■感想など■

2009年11月11日

[二次] うる星やつら 「微笑みのむこうがわ」〜愛と対価〜

■■【6】■■
「どうやら賭けは俺の勝ちのようだな」
 ラムを見送った終太郎は、金細工で飾られた観音開きの扉を開けて現れた男に小さく舌打ちして、脱ぎ捨てたままのシャツから一枚の紙切れを取り出した。その紙切れは面堂財閥の正式な印が押され、終太郎の肉筆サインが記されている。そして額面には金三百万円と明記されていた。
 終太郎に歩み寄った男は、満面に笑顔を浮かべて小切手を受け取ると、金額を確認して大事そうにジャケトの懐に収めた。
「貴様は結局ラムさんを信用していなかったのだぞ。それを自慢してどうする」
「いーじゃねーか。キサマもイイ想いしたんだからよ」
「貴様…!」
「ふん…違うのか?」
「……………………。……………しかし、貴様もよく平気だな。ラムさんが別の男に抱かれる方に賭け、あまつさえその様子をモニターするとは………正直、呆れてものも言えん」
「抱かれるかどうかはあいつの意志だ。俺は強請はしちゃいないし、要はお前の腕にかかってただけの話だろう」
「それがわからんと言うのだ諸星」
 終太郎は上半身裸のままソファに座り、黒服の持ってきたミネラルウォーターを一杯飲み干した。対する諸星あたるは、面堂とラムの汗やら唾液やら、果ては精液や『蜜』で汚れたソファに座る気など毛頭無く、立ったまま片眉を上げてみせた。
「貴様はラムさんを愛しているのだろう?そのラムさんを、この僕に抱かれたラムさんを、貴様は再び抱けるのか?愛せるのか?」
 自然と言葉が荒くなるのを抑えられない。
 自分ではラムを幸せに出来ないのは動かしようのない事実なのだ。ならば諸星にこそ、ラムを幸せにしてもらわなければならない。たとえそれが自分にとって辛い事であっても、愛するラムさえ幸せならば、自分の想いなど押し殺すのは造作も無い事なのだから。
 ところがその諸星あたるは、「ラムを抱いてみろ」と言った。
「俺に職を紹介してくれたら、ラムを抱いてもいい。だが、ラムを抱けるかどうかは、お前の腕次第だ」
 そう言ったのだ。
 諸星がラムを愛しているのは間違いない。
 にも関わらず、自分の利益のためにラムを利用するなどと、本当に平気だとでも言うのだろうか?
「ラムは俺を愛している」
「…切り捨てられたいか貴様は」
「まあ聞けよ。ラムは俺を愛している。普通、愛している男と別の男に抱かれると、女はどうなる?後ろめたくなるんだ。そうだろう?愛する男に対して、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。たとえそれが、愛するその男のためだとしても、だ」
「何が言いたい?まさか諸星、貴様は、ラムさんを後ろめたい気持ちにさせておいて、それに乗じて浮気三昧な生活を送ろうなどと」
「俺が鬼星への帰化を拒んだ事で、ラムに負い目が出来た事は確かなんだ。このままじゃ俺はいつまでもあいつに対して心のどこかで引いちまうだろう。そうなったら、俺はあいつとは」
 言葉はそこで切られた。
 だが、終太郎にはなぜかその先が聞こえたような気がしたのだ。
『そうなったら、俺はあいつとはもう一緒にいられない』
 …と。
「…………………」
「まあ、イニシアチブは絶えず握っておきたい。そう思うのは、男として当然じゃねーのか?」
「貴様………………」
「対等でいたいだけだ。俺はな」
 ポケットに両手を突っ込んで、あたるは背中を向けた。
 その背中に切り付けてやろうかという凶暴な想いが終太郎の胸に膨れ上がる。
 …が、結局彼は、愛刀「虎徹(こてつ)」を抜き放つ事は出来なかったのである…。

           ◇       ◆       ◇

 彼女はウキウキとして、隣を歩くあたるを見た。
 珍しい事もあるものだ。
 彼が、彼女を食事に誘ったのだ。
 あの後、一旦ユーフォーに帰って体を洗い、胎内まで洗浄して、滅菌カプセルに十分体を横たえた。その時は既に胎内に終太郎の精液は跡形も無かったし、匂いも無くなっていたが、ラムはそれでも満足出来なくて、あたるにねだって買ってもらったコロンを首筋と腰に少し付けた。
 帰ってきたあたるは、彼女の出迎えに
「ん?香水付けたのか?」
 と気付いてくれたばかりか、
「せっかくだから今日は俺達だけ外に食いにいくか」
 と言ってくれたのだ。
 ラムは慌てて着替えて、あたるの気が変わらないうちに街に出た。たった数時間前、終太郎に激しく抱かれていた事が彼女の胸を締め付けたが、それよりもあたると二人きりで食事出来るという喜びの方が大きかったのだ。
「でも…どうしたの?ダーリン…なんだかすごく機嫌がいいみたい…」
「…わかるか?実は今日、面接先の会社帰りにな、ケータイに、前訪問した会社から連絡があったんだ。その会社じゃないんだが…そこの部長さんが俺を気に入ってくれたみたいで、知り合いの会社を紹介してくれるらしいんだ」
「へえ……そう…なんだ」
「ああ。先方も、その部長さんの紹介なら間違いないだろうからってんで、異例だけど今度の火曜日に一度会社に行って欲しいって言われたんだ」
「………………」
 間違い無い。
 終太郎だ。
 終太郎が、してくれたのだ。
「俺にもようやく運がまわってきたかな?ま、そーゆーわけだ。今日は俺が奢ってやるぜ」
「あ、うん…」
「なんだよ。嬉しくないのか?」
「そ…んな事無いよ。急だったからびっくりしただけ。わ、わーーすごいな、ダーリンやったね」
「変な奴。まあいいや。じゃああそこにしようぜ。前にお前が珍しいって言ってた店」
「でっかい甲殻類の?」
「ロブスターだってば。いい加減覚えろよな」
「ごめんなさーい」
 嬉しかった。
 楽しかった。
 この楽しさがずっと続けばいいと思った。
 だから…。
 だから、終太郎との事は、絶対に知られちゃいけないと思った。
 終太郎は約束してくれた。だから、私が黙っていれば、この幸せは壊れないだろう…永遠に。

 ラムは、自分に向けられるあたるの微笑みをこれからもずっと信じていこうと、
 そう、心に決めたのだった。

 ■ 『微笑みのむこうがわ』 終 ■


■1999/11/11 02:09 校了
■2009/11/06 推力全開アップ開始
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