■感想など■

2011年01月23日

[PAIN]『Piece.00』『秘密』〜SECRET OF MY HEART〜

■■ Scene.12 ■「瞬発」■■

 ルードが「こうしなければならない」理由を、青年は理解した。
 理解してしまった。
 彼は、ティファをただ辱めるためだけに、「こんな事」をしている訳ではないのだろう。
 だが、それはひどく危険な行為ではないか。
 ともすれば、自分の命すら危険に晒すほどの……。
 青年はそれ故に、ルードの「想い」の強さを、今更ながらその胸に感じていた。
『死を賭して捧ぐ愛……ねぇ……』
 青年には、女に命を懸ける男の心がわからない。「わかりたくもない」というのが、正直なところだ。
 幼い頃、母親に捨てられ、売られて、少年時代を男色家の慰み者として育った自分にとって、女とは奪い、傷つけるモノではあっても、けして愛を捧げる対象では無いのだ。
 スラムでは珍しくない事だが、世界で唯一母を信じて生きてきた少年にとって、母親のその仕打ちは、少年の心に深い傷を残してしまった。
 今、彼にとって信じられるのは、共に死線を越える事の出来る相棒だけだ。
 身体を休める安息の場所など、自分には必要の無いものだと……彼は思っている。

「ひいいいいんっ!!」
 ひときわ高い啼き声が、青年の意識を現実へと引き戻した。
 デスクにうつ伏せに上半身を乗せ、たっぷりと豊かな豊乳をひしゃげさせ、後ろからルードに貫かれながら、素裸のティファが尻を振っている。
「………………ちっ…………」
 女などに、命を懸ける価値は無い。
 その証拠に、「殺したい」と思う男にさえ、簡単に身体を開き、尻を振っているではないか。所詮女など、与えられた快楽の前には、愛すら捨ててしまえるのだ。
「許してっ……ゆるしてっ…………ひっ…………ひいっ…………ひいいっ……」
 激しく打ち付け、責めさいなむルードには、相変わらず表情というものが無い。
 感情を押し殺している証拠だ。
 彼にとっては、これは「仕事」なのだろう。
「…………ばかが…………」
 吐き捨てるように言い、青年は壁から身を起こした。
 そしてそのまま、ティファが覆い被さるように身を任せるデスクに、浅く腰掛ける。
 ツンとした刺激臭が、すえた匂いと共に鼻を打った。彼女の口臭は、胸が悪くなるほどの匂いを放ち、髪は脂と浮き出たフケでみすぼらしい。

 俺なら、例え10万もらっても勘弁だ。

 青年は顔を歪め、哀れみと侮蔑の入り交じった目を向けた。
 今のティファに、彼の姿は見えてはいまい。

 ルードは俺の相棒だ。
 ならば、その相棒のしたいようにさせてやるのも、俺の仕事だろうな……。

 そう、思ってしまった以上、後は実行に移すだけだ。
 何も、相棒のする事をいちいちチェックし、注意し、戒めるだけが相棒の仕事ではあるまい。
 憎まれ役は、多い方がいい。
「どんな気持ちだ? ティファ」

はっ……はっ……はっ……

 息も荒く、顔を歪めて快楽を貪るティファに、青年は酷薄な声音で聞いた。
「どんな気持ちだ? と聞いてるぞ、と」
「いいっ……いいの……いいのぉ……」
 右頬をデスクにつけ、痴呆のように口を開け、涎を垂らしながら快楽だけに囚われているように見えるが、意識は残っている。
 全て記憶し、認識している筈だ。
「いいっ!……し……しんじゃう……しんじゃうぅ……」
 はっはっはっと舌を出し、激しく呼吸を繰り返す様は、発情した雌犬そのものと言える。
「ヤツよりもか?」
「……………………」
 答えはない。
「ヤツには抱かれたのか?」
「……………………」
「ヤツは抱いてくれなかったのか?」
「……………………」
「ヤツが生きていても、お前はヤツの前に立てるのか?」
「……………………」
「笑えるのか?」
「……………………」
「ヤツに抱いてもらえるのか?」
「……………………」
「クラウドに笑いかけられるのか?」
「…………やめて……」
 途切れ途切れの息の下から、ティファはそれだけをようやく口にした。
 後ろから、ルードに貫かれ、激しく尻を打たれながら、ティファは静かに泣いていた。
「クラウドに逢えるのか?」
「やめて……」
「クラウドに話すのか?」
「やめてぇ……」
「クラウドに愛してもらえると思っているのか?」
「やめてぇっ!!」
 ティファは必死に手を伸ばし、青年のスーツの裾を掴んだ。
「放せよ……きたねえ」

パンッ……

 まるで道端に吐き捨てられたチューインガムを見るような眼で、青年はティファの手を払った。
「くせえんだよ」
 哀れなほど顔をくしゃくしゃにし、彼を見上げたティファを、言葉が針のように刺し貫いた。
 しかしその瞳に灯った光に、青年は眉を顰める。
『こいつ……』
 青年は、ティファの事がわからなくなっていた。
 この女のこの目は、男に阿(おもね)り、すがり、快楽に溺れる女の目ではない。
 全てを諦めた訳ではないのか?
 まだあの男の事を胸に抱いているのか?
 ならば、どうして尻を振る?
 いや、それよりも、他の男に体を開き、抱かれながら、どうして愛しい男を思える?
「まだ逢えると思っているのか?お前は」
 ティファは俯き、腰から這い上がる、痺れるような快楽を押し殺した。
「どうしてそう思える?」
 青年が吐き捨てるようにして聞いた。
 その声に、信じられないものでも見ているかのような、わずかな動揺が含まれている事を、彼自身気付いていない。
「あ……愛しているから……。好きだからっ! ひっ…………か……彼にもう一度……あ……逢うためになら……。どんな……事だって我慢……す…………する……。どんな……どんな事だって……耐えられるわ!」
「他の男に抱かれてもか」
「そうよっ!」
 ばっと顔を上げ、ティファはその光で青年の瞳を貫いた。
 青年には、ティファの瞳が、激しい炎を噴いたかのように感じた事だろう。
「それで……彼……にもう一度逢えるなら、生……き延びられるなら、何だってするわ!」
 髪を振り乱し、噛み付くように「吠えた」。
「狂ってやがる……」
「あなたには……わからないわ。体は汚されても……ひっ……心までは……渡さない……」
 くうう……と身を竦め、胎内を蹂躪するルードの動きを堪えた。
「私の……心は……彼のものよ……。……心だけあれば、この体なんか……無くても構わないわ……」
「ヤツはそうは思わないぜ。男は身勝手だからな」
 青年の冷たい声が耳朶を打った瞬間、ビクビクとティファの体が震え、ひきつるように弾けさせて、立て続けにイき、そして果てた。

ぬる……

 ルードが体を離し、モノを抜き出す。彼のモノは、今だ怒張し、てらてらとティファの『蜜』で濡れ光っていた。
 ティファは崩れるように床へ落ち、デスクに体をもたれさせ、ぐったりとしてしまう。
「はっ……あっ……」
 その表情に、「愛しい者」との結合によってもたらされる魂の充足感は、微塵ほども感じられない。

 元来、強姦され、「感じる」女など、いはしない。
 いるとすれば、それはマゾヒズムに濡れる変態性欲者くらいのものだ。
 だが、そのような者ですら、意に添わぬ性交では感じる事は無い。それでも、男は女のソコが濡れれば、感じているのだと思い込む。「濡れる」という事が、単なる女性器の防衛機能だと知る男は少ないのだ。

 今のティファは、心とは、身体とは別に、「薬」によって無理矢理、快感神経と脳内部の快感野を刺激されているに過ぎない。
 だが、そうでもしなければ、『蜜』の分泌すら無かっただろう。
「………………」
 ルードは、ソファに脱ぎ捨てた、ダークブルーの、ビキニタイプの下着を身に着けた。
 体力的に、既にティファは限界に来ている。
 度重なる投薬と強姦によって、現在の彼女には肉体的な余裕が全く無い筈だ。
 だが、それでいい。
 肉体が疲弊し、極限状態に持ち込まれる事で、精神は、魂は研ぎ澄まされ、鋭く穴を穿(うが)つ。
 穴は、必ず穿たれる。
 彼女はそういう女だ。
 ルードはそう信じていた。
 あとは……。
「………………」
 彼の思考は、そこで中断された。
 火を灯しかけたタバコを、ライターの炎から離す。
 デスクにもたれたティファが、呟くように何かを口にしたのだ。
「それでもいい。彼に伝えるだけでもいい」
 乱れた髪が、伏せた顔を覆っている。
 後ろで一まとめに縛ってはいるが、長い髪がほつれて肩に降りかかっている様は、裏路地に座り込み、日々の糧をごみ箱から漁る浮浪者よりも、ひどく惨めに見えた。
「伝える? 何をだ?」
 彼女のかすかな言葉を、青年が耳ざとく聞きつけた。
「……エアリスの……想いよ」
 青年がティファの眼前にしゃがみ込み、眉を顰める。
 何を言っているのだ? この女は……。
「…………クラウドは一人じゃない……。
 ……クラウドは人形じゃない。
 ……クラウドは偽者なんかじゃない。
 ……クラウドはクラウド。
 それを伝えるの……。
 それにまだクラウドには私がいる。
 私が側にいる。
 今度は私が護ってあげるのよっ!」
 徐々に大きくなり、声は、やがて叫ぶが如く放たれた。
 青年は脂でべとべとに汚れた不快な感触の彼女の髪を掴み、ぐいっと引き上げた。
「う……」
 ぷちぷちと、何本かの髪が引き抜かれる。

 何を信じてやがる?
 女なんてのは、刹那的な快楽に沈んだなら、そこに浸り切って無様な声を上げ、人の事など忘れて、自分一人の快楽を求めるものだろう?!
 あの女のように!
 毎晩別の男を引っ張り込み、ついには自分の快楽のために我が子まで道具とした、あの醜い女のように!

「クラウドが何かをしてくれたか? 一体何をしてくれる? 愛してくれるのか? 抱いてくれるのか?!」
 青年は自分でも知らぬうちに、唾を飛ばし、激昂していた。
 この女は何を求めている?!
 何を期待しているんだ?!
「そんなの関係ない! 私が愛したいの! 私が何かをしてあげたいの! 護ってあげたいの! 必要だって言ってあげたいのっ!」
「奴は死んだ!」
「死んでない! クラウドは死んでないっ!」
「死んだっ!」
「死んでないっ! 私が! 今度は私が代わりに死んであげるから!」
 胃がムカムカした。
 吐き気でイライラする。
 青年は大きく息をして、ティファの臭い匂いを吸った。
 こんなに汚され、辱められて、なぜそんな事が言えるのか、青年にはわからない。
 この女はおかしい。
 今まで彼がモノのように抱いてきた女とは、どこか違う。
 いや……同じだ。
 同じでなければいけない。
 女は、愚劣で欲深で、自己中心的な生き物なのだ。
 この女の、化けの皮を剥がしてやりたかった。
 薄ら寒い事をベラベラと口にする、その偽善者面を引っぺがしてやりたかった。
 青年は暗い情念に瞳を光らせ、ティファの鼻面に付きそうな程、顔を近づけた。
「じゃあ俺達が探し出して殺してやるよ。お前がルードに犯されながらひいひい喜んで尻を振った事を教えてやってから、骨の一本一本を砕いてバラバラにして捨ててやる。犬に食わせてやるよ! 欠片も残さないようになっ!!」
 青年は、一言一言、噛み締めるようにしてティファに放った。

 その瞬間のことだ。

 ティファの頬が、瞬間的に膨らんだ。

ぶっ……

 “何か”を飛ばした。
「ぐっ」
 唾の固まりだった。
 唾は、狙い違わず、油断した青年の目を打った。
 彼は咄嗟に身を引き、だが次の瞬間、肋骨を軋ませながら、我が身を酷く重い衝撃が貫いてゆくのを感じた。

 拳底。

 ティファが硬気を溜めた両手を突き出して、第三肋間を目指し、放ったのだ。
「くっ!」
 ヒットの瞬間、卓越した戦闘センスを持って、青年は自ら体を後方に浮かし、衝撃を和らげた。
 だが、完全ではない。
 肺の空気を全て、無理矢理に押し出されたような苦しさが襲う。
 その彼を、ゾッとした予感が捕らえた。

ヒュ……

 唾で見えない左目に気を取られそうになりながら、右側頭部を狙った左蹴りをかろうじて躱(かわ)した。
 髪の毛が数本宙に舞う。
 ……が、すぐさま今度は、左からの「感触」に、その身を引く。
 直後に、鼻先数ミリをティファの踵が通り過ぎる。
 振り上げた左脚が、行きとほとんど同じ速さと重さで振り下ろされたのだ。
 息をつく暇も無かった。
 そして次の瞬間には、後方に引いた頭部を狙って、ティファの右足が迫る。
 体は今だ空中にあるのに……だ。滞空するそのほんの数瞬の間に体の回転、体重移動、練気、その全てをやってのけ、先の左脚での攻撃が単なるフェイントであったかのような鋭さで右足を疾(はし)らせてみせたのだ。
 人間業ではない。
 しかし、それすらも避けうる青年もまた、常人では無かった。
 ティファは、その通常有らざる空中バランスを我が物とし、両脚同時に、青年へ背中を見せて着地すると、すぐさま右肘を青年の股間に向けて放った。

 ……が。

バチィッ!!

「ぎゃっ!」
 高く声を上げ、ティファは床に転がった。
 悲鳴などという生易しいものではない。
 横たわるティファの背中には、真っ赤に火ぶくれのようなものが出来ている。
「ふう……やってくれる……」
 青年は、ようやく大きく息を付き、右手でティファの唾の垂れた左目を拭う。
 その左手には、長い棒のようなものが握られていた。

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