■感想など■

2009年11月18日

[TS]「彼氏彼女の情事の事情」〜俺達の初体験〜

■■【1】■■


 まあ結局、現実なんてのは、こちらの都合なんぞお構い無しに、ある日突然、変わってしまうものなんだ。


 そう思ったのは、夏も本番を迎えようかという7月13日の月曜日の朝の事だった。
 期末テストも終わり、あと一週間だけ我慢すれば、クソ暑苦しい担任の体育教師(32歳)の岩みたいな可愛げの無い独身顔から開放され、待ちに待った夏休みに入る……と思いつつ、彼は眠い眼を擦りながらいつもの通学路を歩いていた。
 梅雨明け宣言から数日、空に輝く太陽はまるで枷を外したかのように喜び勇んで熱射を振り撒いてくれやがるし、朝だと言うのにアスファルトは既にジリジリと熱せられて足元から熱気が這い上がって来ている。3時限目の体育の授業がプールでなかったら、軽く暴動が起きるところだ。

 ――なんてことを、山崎篤志(あつし)が思っていると、『それ』は突然物陰から現れて、いきなりこう言った。

「というわけで、日頃お世話になっているアッくんに、感謝を込めておっぱい触らせてあげよう」
「断る」
 間髪入れなかった。

 即答だ。

 『それ』は満面の笑顔を“ギシリ”と固まらせた後、眼を見開いて篤志を見た。
「ええっ!?」
「なんだその顔は。驚きたいのは俺の方だ」
「え!? どうして触らないの!? おかしいでしょ!?」
「いや、おかしいのはおま……アンタの頭だ」
 さすがに初対面の女の子をお前呼ばわりする愚は回避したが、猜疑心に満ち満ちて歪んだ眉だけはどうしようもなかった。
 そう。
 女の子だった。
 髪はサラサラで柔らかそうな薄茶色で、顔は卵型の輪郭に、目は大きくキラキラと黒目がち。
 肌の色は白くてすべすべで、ニキビとかが全く無く、凄く綺麗だ。
 つまり目の前にいるのは、掛け値無しのいわゆる「美少女」だった。
 その美少女がいきなり「おっぱい触らせてあげよう」と言うのだ。
 正気を疑わない人間はどうかしている。
「なんで? 健康な高校男子だったら、ここはイッパツ触っとくべきでしょ!?」
「女の子がイッパツとか言うなよ! 残念ながら俺は健康で常識的な高校男子なんだよ。天下の往来で女の乳触ったら人生終わるわ。んなデンジャラスな事朝っぱらから出来るかっ」
「僕が良いって言ってるんだから同意の上でしょ?」
「アンタも一緒に終わるだけだ。――僕?」
「ん?」
 どうにも拭いきれない違和感に、目の前の少女を上から下まで眺めてみれば、彼女は男物のシャツとズボンを身に着けていた。
 ウエストが細くてブカブカのズボンをベルトで強引に引き絞っているが、一昔前の化石不良が身に着けていた「ボンタン」といかいう変形学生服にも見える。
 そしてここが重要なのだが、ウエストを絞り込んでいるためか、胸がとんでもなく大きく見えた。
 巨乳どころではない。
 まさしく爆乳だ。
 男物のシャツはそれなりに大きいはずなのに、それすらも内側からブチ破らんばかりにパンパンに張り詰めている。
 そしてそんな爆乳の持ち主など、篤志は生まれてこの方、知人に持った覚えなどこれっぽっちも無かった。
「ええと……その、まあ、後は……これが最も大事なことなんだが……」
「うん」
「アンタ誰だ?」

         §         §         §

「やだなぁ、だからさっきから智樹(ともき)だって言ってるじゃない」

 人目を憚(はばか)って少女の腕を引っ張り、篤志は彼女を近くの児童公園の巨大な遊具の中に押し込めた。
 まだ早い時間だからか、公園に人影は無い。それに、近くの団地からは生い茂った樹がいい具合に隠してくれている。
 巨大な滑り台である遊具の、その薄暗い中に2人してしゃがみ込み、篤志は少女の口から幼馴染の少年の名前を聞いて、思わず苦虫を噛み潰したような顔をした。
 冗談にしてはタチが悪い。
「俺の知ってるトモは、人前でいきなり乳触らせようとするようなハレンチじゃねぇ」
「そりゃあそうだよ。男が男に胸触らせたら変態じゃない」

 ――今のお前は立派な変態だ。

 篤志はそう思ったが、今それを言うとややこしくなりそうだったので、ぐっと堪えた。
「それにトモは眼鏡だったし、なにより男だ」
「アッくん、眼鏡フェチだっけ?」
「何の話だよ」
「アッくんが眼鏡で人を判別してたとは知らなかった」
「聞けよ! 人の話をよ!」
「えっ!? まさか男が好きとか?」
「殴られたいのか」
「もうっ、どう言ったら信じてくれるのさ?」
「信じるも信じないも……昨日の今日だろ? おかしいだろソレ。なんで女に……」
 昨日の日曜日、篤志は智樹と一緒にサッカーシューズを買いに、いきつけのスポーツ用品店へと出掛けている。
 その時の智樹は、髪は黒かったし短く刈り込んでいたし、眼鏡をかけていたし、それに肌も健康的に焼けていた。
 篤志がそう言うと、
「なんだかわかんないけど、朝起きたら女になってた」
 そう言って智樹は“あはは”と笑う。
 昔から肝心なところで馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、言ってる事が本当なら、体が女になったと同時に脳構造まで女になって馬鹿さ加減に研きがかかったのだろうか?
 自称フェミニストが聞いたら目を剥いて怒り狂いそうな事を考えながら、篤志は“ゴクリ”と喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「じゃ、じゃあ、俺とトモしか知らない事とか、言ってみろ」
「え〜〜〜!?」
「え〜〜〜じゃない。早く!」
 もう既に遅刻確定な時間だが、出来る事なら今からすぐにでも学校に向かいたかった。
 無遅刻無欠席の皆勤賞は既に望むべくも無いが、せめて無欠席くらいは死守したい気分だったのだ。
 この少女を放って自分だけさっさと登校する事も考えたが、関わってしまったものは仕方ない。
 それに、万が一にも学校にまで押しかけられて、みんなの前にさっきみたいに「おっぱい触らせてあげよう」などと叫ばれた日には、今まで築き上げてきたサッカー部のエースのイメージが音を立てて崩れてしまうのは必至だった。
「え〜と……僕は相沢智樹。17歳。清泉高校の2年生。血液型B型。サッカー部のフォワー」
「そんな誰でも知ってるような事はいいっつーの!」
「ん〜……じゃあ、去年の夏、アッくんと一緒に合宿に遅れかけて、タクシーで慌ててバスを追っかけた」
「部員だったら誰でも知ってる」
「じゃあ、プレステ版のドラクエ4で、アッくんがビアンカをC組の藤崎さんの名前から取ってリョウコって付けた」
「う」
「部屋の押入れの右上の天板を外したところの柱の影に、巨乳系のDVDを隠してる。ちなみに12枚」
「な、なんでそれを……」
「1年の時に、告白してきたBクラスの谷口さんを振ったけど、その理由が貧乳だったから」
「ちょっ…おまっ……」
「まだあるよ。本棚の上から2番目の左端にある辞書は、実は中身がカラで、その代わりに箱から出したエロゲーのCDと説明書が入ってる。しかも巨乳陵辱モノで、キャラがなんとなく2丁目のパン屋の、巨乳の香奈さんに似てる」
「わかった! もうわかった! だからもう喋るな」
 太陽に照らされ、気温が上がり始めた遊具の中は、いつしか興奮した篤志が発する熱気で蒸し暑くなっていた。
 彼は、一緒に持ち込んだ部活用のサブバッグから水筒を取り出し、キャップをひねってよく冷えた麦茶を一口喉に流し込む。
 信じたくは無いが、どうやら信じなくてはいけないような雰囲気だった。
 この少女が、智樹から色々聞いただけの無関係な人間だという可能性も捨てきれないが、とはいえ、ならば全く無関係だという確証もまた、無かった。
「金曜の3時間目は何の授業だった?」
「化学」
「昨日は俺と、何を買いに行った?」
「シューズ。サッカーの」
「サイズは?」
「26」
「シューズと一緒に買ったものは?」
「サポーター」
「帰りにマック寄った時、俺は何飲んだ?」
「違うでしょ? 寄ったのはミスドだし、アッくんは何も飲んでないじゃん。飲んだのは僕」

 ――智樹だ。

 篤志はガックリと肩を落とし、大きく息を吐いた。
 ここまで淀みなくスラスラと答えられるのは、一緒に行動した人間以外有り得ない。
 篤志は再び水筒のキャップをひねって、よく冷えた麦茶を一口
「とりあえず女になったからにはエッチしたいんだけど」
「ぶうっ!!」
「うわきたなっ!」

 ……吹いた。

「今、何言った?」
「とりあえず女になったからにはエッチしたい」
「ちょっと待て」
「うん」
「待てな?」
「待ってる」
「落ち着いて」
「うん。落ち着いてる」
「……まずは男に戻る方法を探すとか、そういう方向じゃないのか?」
「原因もわからないのにジタバタしても仕方ないでしょ? それにヘタに病院とか行って、症例サンプルにされて体中弄繰り回されるのはヤだよ。だったらせめて女である事を積極的に楽しんだ方が良くない? 前向きじゃない? ポジティヴじゃない?」
「いやいいから、わかったから顔近付けんな」
 同じ汗の匂いのはずなのに、男にとって女の汗というのはどうしてこんなに甘美で芳醇な香りに感じてしまうのか。
 いや、智樹は昨日まで男だったわけで、汗とか体臭とかまで女と一緒とか、そんな。
 篤志が混乱し、いっぱいいっぱいになって何も喋れずにいると、智樹は何を誤解したか、大胆にも身を寄せて上目遣いに見上げてきやがりました。
「僕ってほら、自分で言うのもなんだけど、なんか可愛いでしょ? 可愛くない? それに体だってスゴイよ? おっぱいなんか手に余るし、白いしやーらかいし先っちょピンクだし。嘗めたり吸ったりしたらチョーキモチイイと思う」
 身を乗り出し、ぐいぐいと身を寄せてくる智樹の腕の間では、いつの間にかシャツの上から2番目までのボタンが外され、その少し汗ばんだむっちりとした胸の谷間が篤志の視線を吸い寄せていた。
 そのクレバスは、とんでもなく深い。
 それだけでバストカップの大きさがわかろうものだ。
 下にタンクトップを着ているのだろうが、当然と言えば当然だが、ブラをしていなかった。
 ノーブラだ。
 よく見ればシャツの表面に、乳首の形がうっすらと浮き立っている。
 篤志はふらふらと伸ばしそうになった手を超人的な自制心で押し留めた。
「ちょ……ま……」
 頭がくらくらする。
 心臓がバクバクして喉がカラカラだった。

 落ち着け。

 落ち着け。

 篤志は何度も何度も自分にそう言い聞かせながら、懸命に理性を総動員していた。
 智樹はもともと女顔というか、子供っぽい顔付きだった。
 だからといってこんなのはない。
 いきなり女になって、可愛くなって、グラマーでいい匂いで、こうおっぱいがふにょんふにょんと……
「な、なんで俺、なんだ!?」
「好きだから」
「いや、ちょ、だ……お、俺達友達だろ?なのになんで…」
「自分でもわかんないんだけど、アッくんの事考えただけで、こう、かぁっってなるんだよ。で、ぬるぬるすんの」
「ぬ、ぬるぬる!?」
「あそこがね、もうぬるぬる」
「あ、あそこ……って?」
「おま」
「い、言うな! 言わんでいい!!」
 見上げてくる智樹の瞳が、まるで水の膜が張ったみたいに潤んでいた。
「アッくんとエッチしたくてしたくてたまんないんだ。あ、もちろん僕は初めてだよ?」
「あ、当たり前だ! いや、じゃなくて、お、おかしいだろ? 友達が、一夜明けたらそういうものの対象になったとか!」
「自分でも不思議なんだよね。僕はホモでもゲイでも性同一性障害でも無かったし、別にアッくんとそういう関係になりたいとかって一度も思ったこと無かったのに。それが、今こうしてるだけで、あそこがとろとろになって、ものすごいことになってるんだよ」
「ものすごい……」
「見る?」
「み、見ない!」
「僕は見たんだけどね今朝。考えてみたら初めて見たあそこが自分のあそこってのも変な感じだよね。ははは」
 はははじゃねーよ。
 篤志は心の中でそう毒づきながら、右腕に感じる“たぷたぷ”“ふにょんふにょん”とした感触から意識を懸命に引き剥がしていた。
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