■感想など■

2009年11月07日

[二次] うる星やつら 「微笑みのむこうがわ」〜愛と対価〜

■■【2】■■
 彼女が、脳の言語野に永らく沈殿していた言語フォーマットを、改めて日本標準語に入れ替えて、もう一年になる。「だっちゃ」という語尾に始まる独特の訛りは、一種彼女の特徴ともなっていただけに、あたるや終太郎を始めとする元友引高校のクラスメイトも、馴れるまでには随分と時間を必要としたものだ。
 彼女が今更のように言葉使いを直したのは、大学卒業間近に、あたるが鬼星への帰化を強固に拒んだ事に端を発する。
【あたるが卒業後は鬼星に帰化し、ラムの父親の恒星間貿易商の補佐を勤める】
 そういう事に、いつの間にか決まっていた。
 もちろん、本人の了承も得ずに、だ。
 大学四年も中頃になって発覚した、彼の両親をも含めた周囲の画策は、あたるをパニックに陥らせ、心の底から憤慨させた。「女性には暴力を振るわない」という己の信念を忘れ、ラムを本気で引っ叩いたのも、思えばその時が最初だったと記憶している。
 だが彼は、死にそうな目(強迫か拷問のような「説得」があった事は想像に難くない)に会いながらも最後まで鬼星への帰化を拒み続けた。そして彼の「本気」に、それならばと、ラムが代わりに地球へ帰化する事を選択したのだ。
 彼女の父親はもちろん、母親も従弟のテンですら反対したが、彼女の意志は強く、彼女は他の異星人達が公式に退去しても、ただ一人地球に残り、地球の生活に馴染む道を選んだ。
 そしてそれに対して銀河連邦理事会は、特例としてその行動を認め、その代わり絶対厳守の条件を出した。すなわち、いかなる事態が起ろうとも、これ以後、地球の事象には介入しない事を、鬼星にも、そしてラムの友人の異星人にも要求したのだ。つまり、今後、ラムに身体的または精神的危険が及ぶような事があっても、地球人類以外の者が彼女を助ける事は、一切出来ないという事である。
 現在ラムは、地球年齢で二十二歳になっていた。しかし、彼女は特殊な事情もあって地球の企業には就職する事も出来ないでいる。
 彼女はこの不況下に、あたるが宛ても無い就職活動に奔走するのを、毎日だた見ているだけだ。義母を手伝って家事をこなして、あたると義父を送り出し、疲れ果てた彼等を迎える。毎日が、それの繰り返しだった。
 あたるは、昼間は就職活動と出版社のアルバイトで奔走し、夜は夜で、コンビニのアルバイトをしている。帰ってくるのは午前二時頃になり、自然と二人の会話は減っていった。
 彼女には、彼がやる気になって頑張っている事が嬉しい。学生時代からは信じられないくらいだ。けれど、会話も無く、想いは擦れ違う。これでは何のために地球に帰化してまで彼の元に残ったのか、わからないではないか。
 何とか彼を助けたかった。彼の力になりたかった。
 そんな時だ。
 終太郎の、面堂財閥当主襲名を知ったのは。
「あら、面堂君偉くなったのねぇ」
 義母がお昼のワイドショーを見ながらそう呟いたのを、どこか遠くで聞きながら、彼女は心に決めていた。
 終太郎なら、助けてくれる。
 彼を助けるのが嫌でも、私の頼みなら聞いてくれるに違いない…。
 友引高校を卒業して半年後、クラス会が開かれた事がある。彼女はあたると共に参加したのだが、その時に、彼女に逢うためだけに訪れた終太郎自身から、プライベートのメイルアドレスを記したメモを渡された。
「何か困った事があったら、連絡を下さい」
 終太郎はそう言って、真白な歯を輝かせたものだ。
 あたるは「捨ててしまえ」と言ったが、彼女にとっては終太郎も大切な友人の一人である。結局は捨てられず、ユーフォーの通信器に登録しておいたのが、今回役に立った…というわけなのだ。

「いいですよ。他ならぬラムさんの頼みでは、いくら僕でも断れませんからね。さっそく二三の系列会社に連絡を取ってみましょう」
 終太郎はにこやかにそう言うと、ラムの向かいのソファに腰を下ろした。それから彼は、あたるの大学の成績や、希望する職種、勤務先などを事細かに聞き、別室に待機していたのだろう、先程の黒服の男を呼び出して、メモを渡した。
 終太郎は本気だ。
 本気で私を、ダーリンを助けようとしてくれている。
 ラムは、ほっと一息ついて、ソファの背もたれに体を預けた。
「よろしいのですか?このような男を」
「口が過ぎるぞ。彼はラムさんの御主人であり、また、この面堂終太郎の高校の同窓生でもあるのだ。多少不本意ではあるにせよ、な。ともかく、たとえ何があろうとも、彼を当家系列会社の、どこか適切な部署に入れさせるよう手配してくれ」
「……………………わかりました」
 どこか不本意なものが声に混じっていたが、表情には少しも出さずに男は退出した。だが彼の去り際、サングラスに隠された瞳が、一瞬だけ憐れむような光を帯びたのを、視線を向けられた彼女自身は知らなかった…。
「ありがとう、終太郎さん…感謝します。…………それじゃあ、私は」
「どちらに行かれるおつもりですか?」
「え?」
「お帰りになるには、まだ早いと思いますが」
「え?あの…私…」
「ラムさん。まさか貴女は、この僕が、諸星あたるの事を、友情から手を差し伸べた…と、御思いではありませんよね?」
「………?……それって……」
「僕は諸星が嫌いです。いや、憎んでさえいる」
「!」
「確かに僕は、彼に…いや、奴に無いものを、たくさん持っています。けれど、彼にあって僕に無いもの。彼が持っていて僕が持っていないもの。彼が手に入れて、僕が手に入れられなかったものがたった一つだけあります。それが何か、おわかりになりますか?」
「………………」
「おわかりになりませんか?そうですか。………それは、目にしたその瞬間から恋い焦がれ、手を触れるだけで僕を陶酔の世界へと誘い、その声を耳にしただけで至福に身を震わせた……………そう、貴女です。ラムさん」
「わ…私??」
「自覚していて、尚そうおっしゃる。貴女は本当に罪な女性(ひと)だ…」
「そんな……私は…」
「貴女は諸星を選び、諸星は貴女の愛を、声を、肌を、全てを手に入れた。ところが奴よりももっと恵まれているはずの僕はどうです。未だに恋人の一人もいなければ、慰めてくれる人もいない。惨めですよ。僕は。」
「終太郎さんには……アスカさんが…いるじゃありませんか…」
「よして下さい。確かに、彼女は親が決めた許婚だったかもしれない。けれど精神的乳幼児を恋の対象に出来るほど、僕は弱い人間ではないつもりです。いやそれよりも、僕はもう他の誰も愛せなくなってしまったのですよ、ラムさん。貴女のせいで!」
「私?そんな…どうして私のせいだなんて……」
「貴女は私の心に、決して取れない楔(くさび)を打ち込んだのです。貴女以外見えない、貴女以外感じない、貴女以外には決して悦びを与えられないという、呪われた楔を!どんなに恋い焦がれても、貴女は僕のそばにはいない。どんなに触れたくても貴女は諸星のものだ。たった一言声をかけて下さるだけで僕は死んでも良いとさえ思えるだろうに、貴女が声をかける相手は諸星以外に有り得ないのです。こんなに…こんなに貴女の事を愛しているのに!」
「そんな…私、終太郎さんが望むなら、いつでもお話します。どんな言葉だって」
「言えますか?『 愛している』…と!この僕に向かって、真実の言葉で口にする事が出来ますか?僕が欲しいのは『愛している』という、たったそれだけの、偽りの無い愛の言葉なのです。それは望んでも決して手に入る事の無い、禁断の果実!僕は貴女の言葉が欲しい、心からの言葉で『愛』を囁いて欲しい。それが叶うなら!」
 終太郎は言葉を切り、真正面からラムの瞳を射抜いた。
「それが叶うなら、僕は何でもして差し上げましょう。貴女の奴隷となってもいい」
「そんな…………わ……私………………私…………」
 ラムは喘ぐ様にして、胸元に手をやった。
 息が苦しい。
 痛いほどに切実な終太郎の瞳が、彼女の胸を貫いているのだ。
 言葉を紡ぐのは簡単だ。ただ、口にするだけで良い。しかし終太郎は「真実の言葉で」と言った。
 それは無理だ。
 出来ぬ相談だ。
 彼女はあたるに全てを奉げ、あたるに全ての愛を与えてしまっているのだ。
 今更他の男に…愛を囁く事が出来ようか。
「…許して…………下さい……私は………」
「……………」
 終太郎は首を垂れ、握り締めた拳を震わせた。白くなった間接が、彼の激情を物語っている。その心には、今、どんな想いが渦巻いているのだろうか…。
「ごめんさい…ごめんなさい終太郎さん……でも、でもそれ以外なら………」
「では………たった一つ……たった………一つだけ……………。貴女の口付けを…」
「…!……」
「口付けを、下さい。それで諦めます。それで、貴女の望む諸星の職を差し上げましょう…」
 それは、取り引きというにはあまりにも卑劣なものだった。
 交換条件に相手の体を要求するなど、面堂家当主にあるまじき行為と言える。これでは、街のチンピラと変わらないではないか。しかし、直前で熱い愛の告白を受けたラムには、そこまで思いを巡らす事が出来なかったのだ。
 口付け。
 ただそれだけで、あたるは助かる。
 何も心を差し出すわけではない。心は、あたるだけのものなのだ。
「………わかりました……」
「本当ですか?」
「……はい……」
「ラムさん…………」
 面堂は悦びに顔を輝かせ、立ち上がってラムの隣へと腰を下ろした。ラムは体をソファの隅に寄せ、面堂の体が入るスペースを空けてやる。だがそのスペースはいささか広すぎ、ラムが警戒している事は明白だった。
 それを面堂は、ラムの腰に手を回して、ぐいっと引き寄せる事で一気に縮める。
「あっ…」
「楽にして」
 服を通して密着したラムの肌の柔らかさが、終太郎を官能の中へと誘う。たっぷりと重く柔らかな乳房が、目眩しそうなほどの香りの中、終太郎の胸に押し付けられているのだ。
 香りとは香水の類の人工的なものではない。甘く、かぐわしいこの香りは、ラムの体臭なのだ。地球人の女性とも違う、いや、それは、地球人の女性には決して纏(まと)う事の出来ない香りだった。
 諸星あたるは、この香りを毎日のように嗅いでいるのだ。
 終太郎は嫉妬と怒りで、体の中の熱いものが膨れ上がるのを感じた。
 ラムを抱きしめ、その体の柔らかさを感じ、吐息の甘さを、体臭のかぐわしさを感じながら、彼女の絹のような髪を優しく撫でる。首筋に鼻を付けて、彼女の匂いを胸一杯に吸い込むと、ラムの体は小さく震えた。
「しゅ…終太郎…………」
「ああ………ラムさん…………」
「終太郎……だめ………キスだけ………キスだけだって………」
「………………………」
 終太郎は気付いていた。
 ラムは、戸惑っている。
 なぜなら彼は本能的に知ってしまったからだ。
 彼自身がラムの香りに興奮するのと同様に、彼女が彼の香りに、温かさに、力強さに、興奮し始めている自分を感じてしまったのだろうと…。
 その証拠に、ほら、こんなにも鼓動が激しい……。
「そうでしたね」
 終太郎はあっけないほど簡単に彼女から体を離すと、正面からじっと彼女の瞳を見た。彼女はそんな彼の瞳から、まるで逃げるかのようにその赤く染まった頬と、微かに潤んだ瞳を隠した。目を伏せ、俯き、彼の胸に両手を置いて自分から遠ざけようとするのだ。
 終太郎はそんな彼女の頬を両側から優しく手の平で包むと、わずかに力を込めながら顔を上げさせる。ラムは上気した顔を見られたくなくて、目を瞑ったままふるふると首を振った。
「だめ…やっぱりこんな…こんなの…」
「キスを…僕に貴女の想い出を下さい」
「どうして…」
「僕は貴女に恋をしていた。熱い恋です。それは年月を経て熟成され、まろやかさを増し、今では朗々と歌い上げる讃美歌の旋律のように、僕の心を満たしているのです。この愛に捕らわれた今ではもう他の女性を愛する事など出来はしないいや!愛する事など許されないのです。ラムさん、僕は貴女だけを見つめてきた。だからせめて今は今だけは僕を見つめて下さい僕だけを見つめて下さいこの部屋には」
 終太郎は一気にそこまで口にすると、一旦言葉を切り、胸を押す彼女の両手を取ってぎゅっと握った。
「………………僕達の他には……誰も、いません」
「…………ああっ…………」
 悪魔に魅入られた敬遠なシスターのように、ラムは熱い吐息を吐いて唇をわななかせた。終太郎に握られた両手が熱い。いや、身体全体が、火のように熱かった。しっとりと汗が吹き出て肌を濡らす。呼吸がどんどん早く小刻みになってゆく。目は熱く潤み、無意識に唾を飲み込んだ。
 この半月というもの、彼女はあたると一度もセックスをしていなかった。こんなにも間近で男の体臭を感じる事などなかったのだ。大学時代は三日と置かず肌を合わせ、彼に開発され日々花開いていった。今ではあたるにキスされるだけで、『花』が潤んで彼の愛撫を待ち望んでしまう…。
 しかし「えっちな身体にされてしまった」という意識は無い。それどころか、彼が喜ぶならば、どんどん自分からえっちになっていきたいと思った。そうすれば、彼はいつもいつでも彼女から離れる事はないだろうと、そう思ったのだ。
 それが今、裏目に出ていた。
 愛を感じないはずの男の体臭を感じ、抱きしめられただけで、『花』から『蜜』が染み出してしまうのだ。
 じんじんと甘い疼きは、腰を中心にして体全体に広がってゆく。熱を持ったその疼きは、彼女の意識をぐらぐらと揺らして、ともすると、彼に身を委ねてしまう事を唆(そそのか)す悪魔を生み出してしまいそうだ。
 そう思われた。
 「二人の他は誰もいない部屋」というのもいけなかった。
 ここで何があってもあたるに知られる事はないのだという想いが、黒い欲望を増殖させる苗床となっているのだ。
「ダーリンには…ダーリンには…」
「わかっています。諸星には、今日の事は絶対にもらしません。約束します」
 堕ちてしまいそうだった!
 終太郎は、潤んだ瞳を震える瞼で閉ざし、ぷっくりと瑞々しいピンク色の唇をうっすらと開いたラムを、陶然とした想いで見つめた。
 美しい。
 今からこの美しい女性(ひと)を、他の誰でもない僕が、ゆっくりと味わうのだ。その想いは、激しく猛る股間の激情を、尚一層硬く起立させる。もとより、口付けだけで済ませるつもりなど無かった。
 甘い吐息を吐く唇に、つっ…と軽く触れる。ひくんっと彼女の柔らかな身体が震えて、慌てて身を引いた。それを、両手で抱きしめて強引に捕まえる。腰に当てられた終太郎の手の平は、それ自体が熱を持っているのではないかと思われるほど、彼女の胎内を熱くした。
「んむっ…」
 柔らかく温かな唇はたまらない痺れの中、甘くかぐわしい吐息ごと食べられる。
 何度も上唇を舌がなぞり、ぞくぞくとした震えは彼女のうなじを走った。唇の裏側を丹念に嘗められ、歯も歯茎もくすぐられる。脅えるような舌は口の奥に身を潜めていたが、上顎の端まで熱のこもった洗礼を受けては、耐える事など出来よう筈も無かった。
「んむっ…んんんっ…」
 巧妙に誘い出された滑らかな舌は、彼の怪しい手ほどきに翻弄され、舌の裏側をくすぐられるに至っては、既に彼の思うままに踊るマリオネットでしかなかった。
「ふあっ…」
 その間も、背中に回された彼の両手は、肩甲骨の上や背骨に沿った凹凸の線、腰骨の上などで遊ぶのだ。お尻の上、少し窪んだところを丁寧に撫でられては、自然と腰をくねらせてしまう自分を厳しく叱咤する意識さえも吹き飛んでしまう。
 ダメだ。
 頭ではそう思うのだ。このままでは、何もかもを終太郎に委ねてしまう。
 熱く曇り始めた意識の片隅で、奇妙に冷静な自分が警告の鐘を鳴らしていた。
「………!………」
 誘い出された舌が、不意に強く吸い上げられる。ぢゅうう…と唾液ごと吸われ、頭の中心がショートする。それはあたるとのキスでは味わう事の無かった唐突なトリップ感覚だった。
 びくびくっ…と体が震え、硬直し、次には、全身から力が抜けた。
 軽くイッてしまったのだと気付いた時には、彼女にはもう、終太郎に抵抗する気力そのものが、根こそぎ奪い去られてしまっていたのである。
 ショーツの中、合わされた太股の付け根に、ねっとりとした、ぬるぬると熱い『蜜』が溢れているのを自覚した。
 濡れていた。
 腰から下が全てぐずぐずと崩れ落ちてしまうような恐怖に戦慄(おのの)きながらも、じんわりと広がるその生暖かさにくらくらと目眩さえ感じてしまうのだ。自分がオンナだということをこれほど嫌悪と自虐の混じった快楽で自覚したことは、彼女の人生で初潮以来だった。

ぷちゅ……ぴちゅ……

 ぐったりとしたラムの身体を抱きしめながら、終太郎は尚も彼女の唇を、舌を、ゆっくりと味わい、『食べる』。そうして左手でグラマラスな身体を支え、右手で彼女の左肩や腕を撫で擦るのだ。彼女は無意識に終太郎の右肩に左手を置き、さらなるキスの応酬を望んでいる。終太郎はそれに答え、ラムの身体はそれを歓喜として受け止めた。
 身体の変化は刻一刻と進んでいる。重い乳房は張り詰め、乳首はハーフカップのブラの中で痛いほどに勃起してしまっている。『蜜』ははしたないほどたっぷりと溢れ、ショーツを洪水のように濡らしてしまっているのは、もう疑いようのない事実だった。けれどこの身体の変化を終太郎に知られるわけにはいかなかった。
 離れなければ。
 身体を、彼から離さなければ…。
 だが、心の片隅でひとかけらの理性が声高らかに警告しても、身体は彼女の理性に手酷い裏切りでもって答えていた。終太郎の口付けが、真っ赤に染まって熱く火照った耳たぶに注がれた時、甘えた艶声が、唾液に濡れた唇を割って迸ったのである。
「あっ…はあああぁぁぁ…」
 その、あまりにもいやらしい、男を誘うような声に自ら驚き、ラムは慌てて両手で口を覆った。
「気持ち良いんですね…ラムさん…」
「ち…ちがう…ちがうのぉ…」
 何が違うものか。
 いやいやと首を振り、ラムは終太郎の首を苦しいほどに抱き寄せた。本人はそれで、彼によるこれ以上の陵辱を封じたつもりなのだろうが、他人が見ればそれは、さらなる愛撫を願って自ら身体を開いたに等しい。
「いいんですよラムさん。ここには僕と貴女しかいない。誰も貴女を責める者はいないのです。私さえ黙っていれば、貴女が正直になったとしても、それはここだけの秘密になるのですから」
「私の…私の心はダーリンのものなの…」
 乳房をやんわりと覆った終太郎の手を押さえながら、ラムは大きな波に飲み込まれそうな意識の中で呟いた。乳房に置かれた手はそれ以上動く気配を見せず、剥ぎ取ろうとすればそれはひどく容易いだろう。だが彼は、彼女がその手を決して離しはしない事を知っているのだ。
 なんと憎らしくも狡猾な行為だろうか!
「そう。そうです。貴女の心は諸星のものだ。しかし諸星はどうですか?諸星は心の全てを貴女に捧げましたか?心の全てで貴女を愛してくれていますか?いや、違う。奴はどんなに貴女が心を奉げても貴女に全てを委ねる事は無い。どんなに貴女が愛しても、奴は貴女だけを愛する事はない…」
「そんなこと…んあっ…」
 終太郎の指がセーターの上からブラの上からゆっくりと。
 ゆっくりと、硬く尖った乳首を薙いだ。
「ありませんか?本当に?貴女を奴は愛してくれますか?昨日は愛してくれましたか?おとついは?その前は?その前はどうです?その前の日はどうでした?愛してくれましたか?キスをくれましたか?抱きしめてくれましたか?僕ならば貴女にそんな寂しい想いはさせない。いつでもキスをあげます。いつでも抱きしめて差し上げましょう。呼べばいいのです一言口にすればいいのですただ一言だけ僕に告げればいいのです」
「ああっ!」
 たっぷりと重い乳房を揺らした手は、脇腹を撫で、太股をなぞり、そして再び腰に回されて尻の上の窪みに取りついた。終太郎は先程のキスの時、そこがラムの弱点なのだと気付いたのだ。
 そこを丁寧に爪の腹で愛撫しながら、こりこりと左の耳たぶを軽く噛む。びくびくと震えるラムの太股が、緊張を解いてゆっくりと開く。彼女は明らかに、「そこ」を触れて欲しいのだとサインを出していた。だが、彼はまだ触れない。触れないのだ。彼女が欲しがらなければ意味は無い。彼女から請わなければ、彼女を征服した事にはならないのだから。
 終太郎は責める。
 唇を、首筋を、背中の背骨の始まりからお尻の割れ目の始点まで、そしてスカートを少しだけたくし上げて、そのストッキングに覆われた美しい太股を。
 キスをされながら体中を愛撫され、ラムは意識が大きな波に翻弄される小船のように、今にも暗闇深くに沈み込んでしまいそうになっているのを感じていた。『蜜口』はとろとろと『蜜』を流し、『花』は蝶の訪れを待ちわびてすっかり開いてしまっている。
 『蜜』を啜って欲しいのだ。
 『蜜』を飲み干して欲しいのだ。
 それが叶わぬなら、せめて触れて嬲(なぶ)ってくれるだけでいい。そうでないと、そこから燃え上がる炎が、全身を焼き焦がしてしまうに違いないから…。
「しゅーた…ろ、あっ…しゅーた…しゅーたろ…あっ…」
 彼女は今にも泣き出しそうだった。いや、既に泣き出してしまっていたかもしれない。顔に降りかかった前髪が、彼女の濡れた瞳を隠してしまっているのだ。
「言って下さい告げて下さいただ一言僕に向かって口にするだけでいいのです」
 その囁きは悪魔の誘惑に等しかった。
 だが、なんと甘美な誘惑だろう。
 耳元で囁かれる終太郎の言葉の一つ一つが、もうたっぷりと『蜜』を染み出して熱を持った『花』に、さらなる「疼き」を与えるのだ。
「さあ、ラムさん…」
 そして彼女は。
「…いて……………抱いて………」
 彼女は、堕ちてしまったのだった。
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