■感想など■

2010年06月08日

◆◆ Act.01 ◆◆「出撃」◆◆

■■【5】■■

「うわ、わわわ! ナビィ!」
【あぁ〜〜ん! 寂しかったですぅ! 幸一様っ!!】
「ちょ、前が見えないよっ!」
【あら? ごめんあそばせ】
 ちろっと舌を出して素早く離れた「彼女」は、現実にそこに存在しているわけではない。幸一が被っているヘルメットのバイザーに投影されている、いわば虚像である。
 バイザーの画像素子によって造影されるその姿は、言い伝えに出てくる妖精……しかも、蝶のような形をしてトンボのように透明な羽の生えた、いわゆる童話……有名なところでは『ピーターパン』に出てくる「ティンカーベル」や、童話や日本のアニメや漫画などでもおなじみの、ピクシィと呼ばれる小妖精だった。
 可憐な正統派金髪美少女だ。
 しかも一糸纏わぬ素裸であり、白い肌、肩までの金髪、ふっくらとしたバラ色のほっぺた、股間には産毛しか生えていない割れ目まで見える。
【もうっ幸一様? キー・ワードが受理されたら、すぐにヘルメットを着用して下さい。じゃないとあたし、寂しくて寂しくてぇ】
「ご、ごめん」
【いいんですよ。幸一様を責めてるわけじゃありませんから。むしろ、幸一様がすぐに逢いたくなるように、あたしがもっと努力すべきってことですよね!】
「う、あ、いや……」
 サティがおっとりとした、たおやかなおとなしい印象の楚々とした美女であるのに対して、彼女はガチャガチャとして騒がしい、子供のような女の子に見える。
 実際、その対比をそのまま物語るように、彼女の体躯はサティと正反対に、至るところが「フラット」だった。
 バストは遥かなるモンゴル平原を思い起こさせるようにまっ平らで起伏が皆無。
 ウエストは幼い女の子の姿そのままに、およそくびれと呼べるものがなく、おまけに下腹がぽっこりとしている。
 そしてヒップは薄くて小さくて、およそ女性的な色香というものが全く無かった。
 サティが巨大で豊かで「どどんっ!」「きゅっ!」「どかんっ!」な超絶グラマラス・ボディをしているため、余計に幼く、貧相に見えてしまう。
 けれど、幸一にはその姿がめちゃくちゃ眩しかった。
 もちろん、照明ライトとか機器類のランプが眩しいというわけではない。
 忘れかけていた性癖が、ナビィの姿を見るたびにむくむくと頭をもたげそうになるのだ。
「ナビィ? マス……幸一様を困らせてはだめですよ?」
 見上げればサティがこちらを、困ったような、苦しいような、どこか奇妙な顔で見下ろしていた。
 嫉妬して拗ねているようにも見えなくは無いが、サティがナビィに嫉妬するのも変な話なので、本人も感情を持て余し気味なのだろう。
 ……と、幸一はぼんやりと思った。
【うっさいわねぇ! さっき散々困らせてたのはどこの誰よ!?】
「困らせてなど……あれは愛を確かめ合う夫婦の会話のようなものです」
【何が夫婦よ。あんたみたいなデカ女が幸一様の妻を名乗るなんて、ちゃんちゃらおかしいわよ】
「ちゃんちゃ……そんな言葉使い、どこで覚えたのです?」
【自分で調べなさいよそんなこと。あんたの知識野には余計なものが他にもわんさと転がってるんだから】
「ともかく、幸一様と私の会話を盗み聞きするなんて、はしたないと思いなさい」
【あんたはあたしで、あたしはあんた。聞きたくなくても耳に入ってくるっての。いい加減そのお花畑の頭にインプットしときなさいよ】
「お、お花……」
【そもそもあんたこそ、そんな裸みたいなカッコしてるから羞恥心とかどっかに落っことしてきたんじゃないの? それともアレ? 生まれついての露出狂のヘンタイなの?】
「なっ……」
【公衆面前衆人環視の中でおっぱいぶるんぶるん揺らしちゃってさぁ! あーはーずかしい! はーずかしい!】

 ──まずい。

 幸一は突然目の前で始まった2人(?)の口喧嘩に冷や汗が吹き出るのを感じた。
 エレベーターを降りた直後には、あと9分以内に「エントリー」を完了しなければならないと思っていた。
 9分でエントリーし、5分で装備を整え、10分以内に輸送を終えて到達地点に移動を完了する……予定だった。
 ところが、もう6分ほども経過してしまっている。
 これでは「目標」が視認距離に到達する20分前には、到底間に合わない。まさに、楽観していられない事態だった。
 そもそも、どうしてこの2人は“自分自身同士”で毎度毎度喧嘩などしていられるのか。

 そう。

 実を言えば、彼女「ナビィ」は、巨人(サティ)と人間(幸一)の心を結ぶため、いわばサティの意識の一部がインターフェスとして現出したものなのだ。
 彼女はサティの一部にしてサティとは違う人格を有した、一種の人工精霊であり、「リンクシステム」のエントリー・キー・ワードに呼応して、ヘルメットと“Iスーツ”とのリンクの完了をもって起動するよう、プログラムされている。
 だが、ナビィがサティの「一部」であるなら、本体と同じような背格好であってもいいはずだった。
 だが、目の前にいるのは5歳か6歳くらいの愛くるしい幼女の姿をした「ピクシィ」である。
 どうしてそうなったのか。
 直接的な理由はわからないが、起因となった理由はなんとなくわかっている。

 ──それは、幸一が真性のロリコンだったから、だ。

 今となっては揺れ動くサティの乳房にも反応出来るくらい「正常化」した幸一の性癖だったが、1年前はグラマラスなその姿を目にしただけで吐き気を覚えたものだ。
 重たげに揺れ動きセックスアピール満点な美しいおっぱいも、むっちりとしていながら引き締まった豊満なお尻も、あの頃の幸一にはただのぶよぶよとした贅肉の塊にしか見えなかったからだ。
 その時の、哀しみのあまり身も世も無く泣きじゃくるサティの姿を思い出すだけで、幸一は胸が痛くなる。
「は、恥ずかしくなんかありません! 幸一様はカッコイイって言ってくれましたもの!」
【エントリーしてる幸一様が、あんたの闘ってる姿を客観的に御覧になれるわけないじゃない。それはね、幸一様がお優しい心であんたが傷つかないようにおっしゃられた、ありがたーいお世辞に決まってるじゃないの。あー恥ずかしい!】
「ち、違います! 違います……よね?」
 うるうるとした涙目で自分を見下ろすサティと、勝ち誇ったように空中でふんぞり返るナビィの双方から見つめられ、幸一は今すぐここから逃げ出したくなっていた。
この記事へのコメント
元自宅警備員でロリコン…なんという駄目人間。
そんな駄目人間とサティのファーストコンタクトの話も読んでみたいですね。
Posted by 通りすがり at 2010年06月08日 06:48
>通りすがりさん
 ありがとうございます。
 駄目人間と女巨神(人)の出会いは、やや不幸かも。
 好きで好きでたまらない相手から「気持ち悪い」と言われ、あまつさえ目の前で吐かれる気分というのは、最悪だと思います。

 ちなみにサティのビジュアル的なイメージソース(元ネタ)は「マクロスFのクラン・クラン」です。
 オプティカル・スーツも、クラン・クランの戦闘服をシルバーにしたような感じ。
 顔無くても十分体だけで萌えるよなぁ……というのは、『デュラララ!!』のセルティを知ってから。
 性格にはちょっとセルティ入ってます。
 セルティかわいいよセルティ。
Posted by 推力 at 2010年06月09日 15:51
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/38434261

この記事へのトラックバック

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★