■感想など■

2009年11月12日

[二次] うる星やつら 「受胎」〜忌む子の母なりしは〜

■■【1】■■

 “それ”は、待っていた。

 ずっと。

 ずっと待っていたのだ。
 新しい愚かな贄(ニエ)が、張り巡らせた罠に触れる時を。

 深い、暗闇の中で………。

           ◇       ◆       ◇

 その星の太陽の光は、少し赤味がかっていた。
 生い茂る木々の間を擦り抜けた陽光は、柔らかな木漏れ日となって地面に降り注いでいる。木々は、節くれだった幹までが極彩色に彩られ、その表皮を百足に良く似た節足動物がモゾモゾと歩き回っていた。
 その小動物を、ひょいっと紫色の嘴に挟み、全身を赤く煌(きらめ)かせる影が飛び立つ。
 「鳥」であった。
 その鳥は、地球上で見るどんな鳥よりも美しく、そして優雅に空を舞う。だが、鳥の飛び立た空には、彼よりもさらに美しい者達が、夜の訪れを待ちわびるかのように静かに佇んでいた。
 地球のものとは明らかに異なる、青と紫と緑に輝く、大小三つもの月達。
 彼等はただ静かに、深い極彩色の森を見下ろしていた。
「もういいっちゃ!ダーリンの…ばかぁっ!!」
 突然、多量の湿気を含んだ空気を震わせて、女性の声が響き渡った。同時に細かな破裂音のようなものが空気を裂き、やがてイオン化した空気が周辺を漂い始める。急激に熱せられ膨張した空気の立てる音は、森に住む全ての生物を脅えさせた。
「わぁーーーんっ!!」
 だが、大きな泣き声を上げて潅木を掻き分け現れたのは、薄いボディスーツに身を包んだ、一人の美しい女性であった。
 体にぴったりとフィットしたスーツは、彼女のメリハリのある素晴らしいプロポーションを際立たせ、木漏れ日をショウアップされたライトのようにも見せている。
 走る度にたぷたぷと揺れ動くバストは、際立った大きさのまま前方に思い切りよく張り出し、ウエストは逆に絞り込んだかのように細い。それに続くヒップは、ウエストで抑圧された鬱憤を晴らすかのように大きく美しい稜線を描いて、健康的に程よく脂肪ののった太股に続いていた。
 その、引き締まった太股まで伸びた美しい髪は、基本は黒に限り無く近い碧でありながら、日の光を浴びて七色に輝き、一本一本が艶やかに光を弾いている。パールとは違ったスペクトルで、見る者に陶酔するような甘美感を与えるのだ。
 彼女の容貌は、わずかに幼さが残り、それは日本人によくありがちな「ベビーフェイス」と言えるものだった。一瞥すれば、髪を染めた人間と見紛うばかりである。
 だが、彼女の美しい髪の間からは、ちんまりとした二つの小さなツノがちょこんと顔を出し、泣き声を上げる可愛らしい口には、犬歯と呼ぶにはいささか鋭利な牙が覗いている。それは人間というより、地球の神話や伝承に古くから語られる「鬼」という亜人間を思い起こさせるものなのだ。
「う…ううっ…ふうーーーー…」
 彼女はもう一度恨めしそうに後を振り返ると、ぐすぐすと鼻を鳴らして地面を蹴り、空高く飛び去っていった。

 実を言えば、彼女は、太陽系の地球に住む原生人類ではない。地球の古い言葉で「宇宙人」と呼ばれる者達の一人なのだ。しかしそれでも広義の「人類」であることに変わりはなく、しかも銀河連邦に正式に加盟し、その頭領(一族を束ねる王のようなもの)は連邦理事会に席を持つ、第二級文明種の「鬼族」と呼ばれる種族なのだ。
 そして彼女の名を、「ラム」という。
 ただの「ラム」である。
 鬼族の頭領(王)の娘(姫君)であり、そのために、彼女にはファミリーネームというものが存在しない。「ラム」という名は、彼女以外が名乗る事を許されない、特別な名として鬼族全体に認識されているため、ファミリーネーム自体が必要ではないのである。
 それでも、彼女があえて名前以外に付加して名乗るならば、「鬼星のラム」もしくは「ダ・ラー(頭領)の娘ラム」といったところだろう。しかし、実はこれすらも地球の言葉に無理矢理変換したものに過ぎない。そもそも彼等の言葉は、地球人には発音する事が出来ないのだから。
 鬼族は、遺伝子的に差違はあるものの、その外見的特徴は地球人類とほとんど変わらない。成長速度も精神構造も、体機能ですら、酷似しているのだ。
 ラムは地球の二十四歳の女性と同じ成長度合いを示し、恋をし、地球人とのセックスまでしてみせる。性行為を愛情表現として認識する意識も持ち合わせているのである。もっとも、地球人類とは、遺伝子操作をしてさえ、子を生(な)す事は出来ないのだが…。
 それを知っているが故に、ラムはその心の隙間を埋めるかのように、愛する人をいつも求め、相手を辟易させていた。

           ◇       ◆       ◇

 泣きながら飛び去ったラムに遅れて、今度は全身黒焦げのボロ雑巾のようになった男性が潅木を掻き分けて這い出てきた。彼こそが、ラムが心より愛し、毎日のように愛を交わす男性である。
 彼の名を、諸星あたるといった。
 彼女が父親と共に「優勢交易権獲得」(地球ではこれを「侵略」と呼んだ)のために地球に訪れ、そして彼女から求愛されるようになってから、既に七年が経っていた。当時一介の高校生であった彼も、この春からは、電算機器のセールスを生業とす一介の社会人である。
 友引高校と公立大学を無事卒業したものの、度重なる不運に見舞われ(生来の女好きが災いして…と言った方が正解かもしれないが)就職まで結局一年を費やしている。だが、ようやく今年、面堂コンツェルン系列の末端の子会社ではあったが、就職する事が出来た。
 六年間、ずっとラムから逃げ回っていた彼も、一年前、大学卒業と共にようやく彼女の愛を受け入れ、愛し合うようになった。そして今年、内定をもらってすぐに家を出、部屋を借りて一つ屋根の下で共に暮すようになったのだ。
 ただ、「好きだ」の一言は、未だ言わずじまいではあったが…………。

 そして今回、彼の就職祝いと同棲祝いにと、ラムが父親のコネで星間亜光速船でのコスモ・クルージングを計画した。目当ては、鬼星の八番目の独占交易(植民)星近くで発見された、超新星である。新たなる恒星の誕生を、二人の新しい生活の始まりに見立てての計画らしい。
 そんな彼等が、どうしてこんな辺鄙な惑星上にいるのか。
 そもそもの原因は、亜光速船の跳躍駆動力体(ワープ・コア)の不調にある。そのために、本来のコースから外れた、辺境の星系に立ち寄らざるを得なくなってしまったのだ。
 そして、せっかく来たのだから、と、銀河連邦規定第三種“原種保護法”によって評議会から不可侵に指定されている惑星を見物しようと、今、彼等がこうして降下しているこの惑星に降り立ったのである。
 れっきとした規定違反だが、辺境銀河警備機構のパトロール船には、彼女の父親が裏から手を回してくれている筈で、何ら問題はない予定だった。
 ところが悪い事は重なるもので、惑星降下型の惑星間ヨットで母船を離れた所、惑星磁場の異常によって出来た空間の歪みに、運悪くハマリ込んでしまった。それによって計器に狂いが生じ、予想着陸地点から数千キロも離れた未調査地区に降下(不時着)するはめになってしまったのである。
 遊び半分の惑星降下を提案したのが、他ならぬラムだったため、彼女は責任を感じて、当面、救助を待つ間の足りない食料を補完しようと、率先して食べ物を探す役を引き受けた。そしてあたるは、何だかんだ言いつつも彼女が心配になって、同行を申し出たのである。
 先程の口論は、実は、あくまで楽観的に振る舞い、彼の気を紛らわそうとしたラムの心を、彼が理解しなかった事にあった。彼は、気温と湿度の高さからイラつき、彼女を「誰のせいでこうなったと思っているんだ」と責め、怒りに任せて罵倒してしまったのだった。
「くっそ…ラムの奴…」
 立ち上がったボロ雑巾…もとい、ラムの愛しの彼は、体中の汚れを払い、忌々しげに飛び去る彼女を見上げてた。
「俺の方こそ泣きたいくらいだわ!!」
 彼はそう毒づくと、それでも、彼女が走り去った方向へと、少しふらつきながら追いかけていったのである。
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