■感想など■

2009年09月29日

[異種姦-触手] 「私がここにいる理由」

■■【プロローグ】■■

 爆炎。

 “ごどんっ”と、一抱えほどもある大岩が地に落ちたとしても立てぬだろう硬質な音を響かせ、圧倒的な熱量と共に紅蓮(ぐれん)が押し寄せる。睡蓮(すいれん)の群生に身を隠すようにしていた巨大な黒岩が、脅(おび)えたように水面に身を沈めると、高らかな嘲笑(ちょうしょう)をもって打ち出された不可視の力が水を文字通り“割った”。
 すっぱりと庖丁(ほうちょう)を立て切ったかのような水断面が“ざあああっ”と音を立てて左右に割れ引き、のそのそと蠢(うごめ)く牛ほどもある黒岩を、ようやく晴れかけた雲間の陽光に晒(さら)し出す。
 なぜ、岩が蠢くのか。
「ふはははははっ!」
 侮蔑(ぶべつ)にまみれた嘲笑は、捲(まく)れあがった赤い唇の間から、鋭く尖った肉切り歯を覗かせる一人の少女から発せられたものだ。ひらめく裾(すそ)は長衣(ながころも)のものであり、水面より子供の丈ほどの高さで風も無いのに舞い踊っている。“それ”が、水を割った不可視の力の余波によってのものだ…と知るのは、宙に足場も無く立つ少女以外には、たった一人しかいなかった。
 その一人は男であり、歳も30に届くかと思われる黒髪の旅人。旅人と呼称するのは、その者の装束(しょうぞく)に、この地方の村村では決して無いであろう豪奢(ごうしゃ)な刺繍(ししゅう)が縫い込められていたためである。その刺繍は一見ただの糸で在るように見えるものの、表面をチリチリと走る細かな紫電(しでん)に応える如くぼんやりと薄赤い輝きを見せれば、誰の目にもそれがただの刺繍ではないと理解(わか)るものだ。
「よおし!今だ!」
 少女はその声の主に視線をくれることも無く、ただ眼前の黒岩を見やる。
 少女とは言っても人の子の歳で言えば17・8の年頃の娘。既に「女」と呼称して良い歳に見える。不可視の力にたなびく髪は腰まで美しく流れ、色は藍と銀を熔かし込んだかのような光を弾く鮮やかな色彩。肌の色はどこまでも白くなめらかで、黒の長衣との対比が素晴らしい。また、体躯は成熟した人の娘のそれであり、豊かに張り出した乳房は今にも長衣を内側から破いて飛び出してしまいそうなほどだ。
 その少女の藍銀の髪が風に煽(あお)られ、可愛らしい耳が日の光を浴びた。
 その耳は人の子のものではなく、先端が尖った魔性の印。見れば、その耳のすぐ上よりねじくれた大鹿のような硬角が覗いている。
 少女はその可愛らしい唇をうっすらと開き、“すうう”と息を深く吸い込むと、大音声(だいおんじょう)で叫んだ。
「我の目を誤魔化せると思ったか!甘いわっ!我、青海南方!海神(わだつみ)三神の一柱、雷鳴と針雨の剛王!天界ニ印大ル・パルトの一子!カルパダル=ド=ダルー…」
「なげーっつーの!はよやれっ!!」
 “すかぽーーーんっ!”と少女の頭に何がぶち当たり、跳ねてすぐさま湖面に落ちた。
 ぷかりと水面に浮いたのは、泥のついたクツが片方。
 見れば、先ほどの男の右足が裸足だった。
「……今、いいところなのにぃ〜…」
 少女はせっかくの見せ場をいきなり断ち切られ、ぶちぶちと呟きながら軽く頭を振った。藍銀の美しい絹髪についた泥が、たちまち乾燥し、風に吹き拭われ、跡形も無く消える。
「はよやれ。逃げられたら何のためにこんな時間まで待ってたかわかんねーだろーが」
「はぁい…」
 しょんぼりと肩を落とし、恨みがましい目で男を見やった少女が視線を戻せば、黒岩がのそのそと湖のより深い処へと移動してゆくところだった。
 見れば、四肢が在る。尾が在る。ギョロリと怨嗟(えんさ)に濁(にご)る赤い目を光らせた、巨大な顎(あぎと)の頭が在った。
 黒岩は、歳経た大亀であった。
 ゴツゴツとした甲羅には苔が生え水草が絡み、その水草に埋もれるように、所々に黄色く変色した、もとは白かったのであろうものが見えた。
 それは骨であり骸(むくろ)。この妖亀に生きたまま湖に引き擦り込まれ、食われた人々の亡骸(なきがら)だった。
 少女はそれをつまらなそうに見て、“ふう”と溜息を吐(つ)き、たった一言、
「落ちろ」
 と言った。
 その途端、雲が割れ青空が広がりつつある天空より、一条の光が気を裂き空を震わせ、妖亀の上に轟(とどろ)き落ちた。
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