■感想など■

2009年10月17日

[異種姦-触手] 「再会」〜にくらしいあなたへ〜

■■【5】■■
 夜の執務室は、月明かりで十分に明るい。
 けれど、彼は最小に絞ったライトを2つほど点ける事にする。
 “キチキチキチキチ”と顎を打ち合わせると、音声認識によってその長さと音域の高低を判別したライトが1つ……2つ……と点いてゆく。
 そうしてからシグフィスはデスクの前に立ち、
【かけてくれ】
 側にある人間用のソファを指し示すが、これまで無言で彼の後を付いて来たティファニアは、先ほどから扉の前に直立したまま身動き一つしなかった。
 その顔が赤く紅潮しているように見えるのは、果たして彼が覗いていた事に対する怒りか、それとも羞恥か。
「……何かおっしゃりたいのでは?」
 弱り切って、自分からデスクの椅子に座り窓から外を見やったシグフィスは、彼女の言葉に頭の触覚を揺らめかせた。
 こうしていても、後頭部にある複眼で彼女の姿は目に入っている。美しい義姉の顔は無表情に見えるが、その実、親に構ってもらえなくて寂しい子供のような目をしていた。
【……あの男は】
「もう終わったことです。シグフィス様には関係ありません」
 取り付く島も無いというのはこういうことを言うのだろう。「聞きたいことがあるのでしょう?」と問うておきながら、問えばこの答え。まるで彼を拒否することが目的のような仕打ちではないか。
【………………】
 彼の心情を反映して、頭の触覚が力無く垂れる。
【……義姉(ねえ)さん……】
「シグフィス様」
 彼女の顔が、彼の口にした言葉によって、“さっ”と咎めるものへと変わった。
 「私を義姉と呼ばないで」と言っているのだ。
 それを理解出来ないシグフィスではない。
【もう、そういうのはやめにしないか?義姉さん】
 それでも彼は、ティファニアを「義姉」と呼ぶことは止めなかった。
「そういうこと……とは、どんなことでしょう?」
【……そういう態度のことだよ】
「何のことか、わかりかねます」
【……ファニー義姉さん……】
 感情を押し殺した義姉の言葉に、椅子から身を乗り出し、シグフィスは正面から彼女を見た。
「……シグフィス様。御言葉ですが、フォルモファラス家の御当主様に、義姉など」
【いる!そして、義姉さんは義姉さんだ!後にも先にも、私には義姉は貴女しかいない!】
 理性的な『セグネット』には珍しく、強い口調でそう言うと、シグフィスはイライラとした様子で椅子に座り直した。

 ――なぜだろう。

 彼は自分でもわからなかった。
 彼女の、他人行儀な言葉遣いが、どうしようもなく腹立たしい。
 なぜ昔のように……。
「……忘れていらっしゃったくせに」
【え?】
 不意に聞こえた声に、シグフィスは顔を上げた。
「私(わたくし)のこと……忘れていらっしゃったくせに」
 ツカツカとこちらに歩み寄り、じっとこちらを見詰める義姉の顔が、彼は急に恐くなった。
 思わず、無意識に顎を打ち鳴らし「警戒音」を出してしまう。だが義姉はそんなことはお構いなしに、たっぷりと重く実った乳房を揺らしながら“ズイッ”とデスクに身を寄せる。
【忘れてなんか……】
「一年前、私の名前を御聞きになったのは、すっかりキッパリしっかり綺麗に忘れていらしゃったからではないのですか?」
 眉根を寄せてデスクに両手を付き、“ずいっ”と身を乗り出したティファの巨大な胸が、ものすごい圧迫感で迫る。
 彼は無意識に身を逸らし、おろおろとしたまま急に態度の変わった義姉を見上げた。
【いや、その、忘れてたわけじゃないんだ。ただ、『セグネット』と違って人間は見分けがつきにくくて……】
「ほら。忘れていらっしゃったんだわ。覚えていらしたのなら、顔の特徴ぐらいすぐに見分けつくはずですもの」
【……ムチャ言わないでよ】
 肉体の構造そのものが異なる種族が、その同族内から特定の個体を正確に判別するのは非常に困難だ。しかも、幼体から2齢脱皮して以後は、基本的に変化の無い成体へと肉体形成する『セグネット』とは違い、年月は容易に人間の外観を変えてしまうのだ。
 実際、シグフィスだとて一度も義姉を探さなかったわけではないのだ。『ティファニア』という名前が領地内に登録された使役用人類には該当者がいないと知ってから、シグフィスは記憶に残る幼い頃の外観から探させていたのである。
 もっとも……だがやはりそれにも限界があり、いつしか彼は義姉と再会することを諦めていた部分があった事は否定出来なかった。
「……私は……忘れたことなどありませんでしたわ。……ずっと……覚えていました」
【……じゃあ……なぜあの時……一年前にそう言わなかった?】
「覚えていてくださると、信じていましたから」
【義姉さんは……『セグネット』を過大評価してるよ。人間は変わるんだ。私も、義姉さんがこんなに綺麗になってるなんて思いもしなかったし】
 実感として『綺麗』かどうかはともかくとして、ティファニアは人類の美観においてはとんでもない美女である事に変わりは無い。だから、この場ではこう言っておくのが無難だろうと思いながらシグフィスは言った……のだが……。
「そんなこと、これっぽっちも御思いになっていないくせに」
 “ぴしゃり”と切られて、頭の触覚が再び“へにょ”と下がった。
 それを見てティファニアが初めてその涼やかな口元に笑みを浮かべる。

 ――そして。

「どうして、私を“仮母”に選びながら、『床見の儀』をなさりませんの?」
 おそらく彼女が最も聞きたいと思っていた疑問を、直球で放ってきた。
【それは……】
 言葉を濁すシグフィスを、彼女は今にも泣き出しそうな目で見詰めた。
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