■感想など■

2009年09月19日

第23章「ボクたちの選択」

■■【1】■■

 『生体管理調整槽(コクーン)』は、SF漫画や映画によく出てくるような、透明な筒状のものでも、球状のものでも無かった。
 真っ白で、表面は布と革の中間のような、どこかしっとりと手に吸い付くような感じがした。
 形は逆さまにした泪滴型であり、例えてみるならば柏餅を軽く潰したような形状をしている。
 二つ並んだコクーンとコクーンは、特に配線とかで繋がっているわけではなく、これで本当に健司と“繋がる”のだろうか? と桂は少々不安になったけれど、母の言う事を信じるしかないこの状況では、疑う事自体が無意味であると言えた。
 右のコクーンに、崩れかけた肉体を包帯で包まれた健司が沈み込むようにして消えると、桂は父と母と美智子が見守る中、左のコクーンの傍らに立った。「服は……このままでいいの?」
《脱ぎたい? 》
「そっ……そういうわけじゃなくて……」
「同調そのものは脳波パルスを介してそのまま移行されるものだし、コクーンそのものが二人の生態波長に既に同調させてあるから、肌を露出させる必要は無い。お前が脱ぎたいなら誰も止めはせんよ」
「だから、そうじゃないってば!」
 母も、美智子も、桂が顔を赤くして怒るのを、何かとても微笑ましいものでも見るような目で見つめていた。
 桂もわかっているのだ。
 ひょっとしたら、これが二人との最後になるかもしれない。
 だから父と母は、少しでも重い雰囲気を生み出さないようにしているのだと。
 でも、今はそれを口にするつもりは無いのだ。
 自分は、必ず健司を助ける。
 二人の赤ちゃんを死なせない。
 そして、自分も必ず帰ってくる。
「準備はいいか?」
 父が、まるで科学者のような顔で言った。
 母の延命処理に尽力していたというから、ひょっとしたら実際に技術的な作業をしていたのかもしれない。
「うん」
「頑張ってこい……というのも、変な話だが……ちゃんと帰って来い」
「うん」
「お前の産んだ孫を抱きたいとか思ってたが、まさかそれが本当になるなんてな」
「う……ん?」
《善ちゃんったら、けーちゃんが女の子になったらいいなぁ……って、ずっと言ってたもんねぇ……》
「は?」
《6月の始めに熱を出して寝込んだ時、変体初期段階には、枕元で「オンナになれーオンナになれー」って言ってたし》
「はあ?」
 そういえば、熱にうなされ前後不覚になり、3日間、ただひたすらに眠り続けていた時、夢の中で母がめそめそと泣いたり、父がガハハと酒を飲みながら笑ったり、かと思えば母がニコニコと嬉しそうに笑って何度も頬擦りしてきたり、父が憮然とした顔で酒を飲んでいたりしていたような記憶が無いでもない。現実でも夢でも、機嫌が良くても悪くても酒を飲んでいる父の頭を、あの時は思い切り引っ叩いてやりたかったけれど、今の話からするとあれは全部現実だったという事か。
 ……いまさら、引っ叩いてやろうとは思わないけれど。

 柏餅を潰したような形のコクーンに体を寄せて目を閉じると、吸い込まれるように体が“沈んで”いった。
 目を瞑っているために感覚だけの世界だったけれど、不思議と不安は無い。むしろ、優しく、あたたかく、そして全てを包み込んでくれているようでひどく安心した。遥か昔、生まれる前には、ずっと長い間こんな安らぎの世界にいたような気がするのだ。
 全身を包み、そして全ての穴という穴、毛穴という毛穴から何かが染み込んでくる。
 体の中が何かで満ち、体の中の全てが外へと“開いて”ゆく。

 そして、全てが闇に溶けた……。

 最初に気付いたのは、“風”だった。
 気持ちの良い“風”だ。
 桂はその“風”を『知っている』と感じた。
 身に着けた綿シャツが、ミニスカートが、その“風”に揺れる。
 目と瞑っているわけではない。
 でも、何も見えない。
 宙に浮いていて、立っているのか浮いているのかもわからなかった。
 その中で、“風”に撫でられている。
 全身を愛撫されているような心地良さだった。
 全てを委ねてしまいたいと思えるような“官能”だった。
『あ……服……』
 不意にシャツが、消えた。
 そして次にスカートが、消える。
 ローティーンのような細くて華奢な体には豊か過ぎるおっぱいが、ブラに包まれたまま風の愛撫を受けた。
『あれ?』
 確か、自分はノーブラではなかっただろうか?
 そう思った途端、胸を締め付けていたものが消え、同時に腰周りも外気に触れた。
 下着が全て消えたのだ。
 靴下も靴も、いつの間にか感じない。
 今こそ桂は、生まれたままの姿になっていた。
 前方に張り出していたメロンおっぱいが、重力に引かれて“ゆさり”と揺れる。
 足の裏に、硬くも柔らかくもない、どこか頼りないものを感じる。
 地面だろうか?
 視線を向けるけれど、何も見えなかった。
 でも確かに“立っている”と感じる。
『んっ……』
 “風”が、撫でるように肌を滑る。
 背中を、お腹を、お尻を、太腿やおっぱいを撫でる。
 優しい愛撫。
 慈しむように、包み、撫で、触れてゆく。
『あぁ……』
 知ってる。

 知ってる。

 これは健司だ。
 健司の“風”だ。
 健司から感じる、彼の想いのあたたかさと同じだった。
 ボクは……ワタシは彼に抱かれたのだ。
 忘れるはずが無い。
 だって……

「けーちゃん?」

 はっとして、息を呑んだ。
 何も見えない。
 空耳だったのか?
 いや、そんなはずはない。
 自分が、彼の声を間違えるはずが無い。

「けーちゃん……」

 再び、自分を呼ぶ声に、桂は一歩を踏み出した。
 “ゆさゆさ”と豊かなおっぱいが揺れ、それでも少女は構わず歩を進める。
「健司…………健司なのか?」
 上手く声が出ない。
 自分の声なんかじゃないみたいだ。
「けんじ! ワタシだよ! 桂だよ!?
 ワタシ……ワタシ…………ッ……。
 来たよ? 助けに来たよ? 来たんだ、ワタシ、だから……ッ……!」
 歩み、さまよう。
 愛しい男の姿を求めて、闇の中を手探りで歩いた。
「けーちゃん」
 声が聞こえるたびに、その方向……聞こえたように感じる方向へと、足を運ぶ。
 それはまるで、あたかも水を求めて砂漠をさまよう旅人のようだった。
「けんじ……出てきてよぉ…………」
 立ち止まり、泣いた。
 涙が止まらない。
 顔を伏せ、両手で覆い、嗚咽がこぼれた。
 そんな桂の肩を、背中から不意に力強い手が包む。
「けーちゃん……会いたかった」
「…………ッ…………」
 喉が詰まったようになって、桂は身を震わせたまま顔を上げた。
 顔を覆っていた両手で、自分の肩を抱く両手に重ねる。
 それは、太く、優しく、そして逞しい指、だった。
 ちょっと節くれだった、けれど男らしい指だった。
 力強いストロークで水を掻き分けるアスリートの。

  “あの時”自分を抱いてくれた時のままの。

 目を瞑り、じわっと肩から流れ込んでくるあたたかさに桂はゆっくりと身を委ねた。
 振り返らず、小さく息を吐き、そうして拗ねたように唇を尖らせる。
「……探したんだぞ?」
 涙に濡れた、ちょっと恥ずかしい声だった。
「うん」
「どこにいたんだよ?」
「けーちゃん、“ワタシ”にしたの?」
「人の言うこと聞け、ばか。
 ……そうだよ。
 ワタシ、あな…………オマエの“彼女”だもん」
「あな?」
「いいの。ばか」
 背中に、逞しい胸板を感じる。
 あの、包帯に包まれ血の滲んでいた胸ではない。
 ホテルの一室で愛し合った時の、あの時の胸だった。
 このまま“ぎゅっ”と抱き締めて欲しかったけれど、彼は一向にそうしてくれようとはしない。
 ただ、肩をそっと抱くだけだ。
 そして、桂が話さなければ彼は何も話し出そうとはしなかった。
「……辛かった?」
「なにが?」
「ワタシ、無神経だったね。でも、ワタシも寂しかったんだ。
 怖かったんだ。どうしたらいいかわからなくて、でも、オマエの事が、す……す……」
「す?」
「…………オマエが、大事だから、ずっと、オマエの事ばっかり考えてた。
 亮の事だって、あんなのは誤解だぞ? ワタシはもう、オマエだけなんだからっ。
 無視だってしてない。ずっとずっとオマエと話したかった。オマエに触れたかった。
 オマエとキ…………」
「キ?」
「…………キ…………ぅ…………」
「キ?」
「何度も聞くなばかっ。
 ……そうだよ。キスしたかったんだ。抱き締めて欲しかったんだ。
 オマエのモノなんだって、もう誰にも渡さないって、“ぎゅっ”ってして欲しかったんだっ」
 自分が真っ赤になっているだろうことは承知していた。
 言葉にするのも、ものすごく恥ずかしい。
 でも、一度は失う事を覚悟した相手だった。
 伝えたい事はちゃんと伝えないと、後で後悔したりするのは、もう嫌だったのだ。
 彼は何も言わない。
 静かな時間が怖かった。
 胸の奥で心臓が情けないほど激しく高鳴っていた。
「……ぁ……っ……」
 思いもしなかったほど強い力で振り向かされ、息も出来ないくらいの強さで抱き締められた。
「ぁあっ……」
 肺の中の空気が残らず出てしまう。
「けんっ…………ぁ……」
 ふっと力が緩み、むさぼるように空気を吸い込む唇を、彼の唇が塞ぐ。
「っはっ……んむっ……っ……ぅ……」
 唇が、舌が、吐息さえ食べられる。
 彼の舌が口内に滑り込み、舌だけでなく歯の裏側やほっぺたの裏さえも、丁寧に愛撫され、嘗められ、しゃぶられる。
 久しぶりの彼の味だった。
 久しぶりの吐息、久しぶりの香り、久しぶりの舌触り。

 ――たとえようもないほどの官能――…………!! ……

「っは…………」
 唇が離れ、世界が回る。
 くらくらして、目が涙でたっぷりと潤み、彼の顔さえ見えなかった。
 くたくたと崩れ落ちそうになる体を抱き締められ、何度も唇を、舌を、口内を“いぢめられる”!!
「――だ……も……もぅ…………」
 請うても、許してくれない。
 許すつもりなどないのかと思うほどに。
 ソラ先生や母の言う事が本当なら、ここは自分と健司の精神が同調した、いわば精神世界のはずだ。
 だのに、こんなにも現実そっくりな肉体感覚を感じるなんて。
「……っ……はっ…………んっ……」
 彼の唾液を飲み下し、自分の唾液を吸い上げられる感覚に酔う。
 体がとろとろにとろけ、だからこそ、彼がいつの間にか唇を離して屈み込んだ事にすら、気付くのが一瞬遅れてしまった。
「あっはぁっ……!! ……」
 “ちゅうっ”と右の乳首を吸われた。
「ちくっ……だめ……ぇ……」
 彼の頭を掻き抱き、強過ぎる刺激なのだからやめて欲しい……という意味を込めておっぱいを押し付けた。
 それをどう誤解したのか。
 彼は勃起して恥ずかしいくらいに硬くしこった乳首を、唇に挟んで甘噛みを繰り返す。
「ふあっ……やっ……んぅっ……」
 “ぬるっ”とお腹の中が動いた気がして、一瞬だけ意識が現実に引き戻される。
 今、“この体”には、赤ちゃんはいないはずだ。
 現実では性的な刺激を受ける事で子宮にどんな影響があるかわからないけれど、今はそこまで心配する必要は無いのかもしれない。
「け……ぁ……けんじ……あの、つよすぎ……る……から……」
 “ちゅっ……ちゅっ……ちゅっ……”と乳首が啄ばまれ、幾分色の濃くなった乳輪ごと“はむはむ”と甘噛みされる。
 そのたびに、桂の体は面白いように震え、“びくびく”とはねた。
「ずっと、こうしたかった」
 とろんとした瞳で見下ろすと、健司は膝立ちになって桂の細い腰に両手を回し、まるで幼子が母親にすがりつくようにしていた。
 そんな健司の手は、ごつごつしてて、力強くて、あったかくて頼もしくて、そしてあの日と変わらずにひどく優しい……。
「ずっと、けーちゃんを自分のものにしたかった。
 ずっとけーちゃんと一緒にいたかった。
 好きだよ、けーちゃん。
 けーちゃんのそばにいると、俺、何でも出来そうな気がする。
 けーちゃんがそばにいれば、力がどんどん沸いてくる気がする」
「……そうか……」
 乳房の間に彼の顔を包み、桂は“ぽろぽろ”と涙をこぼした。

 ――でも、オマエが感じている恋も、愛も、記憶も、それは全て創られたものなんだ。

 そんな事は、口が裂けても言えない。
 言ってはいけない。
「ワタシも。
 ワタシも、健司がいれば何でも出来る。どんなことでも怖くない。
 だから、そばにいて?
 ずっと、ワタシを好きでいて?」
 泣きながら健司の頭を掻き抱いた。
 豊かなおっぱいで健司の顔を包み、太陽のにおいのする髪に頬擦りした。
 そして、いつかデパートの下着売り場の多恵さんに聞いた事を話した。
「女のおっぱいにはさ、ヒーリング効果があるんだってさ」
「ヒーリング?」
「癒し……ってやつ」

『それはね、「あーこの人に元気をあげたいな。私の心の中の元気な部分をあげたいな」って思ったり、「この人を“ぎゅっ”ってしたら私も元気になるかな。もっともっとこの人に元気をあげられるくらい、元気になるかな」って思うからなの』

『ケイちゃんのおっぱいはね、ケイちゃんが「元気をあげたい」って思った時に、それが出来るようにおっきくなったんだよ。
 ケイちゃんが「癒してあげたいな」って思った時にそれが出来るように、ここまでおっきくなったんだよ。
 だからそれを嫌だって思ったり、恥ずかしいって思う事は無いの。ケイちゃんが「元気をあげたい」「癒してあげたい」って思う相手以外にどう思われても、それは関係無いし、その相手に必要とされる事に比べたら、そんなのはなんでもないって、きっと思えるようになる。
 これはホントだよ?
 だから、胸の大きな自分を嫌いにならないで。自分の体の一部を否定しないで欲しいの。少しずつでいいわ。少しずつでいいから、ケイちゃんには自分の体を好きになってあげて欲しい』

 その言葉を由香に言った時、あの少女は
『けーちゃんは、“ぎゅっ”てされたいけど、それよりもっと“ぎゅっ”てしてあげたいのかな』
 と言った。
 今ならハッキリと言えるのだ。
 ワタシは、健司をずっとずっと、こうしてあげたいのだ。
 胸に包んで、癒してあげたいのだ。
 元気をあげたいのだ。
『由香……由香……
 今ならわかるよ。
 オマエの言ったこと……』
 あのちっちゃな背の、『星人』に創られた可愛らしい幼馴染は、難しく考える桂にあっさりと言ったのだ。
『愛したいか愛されたいかって問題じゃないの。それぞれを別々に考えるからヘンなんだよ。
 愛する事と愛されたいと願う事は、おんなじなの。
 愛する方が愛されるより尊いとか、愛される方が愛するより幸せかとか、そんなのは勝手な後付けの理由でしかないんだよ』
 健司の頭を抱く腕に力がこもる。
 失いたくない。

 あたたかな、いのち。

 いとしい、ひと。

「オマエを、癒してあげる。
 元気をあげる。
 ワタシのぜんぶをあげる」
「けーちゃん……どこかに行くの?」
 ギクリとした。
 その震えが伝わったのだろうか?
 健司がおっぱいの間から顔を上げ、まっすぐに桂を見上げる。
「ちょっと…………ちょっとだ」
「どこに?」
「……ちょっとだけ、遠く」
「……もう、会えないの?」
 息が止まる。
 健司の目を見ていられなくて、桂は目をそらして逃げた。
 どうしてコイツはこんなに真っ直ぐに聞いてくるんだろう?
 どうして核心を確実に突いてくるんだろう?
「ワタシを好きでいてくれたら、そうしたら……きっとまたいつか、会える」
「…………ほんとう?」
「ほんとう」
「ほんとうに?」
「ワタシが嘘言ってると思う?」
「……じゃあ、どうしてさっきから泣いてるの?」
 もうだめだ。
 桂は観念するように、健司の顔を見た。
 彼の頬に、口元に、桂の熱い涙が落ちる。
「…………忘れないよ」
 しゃくりあげる桂の腰を“きゅ”と抱き締め、健司は桂のおっぱいにキスをした。
「……たぶん出会っても、オマエはもう覚えていない」
「忘れない……けーちゃんが忘れても、俺は忘れない」
「忘れちゃうんだ。もう、ワタシのことなんか」
「忘れないよ」
「健司…………」
 とめどなく涙がこぼれる。
 桂は胸がいっぱいになり、崩れるようにして優しい幼馴染みを抱き締めた。
「健司………………健司……健司…………健司…………けんじ……」
 彼の首にすがりつき、ぶら下がるようにして彼の首に頬を寄せる。
 泣きじゃくり、彼の名を呼び続ける少女の滑らかな背中を、健司は優しく撫でていた。
「ごめん…………ごめんっ! ……ごめんごめんごめんごめん……ごめんなさい!」
「どうしたのけーちゃん……?」
「オマエのこと、好きになってごめんなさい…………ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「ワタシ!! ……もう一度オマエに逢いたいっ……ぎゅってして欲しい……キスして欲しい……抱いて欲しい……愛して欲しい……」
「けーちゃん……」
「オマエをこんな目に逢わせたくせに、ワタシはまだこんなにもオマエに求めてる……ワタシは自分勝手で、オマエのことなんてちっとも考えてなかった……もしオマエが死ぬなら、代わりにワタシが死ねばいい……死にたい……オマエは生きてくれ……お願いだ……生きてくれ……」
「それじゃ駄目だよ」
「健司……」
「俺が助かっても、けーちゃんが死んだら意味無いでしょ?」
 そう言って、あやすように“ぽんぽん”と背中を軽く叩かれると、桂は体中の力が抜けていくのを感じる。
 彼にすがり、彼に全てを預け、そして彼に自分を委ねてしまえる快美感……。
 胸が、体の中心が熱くなり、重たいおっぱいの先端が痛いくらいに屹立する。まだまだ熟していない性器が“じゅん……”と潤み、腰の奥が痺れるようなさざなみを生み出していた。
 少女は可愛らしいほっぺたを紅く染めて、彼の頬に摺り寄せた。

――ああ……恥ずかしい……

 今から口にしようとしている言葉を反芻するだけで、体が熱くなる。
 でも、今しかないような気がしていた。
 いや、きっと今しか無いのだ。
「け……けん……じ……」
「?」
「け……あ、あの……」
「けーちゃん?」
「お……お…………お願い……抱いて……」
 “とうとう自分から言ってしまった!”という、達成感と後悔と羞恥の入り混じった感情を持て余し、桂は再び彼の首に“ぎゅう”としがみついた。
「いいの?」
「いいの」
「…………まだ、痛いかもしれないよ?」
「本当の体じゃないから、痛くない……かもしれない……だろ? …………ぅんっ……ぃひんっ……」
 健司の両手が不意に背中の、脊髄の線をなぞるようにして尻まで下りた。
 たったそれだけで。
 彼の指が背骨の凹凸をなぞっただけで、桂は全身をひくつかせて啼いた。
 子供の頭ほどもあるメロンおっぱいを無意識に“くにゅり”と彼の胸板に擦りつけ、ひしゃげさせながら、腰が自然と“くねっ”とうねる。
「……ぁはあぁ……」
 お尻を包むように彼の両手が包み、ちょっと乱暴に“ぐにぐに”と捏ねる。
 その手付きは、ほんとうにいやらしかった。
「けんっ……け……あ、けっ……なんで……そんなっ……」
「なんとなく、けーちゃんがこうして欲しい気がしたから」
 尻肉のうねりに呼応するように、肉の亀裂が捩れて陰唇やクリトリスに刺激を与えている。
 とろとろにとろけた膣肉は、もう“潤んでいる”というような状態ではなく、既にたっぷりと『蜜』を満たして、それが今にも垂れ落ちそうなほどだった。

つぷっ……

「ひんっ……」
 彼の右手の中指が、後から尻肉を分け入って閉じた陰唇の中へと潜り込んで来た。
「あっ……あっ……あっ……あっ……」
 “くにくに”とデリケートな陰唇を撫で、その奥の開きかけた膣口を突付き、浅い刺激を繰り返す。
 そのたびに敏感粘膜は、ダイレクトに桂の体の中心を揺らし、濡らすのだ。
「あっ……もっ……あぁっ……あ〜〜〜……」
 じれったくて、苦しくて、体が熱い。
 もっと奥までその太くて優しくていぢわるな指を進めて欲しかった。
「け……けんっ……けんじっ……あっ!! ……あっ!!」
 ぬるぬるとした膣口は、彼の指で“ちゅぷちゅぷ”“くちくち”と粘液質な音を立てている。
 恥ずかしい。
 でも、
『きもち……』
「いいのぉ……」
 声が、漏れた。
「けんじっ……けんじっ……あっ…………んぅ……す……すぅ」
「けーちゃん……濡れてきた?」
「…………ッ……ばっ……ばかっ!! ……」
 唇を割って、ようやく紡がれようとしていた心の声を、桂は咄嗟に飲み込んでしまった。
「そんなこと……言うなぁ……ばか……ばか…………嫌いになる……ぞ……」
 そして、言いたかった言葉、言えなかった言葉と逆の言葉を吐いてしまう。

 『好き』って、言いたかった。

 『愛してる』って、言いたかった。

 自分はまだ一度も、この優しくていぢわるなオトコに言ってないのだから。
 なのに。
 よりにもよってこんな時にあんな無神経な言葉を口にするなんて!!
「でも、音……すごよ?」
「ああっ!!」
 彼の指が、両手の指が、たぶん、中指と人差し指が、やわらかい尻肉を掻き分けて後から“ぐちゅぐちゅ”と性器を弄り回していた。
 彼の言う通りだ。
『すごい……やらしい……おと……』
 そんな音を自分のあそこが立てている事が信じられなかった。
 そして、それがたまらなく嬉しいとさえ感じてしまうことも。
「ふあっ……」
 腕から力が抜ける。
 “するっ”と健司の首から手が取れ、桂は“ふらっ”と後に倒れ掛かってしまう。
 そんな桂を左手で支えて、彼は再び少女のふっくらとした瑞々しい唇に口付けた。
「んっ……ぅ……」
 “ちゅ……ちゅ……ちゅ……”と、小鳥が啄ばむようなキスが続き、もっとちゃんと口付けて欲しくてむずがるように桂が唇を突き出すと、今度は口付けを頬に、耳たぶに、首筋に……と下ろしていってしまった。
 少女が落胆に小さく息を吐(つ)くと、健司は少女を見上げ、右手を“するり”と股間に滑り込ませた。
「あっ!!」
 完全に不意打ちだった。
 彼の指の腹が、すっかり洪水となった亀裂の中へと沈み込み“にゅるん”と何度も擦り上げる。
「ひあっ!」
 腰が、ずり上がる。
 そして桂は、涙で潤む瞳で、健司が自分の左乳房を『食べよう』としているのを見た。
「んぁああああ〜〜〜……」
 乳と、あそこを、一度に嬲られる……!!
 野卑なまでに“べろべろ”と乳を嘗められ、乳首を吸われ、舌でこねくり回される。
 健司の唾液でおっぱいがてらてらと濡れ光り、その匂いが桂の体を更に熱くした。
 彼の舌がおっぱいを弄ぶたびに、重量感たっぷりな乳肉が“たぷたぷ”と揺れ動き、にもかかわらず彼の舌と唇は正確に桂の乳首を捉えていた。 おっぱいを食べられながら、桂は健司に支えられ、“くたり”と体から力を抜いている。力強い彼の左腕は、そんな桂をしっかりと支えているのだ。
「あぁ〜〜〜…………ぁ〜〜〜……」
 目を瞑り、いやいやと駄々っ子のように首を振る。
 涙がぽろぽろとこぼれてふっくらとしたほっぺたの上を何度も滑り落ちていった。
 激しい快感で、全身がとろけてしまいそうだ。
 全ての細胞が悦びに震えているのがわかった。
 本当の体ではないはずなのに……!
「あ……」
 いつしか桂は横たえられ、仰臥し、添い寝するように同じく横たわった彼のそばで、天に向かって大きく立てた両脚を開いていた。
 ベッドの上ではない。
 すがるシーツも、枕も無かった。
 所在無げな両手は、ただ体の横で“だらり”と伸ばされ、彼が股間を、乳を、首筋を、腹を、太腿を、好きに嬲るに任せてしまっている。
 自分は今、どんな顔をしているのか。
 どんな格好をしているのか。
 どこにいるのか。
 全てが曖昧になりつつある。
 ただ、今この快感をいつまでも味わっていたい……。
「きゃうっ」
 不意に“にゅるっ”と、いとも簡単に彼の指が体内に入ってきた。
 肉唇を分け、括約筋のゲートを潜り、膣口の奥深くまで彼の指が侵入してくる。
 “ぢゅぷぢゅぷ”とした激しい水音は、桂の体が彼の指を迎い入れて悦びに震えている証拠だった。
「ひあっ……ぅんっ……ぅんっ……あっぅんっ……」
 襞が描く複雑な内壁を、彼のいぢわるな指が擦り上げる。
 一番感じる入り口の柔肉を、彼は最も丁寧な仕草でくすぐった。
「ひんっ……」
 腰が、持ち上がる。
 ブリッジのように。
 ぶるぶるっと全身に震えが走り、もったりと鏡餅のように重たげに広がった乳肉が“たゆんっ”と揺れた。
「けーちゃん……2本入ったよ?」
「そんな……」
「ほら……見える?」
 左手で、やや強引に頭を起こされる。
 大きく盛り上がりふるふると揺れるたっぷりとしたおっぱいの向こうに、恥知らずなほど大きく開いた両脚が見えた。
 その狭間で、健司の右手が蠢いている。
 2本の指が“ぬるぬる”とした粘液で濡れ光りながら抜き出され、そして再びことさらにゆっくりと沈み込んでゆく……。
「ふあっ……ふああぁあぁ……」
 “ぷぷっ……ぷぷぷぷ……”と体内に彼の指が入ってくる音が聞こえる。
 お尻に力を入れると、桂のあそこは健司の指を健気に“きゅっきゅっきゅっ”と締め付けた。
「やだっ……やだぁ……」
 自分のあまりの破廉恥さに、桂は顔を両手で覆っていやいやと首を振った。
 その仕草はすっかり、可愛らしい、生まれついての女の子のそれだった。
「あっ……あっ……あっ……あっ……」
 密やかに、甘く、消え入りそうな声で艶声を紡ぐその唇は、キスして欲しそうに薄く開いたままだ。
 彼の指から逃れたいのか、それとももっとして欲しいのか、桂は釣り上げられた若鮎のように腰をくねらせる。
 たった数週間前。
 たった一月半前。
 自分は正真正銘の男だったのだ。
 社会的にも肉体的にも精神的にも。
 それが今は幼馴染の少年を「愛しい男」と認識し、彼の子を身篭り、そして精神世界で全てを与え、捧げ、委ねて、体中を愛撫されてたとえようも無いほどの幸福感に涙を零している。
 もちろん、それは明確な意識ではなかった。
 心に浮かんだ泡沫(うたかた)のような想い。
 それが不幸だとはこれっぽっちも思わなかった。
 ただ、心から愛する人を手に入れたこと、心から愛する人のモノになった、極上の至福だけが満ちていた。
 自分の愛した男が、自分を護るためだけに生まれ、そして自分のフェロモンによって自由意志とは関係無く自分を「愛するように導かれた」という現実は、胸の奥に澱のように沈んでいる。
 忘れたわけではない。
 けれど、今は意識に上ることも無かった。
 彼を愛している。
 彼に愛されたい。
 その想いだけが。
 強く、強く、在った。
「健司……けんじぃ……」
「どうしたの?」
「……すき? ……ワタシのこと……すきぃ?」
 甘ったれた、幼児のような口調だった。
 角砂糖に蜂蜜をかけて、その上でチョコレートコーティングしたような甘ったるい声音だった。
 桂は、自分がこんな声を出せた事に自分自身で驚いていたけれど、それがたまらなく気持ち良いことにも気付いていた。

 甘えたい。

 甘えたい。

 甘えたい。

 甘やかして?
 心も体もとろとろにして?

 少女は隣に横たわる幼馴染の、逞しい首筋や顎を犬のようにぺろぺろと嘗め、いとおしくてたまらないといった風に“ちゅっちゅっちゅっ”とキスをした。
「知ってるでしょ?」
「言って。ちゃんと言って」
「好きだよ? ずっと言ってるじゃない」
「もっと言って。ずっと言って」
「好きだよ。好きだよけーちゃん。好きだ」
「ああぁ〜〜〜……」
 “くりくり”と彼の親指が包皮の上から敏感なクリトリスを捏ね、胎内に入った2本の指が“ぐにぐに”と動く。
 自然と腰がうねり、自分から甘く張り詰めたおっぱいを彼の胸板に擦り付けた。
「……きもちいい……きもちいいよぉ…………けんじぃ……」
 胸がいっぱいになって、何も言えなくて、でもちゃんと伝えないといけないと思って、
 桂は涙をぽろぽろとこぼしながら彼の鎖骨や、喉仏や、硬く張った肩を“はむはむ”と甘噛みする。
 あの太くて節立った指を2本も入れられているのにこんなにも気持ちいいのは、やはりここが現実では無いからだと、そう思う。
 また同時に、それで良かったとも思う。
 まだ慣れていない挿入に対して、恐怖を抱かないで済むから。
 いや、それどころか。
 指でこんなにも気持ち良いのだから、健司の“おちんちん”を入れられたら、どんなに気持ちいいだろう? とさえ思ってしまうのだ。
 あの、お腹の中が彼でいっぱいに満ちる充実感。
 愛する男を体深くに迎い入れた事による満足感。
 子宮を満たす精液が、膣壁を走る射精の幸福感。
 体の中でびくびくと震え、次第にしんなりとしてゆくモノを感じる時、なにかわからない達成感のようなものも感じた。
 男の身では到底感じる事の出来ない、女だけに許された感覚だと、そう思った。
 あれをもう一度感じたかった。
 この精神世界で「射精」があるのかどうかわからなかったけれど。
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