■感想など■

2009年10月24日

[TS]「閉じた世界で生きる意味」〜交配と繁殖〜

■■【2】■■
 女は、名を「神那岐優一(かんなぎゆういち)」と言う。

 名前からも窺い知る事が出来るが、社会的にも生物学的にも、れっきとした男だった人間である。
 ほんの、数日前――長い長い眠りから目覚めるその時までは。
 けれど今の彼は、特殊な趣味で無い限り男であれば大抵の者が「抱きたい」と渇望するような、豊満でありながらバランスの取れた妖艶な肉体を持つ「女」であった。
 ただ、同時に彼には、およそ『人権』というものが無かった。
 そもそも『人権』というものは、人類が文化的で平穏な社会生活を営む中で、初めて認められるものだ。
 そういう意味では、今の地球上に『人権』を認められる人類はただの一人も存在していないと言えた。

「お、お前は嫌…じゃ、ないっのか?我慢…出来るの、か?な、なんでこんな…状況で勃起出来るんだ?」
 優一は、自分の乳房を一心に嘗めしゃぶる男に、身体を震わせながらしゃくりあげるような口調で聞いた。
 男は何時間吸っていても飽きない豊乳の乳首から口を離し、唾液で濡れ光るそれをペロリと嘗めてから顔を上げる。
「いっぺんに聞くなよ。しかも昨日も聞いたろ?それ」
「こっ…答えろ…」
 自分の股間を“くちゃくちゃ”と嬲る男の左腕を掴み、優一は上擦った声で懸命に男へと問い掛けた。
「後にしろよユウ。気分が削がれるだろ?」
 優一は、“ここ”では「ユウ」と名乗り、そして他者からはそう呼ばれている。
 “彼女”が「男に抱かれ、受胎するためだけに存在する」この部屋の中では、二人ともそうする事が義務付けられていた。
「答えろよ!レッカ」
「わぁーった!わぁーったよ!!」
 降参したように、「レッカ」と呼ばれた男は両手を上げて身を起こす。
 彼の男根はこれ以上無いほどに勃起し、赤黒い先端は先走りの粘液でぬるぬるとしていた。
「昨日と同じ答えで期待外れかもしれんが…オレは別にイヤじゃねーよ。もうこの世界にゃ、純粋な女は数百人しか存在してねーんだ。我慢するもなにもねーよ」
 レッカの言葉に、ユウは気色ばった表情で身を起こした。重力に引かれて椰子の実ほどもあるたっぷりとした乳房が“ゆらり”と揺れ、肩までの艶やかな黒髪が“さらり”と流れる。紅潮した頬や首筋、胸元などが、例えようも無いほどに色っぽい。そして、彼の唾液がてらてらと光る首筋や乳房、そしてサーモンピンクの硬く勃起した乳首が、今が“男と女の”情事の最中だということを強烈に匂わせていた。
「そういう事じゃない!こんな…こんな虫篭か水槽みたいな部屋に入れられて、それで我慢出来るのか?って聞いてるんだ」
「別に」
 レッカは濡れた左指をわざとユウに見えるようにして“べろり”と嘗めた。
 指を濡らすべとべとしたその粘液は、“彼女”の性器から染み出した甘露だった。
「こうしている一部始終を“ヤツら”に見られて…観察されてるってのにか?」
 ユウは椰子の実さながらにずしりと重たく“ゆさゆさ”揺れる乳房を両腕で抱くようにし、そして汗とは明らかに違うぬめりを見せる股間の赤い亀裂を、腰を捩(よじ)って『周囲』から隠した。その視線は、装飾や調度品が何一つ無い、目が痛くなるほど真っ白な天井や壁を何度も何度も、探るように走る。
 彼女は今回のこの“役目”に入る前に、同じく何度目かの“役目”に就くのだという、非常に美しい北欧系の女性と話す機会を得た。
 その時、翻訳機を通してその女性に聞かされた言葉が、ユウの脳裏に浮かんでいた。
 それは“ヤツら”が、ただ単に人類を増やすためだけにこうした“役目”を自分達に課しているわけではないという、まだ想像の域を出ない噂話だった。
 そしてそのために、内側からはあらゆる電磁波が決して透過出来ない部屋が用意され、人間が行う生殖行為を何体もの“ヤツら”が記録しながらリアルタイムに「観察」するのだと。

 ――性行為を大勢の他者に観察されながら行う。

 たとえ、男から強制的に女へと変異させられた体であっても、快楽に溺れ身も世もなく喜びに咽び泣く姿を衆人環視(しゅじんかんし)の前に晒すというのは、耐え難い羞恥をユウに感じさせた。“ヤツら”が人類と意思疎通が可能な知的生物であるという以上、それが人類とは全く違う生態を持つというだけでは、簡単に羞恥が拭い去れるはずも無い。
「オレたちの生殖活動そのものが原種の『研究対象』として興味そそるってんだから仕方ないだろう?それにもう慣れたよ」
「慣れた!?」
 ベッドの上で股間を隠すこともなく胡坐をかいた男の、その天井に向けてそそり立った男根を、彼女は眉根を寄せて見た。
 元は同じ男である自分に対して、何の躊躇いも無く勃起してしまえる鈍感さが有る男だからこそ…いや、そういう鈍感さが性機能に直結していると“ヤツら”が判断したからこそ、この男はここにこうしているのだろう…と、妙に納得してしまった自分を発見してしまったのだ。
 それはつまり、「この男は自分を確実に妊娠させるだろう」という予感めいたものと確実に直結していた。
「ああ。別に“ヤツら”が、セックスしてるとこに姿見せてジロジロ見るわけじゃねぇ。こうして部屋の外から360度、あらゆる角度から観察されているとしても、それをオレたちに感づかれるのを“ヤツら”自身が注意してる以上、いないのも同じだろう」
「だ、だからって…」
「オレたちが魚やカエルの交尾見て興奮するか?魚やカエルが、オレたちが見てるからって恥ずかしがるか?“ヤツら”にとっちゃ、オレたちのセックスなんてのは生物学者が希少生物の交配を見てるのと同じなんだよ」
「…俺達は人間だ。知恵も知能もある。だから」
「“羞恥心が生まれる”…ってんだろ?昨日も聞いたぜ。それで?」
「え?」
「それで、どうする?どうしたいんだ?」
「ど…どうって…」
「もう一度昨日みてーに、いちいち噛んで含めるみたいに説明しねーとセックスしねーつもりか?」
「…お、俺は…」
「“薬”飲んでんだろ?だったらその時点で今の状況を受け入れてるってコトじゃねーか。だったら今更グダグダ言うなよ」
「あっ…」
 レッカはユウをベッドに押し倒し、再びそのむっちりとした太腿の間へと強引に手を差し入れた。
「こんだけぐちゃぐちゃに濡らしてて、それでよくそんなセリフが言えるもんだ」
「…あっ!やめっ……ぅあっ!ああっ!…」
 ずっしりと重みを感じさせる乳を捏ねられ、熱くとろけたあそこを指で掻き回されるだけで、“男の体では絶対に得る事は出来ないであろう感覚”に脳があっけないほど簡単に揺さぶられた。
 女性体へと変異させられた際、新たに創り出された器官が、“自分とは生物学的に違う個体を求めろ”という、意思とは全く関係の無い場所からの命令に“きゅうん”と啼いた。その器官とはずっしりと重たい豊かな「乳房」であり、ぬるぬるとした熱い粘液でとろけた「膣」であり、男の精を受け止め子供を授かる「子宮」であり、男より何倍も敏感に反応してしまう全身の皮膚であった。
 しかも、この男とは昨日も肌を合わせているのだ。
 性感を高め、相手に対する嫌悪感などを和らげる効果を主にした“薬”によって、急速にレッカの体に馴染んだユウの肉体感覚は、彼女をたちまちのうちに彼との交歓でしか得られない、効し難い激しい快楽の波へと容赦無く放り込んだ。

 “薬”は、この“役目”の期間を含めて5日間毎日、食事の度に配給されている。
 薄緑色をしたそのカプセルを「飲む」「飲まない」は女性の自由とされているが、前者を選択する女性は数少ない。
 ここで『妊娠するために』毎日何度も男に抱かれる“女性”は、全てが“ヤツら”に性別を変えられ変態した“男性”だ。
 バイではない男が、『男の男根を胎内に迎え入れて射精され精液にまみれるおぞましさ』から逃れるには、生体粘膜に前立腺液(前立腺から分泌される弱アルカリ性の液体)に含まれる「スペルミン」という“直鎖脂肪族炭化水素の一種”を直接付着させる事で得られる激しい性的快楽に埋没していくしかなかった。
 つまり簡単に言えば、膣内に射精されることで得られるオルガスムスに狂うしかないということだ。

 ――昨日は、3回も膣内で射精された。

 膣内射精のたびに何度も何度も何度も絶頂へと導かれ、乱れに乱れて、最後には自分から喜んでレッカの男根にむしゃぶりつき、体の奥深くへと迎え入れて喜びにすすり泣いた記憶が、細部に渡って急速に蘇る。
 それは醜悪で、嫌悪に満ち、羞恥にまみれた…そしてこの世のものとは思えないほどに得難い、『悦びの記憶』だった。
 受胎期間にある自分は、今日を合わせてあと2日間、この男に抱かれなければならない。
 それが自分に課せられた“義務”であり“責任”であり“役目”だからだ。
 でなければ代謝凍結(フリーズ)から目覚めさせられる事もなく、今も地下80メートルの暗い凍結槽(シェルター)で、この地区の残存人類13000人余りと共に眠りに付いていただろうから。

 “義務”の代償として“権利”が。
 “責任”の代償として“自由”が。

 現在の地球においては、この二つを得られるだけでも、かなり幸運だということを、ユウ自身よくわかっている。

 その“権利”とは、“管理者(ヤツら)”の監視の元ではあるが、人間らしい生を謳歌することの出来る権利。
 その“自由”とは、半径50キロという限定範囲とはいえ、コロニー内を自分の意志で行動出来るという自由。

 数十年前のある暑い夏の日。
 突然訪れた“管理者”を名乗る者達から、何の前触れも無く“第63島銀河の知的生命原種保護法による種族統治”という『侵略』を受けて、地球人類は全人口の9割近く…およそ58億3千万人を失った。
 その時点で、本来であれば人類はこの二つどころか生存権さえ剥奪されて当然とも言えるのが、今の地球の状況なのである。
 それを前提とするのであれば、定期的に冷凍睡眠から目覚めさせられ、ランダムに選ばれた一定数の少年は性別を変えられ、種族維持のために妊娠させられ出産することさえ、甘受してしかるべきなのかもしれない。

 …そう、ユウは自分に言い聞かせていた。
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