■感想など■

2009年09月07日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【5】■■
 彼女は、自分の性癖を、完全に「男性」に“向いている”と思っている。
 男の硬くて熱い男根を自分の膣に迎える「セックス」は大好きだし、男の汗の匂いも筋肉の硬さも性器も、それに、精液の匂いだって大好きだ。
 口に含んだ男根が自分のテクニックでいきり立つのを感じるたびに、全身が喜びに震えてしまう。
 体を絡ませ口付けを交わし、唾液を飲んだり飲ませたりするのも好きなら、息も絶え絶えになるくらい逞しい男根で責め立てられる様を想像するだけで、あそこがとろとろに濡れてしまう。
 セックス狂いのニンフォマニア(女性色情狂・多淫症)ではないか? とも思わないでもないけれど、それで特に困った事は無いし、男を操縦するのも、イイ男を捕まえるのも、自分のこの性癖があってこそだと思うから改めるつもりなんて無い。
 もちろん、男達に「便所」扱いされているとは思わない。
 誰彼構わずセックスするつもりはないし、そもそも自分を「安売り」するつもりなど始めからこれっぽっちも無いからだ。
 京香は、自分で選んだ相手から報酬は必ず対価として受け取るし、それをそれと思わせないテクニックも身につけている。
 男に報酬をねだるのではなく、男が“報酬を自ら与えたくてたまらなくなる”ように仕向けるテクニックを。
 京香と言う「イイオンナ」を自分の物に出来るのであれば、何も惜しくは無いと男に思わせるテクニックを。
 だからこそセックスが好きで好きで好きで好きで好きでたまらくても、男に都合良く扱われる女ではないと周囲に認めさせているし、便所(性欲処理のための女)扱いにする(なる)など、京香も相手の男も、これっぽっちも考えたことすら無いのだ。

 では、そんな彼女は、『高級娼婦』とどこが違うのか?

 そう問われたら、京香は明るく答えるだろう。
「それのどこがいけないの?」
 「イイオトコ」を自分の才覚で捕まえ、肉体で虜にし、相手を気持ち良く“金づる”や“将来の保険”としてキープしながら大好きなセックスを楽しむ。
 呼称など関係無い。
 全ては自分のため、自分の将来のため、自分の快楽のため。
 だからこそ、同じ年齢の同じ学校の中では「恋人」は作らないし、軽々しく抱かせたりなんかしない。
 (もっとも彼女の6人いる彼氏(?)のうちの一人である、2年B組の「一ノ瀬 勇(いちのせ ゆう)」に対しては、必ずしもそれが当てはまっていなかったりもするのだけれど、それは、「どうしてこんなイイオンナがこんなオトコに惚れるんだ?」という、よくあるアンバランスカップルの一組として、周囲に認識されている)

 男だった頃の『圭介』に京香が興味を持たなかったのも、彼が彼女にとっての「雄(オス)の魅力」を全く持っていなかったためだ。
 それがある日突然「女」になり、乳房さえもが巨大にふくらんで強烈なセックスアピールを周囲に振りまくにつれて、「少女」の自分の肉体に対する無自覚と無理解に苛立たしさを感じ、それがやがて「放っておけない」気持ちへと変化していった。
 そして、ついには強烈な庇護欲を刺激されてしまうに至り、京香はいつの間にか、自分がこの少女の「おねーさん(保護者)」のような気持ちになっている事を自覚して、最近はとうとう少女を「女らしくしたい」という欲求に火が点いてしまったのである。

「けーちゃんさぁ……えっち、好き?」
 顔がくっつきそうなくらい近くに身を寄せ、京香は怪しく囁くようにしてしゃくりあげる桂に聞いた。
「……す……ぅ……ぇ……」
「好きか嫌いかって言ったら、どっち?」
「……す…………き……」
「どんなところが?」
「あ、安心……する……」
「安心?」
「……ぎゅっ……って、されると……その……なんか、あったかくなる」
「護られてる感じ?」
「……うん……もう、何があっても大丈夫って、思う……」
「いっぱい、キスされた?」
「ぁ……ぅ……」
「いっぱい、触ってもらった?」
「……ぅ…………ん……」
「いっぱい、濡れた?」
「……ぃ…………ぁ……」
「じゃあ、けーちゃんの体はいっぱいいっぱい悦んだのねぇ……」
「……そ……ぅ…………ん……なの……かな……ぁ? ……」
「そうよ」
「そう……なのか……ぅん……」
「……じゃあ……」
 桂のセミロングの黒髪を掻き揚げ、ふっくらとやわらかそうな耳たぶにキスしそうなほどの近さで囁く。
「……また、抱いて欲しいよね?」
「うん……」
 「はあっ……」と甘い吐息を吐いて、桂は首を竦めて“ぶるっ”と身を震わせた。
「谷口くんに、『抱いて』って言えない?」
「そっ……そんなのっ……」
「恥かしい?」
「……恥かしいに……決まってる……よ……」
「素直にならないと、きっともう抱いてくれないよ?」
「でも……」
「2回目って、結構タイミングが大事だし、こんな風に彼と顔を合わせないでいると、もっともっと難しくなるよ?」
「そう……なの……かな……」
「そうよ。それに、谷口くんも初めてだったんでしょ? えっち」
「……ぁ……え……ど、どうかな?」
「初めてじゃなかったの?」
「初めてって、言ってた。でも」
「でも?」
「な、なんかアイツ、慣れてて、ボクが気持ち良いコトばっかり、わかってる、みたいで」
「自分の前に誰かとえっちしてるかもしれない……って?」
「……ぅ……」
「…………あぁぁ〜……もう、そんな顔しないの。けーちゃんはどうなの? 谷口くんの言葉、信じられない?」
「し、信じたいよ……でも、でも」
「それじゃあ尚更、すぐにでも抱いてもらわないとね?」
「……どう……して?」
「あのね。えっちを覚えたばかりの男ってのは、お猿さんなの」
「猿?」
「そう。猿。一度女の子の体を知ったら、すぐにでもまた抱きたくて抱きたくて抱きたくてたまらなくなるのよ」
「体……」
「特にけーちゃんの場合、モノスゴイ体じゃない? ちっちゃくって可愛くって、でもおっぱいは凶悪なくらいでっかくてやわらかくていーにおいしてる」
「あ……ぅ……」
 “かぁあああ……”と桂のほっぺたが、耳たぶが、首筋が赤く染まり、下唇を“きゅ”と噛み締めて“ぶるっ”と身を震わせた。
 京香の言葉に、呼吸に、そして怪しい声のトーンに、桂はすっかり翻弄されていた。
 自分が“エロエロ大魔神”と名付けた、その女の子の言葉に。
「谷口くんって『おっぱい星人』でしょ?」
「……う……ん……」
「けーちゃん、体が小さいから、アソコだって締まり良いんじゃない?」
「し……締まり?」
 “ごくっ”と桂は唾を飲み込み、すぐ横にある京香の瞳へと吸い寄せられるように視線を向けた。
「谷口くん、どうだって? 良かったって?」
「よっ……そっ…………わ、わかんない。聞いてない……」
「ダメよ。聞いとかなくちゃ。女のアソコは鍛えれば鍛えるだけ武器になるんだから」
「ぶ……武器?」
「そおよぉ。男を虜にして、自分だけしか見えなくさせるための、武器」
「自分だけ……」
「もちろん、アソコばっかり鍛えても意味無いけどね?」
「武器……」
 自分の身体でも、本当に健司を自分だけしか見えなくさせることなんて、出来るのだろうか?
 元は正真正銘の男だった事を、彼は知っているのだ。
 他ならぬ桂自身が、それを彼に告白したのだから。
「ねぇ……谷口くんが、自分だけをずっと見ててくれるって思うと、嬉しくない?」
「…………嬉しい……かも……」
「かぁもぉ?」
「う、嬉しい、です」
「よろしい。女の子は素直が一番だからね?」
「…………ん……」
「でも、覚え始めの男の子はお猿さんだから、身近にえっち出来そうな女の子がいたら、そっちにすぐなびいちゃうよ?」
「け、健司はそんなヤツじゃない」
「そう? 本当にそう思ってる? そう信じてるの?」
「だって……」
「いいの? 谷口くんが、けーちゃんがえっちさせてくれないばっかりに他の女の子と“そーゆーこと”しても」
 京香の容赦無い言葉に、桂の顔がたちまち“ふにゃっ”と泣きそうに歪んだ。
「や、やだっ……ぜったいやだっ……」
「でしょう? 相手を信じるのと、物事を客観的に見るのとは違うのよ。けーちゃんは男の子だったんだから、男の生理ってものもよくわかってるでしょ? 男って、一度火が点いたら自分でも抑制出来なくなることなんて、ホント、ザラなんだから」
「どうしよう……ボク、もう3週間以上、アイツと会ってない……」
「メールは?」
「最初は来てたけど……そのうち、来なくなって……」
「返事したの?」
「……なんて書いたらいいのかわかんなくて……」
「顔も見てない、メール来ても返事もしない…………あ〜…………じゃあ、もうダメかもねぇ……」
「そんな……」
「けーちゃんがそういうコトされたら、どう思う? えっちまでしといて、後はそんな風に冷たくされたら?」
「冷たくなんか……」
「したの。無視したんでしょ?」
「無視なんて」
「したの。誰がどう見ても無視してるよ。えっちしたら次の日からメールもくれない、顔を見ない。それって、『えっちしたら君は用無し』って言ってるのと同じでしょ?」
「ボ……ボクはそんなつもり……」
「無かった? でも、それって谷口くんにはわからないよね? 顔も見せないんじゃ、けーちゃんが何考えてるのかなんて」
「そんな……」
 長い睫を濡らしてポロポロと涙がこぼれ、桂のぷっくりとした可愛い頬を伝って落ちると、京香は『ちょっといぢめ過ぎたかな?』と心の中で舌を出して、少女の耳元にふっくらとした唇を寄せて囁いた。
「谷口くんに、また『好き』って言って欲しい?」
 すっかり素直になってしまった桂が『こくっ』と子供のように頷き、涙がダイヤの欠片のようにキラメキながら“ぽろっ”とこぼれ落ちる。
「また、『ぎゅっ』てして欲しい?」
「……んっ……」
「また、抱いて欲しい?」
「……ぅんっ……」
「じゃあ、今から谷口くんに電話して、電話が繋がらなかったら会いに行って、それでも会えなかったら、メールするの」
「うん」
「彼が求めてきたら、躊躇ったり拒んだりしちゃダメよ?」
「……う、うん……」
「良い子ね」
 京香は自分でもびっくりするくらい優しい気持ちになっている事に軽い驚きを感じながら、熱く火照って涙に濡れた少女のやわらかい頬に、“ちゅっ”と母親がそうするような軽いキスをした。
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