■感想など■

2009年09月28日

「隙間から」〜ゆめうつつであそぶ〜

■■【4】■■
 目覚めた時、最初に目に入ったのは見た事も無い天井だった。
 薄汚れた天板に、長い蛍光灯が2本。
 一本は暗く、一本は浩々と光っている。
「大丈夫ですか?」
 瞬きを何度かしていると、やがて視界に、紺色の制服を着た初老の男性が顔を覗かせた。
「……こ…こは…?」
「駅の救護室ですよ。あなた、車内で急に倒れたそうで…」
「…倒れた…」
「運び込まれた時、あなた、まだ意識があったんですが…自分でベッドに上がったんですよ?覚えてませんか?」
「……何時ですか?」
 右手の甲で目元を覆って蛍光灯の光を遮りながら、美樹は駅員の質問には答えず溜息を吐いた。
「もうすぐ11時20分になりますよ」
 ――なんてことだ。
 約束の時間を2時間近くも遅れている。
 空港への、待ち合わせていた時刻のシャトルバスが出てしまっているどころか、搭乗する飛行機にすら遅れてしまった。
 おそらく何回も着信があったであろうケータイを手にしようとして、バッグがベッド横にある机の上に置かれていることに気付き、美樹は重い体を起こした。
「まだ、寝ているといいですよ。何か飲みますか?お茶は?」
 ベッドから降りようとしてふらついた美樹を、駅員は優しく支えて柔和な顔に刻まれた皺を深くした。
 そんな彼に、彼女は首を振り、ベッドに腰掛けて促されるまま再び仰向けに横になる。
 体にかけられた毛布と薄い布団の中で、美樹は腰を男性から避けるようにして捻り、そろそろとスカートをたくし上げて左手の中指を股間に当てた。
 ストッキングが少し湿っているように感じるものの、垂れ落ちるほどの愛液でぐっしょりと濡れていたのが嘘のようだった。
『…夢…?…』
 全部、夢だったのだろうか?
 うとうととした夢現の中で夢想したことが原因で、空想と現実を混同してしまったのだろうか…?
 彼女は、深く溜息を吐いた。
 だがすぐに彼女は、それが安堵の溜息では無い事に気付いた。
『あたし……ガッカリしてる…』
 体が、軽い。
 今まで澱のように溜まっていたどろどろしたものが、すっきりと洗い流されてしまったようだ。
 抑圧されていたものが、綺麗サッパリと無くなったように感じる。
 もしそれが、“アレ”のお陰だとしたら…。
『……!…』
 美樹は不意に起き上がると、両手で下腹を押さえて“こくっ”と唾を呑み込んだ。

 ――「いる」。

「ふふふっ…」
「…どうしました?」
 美樹が目覚めたことを同僚に報告しようと救護室のドアを開けた駅員は、彼女の声に振り返り…
「…なんでもありません。…なんでも…」
 ベッドの上でとろけるような甘い微笑みを浮かべた彼女を見て、年甲斐も無く胸が高鳴るのを感じていた。

         −おわり−
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