■感想など■

2009年10月18日

[異種姦-触手] 「再会」〜にくらしいあなたへ〜

■■【6】■■
 “仮母”に選ばれた時、嬉しくて泣き出しそうだったと、驚くシグフィスに構わず彼女は言った。
 けれど、彼がいつまで経っても自分を“仮母”として使おうとはせず、ただ大切に、まるで腫れ物を触るみたいに扱うようになり、ひどく落胆したとも。
【義姉さんは……私を憎んでいるじゃないのか?】
「……どうして?」
【どうしてって……それは……】
 『私がセランを殺したから』だとは、どうしても言えなかった。
「一つ、教えて差し上げますわ」
 そう言って、彼女がこの『城』にやってきてから“仮母”として使いもせず、かといって他にやるでもなく一番身近に置き、ただ一人で身の回りの世話をさせている変わり者の領主に向かって、優しく微笑んでみせた。

 彼女は最初、義弟が自分の事をすっかり忘れていることに腹を立てた。
 それでも“仮母”にさえ選ばれれば、きっと何らかの動きがあるに違いないと思い、ずっと耐えた。
 自暴自棄になり、強引な男の口車に乗って処女を散らしたのはその頃だった。ずっと前から捨てたいと思っていたからちょうど良かったけれど、それからしばらくは、自分の体を求める男のしつこさにうんざりしたという。
【なぜ……そんなことを……】
「ヴァージンを捨てたこと……ですか?」
 ティファニアは、まるで明日の天気を口にするように軽く告げると、やわらかく微笑んだ。
【いや、まあ……】
「いつか御学友と話してらしたでしょう?交尾を経験していない地球人の雌の血は臭いって。処女性器の臭いには臭気細胞が壊死するって」
【あーあれはー……】
 成人して審議会から交尾を許され、“仮母”相手に『床見の儀』を行うという事が現実味を帯びてくる年齢になると、自然と話題はそのことでもちきりになる。どんな年齢の女性体がいいか、交尾を経験している方がいいのか、していない方がいいのか、太っていた方がいいか痩せていた方がいいか……下世話な話は、人間のティーンエイジャーとなんら変わりは無かった。
「処女であるか、そうでないか。私にとっては“そんなもの”に意味などありませんわ。貴方が嫌がるものならなおさら」
【私は……嫌がってたわけでは……】
「ですから……“捨てた”の。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
 これ以上そのことについて話すことは無い……と、彼女の笑みが語っていたから、シグフィスは開きかけた口を閉じた。
 あくまで、あの男と交尾……寝たのは、「処女(いらないもの)を捨てるためだけ」というスタンスなのだろう。
 では、あの男は「ゴミ箱」代わりにされたということか。
 本人が知ったら、さぞがっかりするに違いない。
【でも、学院(アカデミー)時代の私は、君は知らないだろう?】
「……やはり気付いていませんでしたのね」
【?】
「学院(アカデミー)には、私も通わせて頂いていましたのよ?確かに別のセクタでしたし、階層も違いましたけれど……」
【義姉さんが私と同じ頃に学院(アカデミー)へ……?】
「十数年ぶりに見た貴方は、もうすっかり大人になってましたわね。すごく凛々しくおなりでしたわ」
【そ、それはいつ……】
「その話は、また後で……」

 そうするうちに果たして事態は動き、けれどそれは彼女には予想外なことに、彼は“仮母”として取り寄せたはずの人間の女性を、“仮母”として使うこともせずに一番身近に置き、まるで客人のように大切に遇したのだった。
 シグフィスが、自分を「義姉」だと気付いたのは、彼の発した「ファニー」という言葉で明白だった。
 「ティファニア」と「ファニー」と呼ぶのは、まだ小さかった頃のシグフィスの癖みたいなものだったからだ。
 ところが彼は「なぜ自分が“仮母”候補に望んで立ち、この『城』に再びやってきたのか」を考えもせず、“特別な召使い”として身の回りの世話をさせ始めたのだった。
 彼女は焦った。
 このままでは、悪い噂が立ってしまう。
 案の定、「“仮母”として取り寄せたにも関わらず身の回りの世話をさせている変わり者の領主」という噂が立ち、その上、「ちゃんと同族のフィアンセがいるにも関わらず、人間の女性体に“懸想”している」という噂まで立った。
 自分がなんと言われようと構わなかった。
 だが、義弟が悪く言われるのは我慢出来なかった。
 かといって、出て行くことも出来ないのだ。
 なぜなら、“仮母”になることは死んだ母に、そして惨めだったかつての自分に誓ったことだったから。

 だから、彼に冷たくした。

 早く自分を見限って、早く“仮母”にして欲しくて。
【気付かなかった】
「本当に鈍感ですよね」
【そうならそうと言えば……】
「言えば、“仮母”にして下さいました?」
【…………】
「ほら」
 押し黙るシグフィスに、彼女は“くくくっ”と可愛らしく笑った。
「私は“仮母”になるのなら、絶対に貴方の子供のだろうと思ってました。そのために健康に気を付け、ふさわしい教養と礼儀作法を身に付けましたのに」
【……乳姉弟だった人を“仮母”には出来ないよ。そんな危険な事はさせられない】
 セレンはそのために死んだ。
 ティファニアも同じように死ぬようなことがあれば、今度こそシグフィスは自分を許せないだろう。
「―貴方は……本当に優しいんですね。……でもその優しさが、時に人をどうしようもなく傷付ける事もあるのだと、貴方はもっと早く気付くべきだわ」
【痛いんだぞ?すごく】
「承知しています」
【『セグネット』の流儀は、決して優しくない】
「好きになさって構いませんのよ?」
【どうしてそこまで……】
「貴方の奥様の卵を私が孵すの。それはとても誇らしいことですのよ?」
【……それがどんなに危険な事かわかってるのか?もう二度と子供を産めなくなるかも……下手をすれば君も……】
「ええ。承知しています」
【まだわからないのか!?……私は……セレンのような思いを、君にさせたくはないんだ!】
「……やはり……それを気に病んでらしたのね」
 気付けば、ティファニアはデスクを回り椅子に座るシグフィスの前に跪いていた。
 両脚を床に付け、まるで祈りを捧げるよう両手を彼の後肢に乗せている。
【ファニー義姉さん……】
「もっと教えてあげる。……ううん。聞いてほしいの」
【……何を……?】
「シグ。貴方は、決して自分が産まれた事を気に病む必要はないの。いいえ。むしろ、誇って欲しいのよ」
 そう言って、彼女は語る。

 この一年、胸の奥に仕舞い込んで決して誰にも語ろうとしなかった物語を。
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