■感想など■

2010年07月29日

◆◆ Act.05 ◆◆「苦悩」◆◆

■■【1】■■


 『ビジュアライズ・コア・ルーム』

 通称『V−room』と呼ばれる、“精神同調によるマルチプロセス型双方向通信用の情報処理仮想空間”へアクセスするための部屋は、基地内に特別に設えられた極秘セクションにあった。
 その施設は、一般職員を始めとするCレベルの人間はもとより、Bレベルの一般研究員では足を踏み入れる事すら出来ない階層にあり、厳重なセキュリティに護られている。
 入る事が出来るのは、A及びSレベルのICチップ入りの許可認証を保持した者のみ。
 そして彼等でさえ、指紋、声紋、網膜、静脈の4つの認証をクリアし、MRI(Magnetic Resonance Imaging system:磁気共鳴画像装置)を使用した骨格照合を経て、その上で唾液に含まれる個別酵素をキーとする解除コードによってシステム認識を得られたうえでしか、足を踏み入れる事は出来ないようになっていた。
 しかも、コアとなる「コネクト・システム」は、常にサティの基幹であるエーテル体の監視を受けており、メンテナンス時等を除いては、彼女の無意識域が許可した個体しか入室を許されてはいない。
「ふう……」
 認証を経て入室を果たした幸一は、ようやく一息ついた。ここへは毎日のように来ているが、その度に疲れてしまう。もっと認証を簡略化出来ないかと上申した事もあるが、なんだかんだといって保留にされたままだ。
 彼はドクターの診断を終えてすぐ『V−room』を訪れたが、サティはきっと一日千秋の思いで待っているに違いなかった。出来れば彼女のためにも、肉体的にも精神的にも万全な状態で臨みたかったが、サティへの『ラヴ・ドリップ』──ギガンテスにとっての「存在の糧」の補給は、パートナーに課せられた最も需要且つ神聖な使命であるため、怪我や疾患などで命の危険がある場合を除き、戦闘後は可能な限り早急に行うことを必須とされていた。
 室内は、非常に機密性の高い密室ではあるが、入室者に圧迫感を与えないように天井も壁も床も、全てがクリーム色に統一され、間接光源によって全体がやわらかく照らされている。天井は低いところで4メートル50センチ。最高で5メートル以上もあり、広さは一辺が10メートルほどもある大きなものだ。また、室温と湿度は常に快適になるよう調節されており、幸一の疲労した体にも優しかった。部屋のほぼ中心に、アクセスするための接続ユニットと椅子が置かれている。一見すると、寝心地良さそうなクッションが備え付けられた、ただの一人掛けリクライニングソファに見えなくも無い。
 幸一は戦闘後の健康状態をチェックする診断において、甚平のような病衣に着替えているが、下着は一切身に着ける事を許されていないため、その下は素裸だった。
 最初の頃はそれが心許無くて不安で仕方なかったが、今ではもうすっかり馴れたものだ。すたすたと椅子まで歩き、『V−room』への接続ユニットとなるヘルメット状の無線コネクタを手にすると、幸一は椅子に座ってクッションへと身を委ねた。
 すると、それを感知して部屋の照度が急速に下げられる。明るさ(ルクス)は、雲の無い満月の夜くらい(0.5〜1ルクス)だった。そのくらいの照度が、脳と体への負担が最も軽いらしい。
 コネクタは幸一の頭骨に合わせて作られているため、調節用アタッチメント等は無く、頭蓋をすっぽりと覆いながらも圧迫感は皆無だった。
 それを被り、全身の力を抜く。
 それだけで良かった。
 それだけで幸一は、あっという間に意識が深く深く深く、沈み込んで行くのを感じたのだった。

 そしてやがて、深い海の底でたゆたうような不安定な心持ちが過ぎると、不意に意識がハッキリとした像を結び始める。
 まず聴覚。
 次に触覚。
 そして嗅覚、味覚…ときて、最後に視覚だった。
 聞こえたのは小鳥のさえずる声。肌に感じるのはそよ風と、太陽の暖かい感じ。昼間だろうか。紫外線が皮膚を焼くじりじりとした感覚までもが再現されている。それから草いきれとむせるような緑の匂い。感じ慣れた口内の味覚。
 それらが現実のものと変わらぬ再現度で意識を包むと、やがてぼんやりとした視覚が目の前の情景を徐々にハッキリと結び始める。

 ──公園だった。

 それも、ちょっと大き目の噴水の前のベンチに座っている。
 それを知覚した途端、飛んでくる水の飛沫が肌に冷たさを感じさせた。
 周囲にはちらほらと人影まで見える。
 「市民」の憩いの場、らしい。人類が生活圏のほとんどを地下に移行する前、『神の息吹(ゴッドブレス)』以前にはどの都市にでもある、ありふれた風景だったものだ。
 そこで幸一は、ラフな格好で「誰か」を「待って」いた。
『ああ、そうか……』

 ──つまり、今回は“そういうこと”らしい。

『デート、だね』
 なぜそう思ったのか、幸一自身もよくわからない。だがいいのだ。「そういうもの」なのだから。
 ふと視線を巡らせば、そのタイミングを見計らったかのように「彼女」が懸命にこちらへと走ってくるのが見えた。
 身に着けているのは明るいブルーの膝上吊りスカートに、白のブラウス。そして白のハイソックスに茶色のローファー。髪型は艶やかな黒髪ロングのストレートで、毛先数センチだけなみなみにウェーブがかかっている。もちろん枝毛など皆無だ。キューティクルはキラキラと輝き、髪は風にそよいでふわりと揺れる。文字通り、「清楚」と「純粋」と「可憐」が人の形をとっているかのようだった。
 全体として幸一の趣味に合わせてロリっぽい雰囲気の可愛らしいチョイスのつもりなのだろうが、いかんせん、スカートはウエスト部分が絞り込んである上に肩紐で寄せられているためか、ひどくバストコンシャスで、ブラウスに包まれた豊満おっぱいがどーんと前方に張り出して、彼女が走るたび、盛大にたっぷんたっぷんと揺れている。見る者によっては、まるきり凶悪な全方位攻撃型決戦兵器だった。
 しかも清潔な白のブラウスが、ただでさえ大きな胸をさらに強調しているように見えるうえ、うっすらとその下に着けているピンクのブラまでが透けて見えていた。
 エロく見えるように着てきたとしか思えないほどの「やる気満々」なエロさだ。下手をすれば爆乳グラビアアイドルがロリコスプレしているように見えなくもない。というか、まるで前時代に流行った、バストコンシャスなファミレスのウェイトレスのようだった。
「はあっ……はあっ……はあっ……」
 息を切らせて走ってきた「彼女」が、立ち止まる、身を起こす、ただそれだけで“どかん”として"ずしり"と重量感たっぷりの椰子の実おっぱいが"ゆっさゆっさ"と揺れた。
 これはもう、どこに出しても恥ずかしくないほどの、わかりやすい「ちょっと頭の弱そうな童顔爆乳美少女萌えアニメ風味」だった。
 一瞬だけ「うっ」となったものの、幸一はにこりと笑う。
「幸一さん、待った?」
 大丈夫。
 もう馴れた。
 気持ち悪くは、ない。
 幸一は内心の心の動きを押し殺して、目の前でちょっと上目遣いに見詰める彼女に向かい、努めて優しく微笑んだ。
「う、ううん」
「良かった!」
 不安そうに曇っていた顔がぱあっと晴れる。
 きっとそれだけで、誰でも彼女には、何をされても許してしまいたくなる気持ちになるだろう。
 幸一もそうだった。
 色々勘違いしている結果としてこうなってしまったのだろう、多少のチグハグ感など、どうでもよくなっていた。
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