■感想など■

2011年01月20日

[LIPS]『Piece.00』「夜明け」〜決戦前夜〜

■■ 最終章 ■「決意<クラウド>」■■

「私……私ね? ずっと『おとぎばなし』が嫌いだった」
 彼女は俺の唇から解放されると、深く息をついて俺の首にかじりついた。
 ごろごろと甘えて、身体を摺り寄せてくる。
 豊かな乳房が、ふにふにと俺の胸と腕に押し付けられる感触が嬉しい。
「…………どうして?」
 髪を撫でながらそう聞くと、とろけそうな笑みを浮かべてちゅっちゅっと、俺の胸にキスをする。
「『そしてお姫様は、いつまでもいつまでも、王子様と幸せに暮らしました……』それが嘘だってわかったから……」
「嘘?」
「そう……。そんな幸せな女の子なんて、今まで逢った事ないもの」
 俺の胸に頬をつけながら、ふう……と息をつく。
「……」
 長い黒髪を指に絡めて、彼女の次の言葉を待った。
「『幸せ』って何? 『いつまでもいつまでも』って、どのくらい?」
「……」
「誰に聞いたって、答えてくれなかった」
「……」
「ううん……答えられなかったのよ。だって、そんなの嘘だもの。誰も見た人なんていないんだもの」
 彼女の声が、急に硬質を帯びる。
 かりかり……と爪で俺の腕を引っ掻いて、すぐに嘗めた。
「ティ……」
 そして彼女が次に口にした言葉は、俺を驚かせるのに十分すぎる程だった。
「幸せを幸せなままにしておくには、お姫様と王子様は、結ばれてすぐ『デス』で死ななくちゃいけないのよ」
 とっさに言葉が出ない。
 何を言っているんだ?ティは……。
「おいおい……」
 俺がおどけて肩を竦めると、彼女は顔を上げて噛み付くように俺を見た。
 挑むように俺を見つめ、こくん……と唾をのみこんで、そして目を伏せる。
「だってそうでしょ? 『愛』が消える前に……、『愛』がまだ瑞々しい内に二人とも死んじゃえば……そうすれば、二人の『愛』は永遠じゃない?……」
 ティ……。
 俺は何を言おうか迷っていた。
 彼女の不安が、手に取るようにわかる。
 ついさっきまで、何かを決意していたのが、既に挫けてしまったらしい……。
 俺は彼女の頭を抱くと、さらさらとした黒髪を指ですいて、彼女の可愛い耳を指でなぞった。
「んん……」
 ぴくん……と震える彼女は、身じろぎして俺の胸に頬をつける。
 そのまま、俺のするままに任せた。
「じゃあティは……今すぐ俺達は死んだ方がいいって思ってるんだな?」
「…………」
「俺は嫌だ」
「…………」
「ティと一緒に死ぬなんてゴメンだ」
「…………」
 彼女が、はっと息を呑むのがわかる。
 身を強ばらせて、息をひそめて俺の言葉を待っている。
 俺はたっぷりと時間をかけてから、出来る限り優しく、言った。
 彼女を不安にさせているのは、俺なのだ。
 そう、わかったから。
「ティと……生きていたい」
「…………」
 ゆっくりと彼女が顔を上げる。
 目が潤んでいた。
 ほつれた髪が頬にかかって、たまらなく色っぽいが、今の俺には、彼女の震える唇にこそ、視線を注いでいた。
「ティと生きていきたい」
 もう一度ゆっくりと言う。
 両手で彼女の頬を包んで、真っ直ぐ、俺に顔を向けさせた。
「…………」
「ティはそう思わないか?」
 震える唇は何も紡がない。
 ふるふると震え、すがるように俺を見つめる瞳から、涙が流れた。
「幸せなお姫様がいないって言うんなら、自分がなればいい」
「……………………」
「ティは……今幸せなんだろう?」
 こくこくこくと、一生懸命にうなずく。
 涙が散って、俺の胸にかかった。
「王子様がチョコボ頭じゃ……不満か?」
 俺が笑いをこらえながらそう言うと、ふるふるふると、また一生懸命に、今度は首を横に振る。
「エアリスも……きっとそれを望んでいる」
 意識しないまま出た俺の言葉は、彼女を傷つけてしまったらしい。
 はっとして顔を強張らせた彼女は、自分が言った言葉、
『二人とも死んじゃえば二人の『愛』は永遠』
 という言葉に、激しい自己嫌悪と羞恥を感じたようだった。
 たちまち、顔を歪めて、大粒の涙を流し始める。
「ごめんなさい……ごめ……ごめな……ごめんなさ……」
 ひぐっ……としゃくりあげ始めた彼女を、ぎゅっと胸に抱きしめる。
 その温かさと、震えは、俺に力を与えてくれる。
「お姫様は泣き虫だな……うん。やっぱり泣き虫だ」

         §         §         §

 泣き止んで、じっと俺の胸に頭をもたせかけていた彼女は、何が面白いのか、ずっと俺の乳首をいじっている。
 そうして、いたずらっぽく、俺の顔をうかがうのだ。
 俺が、どんな顔をしたらいいか困って眉を顰めると、くすくすと笑う。
「少し……寝た方がいい……疲れただろう?」
 俺はいたずらっ子の手を押さえて、出来るだけ顔を引き締めて言った。
「うん……」
 おもちゃを取り上げられた子供みたいに、彼女はちょっとむくれてぷう……と頬を膨らませてみせたが、すぐににっこりと笑って、俺の腕に頭を乗せた。
 そのまま体を丸くして、体温をもっと感じたいとでも言うように、俺の腰に手をまわして、体を摺り寄せる。
 俺は、彼女が安らかな寝息を立て始めるまで、彼女の長いまつげを見ていた。

 夜明けは……まだ来ない。
 「あの男」との、最後の決着が着くまでは……。
 それでも、今は眠ろう。
 この温もりがある限り、俺は一人ではないのだから……。

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