■感想など■

2010年08月03日

◆◆ Act.05 ◆◆「苦悩」◆◆

■■【2】■■


 ギガンテス『アガペー(愛)』。

 日本の研究所では主に「サティ」と呼ばれているこの個体は、他のギガンテスとは異なりパートナーとの肉体的及び精神的接触において、3つの形態を取っている。
 便宜上、「大サティ」「ナビィ」「小サティ」と呼ばれているものがそれだ。
 「大サティ」は“創体召還(クリエイト)”され現実空間に存在し、誰の目にもその「存在」が確認される、20代後半の、脂ののりきった妙齢の超絶美女である。
 そして「ナビィ」は幸一が“Iスーツ”のリンクをエントリー・キー・ワードで起動した際にのみ現出する、幸一(パートナー)にしか知覚出来ない、ローティーンのロリっ子美少女である。
 これは、「大サティ」の“創体召還”の際には多数の“妄想戦士”の力が結集されたからであり、その逆に、ナビィの現出には純粋に幸一だけの妄想力が反映されたためであった。
 だが、『V−room』の中でパートナーが知覚するサティ……「小サティ」は、10代後半頃の美少女であった。ただし乳房に限っては、比率的には大サティにも負けないほどの、特大で大迫力の推定Hカップだ。
 どうやらここらが、総体的妄想力と個人的妄想力における、適用年齢及び外観においての「アダルティ」と「ロリータ」の、“折衷的妥協点”らしい。
 もっとも、この世界には「大サティ」>「小サティ」>「ナビィ」の順に創造されているため、正確には折衷とは言えないかもしれない。だが、「小サティ」が形成される際にはパートナーである幸一の性癖や好みが強く反映されるため、その時点で「ナビィ」が創造されていなくても、結果的には「小サティの創造には、大サティとナビィの間を取った」と言って差し支えなかった。

 また、実を言えば、現在3つの形態は大きい順に「大サティ」「小サティ」「ナビィ」と呼称されてはいるものの、それも紆余曲折あって未だに定まってはいない。
 一度、「ウェルダン」「ミディアム」「レア」をもじって「ウェル」「ミディ」「レア」という名称を幸一が研究員に提案された時、「大サティ」から『否定はしないが恨みがましい目』でじいっと見られるという、実に貴重な体験をした。
 それは元はと言えば「ナビィ」だけ名称が異なる事から「3形態それぞれに名前を付けてはどうか?」という気まぐれに近い提案が原因ではあった。
 「ミディアム」というのはラテン語「medium」の英語読みで、中間とか媒体など「間にあるもの」や「媒介するもの」を指す、ちゃんとした言葉(?)だ。だが、「ウェルダン」と「レア」はあきらかに「それ」だし、決定的なのは、幸一の脳内認識野にジュージューと音を立てて焼かれるステーキのビジュアルが浮かび、「大サティ」はそれを感知したのではないか?と言われている。
 他にも有力な案としては、画家ボティチェリの「春(プリマべーラ)」という絵画にも描かれている、美、優雅、豊穣、芸術的センスなどを司ると言われた、ギリシャ神話の三美神(Three Graces)──「エウプロシュネ(Euphrosyne)」「タレイア(Thalia)」「アグライア(Aglaea)」になぞらえるというものもある。だがそれですら、それぞれが表しているものが「愛欲」「純潔」「美」と知っている「大サティ」と「ナビィ」の間で、誰が「愛欲」で誰が「純潔」で誰が「美」なのか喧々諤々の言い争いが発生して、まだまだ決まりそうにもない。
 幸一としては「大サティ」=「愛欲」=「エウプロシュネ(Euphrosyne)」、「ナビィ」=「純潔」=「タレイア(Thalia)」、「小サティ」=「美」=「アグライア(Aglaea)」……とも思ったが、考えてみれば『V−room』で実際に「愛し合う」のは「小サティ」なのだから「小サティ」=「愛欲」=「エウプロシュネ(Euphrosyne)」、「ナビィ」=「純潔」=「タレイア(Thalia)」、「大サティ」=「美」=「アグライア(Aglaea)」でもいいかもしれない……と、思わなくもなかった。
 もちろん、そんな事を言葉にしたらまた一波乱ありそうだから、口にした事など無かったが。

「どうしたんですか?」
 ふと気付くと、小サティ──ややこしいのでここではサティとしよう──サティが幸一の顔を覗き込んでいた。どうやら自分の考えに没頭してしまっていたらしい。さらさらとした髪がサティの肩を滑り落ち、なんとも言えない良い匂いが“ふわり”と香ってくる。サティの香りだった。シャンプーの匂いとか香水の匂いとか、そういう人工的な香りではない、やわらかくてあったかくて、それでいて甘くて幸せになれる匂いだった。
 美少女──それも、整い過ぎて怖いくらいの、人間離れしたでたらめな美しさだった。
 瞳がわずかに潤み、目元から頬にかけてほんのりと赤らんで、ふっくらとした唇が今すぐにでもキスして欲しそうにうっすらと開いて、真珠色の前歯がその隙間から覗いていた。誇張でも何でもなく、サティは幸一のそばにいるだけで性的な高ぶりを感じているようだった。恋心が高ぶって体が相手との接触を求めている状態だ。ギャルゲーで言えば「好感度MAX状態」というヤツだった。エロゲーだと「全フラグ回収によるエッチシーン直前状態」だろうか。きっといきなりキスしてもおっぱいを掴んでもあそこに手を当てても、サティはうっとりと身を任せてくるに違いない。何を言っても何をしても好意的に受け入れてもらえる、正に男の夢のような状態と言えた。
 人間離れした美少女に、恋する瞳で見詰められ、恋する吐息を感じながら、恋する仕草で愛を誘われる。
 これを夢と言わずして何とする。
 だが、ほんの数ヶ月前まで幸一は真性のロリータ好きだったのである。だから、ナビィの姿ならばいざしらず、「小サティ」の姿の彼女を抱くなんて考えもしなかった。その証拠に、初めての『愛合』の時はひどかった。散々だった。目の前で“だぷんだぶん”と盛大に揺れまくる、ほっそりとした体に似合わない超重量級のデカパイを見ながら、そういえばヨマ姉もチチでかかったなぁ……と思い出した途端、盛大に吐いた。
 正常位だったから、よりにもよってサティのおっぱいと顔に「どばっ」とかかった。
 最悪だ。
 最低だ。
 それからというもの、最初の頃は『愛合』のたびに吐いた。
 仮想空間の中だというのにふざけた話だ。
 そうなっては『愛合』どころか勃起もままならないほどだったが、その辺りは研究員がシステムを弄って半強制的に勃起状態にされて問題無かった(その代わり、幸一の精神的ダメージはものすごかった)。
 それが出来るなら嘔吐感などデータ的に削除出来ないのかとも思うが、それはそれでとても難しいのだという。
 本当かどうかはわからないが。

 ──ヨマ姉。

 日向野夜摩子。
 幸一の記憶の中で、深く深く楔のように打ち込まれた人の名前だ。
 幼い頃から、幸一は4つ年上の彼女に散々いじめられていた気がする。思えば彼の根幹的な女性恐怖症の原因は、どう考えてもそのヨマ姉に加えられた虐待の数々なのだが、彼女がその事を綺麗サッパリ忘れており、それどころかなんだか懐かしくて美しい思い出に変換されていたのを知ってひどく傷付いた。おまけに、大学生の時にキャッチセールスの客引きの女に騙されて身も心もボロボロにされたのと同時期に、実の姉であるヨマ姉によって幸一は「ちょっとチンポ貸せ」の一言と共に、力ずくで犯されたのだ。
 ひどい仕打ちだった。
 女性不信でどん底まで落ち込んだ弟を、あの姉は生きたバイブ代わりにしたのである。
 それこそ誰にも言えないような深い傷を心に負った。幸一はそれで完璧な女性恐怖症になったのだ。大人の女どころか、ただ胸が大きいだけで恐怖の対象となった。
 『神の息吹[God bless』で彼女が死んだ時も、全然悲しくなかった。むしろ清々した。でも心に刻まれた傷は、彼女が死んだくらいでは癒える事は無かったのだ。
 そんな幸一が、どうしてサティのパートナーとなったのか。

 仕方無かった。

 適正実験において「他」がまるで比較にならないくらい、それこそ完璧なほど、彼はサティとの適合値が高かったのだから。
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