■感想など■

2010年12月19日

[PAIN]『Piece.00』『秘密』〜SECRET OF MY HEART〜

■■ Scene.02 ■「逡巡」■■

「このままだと、あの娘は壊れちまうぞ、と」
 部屋に入ってきて開口一番に、その青年は言った。
 相変わらず、着崩した制服が一見だらしなく見えるが、彼にしてみればこれが彼のスタイルらしい。それでも決して不潔に見えないのは、きちんと身ぎれいにしているからだろうか。
「何の話だ?」
 窓の無い部屋の奥、普段は滅多に机に向かわないこの部屋の主は、うっそりとしたその巨体を皮張りの椅子に窮屈そうに身を押し込め、サングラス越しに青年へ視線を送る。
「…………字……見にくくねえか?」
 青年はドアにもたれ、呆れたように彼を見ていた。

 青年も巨漢も、その眼光と身のこなしから、共に只者ではないと思わせるが、れっきとした「企業体」の構成員(社員)であり、総務部調査課のメンバーである。
 もっとも、カンパニーの総務部調査課とは言っても、その仕事はデスクワークを主とする訳ではない。毎日のように世界中を飛び回り、主に会社の暗黒面を担当する、真のエキスパートなのだ。裏の仕事を主とするため、デスクも本社ビルの中にありながら、他の社員にもその場所を知っている者は少ない。しかも、カンパニーの現社長、ルーファウスの護衛時には、数週間に渡り本社を留守にする事さえあるのだ。
 しかし、だからといって提出書類が全く無いというわけではないから、当然、処理すべき書類は日に日に溜まってゆく。タークスチーフのツォンには、アリアという美人で切れ者の秘書がついているが、タークスの一構成員でしかない彼らにはそんな便利な者はいないため、当然のように二人のデスクの端末には、いつも未処理ファイルがパンク寸前の状態となっていた。
 それでも、タークスの新メンバーであるイリーナが配属された当初は、あまりにも未処理の書類が多いために、彼女が見るに見かねて二人の秘書めいた事もしてみせていた。だが、彼女も仕事に馴れるにつれて少しずつ重要な任務を任されるようになると、時間的にも精神的にも余裕を無くし、やがて、したくても出来なくなっていったのである。彼女も、彼ら……タークスの先輩達と同じ時間を生きるようになった……というわけだ。
 だからといってイリーナが二人の先輩のように書類を溜め込んでしまうようになったかと言うと、決してそんな事は無く、どんなに忙しくとも自分の書類だけは、必ず期日までに提出するようにしていた。それはおそらく、他ならぬ愛するツォンの信頼を得たいという、タークスとしては、いささか可愛らし過ぎて、似つかわしくない想いからに違いない。
 自分が、ツォンの性欲の処理の相手としてしか思われていない事に全く気付いていないのが、哀れと言えば哀れであったが……。

「あんた、あのでっけえオッパイが好きなんだろう?」
 青年は分厚いドアにもたれたまま、片方の眉を上げたままニッ……と笑った。
 神羅ビルに木のドアがあるのは、タークスルームだけである。デスクに座って黙ったまま青年を見やる禿頭(とくとう)の男は、この木の温かみというヤツがどうにも気に入ってしまっている。それは、ここ神羅ジュノン支社も同じであった。タークスが長期滞在時に利用するゲストルームは、チーフのツォンの趣味か、それともデザイナーの趣味かはわからないが、本社のタークスルームとほとんど寸分違わない内装が施してあるのだ。
「……違う」
「隠すなって。全部わかってるんだぞ、と」
 そう言った途端、青年はごく自然な動作で眼前に手を上げた。
 いつの間にか、その指には、ボールペンが挟まれている。
「よせよ。鼻の穴が3つになっちまうぞ、と」
 くっ……と笑い、青年はそのボールペンで赤毛の頭を掻いた。
「あの二人は、どうなる?」
 大男は椅子を巡らせるとその呪縛から体を解放し、重厚なデスクに直接腰掛けて咥えたタバコに火を付けた。
「タバコ……やめたんじゃなかったのか?」
「………………」
「ま、いいさ」
 青年は、ひょい……と肩を竦めると、目の前のソファにダイブする。勢い良く尻から着地した彼は、高く脚を組むと、ポケットからチョコバーを取り出して包装紙を破き、おもむろに齧(かじ)りついた。
「………………」
「食うか? いらない? あ、そう」
「………………」
「ああ……奴らな、まあ、オンナの方はまずヒゲダルマと色ボケババアのオモチャだな。リーブが相変わらず強固に反対してるらしいが、あのオヤジにゃ発言権なんてあるワケないぞ、と」
 一本目のチョコバーを食べ終え、次を取り出す。
「その後は……本社に移して宝条の奴のモルモットか、ここで一般兵やソルジャーに払い下げだぞ、と」
 実に美味そうにチョコバーをたいらげるが、見ているこちらは胸が悪くなる事この上ない。
 だが、チョコバーに噛り付く子供のような仕種とは裏腹に、その眼光は鋭い。
 矮小で卑怯で残忍な重役、ハイデッカーとスカーレットが相手では、いくら「あの娘」でも、3日ともたないだろう。
 精神崩壊・人格破壊を起こした後は、肉体改造か魔晄研究のモルモット、そしてその後は社員の慰安用奴隷……。
 カンパニーに反抗した女の末路は、大体こんなものだ。
 実際、アバランチの女性構成員のほとんどが、捕まった後同じような運命を辿っている。
 そして男の場合は……。
「バレットとかいうオヤジは、殺してバラしちまうらしいぞ、と。宝条がモルモットに欲しがったらしいが、スカーレットが自分の手で殺したいらしいぞ、と。昔、なんかあったな、ありゃ」
「………………」
「まあ、それでも、バラした後の臓器は、大切に使わせてもらうぞ、と」
「………………」
 何事かを考え始めた大男に、青年はこの部屋に入ってきた時から、ずっと手に持っていた瓶を、投げて寄越した。
 男は空中で器用に受け取り、ラベルを見る。それは本社でも滅多にお目にかかる事のない、コレル特産の10年モノのウイスキーだった。
「あの娘、壊れちまうと言った筈だぞ、と」
「………………」
「まあ、目の前で好きな男がセフィロスのコピーだとわかったんだ。無理もないぞ、と」
「………………」
「どうせ死ぬんだ。その前に良い思いでもさせてやった方かいいと思うぞ、と。そいつを飲ませりゃ夢心地だぞ、と」
 しゃべり続ける青年に対して、大男は酒瓶のラベルをじっと見たまま動こうとしない。
 だが、青年の言わんとする事が理解できたのか、顔を上げるとボソリと言った。
「………………趣味じゃない」
 おそらくこの酒には、何か神経系の薬物が混入されているのだろう。
 浄化プラントを宝条率いる科学部員によって体内に埋め込まれているタークスは、基本的に毒物・薬物の影響を受ける事が無い。生体に悪影響を及ぼす刺激物や毒物を、集中・濾過・浄化・体外排出する浄化プラントは、アルコールさえも強制排出してしまう。
 つまり、全く酔う事がないのだ。
 男は、薬物を使って女を抱く事を何よりも嫌悪している。
 しかも今回はの相手は、「あの娘」なのだ。
 男はため息を一つつくと、瓶を青年に向かって差し出した。
 途端、青年が、今までのだらけきった雰囲気からは想像もつかない素早さで男の前に立ち、その襟を掴み上げた。ソファから立ち上がり、向かいのソファを乗り越えて眼前に立つその挙動には、無駄というものが一切無い。
「バカヤロどものオモチャにさせていいのか?」
 青年の口調から、ふざけた空気は一片も感じられなかった。
「俺達が『生きよう』と思った、『あの時』の事を思い出せ! ルード!!」
 青年の青い目が火を吹いた……ように見えたのは気のせいだろうか……?
 冷たく、触れるだけで皮膚が裂けてしまいそうな程研ぎ澄まされたナイフを声に変えたなら、おそらく誰もがこうだろうと答えるくらいの鋭さで、青年の言葉が男の胸に突き刺さった。
「……と、まあ、こんな事を言っちまう事もあるぞ、と。俺でもな」
 丁寧にルードの襟を正し、埃を払うように制服を叩いて、ニッと笑う。


「ま、あんたがいいなら、俺は別にかまわないぞ、と」
 青年は、背を向けたまま軽く右手を上げると、そのまま部屋を出ていった。
 ルードは、酒瓶を両手で回しながら、じっと考え込んでいたが、やがて意を決したようにデスク上のインターホンを2回だけ、押した。
この記事へのコメント
ティファ物が始まって、楽しんでます。
今後も期待しております!
Posted by 池袋 at 2010年12月21日 00:22
 ありがとうございます!
 執筆分は頑張って更新していきたいと思います!
 ……なんか改めて改訂してたら量が膨大でびっくりしましたが(笑)。
Posted by 推力 at 2010年12月21日 19:25
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