■感想など■

2010年06月01日

◆◆ Act.01 ◆◆「出撃」◆◆

■■【3】■■

 彼女―幸一に「サティ」と呼ばれたこの巨人は、もちろん人間ではない。
 そして地球上で自然発生した生物でもない。そもそも地球の重力下において、体長30(正確には32.84)メートル、400(これも正確には422t400kg)トンを超える生物が二足で直立歩行出来るはずも無く、いやそれどころか、普通であればそもそも立つ事すら出来ないからだ。
 「普通」の「生物」で、あれば。
 サティには、地球上の物理法則がほとんど適用されない。
 いやむしろ適用出来ないと言っていい。
 なぜなら彼女は、本来であれば「生物」ですらないのだから。
 全身を覆う、体にぴったりした伸縮性の特殊スーツは、まるでラバー製のボンデージ・スーツかライダースーツのようだ。大人の色気たっぷりの美人がそんなスーツを身に着けていると、体の線がハッキリと出て、それだけで艶かしい。しかも、立体裁断でもしているかのように、乳房の形そのままに盛り上がった胸部には、勃起しているのか、ハッキリとした乳首の盛り上がりすら見えた。その乳房が、サティが体を動かすたびに“ゆらり”と、「普通の人間の女性」のように、実に重そうに揺れ動くのだ。こうなっては伸縮性のボディ・スーツというより、銀色のボディ・ペインティングしていると言われても信じてしまいそうだった。
 データによるとサティの乳暈(にゅううん)……いわゆる乳輪の直径が76センチ余りという事だから、彼女の公式な資料映像から推測される、正面から見た乳房の直径は、おおよそその5倍程度。つまり単純に考えると直径約4メートルにもなる。これだけ巨大であれば、人間の肉体換算では、その乳房の重さは片方だけで15tを超えるだろう。世の中には巨大な乳房に挟まれてみたいと思う変わった性癖の人もいるようだが、実際にサティの乳房に挟まれたらその重量によって圧死確実である。
 でありながら、「やわらかく揺れる」だけの軟度を持ち、そしてその自重を支える強度(張力)を持つ皮膚が、地球上の生物に自然発生的に備わる……とは、考えにくかった。
 というより、不可能だろう。それには素粒子レベルの物理法則にまで干渉した、何らかの力が働いていると考えるのが妥当であろう。
 それだけでも、彼女が「普通」の「生物」ではない理由には十分であった。
 そして、それを裏付けるかのように、壁面上方15メートル地点には、彼が見たくも無い顔がいくつも並んでいた。そこには特殊偏向ガラスがはめ込まれた窓がいくつも在り、内部から数十人の科学者や幕僚将校がこちらを見下ろしているのだ。だが、彼らの表情に浮かんでいるのは、一様に「畏怖」と「恐怖」であり、「得体の知れないものへの衝撃」や実験動物へ向けるような冷徹さが垣間見えていた。
 それはサティの“メンテナンス”を担当している研究員や整備員も、多かれ少なかれ同様であった。
 それでいて、平時、目の前に横たわる豊満な女体への寸評は欠かさないのだから呆れたものだ、と幸一は思う。
 実際、基地内のそこここで日々やり取りされるサティへの評価は、幸一には聞くに堪えないものも多い。やれ「ものすごい爆乳」だの、「あそこの毛が濃い」だの、乳首の大きさや肛門のサイズをミリ単位まで計測しているデータが存在する以上、そういう事態も想定されていたはずだが、『人の口に戸は立てられない』の言葉通り、今は流言飛語が流れるままになっている。


「あ、ほら、この国の言葉で言うではありませんか。『過ぎたるは、親分サルがゴト師』って」
「は?」
  サティの真面目くさった声に意識を引き戻され、幸一は彼女の巨大で美しい顔を見上げた。
「いくら規定でそう定められているとはいえ、『マスター』という呼び方、私は少し堅過ぎる気がするんです。何事も行き過ぎは良くありません」
「はあ……」
 どうも彼女は『過ぎたるは及ばざるが如し』と言いたいらしい。
 諺を微妙に間違えて覚えているサティに、いつしか彼も苦笑を抑えられなくなっていた。
『しかし、どうしてそれで意味が通るんだろう?』
 だが、こんなにも優しくて愛しくて、そしてどこかネジが一本外れたようなとんちんかんな事を真顔で言う彼女を「バケモノ」と口汚く罵る人間がいる事を、幸一は知っている。
 そして、それを彼女が「一人」で胸に抱え込み、苦しみ、ひっそりと泣いていることも。
「あらごめんなさい! 『スギ・タイルはオヨバー・ザルがGo to sea(ゴートゥーシー)』…でしたかしら?」
 もはや意味がさっぱりわからない。
「真性なのかキャラ付けなのか……」
「何がですか?」
「やっぱ天然かな……」
「??」
「あ〜〜……その、いいよもう。早く『エントリー』しちゃおう」
「あ……はい……」
 幸一の複雑な胸の内を知ってか知らずか、サティは“ぽっ”と頬を染め、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに口元をほころばせてこくりと頷いた。
この記事へのコメント
更新お疲れ様です。
サティは何者なのか。なぜこんな研究所にいるのか。
これからの展開が楽しみです。
Posted by 通りすがり at 2010年06月01日 06:54
>通りすがりさん
 今のところ、週2回(火木)更新でいこうと思っています。
 ぼちぼちと書いて行こうと思っていますので、出来ましたら気長によろしくお願いします。
Posted by 推力 at 2010年06月02日 15:22
他作も書きながら週二回の更新とは筆が進んでいるようで何よりですね。
影ながら応援しています。
Posted by 通りすがり at 2010年06月03日 09:04
>通りすがりさん
 ありがとうございます。
 色々、大変です。

 ストックはあるので、公開のタイミングも考えないと…。
Posted by 推力 at 2010年06月04日 12:28
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