■感想など■

2011年02月02日

[LIPS]『Piece.01』「二人でいること」〜君色に染まる〜

■■ Scene.01 ■「クラウド」■■

 キッチンから、夕食の用意をする音が聞こえる。
 野菜を刻む音。
 鍋の蓋を開ける音。
 水道の蛇口をひねる音。
 水の音。
 棚から食器を取り出す時の澄んで乾いた音……。
 音を立てているのは、黒髪の女性だ。
 俺の……まだ若い奥さん。
 彼女と結婚して、もう2ヶ月になる。

 新婚当時は「もうちょっと遠慮しろ!」とさえ思っていた、かつての仲間達の訪問も、さすがにこの頃はめっきり少なくなった。
 だからと言って、寂しいとか、そんなんじゃない。
 人は、生活していくものだから。自分達の、本来あるべき生活に戻っただけなんだと、わかっているから。
 まあ、それでも約一名、しょっちゅう我が家にやってくる奴がいる。
 養父よりも遥に利発で可愛らしい養女を連れて。
 俺の家に奴がやってくるのは、奴に言わせれば可愛い娘のマリンがティファに会いたがって駄々をこねるから……なんて言っているが、本当の理由は俺と酒を飲むのを楽しみにしているからなのだ、と、少なくとも俺はそうふんでいる。
 何を隠そう、俺がそうだからだ。
 むさ苦しい野郎の顔なんて見ながら酒を飲むのは俺の趣味じゃない……と思っていたが、あの闘いを共に乗り越えた、いわば戦友だからか、共に飲む酒が妙にうまいのだ。
「ふん……ふふん……ふーん……ラララ……♪」
 キッチンから鼻歌が聞こえる。可愛いお尻をフリフリしながらウキウキと歌っている姿が目に浮かぶようだ。
 ティファが、やたらと機嫌がいいのは、これから夜の事を考えて……だろうか。
 いつの間にか、毎週水曜と土曜は……その……『夜の日』って事になっている。ここの所、仕事上どうにも抜けられない事があって、ずっと“御無沙汰”だったから、いろいろ溜まってるんだろうな……。

 今日のティファは、白地のTシャツとオレンジのホットパンツ、空色のソックスといった、ちょっと「若作り」な「いでたち」だ。ユフィに薦められたホットパンツとお揃いのエプロンをして“若奥様”している姿は、夫の俺から見てもたまらなく可愛らしい。
 決してひいき目ではない……と思う。
 ……たぶん。
 今はエプロンで隠れて見えないが、Tシャツの胸の所には大きくチョコボがプリントしてある。先日俺と買い物した時に、俺が買ってやったあのTシャツを、ティファは一番のお気に入りにしている。

 それも、「プリント柄が可愛い」という理由で。

 俺は、どんな結果になるか解っていたから、やめとけって言ったんだが、彼女が強固に主張したので、結局買う事になってしまったのだ。ティファが嫌がるので口には出さないが、きっと今も彼女のヴォリュームたっぷりなバストで、「デブチョコボ」になっているのだろう。
 それを考えると、なんだか可笑しい。
 買い物をしたその晩、デブチョコボに変身した、ティファ言うところの「可愛いチョコボ」を見て、不覚にも笑ってしまい、それから丸1日の間、一言も口を聞いてくれなかった事も、今となっては楽しい思い出だ。
 そんな事を考えていると、ティファがキッチンの方からひょこっと顔を出した。ディップの入った小さな器を手に持ち、ぐにぐにと混ぜながら下唇をちろっと嘗める。
「クラウド、お皿出してちょうだい」
 はいはい。
 返事をしながら飲み干したビールのスチール缶を握り潰して、ゴミ箱に投げ入れる。
「クラウド、缶は……」
 はいはい、燃えないゴミね。
「わかればよろしい」
 つんと澄まして、その可愛らしい鼻をひくつかせる彼女の頬に、キスをして答えた。
「お皿はこの間買った、あれね」
 彼女はにこぉ……と、とろけそうな微笑みを浮かべてキッチンに引っ込んだ。
 俺は食器棚の中、腰辺りの所にある、グリーンの縁取りの皿を2枚取り出す。
 そういえば、これもティファが気に入って買ったんだっけ……。
 ティファに言わせると、俺は壊滅的にセンスが無いらしい。
『だめよそんなの』
 俺が決めようとすると、ティファはいつもそう言って、横から勝手に決めてしまう。
 元傭兵に食器やテーブルクロスやクッションカバーのセンスを求められても困るんだがな……。あんまり時間がかかるから、シンプルなものに決めてしまおうと思っただけなんだ。
 いつもそんなだったから、気がつけば、部屋はティファの好みで塗りかえられている。初めてここに来た時の内装を、俺はもう思い出せない程だ。
 けど、決して不快じゃないのは確かだ。

 うん。

         §         §         §

「今日はね、いいお魚が手に入ったの。どう?」
 “いただきます”もそこそこに料理をぱくついた俺は、返事の代わりに、彼女ににっこりと笑ってやる。
 けれどティファはそれを無視して、笑顔のまま俺を見た。
「どう?」
 ……どうしても言わせたいらしい。
「ティファが作る料理は、なんでもおいしいよ」
「…………それってなんか嬉しくなーい」
 彼女はぷう……とふくれて、上目遣いに俺を見た。
「でもいいわ。今日は許してあげる」
 そうしてティファは、グラスのシェリー酒を、くいっ……と一口で飲み干した。
 ぽお……と赤らんだ頬が、たまらなく色っぽい。
 彼女は酒には強いはずだが、熱っぽく潤んだ瞳で“ほうっ……”と吐息をついた彼女は、グラスの縁を指で“つつ……”となぞって、俺を甘い眼差しで見つめた。
「ねぇ……今日は……あの……」
「ん?」
「……ね、いいでしょ?……」
「何が?」
 わかっていながらわざとらしくはぐらかす俺に、彼女は唇を突き出して拗ねたフリをした。
「……いじわるね……」
 甘い瞳の光は、艶やかに揺れている。言葉で互いの心を探る事に、悦びを見出している目だ。
 彼女と結婚して、こうして二人でいる事がたまらなく嬉しい。彼女の料理を食べ、彼女の微笑みを見、彼女の匂いに包まれて彼女を抱く事の出来る幸せは、ついこの間までは考えもしなかった事だから。
「もうっ…………今日は……寝させてなんか……あげないから……」
「そりゃ恐いな」
 そうして、濡れた瞳で俺を見る彼女に、俺は肩を竦め、ことさらに怖がって見せるのだ。
 こんな生活がずっと続けばいい。
 ずっと……。

 ……しかし、幸せな時というものは、長くは続かないものだ……。

 俺は、この時程、この言葉を噛み締めた事は無い。

「よう! 元気でやってるか? クラウド! ティファ! おお!? 何だメシかよ! ちょーど良かった、今日シエラからパイをもらってな、食後のデザートにどうだ?! お?! どうしたティファ、恐い顔して。なんだなんだお前ら、いっつもそんな仏頂面でメシ食ってんのか? 結婚2ヶ月で離婚だなんてシャレにならんぞ。おおっ?!」
 俺とティファの間にあった甘い空気を跡形も無く吹き飛ばし、「だみ声」と「床を踏み抜くのではないかとさえ思える足音」と共に入ってきた盟友は、小脇に抱えたビールの樽と左肩に乗せた小さな女の子を床に下ろして、憎めない笑顔でニカッと笑った。
 思わず呆然と奴を見つめる俺に、女の子……マリンがトコトコと近づき、
「はい」
 と、バスケットを差し出した。
 毒気を抜かれた俺は反射的にそれを受け取り、中の美味しそうなパイを見て、そしてティファの方を見て、次に、マリンを連れて隣の部屋へと「戦略的撤退」をした。
 ……決して、とばっちりが恐くて、逃げたんじゃないぞ。

 でも、

「バ〜レッ〜〜〜ト〜〜〜〜〜……」
 目にいっぱい涙をためて、褐色の巨漢を睨み付ける彼女は、今夜も美しかった。


         −おわり−

■■[LIPS]『Piece.01』「二人でいること」〜君色に染まる〜■■
この記事へのコメント
うんうん、アマアマなのもいいよね!
Posted by at 2011年02月02日 22:17
 ですよね〜。
 書いててニヤニヤしてた覚えがあります(キモチワルイな)。
Posted by 推力 at 2011年02月02日 22:44
生きてますか〜?>推力様
Posted by 青玉 at 2011年02月14日 23:25
 死にたくなるほどの闇の中にいます。
 今は、気力がありません……。
Posted by 推力 at 2011年02月21日 22:46
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