■感想など■

2010年06月15日

◆◆ Act.01 ◆◆「出撃」◆◆

■■【7】■■

 そんな自分が、今は一人(二人?)の美女から純粋で全面的な愛情を積極的に寄せられている。
 実に運命とは奇妙だ。
【いいからあたしと幸一さまとの甘い時間を邪魔しないでよね。この破廉恥ヘンタイ女!】
「はれ……ヘン……い、い、い、、いっておきますけど、あなたの方こそいつも裸じゃないですか。それは破廉恥じゃないんですか!?」
【あんた馬鹿でしょ?】
「馬……っ……」
【あんたって、あたしがあんたの一部だっていうのが恥ずかしくなるくらい馬鹿よね。あたしのこの姿は幸一さまにしか見えてないの。あんたみたいに日本中どころか世界中のニンゲンに見られまくってる露出狂とは違うの。幸一さまだけの裸なのよ? そもそもあたしのこの姿はね、幸一さまが望んだ姿なのよ? 幸一さまはね、あたしの裸の方があんたなんかより何倍も何十倍も何百倍も好きなの。わかった?】
「そ、そんなこと……」
 やばい。
 サティの目に涙が盛り上がり、唇がわなわなと震えて、今にも泣き出しそうになっていた。
「あのさ、ナビィ……その、そろそろいい? 時間が無いんだ。喧嘩なら後でしてくれるかな?」
【もうっ! あんたのせいで、幸一様とお話出来る貴重な時間が無駄になっちゃったじゃないの! このデカ女!】
「ナビィッ!」
【あぁ〜〜ん、幸一さまぁ……そんなにこのあたしとお話したくないんですかぁ?】
「そ、そうじゃなくて……」
【……わかってますよぅ。そんなに困った顔しなくても……。でも、困った顔もステキ!】
 最後に彼女はバチッとウィンクを決めて、バイザーに“ちゅっ”とキスをした。
 それだけで幸一の胸とか股間とか、なんだか色んなところが熱くなるから、つくづく因果だと思う。
 ナビィがバイザーから離れると、彼女の顔からは表情が抜け落ち、まるで精緻な人形のような、完成された美を思わせる無表情となった。
 両手を胸元で重ね、神に懺悔するシスターのような、可愛らしくも厳かな声がバイザーに満ちた。
【あたしの心は、愛しきひとに。永久(とわ)に捧げたあなたの胸に】
 いつもの決まり文句と共にナビィの姿が薄緑色をした光の粒となって散り、すぐに“Iスーツ”へと降り注ぐ。
 バイザーに映し出される、この蛍のような淡いライトグリーン光は、サティとのホットラインが確立された証拠だった。
 幸一の方には、特にサティに関しての情報が流れ込んでくるということは無いが、サティの方には幸一の生体データはもちろんのこと、精神的な動きまでもが筒抜けになっているはずだ。
「じゃ、じゃあ、エントリー開始……しようか」
「はい……」
 新婚ホヤホヤの新妻もかくやといわんばかりの、蜂蜜をたっぷりとまぶしたような、甘ったるい声が再び幸一の耳朶を打つ。
 彼は腰の前辺りがむずむずするのを意識して無視し、前面の開いた「イグニッション・シリンダー(ignition-cylinder)」へと体を預けた。

<Examine,datalink……>

 低反発素材がみっちりと詰まった内部に背中から身を埋めるようにしてすっぽりと体を預けると、ヘルメットの内側からナビィの声でメッセージが流れ始める。ただ、先ほどの彼女と違い、機械的で冷たい人工音声そのもののような声だった。その内容といえば、最初の頃、「イグニッション・シリンダー」と「Iスーツ」とのデータリンクを告げるものだとかなんとか聞いた気がするが、聞いていてもさっぱり意味がわからなかったので、彼は考えるのを早々にやめていた。
 やがて圧縮空気の音と共にシリンダーの扉が閉まり、真闇に閉ざされると、自分の呼吸音だけがうるさいくらいにヘルメット内部を満たした。時を置かず、体を包み込むクッションが対衝撃レベルまで張り詰めて、手足が“きゅっ”と締まる感覚が襲う。衝撃吸収のための、血流を遮らない程度の圧迫感だが、これにも彼は最初の頃、ちっとも慣れなかった。無様にも、息苦しさを感じてパニックさえ起こしそうになったのだ。
 だが、今はこれが心地良いと思える。

<God bless you!>

 メッセージの最後のフレーズが意識に届く頃、彼は急速にまどろみの中へと落ちていきつつあった。
 「God bless you!(幸運を)」
 なんという皮肉だろうか。
 そして、なんと心震わせる言葉だろうか。

 ──そうだ。

 ──最大限の幸運を。

『がんばれ。がんばれサティ。僕がついてる』
 途切れる寸前、彼は心の中でいつものように心優しい巨人に、精一杯のエールを送る。
 後はただ、身を委ねるだけでよかった。
 それが彼の出来る、精一杯だった。
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