■感想など■

2009年10月15日

[異種姦-触手] 「再会」〜にくらしいあなたへ〜

■■【3】■■
 ――――彼女は私を憎んでいる。

 それを、この一年間というもの、シグフィスは毎日のように感じていた。
 そしてその理由を、シグフィスはわかり過ぎるくらい良く理解している。

 シグフィスの種族『セグネット』は、人間の体(胎)内で産まれ、人間の体(胎)内で育つ。
 雌体が産んだ卵を雄体が体内の受精嚢で受精し、人間の女性の胎内(子宮)に生み付けて着床させるのだ。
 そして、着床した卵膜内である程度成長した「幼体」は、体長が30センチ程になると子宮内で孵化し、卵が着床した事で形成された「擬似胎盤」を“食べ”て、膣道を通り外界へと出る。
 「擬似胎盤」には外界で生きるために必要な免疫抗体や、人工的に合成出来ない必須栄養素がたっぷり含まれていて、だからこそ人工子宮などではなく、今に至っても人間の子宮を使っているのだ。
 また、“仮母”の擬似胎盤を最初の「食事」とするのは、祖先が哺乳類型生物の体内に卵を産み付け、内部から“食って”育った名残りだとも言われているが、『セグネット』自体は特に肉食というわけではない。
 「出産」により外界に触れた後は、『調整』により分泌を促された“仮母”の母乳(血液から体内精製される、本来であれば人間の胎児の栄養液となるべき白濁した液体)と、卵の母である『セグネット』の雌体が角状管から分泌した栄養液の『混合蜜』によって育てられる。
 だから、ティファニアの母、セランの子宮を使って産まれたシグフィスは、セランの乳と『セグネット』の母の蜜によって育った、ティファニアの「乳姉弟」ということになるのだ。

 ならば、なぜそんな「乳姉弟」をティファニアが「憎む」のか。

 ――それは、“仮母”の腹から出て来る際に、「幼体」は往々にして母体の子宮も膣もズタズタに傷付け、その結果、ほとんどの“仮母”は二度と自分の腹で子供が産めなくなるためであり、そしてそれはセランも例外ではなったからだ。
 そして、これはティファニアの「血統書」を取り寄せ、その出自を調べた際に知った事ではあったが、その時の傷が元で乳母のセランはこの城を出た1年後に亡くなったと聞いた。
 ならば、ティファニアが自分を憎むのは当然だ。
 そう、シグフィスは思う。
 自分がセランを「殺した」も同然だからだ。

 けれど、だからといって彼女が自分には大切な義姉であり幼馴染だという事には変わりないのである。
 “仮母”として取り寄せた人間の女性を、“仮母”として使うこともせずに一番身近に置き、身の回りの世話をさせている「変わり者の領主」。
 たとえそう呼ばれ、他の『セグネット』から陰口を叩かれようとも、シグフィスはティファニアを、まるで受光器官を触るように手厚くしていた。最近では、「ちゃんと同族のフィアンセがいるにも関わらず、人間の女性体に“懸想”している」……という噂まで立つ始末だった。

 昆虫型生命体が、哺乳類型生命体に「懸想」する……。

 恋い慕う……。

【いや、違う……私は義姉さんに恋など……】
 サレディアナの相手に疲れ、ベッドとなる止まり木にうつ伏せに掴まって、シグフィスは頭の逞しい触覚をゆらゆらと揺らした。
 時刻は夜の8時を過ぎたところだった。
 いつもならまだ執務室で、上告された領地の問題を評議会に提出する前の文書へとまとめている頃だ。
 たが、今日はもうそんな気力も無い。
 先ほどのサレディアナの「言葉」が、耳に残っているのだ。

【シグフィス様は、その地球人の「節無し」に恋していらっしゃるのね】

 「節無し」とは、『セグネット』が地球人類を揶揄して使う時の侮蔑用語だった。
 そんな言葉を「淑女」な婚約者が使う事にも驚いたが、それよりも、そう面と向かって言われた言葉を、自分が決して不快に思わなかった事に驚いたのだった。

【恋していらっしゃるのね】

 ――『セグネット』が地球人類に恋をする。

 それは、地球人類がペットの犬や猫を異性として恋い慕うより、もっと遠い感情だろう。
【そんな……ばかな……】
 だから、彼の理性は否定をしてみせる。
 けれど……。

 本当にそうか?
 本当にオマエは、あの義姉に恋していないと言い切れるのか?

 そう、心の奥底に押し込めた感情の囁く声が聞こえる。
 同じ知的生命体であれば、種族は違えども理解しあう事は出来る。
 今はまだ確立されていない「ゲノム転写」が可能となれば、それぞれの資質からデザインされた双方の「子供」を作ることだって……。
【こども……???子供だって……!?】
 シグフィスは自分の思考の飛躍に、思わず全身の気門を開いて気管の空気を全て吐き出した。


 昆虫型知的生命体『セグネット』を、地球上に生息する下等生物の「虫」に例えたなら、どれに当てはまるだろう?
 そう考えた時、やはり脳裏に浮かぶのは、その生態や肉体組成などは全く違うものの、外観的には多くの類似点が見受けられる「カミキリムシ」だろうか?もちろん、『セグネット』は直立して歩き、昆虫のように地面を這ったりはしない。ローブ状の衣服も身に着けているし、高度な知性を身に付け、言葉も話す、立派な銀河広域文化圏に加盟する惑星国家の民だ。
 だが、彼等は地球人類とは明らかに違う『種』であり、美的感覚も180度違う。
 『セグネット』が「美しい」と思うのは、頭部から張り出した多目的感覚器官の太さや長さであり、頭部後方や腹部などにある多数の小さな複眼の位置バランスであり、または硬質なキチン質の体表に浮かび上がる虹色の紋様であり、3対ある肢(人間で言うところの「手」と「足」の他に、腹部には「副肢」と呼ばれるもう一対の肢がある)の形であったりするのだが、地球人にはそれは到底理解されないだろうということも、シグフィスは理解している。
 その証拠に、シグフィスも地球人の「美しい」と思う外見は理解出来ない。

 ―――だのに、どうしてシグフィスはティファニアをこうも気にかけるのか。

 『城』には、他にも地球人類の召し使いが、何人も住んでいる。だが、シグフィスがそばに置くのはティファニアだけだった。ティファニア以外は、全て同じに見え、全く興味が無い。「どうして気にするのか」という問いには「ティファニアだから」としか言いようが無かった。
 それでも問われたら「わからない」と答えるしかない。
 彼女の、頼りなくやわらかそうで、触れるだけで破れてしまいそうになる白い皮膚も好きだと思えた。
 太陽に透かした蜂蜜色の頭髪も、突出して前方に大きく張り出した、実に重たそうな乳房も好きだったし、『セグネット』とは元から発声方法の違う声も、決して嫌いではなかった。
 シグフィスが纏うマント状の衣服の下に隠された外羽は、深みのある青味がかった黒だが、その色とそっくりな濃い黒檀色の制服を身に着けたティファニアは、人間がサラブレットの競走馬を見る時と同じくらいの「美しい」という感覚を彼に抱かせた。

 そう。

 彼女は「美しい」。

 『セグネット』とは同列に扱えはしないが、それでも人間という種の中では、抜きん出て「美しい」のだ。
 だから……だろうか?
 「美しいもの」を見ると気持ちが高揚するのは、人間と『セグネット』とであっても変わらないはずだ。
 そして、その「美しいもの」を手に入れたい……自分のものにしたいと願うのも。
 シグフィスは思う。
 だとすれば、これは決して「恋」などではない。

 これはただの「独占欲」だ。

 そう。
 自分は、ただティファニアの全てを自分のモノにしたいという、ただそれだけの話なのだ。
 シグフィスはそう結論付けると、思考を断ち切って休眠モードへと主脳を切り替えた。
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