■感想など■

2011年01月18日

[LIPS]『Piece.00』「夜明け」〜決戦前夜〜

■■ Scene.13 ■「決意<ティファ>」■■

 子供の頃は、彼がこんなにも自分の中で大きな存在になるなど、思いもしなかった。
 「ライフストリーム」の中で、彼と自分の過去と向き合った今は、あの頃の事が、不思議と鮮明に思い出す事が出来る。


 近所に住む、金髪の少年と初めて出会ったのは、雨の降る日、私の家の中に、汚れた小猫が迷い込んできた時だったと思う。
 しばらくして扉をノックした少年が、小猫の飼い主なのだと、なぜだか、すぐにわかった。
 散々探し回ったのだろう、自分自身、びしょ濡れになりながら、小猫を抱きしめた少年の瞳が懐かしい。
『お前が連れてったのか?』
 そう言って睨んだ彼を、思いっきり突き飛ばした事も……。


『初めての出会いは……サイアクだったなぁ……』
 うつらうつらと眠りかける彼を見上げながら、彼女は甘く微笑んだ。
『それから……そう』


 彼と遊ばなくなったのは、彼が、どこか冷めた目で私の事を見始めたころだろうか……。
 「ライフストリーム」で、彼の意識は言った。
『いつも、どうでもいいような事でケラケラ笑ってて、みんなバカだと思っていた』
 そういう彼の心に感じたのは、嫉妬……。
 彼は、私があの3人といつも一緒に遊んでいる事に、どうしようもなく腹を立てていたのだと……その時初めて知った……。

『それまで……クラウドが一緒に遊んでいたのは……私だけだったもんね……』

 私から見れば、彼は遊び友達の内の一人でしかなかったのだ。
 けれど彼から見れば、私は、ただ一人の友達だった……。

『私がちっちゃい頃の思い出を忘れても……クラウドはずっと忘れていなかったんだね……』

 小猫を見に彼の家に行った事も、彼の宝物を見せてもらった事も、私にとっては毎日の遊びの一つ……。
 でも、彼にとっては……彼にとっては、忘れられない……忘れたくない宝石のような思い出だったに違いない。
 自分を忘れて、自分以外の男友達と遊ぶ……それは、彼には耐えられない事だったのだろう。
 子供っぽいわがままな独占欲だと言えばそれまでの事。
 けれど、彼にしてみれば、私に嫌われ、「捨てられた」と思ってしまったのだ。
 彼の、私を見る目に、どこか冷めた……諦めにも似た光が宿ったのは……それが原因だったのかもしれない。
 そして、そんな風に見るくせに、いつも近くで声をかけて欲しそうな彼を、私はいつしか「嫌な子」だと……思うようになったのだ。


『そして……あの日……』
 滲んできた涙を拭って、彼女は彼の裸の胸に口付ける。
 彼の匂いをいっぱいに吸い込んで、彼によりいっそう、擦り寄った。


 ママが死んだ日。
 いつも……いつもいつも私達の近くをうろつきながら、自分からは決して声をかけようとしない彼が、たった一人でニブル山を登る私を、追いかけて来てくれた。
 いつも一緒に遊んでいた男の子達は、私が本気だと知ると、さっさと逃げ出してしまった。
 けれど、私は諦めなかった。
 逃げたい子は逃げればいい。
『私は一人でもママに逢うんだ』
 そう思っていた。
 追いかけてきた彼の事も、その時は嬉しいだなどとは思わなかった。
「ママと私が逢うのを邪魔する奴」でしかなかったから。
 だから、必死に止める彼を追い払おうとして、突然駆け出し、そして、崖の側の大岩の影に隠れたのだ。
 その後の事は、本当に覚えていない。
 足元の土が崩れ、バランスを崩した私へ伸ばされた、幼い手だけが、記憶に残っていた。

 7日間意識不明になり、目覚めると、パパに「クラウドとはもう逢ってはいけない」「話してはいけない」と言われた。
 彼が悪いのではないという、私の言葉は無視された。
 「お前は優しい子だから」という、そんな言葉で私の言葉を聞かない大人が、私には、ひどく遠い存在に思えた。
 けれど、私には確かめたい事があった。
 最後に伸ばされたあの手は、きっと彼の手だと思ったから。
 彼だけが、危ない時に側にいてくれたのだと、思ったから……。

『でも、この人は私を避けた……。私がそばにいても、私を見ようともしなくなった』
 静かな寝息を立て始めた彼を、そっと身を起こして見つめた。
 思ったより長いまつげが、ぴくぴくと震えるのを見るのが、なぜだか嬉しい……。

 彼はその時から変わった。
 誰かれかまわず喧嘩をしかけて、例え負けても、何度でも向かっていった。
 それは、負けず嫌いとか、そんなのじゃなくて、どこか、自分を傷つけるような喧嘩の仕方だった。
 それが自分のせいだったなんて、私には気付く筈も無かった。
「一体何が気に入らないの!? 言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!!」
 そう、彼に詰め寄った事もあった。
 それでも、彼は目をそらし、何も答えなかった。
 ただ、悔しそうな、痛そうな顔をした。
 そっちがそういうつもりなら、もう知らない。
 あなたなんか知らない。
 そう思って、私も彼を見るのをやめた……。
 そしてしばらく経った頃、彼に……あの給水塔へと、呼び出されたのだ。

 7年前のあの日、私を呼び出した時、いつもの、どこか荒んで、ギラギラした光が、彼の目から消えていた。
 その瞳を、私はどこかで見た気がした。

『小猫を抱いてた時の、あの時の目よ』

 今ならわかる。
 彼は、本当は誰よりも寂しくて、誰よりも私を必要としていて、そして、誰よりも優しかったのだ。

『だから……私はこの人に言ったんだわ……』
 つ……と彼の胸に指を滑らせて、その温かさを感じた。
 心臓の上で、ゆっくりと指を広げて、その鼓動を確かめる。

 あの夜、空は満天の星空だった。
 その下で見る彼は、ひどく小さく見えた。
 胸が、ドキドキしていた。
 自分でも、どうしてだかわからなかった。
 きっと走ってきたからだと、自分に言い聞かせた。
 なぜなら、彼とは、もうずっと口をきいてない。
 口なんてきいてやらないって思ってたから。
 なのに、彼の呼び出しに、パパの目を盗んでまで出かけていった。

『何かを……期待してたのかな……』
 くす……
 笑みが込み上げる。
「んん……」
 ほっぺたをぽりぽりする彼に、慌てて口を押さえた。

 けれど、彼の口から出たのは、「この村を出る」という言葉だけ。

 確かめたかった事が、急に蘇ったのは、その時。
 私が危険な目にあった時、私が困った時、彼は側にいてくれるだろうか?
 彼は、駆けつけてくれるだろうか?
 言葉は、自然に口をついて出た。

『それが……約束……。大切な……大切な……約束……』
 彼の厚い胸に頭をもたせかけた。
 とくん……とくん……
 規則正しい心臓の音が、心を安らげる。
『そして、来てくれた……私が危険な目にあった時に……』
 涙が満ちた。
 これで、何度目だろう……。
 今日だけで、一生分の涙を使い切ってしまいそうだ。
『私ね? ずっと忘れた事無かったんだよ? ずっと……ずっと考えてたんだよ? クラウドの事、本当に考えてたんだよ?』
 彼の胸に頬をすりよせて、その温かさをゆっくりと感じた。
『だから嬉しい……嬉しいよ……クラウド……』
 ふと、髪を撫でられた。
 顔を上げると、彼がいぶかしげに見ている。
「…………どうした?」
 困ったような顔をして、私の涙を拭った。
「ううん……なんでもない……なんでもないの……ただ……」
「ただ……?」
 私は口をつぐむと、少し伸びをして、彼の唇をねだった。
 すぐに彼は答えてくれる。
 それが嬉しくて、彼の胸に身を乗り出し、胸を押し付けつけるようにして甘えた。
 長い口付け。
 情熱的なキス……。

 泣きたくなるほどの幸福感……。
 今、この時のために生きてきたのでは? とさえ思える充実感……。

 私は負けない。

 必ず……必ず勝つわ。
 この人と……そして仲間と一緒に。

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