■感想など■

2011年01月25日

[LIPS]『Piece.00』「夜明け」〜決戦前夜〜

■■ 補足 ■「そして朝日の中で……」■■

 ゆっくりと……ゆっくりと……。
 クラウドは、意識がまどろみの中を、光に向かって浮き上がっていくのを感じる。
 ……と、同時に、さらさらとした感触が、くすぐるように腕の上を滑るのもまた、感じていた。
「ん……」
 ぼんやりと目を開け、天井を見つめる。
 まだ部屋は薄暗い。
 朝日は、まだ顔を出していないらしい。
 クラウドは、さらさらの原因を右腕に認めて、見下ろすようにして確認した。
 すぐ目の前にある、艶々の……黒髪。
 さらさらの原因。
 腕にふりかかり、クラウドの腕を独占している、可愛い征服者の眠りを護っている。
「……」
 腕の感覚が無かった。
 どうも、ずっとこうしていたらしい。
 あのまま……二人とも素裸のまま、シーツにくるまって彼女に腕枕をしていたのだ。

 ティファと………………した。

 その事実が、今更ながら、彼の心に蘇る。
 記憶は鮮やかだ。
 ティファは、唇も、胸も、髪も……体中全てを、彼に捧げ、そして彼は、全てを受け止めた。
 狂おしいほどの愛しさのままに。
 クラウドは、ティファの豊かな髪に半ば顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
 ティファの匂い。
 太陽の匂い。
 草原を渡る風の匂い。
 やんちゃな仔犬の匂い。
 それは、温かな命の匂いだ。
「ん……」
 身じろぎしたティファの顔を、そっと覗き込む。
 頬が薄明かりの中で、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。
 金色の産毛が、彼の吐息に柔らかくそよいだ。
「ふ……ん……」
 ティファが、むにゃむにゃと口を動かし、にこぉ……と、とろけそうな笑みを浮かべた。
 ……どんな夢を見ているのだろう……。
 ふにふにと鼻をひくつかせて、こしこしと鼻の頭を掻く仕種が愛しい。
 満ち足りたように穏やかな寝顔は、クラウドにとって、何物にも代え難い宝だった。
 この寝顔を護るためなら、どんな敵にだって向かって行けるだろう。
「…………もうすぐ、夜明けだな……」
 我知らず、言葉が口をついて出た。

 決意は揺るがない。

 例え今日、誰も来なくても、彼は闘うつもりだった。
 過去と、憧憬と、恐怖と、畏怖と、……そして憎悪と。
 奴≠ヘそこにいる。
 決着は……俺の手でつけなければいけない。
 決して気負いからではなく、そう思うのだ。

「う、うん……?」
 ティファの肩を、そっと抱きしめると、彼女はぴくん……と身を震わせて目を開いた。
 長い睫を、2・3度パチパチとさせる。
 そうして、自分がまだ素裸で、二つの乳房を彼の胸と脇腹に押し付けている事に気付くと、途端に耳まで赤くして身を縮こませた。
 ティファも、数時間前までの出来事を思い出しているのだろう。
 クラウドの腕に額を摩り付けて、彼の視線から隠れるようにしていたが、やがて、ふ……と肩の力を抜き、彼の胸に頬をのせた。
「おはよう、ティファ。もうすぐ夜が明けるよ……」
 ティファは「ほう……」と息をつくと、右手でクラウドの厚い胸を撫でた。
「うん……。おはよう、クラウド」
 そうして、ちゅっちゅっ……とクラウドの胸に、腕に、キスを降らせる。
 彼は優しくティファの髪を撫で、そして、ごく自然に口付けを交わした。
 互いの唇を合わせるだけの、軽いキス……。
 けれど、何度も何度も触れ合わせた。
 頬を互いにすりすりと擦りあわせ、その柔らかさを楽しみ、その熱さにときめきが蘇る。
 ティファはたまらなくなって、顔を離し、クラウドの目を真っ直ぐに見つめた。
 何か言おうとして……そして止め、再びぽふ……とクラウドの胸に頬をつける。
「もう少しだけ……このままでいさせて……」
 声が湿り気を帯びていた。
「二度と来ない、この日のために……。せめて、今だけは……」
 涙ぐんでいるのだろうか……。
「ティファ……それは違うよ。それは違う」
 ティファの髪を優しく撫でながら、クラウドは呟くように言った。
「確かに……今日という日はもう来ない。二度と。けど……」
 クラウドは、一旦言葉を切って、大きく息をついた。
「今日のような日は、これから、いくらでも迎えられる。絶対。そのために、俺達は行くんだから」
 彼女の裸の肩を、きゅ……と胸に引き寄せる。
「…………」
 肩を抱いたクラウドの手に、彼女はそっと手を重ねた。
「そうよね」
 そして見上げる瞳に、涙は無い。
 赤みがかった瞳は、キラキラと輝き、命の力に満ちている。
 クラウドは、この、強い瞳の光が好きだった。
 昔から……。
 そう、もう随分と昔から、初めて逢った時から、好きだったのだ。
「そうよ。ずっと……これからもずっと……こうして……」
「ああ」
「ずっと……いっぱい……えっちしたいし……」
 少し目を伏せて、恥かしそうに言う。
 クラウドは知らず、頬が緩むのを感じる。
 だから、殊更に大袈裟に眉を上げると、「やれやれ」とでも言うかのように息をついたのだ。
「……なによぉ……」
 ティファがぷっ……とふくれてクラウドを睨んだ。
「ティファはえっちだな……って思ってさ」
「いいじゃない。別に……気持ちいいんだもん」
 ティファは、クラウドの「いぢわる」に、その可愛らしい唇を突き出して上目遣いに抗議した。
「お? 開き直ったな?」
「そうさせたのは誰?……クラウド……いじわるなんだもん……」
 ちゅう……と彼女に口付ける。
「あ……あふ……ほら……すぐそうやってごまかそうとするし……」
「ふふん……」
「もうっ! どうしてそんなにいじわるなの? 嫌い!」
 かぷっ……とクラウドの肩に噛み付いた。
 しかし、すぐにぺろぺろと嘗める。
 ついてしまった歯形を癒すように……。
「嘘……好き」
 くくく……と喉を震わせてクラウドが笑う。
 そうしてまた、今度は長い長い口付けを交わした。

「じき、約束の時間だ。みんなが来る前に、ちゃんと服を着ておかないとな」
「……うん……」
 名残惜しそうにクラウドから体を離し、ティファは身を起こした。
 乱れた髪を掻き揚げ、両手でまとめる。上げた腕の動きに、豊かな乳房が揺れた。
「みんな……来てくれるかな……。私達と……私達と一緒に、闘ってくれるかな?」
 不意にティファは、シーツで胸元を隠しながら、クラウドを振り返った。
 クラウドは、横たえた体のその側にある、つるんとした剥き出しのティファのお尻を、右手でさわ……と撫で、いたずらっぽく笑った。
「やん……もう……真面目な話してるのよ?」
 くすぐったそうに身をよじるティファから視線を反らし、天井を見つめる。
 その表情は、あくまで穏やかだ。
「……どうかな」
「信じてないの?」
 ティファの言葉に、目を閉じ、頭の後ろで両手を組んだ。
 そうして大きく息をつくと、
「違うさ。でも、みんながみんな、自分がどうして闘っているのか、自分がどうして闘わなければいけないのか……それをわかっているのか、俺にはわからないだけだ。愛する者、護るべき者と一緒に、残りの日々を静かに過ごしたいと思っても、それを責める権利は、俺には無い」
 投げやりではなく、自嘲でもなく、静かにそう言ったクラウドの裸の胸に、ティファは左手をそっとのせた。
「クラウド……」
 つう……と彼の胸をなぞり、首をなぞり、そうして、彼のちょっと荒れた唇を撫ぜる。
「みんな……みんなきっと来てくれるわ。私達のように、きっとみんな、自分の進む道を見つけてきてくれる。
 ……信じましょうよ。みんな、強い人だもの。バレットも……シドも……ナナキもユフィもヴィンセントもリーブ……ケットも……」
「そうだな……ティファ……」
 優しく笑うクラウドに、ティファはまた、甘い口付けをねだるため、ゆっくりと覆い被さっていった……。

         §         §         §

「わかっちゃうかな……」
 下着で、そのさわさわと柔らかな『茂み』を覆い、ぴっちりと引き上げながら、ティファは呟いた。
「何が?」
「ダメ、まだ見ないで」
 振り返ろうとしたクラウドに、慌てて制止の声を投げかける。
「今さら……」
「でもダメ」
 呆れたような彼の声に、あくまできっぱりと言い放つ。
 確かに、ティファの体の全てを、クラウドは知ってしまった。知らない所は一つもない程に……。
 でも、それでも、恥かしさには、馴れそうも無かった。
 今はまだ……。
「ふう……」
 やれやれと肩を竦め、既に身支度の済んだクラウドは、ソファに座って天井を仰いだ。
「それで? 何がわかっちゃうって?」
 ポーチからニプレスを取り出そうとして思いとどめ、フルカップのブラをバッグの下の方から引き出した。
「だって……」
 ブラはまだ新品同様の、シンプルなデザインのものだ。
 ゴールドソーサーでエアリスと一緒に買い求めてから、なんとなく身につける事を避けていたのだが、この闘いには付けていこうと、彼女は思った。
 この下着には、彼女の想い出がある。彼女……エアリスとの、最初で最後のプライベートショッピング……。
 リップ、香水、下着、ジュエリー……ドレス……。
 何時間でも眺めていた。
 飽きる事なんて無いんじゃないか……そう思う程。
 下着売り場で、クラウドをからかったのが、つい昨日の事のようだ。
「だって下着の替え……持ってくるの……忘れたんだもん……」
 前かがみになり、たっぷりとした重い乳房を、カップで受け止める。そうして後ろ手にホックを止め、身を起こして、脇に流れた肉をカップに寄せた。
 下から持ち上げ、揺すり、調節する。カップはぴたりとして、ティファの豊かな乳房に気持ちよくフィットした。
『貴女、も一つ上のカップ、付けた方がいいわ』
 エアリスの言葉が蘇る。
「それで何がわかるんだ?」
「もう! ナナキがいるのよ!? シャワー浴びたって、下着の……匂いは……気付かれちゃうわ。そうしたら……クラウドと……」
「セックスしたのがバレるって?」
 身も蓋も無い言い方に、ティファはバランスを崩し、体がぐらり……と傾いたのを感じた。
 挫けそうになる心を奮い起こして、向こうを向いているクラウドを睨む。
「はっきり言わないでよ!……もう……。クラウドが悪いんだからね」
「……どうして」
「だって……」
『タンクトップの上から嘗めちゃうし……』
 言葉を飲み込む。
 思い出すだけで、じんわりとしてしまう。手に取ったタンクトップからは、クラウドの匂いが濃く香っているのだ。
 うず……と腰に甘い痺れが走るのを強引に振り払って、ティファはタンクトップを身につける。
「いいの!とにかく、クラウドが悪いの!」
「悪者はいつも俺だな……」
「そうよ、だからみんなが来る前にハイウインドに帰って着替えなくちゃ」
「ティファは、俺とこうなった事を、みんなから隠したいのか?」
「わざわざ知らせる事無いって言ってるの! どこの世界に堂々と『私達えっちしました』なんて言う恋人がいるのよ!」
「そうかなぁ……。結婚式なんて、どう考えても『私達、これからえっちします』って言ってるようなものだろ?」
 ティファは無言でクラウドの後頭部を叩いた。
「いて……何だよ」
「結婚式と一緒にしないで!」
 ティファは泣きたくなって来た。

 どうしてこの人はこんなに鈍感なの……?

 クラウドに女性の気持ちがわかるとは思っていないが、これではひどすぎる。
「あなたのそういうところ、私がこれから直してあげるからね」
 そうしてぎゅ……と後ろからクラウドを抱きしめる。
 彼のツンツンチョコボ頭に頬を摺り寄せて、彼の匂いを胸一杯に吸い込んだ。

         §         §         §

 クラウドの別荘を出てハイウィンドに一旦帰り、その停泊場所で二人は仲間達を待った。
 約束の時は迫る。
 メテオが落ちてくるまで、あと4日……仲間と別れてから、3日が過ぎていた。
 今日の朝が、待てるギリギリの時間なのだ。
「…………」
 風が強い。
 コスタ・デル・ソルの岬に停泊したハイウィンドが、時折風鳴りに震え、悲鳴を上げるかのような音を立てている。
 クラウドは、すぐ側に座るティファを見た。
 表情がこれ以上無いと言うほどに、堅い。
 まだ、誰も……仲間は誰一人、ここにはやって来ていないのである。
「…………」
 吹き乱れる髪を押さえ、ティファは哀しげにクラウドを仰ぎ見る。
 クラウドは静かに、ただ、微笑んだ。
「そろそろ時間だ」
「でも、まだ……!?」
 たまらなくなり、立ち上がってクラウドをすがるようにして見つめる。
 その瞳は、彼の青みがかった魔晄の瞳を、真っ直ぐに捉えていた。
「いいんだよ、ティファ」
 クラウドは、ふ……と視線を反らし、どこか遠くを見るようにして、ぽつりと呟いた。
 寂しさでもなく、哀しさでもなく、何か形容しがたい透明感が、彼の声を覆っていた。
『どうして……?』
 ティファは何か言いかけようとして……止めた。

 彼の瞳が、哀しみを写していないのなら、私はそれを受け止めるしかない。

 そう思ったのだ。
「昨日、ティファも言ってたろ?」
 空を仰ぎ、ゆったりとその身を浮かべるハイウィンドを見つめ、そして視線を、ティファへと送る。
「少なくとも俺たちは、ひとりぽっちで行かなきゃならないってわけじゃない」
 胸が熱くなる。
 ティファは手を胸に当て、吐息をついた。
 曇りは……無い。
 クラウドと共にある。
 クラウドと一緒にいる。
 闘う。
 共に。
 それだけでいいと、思った。
 私は、私と彼の未来を護りたい。
「うん……。そうだね!」
 自分でも驚くほどすっきりとした声が、口を突いて出た。
 迷いの欠片も無い。
 クラウドはまぶしそうにティファを見、きゅ……と引き寄せて、その頬に軽く口付けた。
「そうだ」
 そうして、んん……と大きく伸びをして、まるで近所の雑貨屋にミネラルウォーターを買いに行くほどの気軽さで、言った。
「よし! それじゃ、行こうか!」

         §         §         §

 太陽はやがて、天空をあまねく照らすだろう。
 いつもと変わらぬように。
 けれど、それはもう不変の、当たり前の風景ではない。
 護らなければいけない。
 星のために。
 何より自分のために。
 大切な人達のために。
 そして……。

 かけがえの無い……愛しい人のために。


         −おわり−

■■[LIPS]『Piece.00』「夜明け」〜決戦前夜〜■■

「2010/12/07 01:00」投下開始
「2011/01/25 01:00」完了
この記事へのコメント
素敵過ぎます

Posted by at 2011年01月25日 21:30
 ありがとうございます!
 励みにします!
Posted by 推力 at 2011年01月26日 10:18
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