■感想など■

2009年11月14日

[二次] うる星やつら 「受胎」〜忌む子の母なりしは〜

■■【3】■■
「ラムさんが船に戻って来ないというのは、どういう事だ?え?諸星!!」
 純日本人的な顔立ちでありながら、比較的目鼻立ちがくっきりとした美丈夫。
 激しく怒声を張り上げた男性「面堂終太郎」は、そんな風貌をしていた。
 終太郎の艶やかな黒髪は、しっかりと手入れが行き届き、艶々と光を弾いている。もちろん、筆で刷いたような眉もきちんとケアされて、その調和を乱すものは一つも見当たらない。
 すっきりとした鼻筋は、薄い…だが奇妙に温かみのある唇と相俟って、女性達の注目を浴びる事は想像に難くなかった。
 そんな彼が、顔を歪めて怒鳴る。それは、ひどく迫力のある光景だった。
「待って、終さん」
 鬱陶しそうに唇をひん曲げた諸星あたるの胸元を、終太郎は両手で捻じり上げている。その手をやんわりと押さえて、傍らのロングヘアの女性が、まるでやんちゃな我が子をそうするように、優しい口調で窘(たしな)めた。
 こちらは、終太郎に比べると幾分庶民的な顔立ちの、どこにでもいそうな「ちょっと奇麗なお姉さん」…といった感じの女性だ。それでも、全身から放つ“元気”は、この女性を外観よりももっと魅力的に輝かせている。
「しかし…しのぶさん…」
 不服そうな終太郎を目で制し、しのぶは、ふてくされて乱暴にイスに座り込んだあたるを見やった。
「ねえ、あたるくん。あなた、ラムと一緒だったんでしょう?一緒じゃなかったの?」
「……」
「……ふう………またケンカしたのね?…それで?今度はいったい何を言ったの?」
「何も」
「ウソ」
 あたるがぼそぼそと言った言葉を、しのぶは即座に否定する。
 彼女はいつもそうだ。
 彼女はいつも、彼の言う事は初めから疑ってかかる所がある。昔、彼女と付き合っていた時も、そうだった。そこだけが、当時も今も、彼女の中で彼が好きになれなかった所だった。
 あたるは軽く息を吐くと、上目使いに彼女を見やって、唇を歪めた。腰に両手を当てて彼を見下ろす彼女は、小学校の時の、厳しいけど優しかった大学出たての新米教師を思い出させる。彼は、その先生が大好きだったのだ。
「ほんとさ…ただ…あんまりあいつがわかんねー事言うから…」
「言うから、なんだ」
 横から長髪を後で縛った終太郎が、イライラと口を挟む。彼は、あたるのこういう煮え切らない物言いが、昔から大嫌いだったのだ。
「ウシ女…って…」
「ウシおんなぁ…!?」
 しのぶと終太郎の声がダブった。
 その時、終太郎の脳裏に浮かんだのは、なぜか、白に黒ブチの超ビキニを身につけ、首にでっかい黄金色のカウベルを首輪で身につけて、ばいんばいんのおっぱいを突き出しながら手にはお馴染みの牛丼を持ちつつ、はにかみながらもにこやかに微笑む彼女の姿だった。
「な…なるほど…」
「…じゃ、なくて!!…あたるくん…胸の事、あんまり言うもんじゃないわよ、ラム、あれで結構気にしてるんだから…」
「ワイはおっきい方がええんやけどな」
 部屋のドアが開き、ポケットコンピュータ(ポケコン)を手にしながらリビングへ入って来たのは、まだ年端もいかない少年だった。ラムと同じく、ぴったりと体にフィットしたボディスーツにプリントされているのは、鬼族の聖紋「虎縞」である。短く切った碧の髪の頭頂には、小さな角が一つ、自己主張していた。
 彼は、ラムの従弟の少年で、名を「テン」という。
 ラムが姫君とするならば、テンは王子といったところだろか。頭領であるラムの父親に跡継ぎが生まれない以上、いずれはこの少年が頭領の後を継いで鬼星を統治して行くことになるのだろうが、今はただ、継承権第二位の、経験不足の子供に過ぎなかった。
 このコスモクルージングには、コパイロット(副操縦士)兼ナビとして同行している。かつては三歳の幼児だった彼も、時の流れの中で今年十歳を迎えようとしていた。
「そう思ってるのは、きっと男の子だけよ。テンちゃん」
 しのぶは溜息を吐くと、肩を軽く竦めるテンから視線を外して、あたるに向き直った。
 あたるは、つまらなさそうにテーブルの上にあったペンに手を伸ばしかけている。が、彼女は彼の手から、もぎ取る様にしてペンを取り上げた。
 “ちゃんと話を聞きなさい”という事なのだろう。彼女の目が、ちょっとだけ怒っていた。
「……それはともかく…せっかく言い出すチャンスをあげたのに…どうせまだプロポーズしてないんでしょ?あたるくん」
 『プロポーズ』の言葉に、一瞬で顔色が変わり、あたるはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「やっぱりね…。これじゃ何のために私達がコスモ・クルージングに参加したんだか…」
「それで…ラムさんから連絡はっ!?フォンはスーツに装備されていたんだろう!?」
 やれやれ…と長い髪を揺らして溜息を吐くしのぶとは別に、面堂はポケコンを弄るテンに勢い込んで聞いた。今までテンがこの部屋にいなかったのは、正に、ラムの居場所を探ろうとしていたからに他ならないからだ。
 だが、テンは小さく首を振ると、一応、鬼族の公用語で表記された画面を面堂の方に示しながら、痛そうに彼を見やった。
 もちろん、終太郎には鬼族の公用語などは理解出来るはずも無い。あたると違って、公用語のレッスンなど受けてはいないからだ。それでもテンが画面を示したのは、コパイロットの資格試験の手順をきちんと踏んだに過ぎない。乗客及び乗員に正確な情報を提示し、危機感を和らげる事もパイロットには必要な事だと、資格試験では定められているからだった。
「それがな、言いにくいんやけど…」
「何だ、早く言え!」
「落ち着きーな。今な、ここの惑星は星系磁場の関係で『クルファイド現象』が起きよってん」
「クル………なあにそれ…」
「まあ聞いてやしのぶねーちゃん。つまりや、今、この船の外で、全部の機器が使用できへんのや。現象が収まるのは、中月“ゲヘナ”の重力干渉が消えるまでやから…ちょうど明日の昼頃やな。携帯フォンやと、時々、ごくたまに繋がる程度なんや…」
「全ての!?」
「主星との連絡は!?」
「全部の波長が遮られるんや、通常通信からレーザー通信まで、とにかく全部や。無理やな。あかんわ」
 両手をひらひらと振って見せ、テンはふんっと息を吐いた。捨て鉢な態度は、少しあまのじゃくな彼の言う事が、全て真実である事を示している。
 彼とて、従姉の事が心配でたまらないのだ。
「亜空間通信は?」
 ようやく顔を上げ、ぼそりと口にしたあたるに、テンは呆れたように目を向けた。
「あんなぁ…この船をなんやと思うとるンや?ただの星間ヨットやぞ?恒星間(亜空間)通信みたいな、そないな上等なもんあるかい。それより、ちいとこれを見てんか?」
「何だ」
 面堂は、テンの差し出したポケコンを手に取った。そこには、一枚の画像が表示されている。画像はひどくブレて判別し難いが、どうやら何かの影が映っているらしい。
「何だ?これは…」
「ラムちゃんのポケコンに記憶されとった、影像の一コマや。結像するのに苦労したでぇ。どうも…ラムちゃんな、なんや得体の知れんもんに襲われたんとちゃうかな」
「なんだと!?じゃ、じゃあラムさんは…」
「いや、それは大丈夫だ。生命ビーコンはまだ発信されている。健康状態も良好だから、怪我をしている訳でもないらしい」
 あたるがポケコンを操作し、ラムのビーコンに直結したナビゲータを起動して言った。その口調は、ひどく堅い…。
「何とか逃げられた…のかしら…」
「だが…ここには、戻れない状態にある…」
「この星の生物に、ラムの電撃は効かないのよ?そんな所に一人で……」
 暗い表情で呟いた終太郎の言葉に、しのぶは青ざめて胸を押さえた。こんな辺境の、探査も済んでいない惑星に一人…。考えるだけで身が竦む想いだ。
 ラムは今、その状態にいるのだ。
 いくら彼女が強い精神の持ち主でも、耐えられるとは思えなかった。
「ラムちゃんの事やから、無事でおるんやとは…思うンやけど…。ボディスーツ(宇宙服兼防護服)は、ちょっとやそっとじゃあ破れへんしな」
「全ては明日…か…」
「ああ…そうだな…夜は、下手に動けば…俺達も危ない」
 堅く呟く面堂に、あたるは両手を組んだ上に顎を乗せ、ひどくギラついた瞳で答えた。
 テンは、じっと黙り込んだ三人を横に、ただ、ポケコンの画像を食い入るように見つめていた…。


           ◇       ◆       ◇


 『蜜袋』は、白く細長い球体でいっぱいに満ち、暗闇の中、ゆっくりと脈動していた。半透明に透ける球体の中では何かが蠢き、やがてそれは、力いっぱいその身を捩って、球体を内側から破ってゆく。
 卵であった。
 その者達は、次々と産まれ出て、温かく湿気に満ちて優しい内壁を、その可愛らしい吸盤状の手足で擦り、もがいてた。
「はあっ…はあっ…はっ…はっ…はっ…はっ…」
 やがて、彼等は出口を見つける。
 出口は狭く、ねっとりとした粘液がたっぷりと溜まっていたが、それは決して苦しい道のりでは無かった。なぜならその粘液は、彼等に生きる活力と前進するためのエネルギーを与えてくれたからだ。
「ああっ…ああっ…ああーーっ…」
 出口への道は細く長く、身を滑り込ませるには少々窮屈だったが、その者達は先を争うようにして、隙間を見つけてはそこに自分の頭を捻じ込んだ。早く外に出る事に夢中になり、自然とその動作は荒々しいものとなる。だがその者達は、一向に気にする事はなかった。
「あひっ!…ひいっっ…ひっ…………ひいーーーーっ!…」
 やがて、縦に走った亀裂がいっぱいに開き、その合間から、いくつもの頭が先を争うように姿を現わす。

ヂイイィィィィィィィィィィ!!

 それは、忌まわしくも美しい、生の賛歌であった。
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