■感想など■

2010年06月10日

◆◆ Act.01 ◆◆「出撃」◆◆

■■【6】■■

 幸一はずっと、女性というものが怖かった。
 年上の女の人が怖かった。
 同年代の女の子が怖かった。
 女の子の、自分を値踏みするような視線が怖かった。
 道行く見知らぬ女の全てが、自分を嘲り、噂している気がした。
 元々、アニメとかゲームとかライトノベルとか、そういう受動的なメディアが大好きで、中学までは外で遊ぶよりも図書室などで本を読んでるのが大好きな子供だった。
 中学に進学すると、すぐにバスケ部に入った。父親が国体の選手だったからという理由だけで、無理矢理入るように言われたのだ。
 逞しいとは言い難かったし、闘争心というものがまるで欠けていて、練習試合でさえ相手からボールを奪えなかった。そのためレギュラーなど夢のまた夢だった。
 チームメイト達からは当然のようにいじめられたが、顔だけはやたらと良かったからか、彼がいると女の子が集まるからという理由で部活を辞めることだけは許されなかった。
 それでも、彼に唯一優しかったマネージャーの存在だけが、彼の慰めだった。
 おとなしくて清純そうな、ショートカットの笑顔の可愛い子だった。
 だがそれも、幸一が勇気を振り絞って彼女に告白しようとしたその日までだった。
 その彼女が影で「彼氏にだけはしたくない」「視線がキモい」「顔だけのカス」と言っている事を知ったからだ。
 彼を一番目の敵にして苛めていた谷口という男に、壁に押し付けられるようにして背中から尻を抱かれ、激しく責められていた、部員が帰った後の、鍵のかかった部室の中で。
 普段の彼女からは想像も出来ないような、いやらしい、侮蔑的な、享楽にまみれた嘲笑と共に。

 ――彼は、「世界」に絶望した。

 でも自殺する勇気は無かった。
 「自殺は勇気なんかじゃない」と理由を付けて自分を慰めてみたが、実はただ単に怖かっただけだ。
 今となってはそれも正解だったと思えるが、当時はそれすらも自分が「駄目」な一因だと思えて、残りの高校生活はじっと息を潜めて深海魚のように生きようと誓った。2年生の三学期にはどうしても耐えられなくなり、親に内緒でバスケ部を途中退部した。
 そしてその時、寄せ書きに「お前がいて良かった!」「寂しくなる」「頑張れ!」「いつでも帰ってきていいぞ!」と美しい友情を綴ったチームメイトには、帰りに路地裏に引き込まれ、金を全部取られた挙句に、背中に煙草で根性焼きされ、家に帰ると、学校から連絡を受けた父親に、理由も聞かず張り飛ばされた。

 みんな死ねばいいと思った。

 高校を卒業する頃には、現実の女性よりも甘い幻想に満ちた、優しくて裏切らない女の子達へと傾倒して行くまで、さほど時間はかからなかった。
 頑張って家から遠いが偏差値だけはやたらと高かった地方の大学を受験し、運良く合格して「これでもういじめられる事も無い」と安堵したのも束の間、初めて出来た「彼女」が2週間後には単なるキャッチセールスの客引きでしかなかったと知った。
 キスまでしたのに。
 日曜には遊園地に行って一緒に御飯を食べ、帰りは手を繋いで夕焼けを見詰めたのに。
 その事を問い詰めたら、道に吐き捨てられたガムでも見るような目で見られ、「ばっかじゃないの?」の一言で全てが終わった。
 一人暮らしの部屋には、食費を切り詰めた挙句に貯金まではたき、その上で借金までして購入した、役に立たない運気アップの水晶玉や金貨(偽物だった)やダイヤの指輪(これも偽物だった)などが部屋に転がっていた。
 そうして人生何度目かの絶望をした幸一は、日を置かず、今度はまるで追い討ちをかけるかのように実の姉からひどい仕打ちを受け、それこそ誰にも言えないような深い傷を心に負い、とうとう完璧な女性恐怖症になっていた。
 それが大学2年の頃だ。
 二次元の女の子の好みも、どんどん変化していった。
 年齢が下がっていったのだ。
 愛だの恋だの言ってるような、おっぱいやお尻が大きい女は駄目だ。もっと純粋で、もっと優しくて、もっと健気でもっと元気良くて、打算や計算で相手を計らない、そんな女の子達。
 日曜の朝早くに放映されている○学生な魔女っ子モノに出てくるような女の子が最高だった。
 欠かさず見た。昔のアニメも違法な無料動画サイトで片っ端から見た。
 グッズを買い漁り、同人誌も通販で大量に購入した。
 それから4年近く、23歳になった幸一は実家で、立派な「自宅警備員」となっていた。
 山のようなオタクグッズに囲まれながら、自分は世界に必要とされてないことを確認するような毎日だった。
 鬱屈した妄想力は果てが無く、そして強大で膨大であった。
 想像の世界にさえいれば、何も怖いことは起こらないし、人に裏切られる事も無い。
 毎日、妄想ばかりしていた。
 起きている間は、ネットをしていても食べていてもトイレにいても何をしていても、ずっと妄想し続けていた。

 自分以外、みんな死ねばいいと思った。

 だから、本当は嬉しかった。
 1年前、地球全土を襲った大災害で、日本を始め先進諸国が致命的なダメージを受け、地球総人口の3割があっという間に死んでいったのが。
 日本は未成年者において奇跡的に死亡者が少なかったが、それでも成人の実に6割が死に、国家としての機能を失った。
 彼の親も姉も同窓生も、キャッチの「彼女」もみんな死んだ。
 でも、自分は死ななかった。
 自分は、選ばれたのだ。
 そう思った。

 それが、めちゃくちゃ嬉しかった。
この記事へのコメント
更新お疲れ様です。
幸一の過去がこんな暗く辛いものだったとは…
駄目人間とか言ってごめんなさい。
更に総人口の3割死亡とか、なかなかヘヴィな状況ですね。
Posted by 通りすがり at 2010年06月10日 07:07
>通りすがりさん
 駄目人間なのは駄目人間なので、別にいいと思います(笑)。

 大真面目に馬鹿っぽいエロを書こうとしたら、悲壮的な設定になりました。
 悲壮にする必要はなかったのですが、なんか、なりました。
Posted by 推力 at 2010年06月10日 17:51
いえいえ、どこにでもいそうな駄目人間が完璧超人な嫁をタナボタで手に入れるよりは説得力があるのではないでしょうか。
あと因果横暴って大事ですよね。
悪事でも…性癖でもw
Posted by 通りすがり at 2010年06月10日 23:56
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