言えば本当のところはわからない。
 けれど桂は、健司には悪いけれど、もし妊娠しても、それはそれでいい……とまで思っていた。
 もちろん、子供を利用して彼を縛りつけようというのではない。
 そこまで賢(さか)しい女にはなれないし、なりたいとも思わない。

 ……ただ……。

 ただ、たとえ健司とこれきりになったとしても、彼との子供さえいれば生きていける気がしたから。
 もちろん桂の性根からして、そんな自分を自覚すれば、その身勝手な考えに自分で自分を嘲(あざけ)りたくもなる。
 それでもそれに縋りたいと願う自分をも自覚するのだから、桂としてはもう「なるようになる」と思うしかないのだ。

 “はぁー……はぁー……”と、深く、短かった呼吸が、少しずつゆっくりになってゆく。
 ふと見れば、健司は両肘で体を支え、桂に体重がかからないようにしていた。
「……腕、疲れない?」
「ん? 大丈夫」
「…………体重かけても、いい…………よ」
「重いよ?」
「……いいってば」
 なんとなく“ぎゅっ”としたくて、桂は健司の背中に両手をまわす。
「本当に重いよ?」
「もうっ! いいから」

 “ずしっ”と、きた。

「ぐえっ」
 …………色気の無い事甚だしい。
 桂はカエルが潰されたような声を上げ、無言のまま健司の背中を“ばしばし”と叩いた。
「ほら、重いって言ったじゃない」
「ちょ、ちょっとは遠慮しろ、ばかっ!」
 自分の言った事など遥か成層圏の彼方にある心の棚に打ち上げて、いぢわるな健司の腕を“かぷっ”と噛んだ。
 それでいて、健司が
「じゃあ……」
 と離れようとすると、怒って
「まだっこのままっ」
 と言うものだから、理不尽極まりない。
 健司は嘆息しながら、
「女の子の半分は理不尽でできています」
 なんてことを呟いてみせたりもする。
「なにそれ?」
「テレビのCMで見た」
「ばか。それ言うなら『バファリンの半分は、やさしさでできています』だろ?
 ……ってゆーか、誰が理不尽で出来てるって?」
「けーちゃん」
「…………オマエ、なんか、すっごくいぢわる」
「そう?」
「んあぅ! …………ば、ばかっ腰っひんっ……」
 まだ胎内(なか)にあり、射精後も少ししんなりとしながらも勃起し続けている健司のモノが、彼が腰を蠢かすたびに粘膜と擦れ、甘い疼きと痛みを桂の腰の中へと等価に生み出すのだ。
「俺って、いぢわる?」
「ぃ……う……うごかっ……ない……れぇ……ぁぁあぁ……」
 白い歯を覗かせ口を半分開いたまま、桂は“ぎゅっ”と目を瞑って健司にしがみ付く。
 初めてなのに、たっぷりと弄られ、嬲られ、責め立てられて、まるで嵐の海に放り出された小船のように翻弄されっぱなしだ。
 健司は、本当に初めてなのだろうか?
「なんでっ……ばかっ…………ばかっ…………」
「いててて……」
 悔しくて恥かしくてムカムカして、けれどそれでもやっぱり嬉しくて、桂は健司の脇腹を“ぎゅうう”とつねってみせた。


 やがて、健司はゆっくりと起き上がり、桂の横に寝転がった。
 今度はさすがの桂も止めなかった。
 健司の“いぢわる”で、またあそこがとろとろにとろけ、はれぼったいほっぺたが熱くて熱くて熱くて…………だから。
 彼がいなくなっても、桂は脚を広げたまま、閉じる事が出来なかった。
 荒い息の下、ひどく緩慢な動きでそろそろと、右手を下腹部に這わせてみる。
 濡れた陰毛が指に絡み、今まで彼と重なっていた肌の熱さが愛しかった。
「……ん……」
 この胎内(なか)に健司の精子がたっぷりと注がれているとは、まだ信じられないような気分だった。
 股関節がぎしぎしと軋んで、あそこがじんじんして、“ぱくっ”と穴が開いたまま塞がらない気がする。
 大きく洞窟の入り口みたいに広がってしまったような感じがする。
「……まだ、あそこ……じんじん……する……」
 うっとりと、そしてどこか夢見るように、桂が小さく呟いた。
「ごめん……」
「……謝るなよ……オマエが悪いんじゃないから……」
「でも、ごめん」
「……ひょっとして……後悔してる……? ボクと……その、したこと」
 不安げな桂の言葉に、健司が即答する。
「そうじゃないよ。けど、なんか、途中からあんまり気持ち良くて、わけわかんなくなって……乱暴にしちゃったかも……」
「いっしょうけんめいだったもんな」
 “くすくす”と、思わず笑みがこぼれる。
 桂は手を伸ばし、汗ばんだ彼の額から頬、首筋、胸元へと指を滑らせてみた。
 皮膚は、今はもうすっかり完全な女になってしまった自分よりも、ずっとずっとしっかりとしていて、その下にある筋肉と腱のおかげでひどく頑丈そうだ。
 どこもかしこも硬くて、太くて、強い力を秘めている。
 自分が失って、そして、今こうして再び“手に入れた”男の体だった。

 そう。
 『手に入れた』のだ。

 自分は健司が好きで、健司も自分が好きだと言った。
 互いに求め合い、与え合い、繋がって喜びに震えた。
 だからこそ、健司は自分のものだと思うし、自分の全ては健司のものだと思う。
 自分が“誰かのもの”になるなんて、今まで考えた事も無かったし、それも相手が男で、しかも健司だなんて思いもしなかった。
 けれど、この体の奥からじわじわと滲み出るような幸福感は、いったいどうしたことだろう?
 体の奥の、誰にも犯されざるべき禁域に、灼熱の激情で『刻印』を捺されてしまったのではないか? とさえ思える。
 その『刻印』の銘(めい)は「健司」というのだ。

 それが、ハッキリとわかる。

「あ……」
 不意に、体の中を“とろり”としたものが伝い下り、“ぬるぬる”と出口を求めて膣口に這い寄るのを感じ、桂は泣き出しそうな、困ったような、そんな奇妙な表情で股間を押さえた。
「どうしたの?」
「……出て……んっ……きた」
「何が?」
「ティ……ティッシュ……」
 ベッドの上部で照明コンソール状になっているヘッドボードに、ティッシュボックスは在る。
 手の届かない桂に代わって、健司がそれを手にした。
「どうしたの?」
「出てきた……」
「なにが?」
「オマエの……」
 そう言いかけて、急に“かあああぁ……”とほっぺたを真っ赤にして黙り込む桂に、健司は朴訥とした表情で言った。
「鼻水?」
「ちがわいっ! ……あっ! ……」
 激しかけた桂が、咄嗟に両手で股間を押さえ、それと同時に彼女のあそこから“ぷりゅっ”と可愛らしい音が聞こえた。
 そこに至ってさすがの健司も事情を察し、少女の股間にティッシュを当てる。
「けーちゃん、手をどかして」
「え!? ……だ、だって……」
「それじゃ拭けないでしょ?」
「じっ……自分でやるっ」
「いいから」
「いいから、じゃなくてぇ……」
「ほらほら」
 あっという間に手を剥がされ、脚を開かされて、まるで粗相をした赤ん坊のようにあそこを拭われてしまった。
「んっ……んっ……んっ……」
 “ヒリヒリ”としてまだ敏感になっているところを、柔らかいとはいえティッシュで拭われ、桂は胸元で両手を“ぎゅっ”と握り締めたまま“ぴくっぴくっぴくっ”と体を震わせてしまう。
 思えば、なんて淫靡で背徳的な光景だろうか。
 頭も顔も小さく、目は大きくてくりくりとしているため、ともすれば中学生か小学生にも見える少女のその胸には、彼女自身の頭ほどもあるのでないか? とさえ思える乳房が、両側から寄せられた腕に挟まれるような形で、高く大きく盛り上がっている。その部分だけ見ればグラマラスな成人女性も顔負けなほどの色香なのだけれど、その格好は、まるでおしめを替える赤ん坊のように無防備であからさまだった。
 目を瞑り、眉を潜め、健司の指がティッシュで股間を拭くたびに“ぴくんぴくん”と腰が震える。
 彼が胎内から染み出し垂れ落ちる精液を大雑把に拭い去った頃には、桂は再びぐったりとしてぼんやりとした瞳を宙にさ迷わせていた。
「はい。終わったよ」
「…………ぅん……」
 恥ずかしくて恥ずかしくて、泣きそうだった。
 だのに、もっと健司に触れて欲しくて、彼の手が離れた時には小さく「ぁ……」と名残惜しげな声まで上げてしまったのだ。
 健司はそれに気付かないかのように、彼女の体にシーツをかけ、自分もその隣に横になる。
 桂はなんだか悔しくて、でもそれを悟られたくなくて、彼の脇に身を寄せながらさっきの健司の顔を見て思った事を話した。
 つまり、えっちの最中、
「けーちゃん……けーちゃん……」
 と、彼がうなされたような、助けを求めるような声を上げながら、懸命に自分の体への浸入を果たそうとしている時、彼の顔があまりにも情けなくて、一生懸命で、滑稽で可愛そうでそして可愛くて、どうしても護ってやりたくなったということを。
「おかしいよな。ボク、オマエに助けられてばかりなのにな」
 彼のしっとりとした肌の手触りや汗の匂いや体臭を感じながら、そのぬくもりを求めてさらに身を寄せると、溜息が出そうになるくらい大きく盛り上がった肩の筋肉を目の端に捉えつつ、うっとりするほど厚い胸板に右腕をまわした。
 そんな彼の身体の所々にある痣の痕(あと)が、まるで、必死に自分を護ってくれた“証”のように見え、桂は胸が“きゅうん”となるのを感じる。
「……そんな事はないよ。けーちゃん、俺を助けてくれたじゃない」
「子供の時の話だろ? いいよ。もうそんな昔のことは」
「ちがうんだ。俺はいっつもけーちゃんに助けられてた。高校に入ってからもそうだよ。
 俺、自分のやりたい事が見つからなくて、いつもけーちゃんの背中ばかり見てた。
 けーちゃんについていけば、なにか自分のやりたいこととか、やれることとか、見つかる気がしてたんだ。けーちゃんに、俺は俺の生き方を決めてもらってたようなもんなんだ。
 高校で水泳部に入ったのだって、けーちゃんにそう言われたからなんだよ」
「ボクは……何も言ってないぞ?」
「けーちゃん、中学の時に言ってくれたんだよ?
 『健司、オマエ泳くの早いな。高校に行ったら水泳部に入ったらいいんじゃねぇ?』って」
 確かに言った気がしないでもない……ような気がする。
 けれどそれは、日常の中の些細な会話の一つでしかなかったはずだ。
「いや……でも、そんなことで……」
「けーちゃんには“そんなこと”だったかもしれないけど、俺にとってはそうじゃなかったんだ」
 嬉しそうに、誇らしそうに言う健司がなんだか眩しくて、桂は目を細めて彼の右ナナメ下からの横顔を見上げた。
「……でもオマエ……さ。大学は自分でちゃんと一人で決められたじゃないか」
「……う……ん……あれは、違うんだ。ああやって、けーちゃんと違う大学に行けば、けーちゃんみたいに強くなれるかもって思ったんだよ。いつまでもけーちゃんに助けられてばっかりじゃ、ダメって思ってね。
 だって、けーちゃんにはけーちゃんの人生があるんだからさ」
「人生……かぁ……」
 これから、どうなるのだろう。
 健司に全てを話してしまったことを、コミュニティはどう取るのか。
 自分は許されるだろうか?
 健司は許されるだろうか?

 2人でずっと、生きていけるのだろうか――――。

 それから2人は、色々な事を話した。
 まるで、ひどく遠回りしながら辿り付いたこの時間をどうしようもなく残り少なく感じて、せめてこの時だけは……と、懸命に慈しむかのように。
 やがて桂は緊張と疲れで、健司の脇に身を寄せて、子猫のように丸まったまま眠ってしまった。
 そして、夢を、見た。
 けれど、目覚めた時、ひとかけらも覚えていなかった。
 ただ、今まで味わった事も無いような、とてもとても安らかな眠りだったことは、確かだった――。
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