■感想など■

2011年01月06日

[PAIN]『Piece.02』「おいらにはわからないこと」〜絡み合う二匹のケモノ〜

■■【1】■■


 生物の、最も重要な役割とは何だろう?

 それを、『彼』は考える。

 『彼』が慕い、絶大の信頼を寄せる老人は、
『自分の“魂の設計図”を、子供に受け継ぐ事じゃよ』
 と言った。
 “魂の設計図”は、「いでんし」とも言われていた。
 生き物は全て、その“魂の設計図”を、過去から未来へと受け継ぎ、受け渡してゆくために生まれてくるのだ……と。
 そのために生き物は「番(つがい)」となり、自分にとって最も相性の良い“魂の設計図”を子供に受け渡すのだと。
 そうして生まれた子は、父と母の良い所を受け継ぐ。
 それを己の子供に伝えるために。

 『彼』の種族は、長命で頑強であるが故に、食物連鎖の頂点に位置し、子供であっても容易に他の生物の餌食になるような事は無かった。
 そのために“滅び”はゆるやかに訪れ、虫食み、『彼』の種族は減少の一途を辿った。
 雌は数年に一度しか孕む事が出来ず、子供は必ず一匹だけ。しかも、ようやく臨月を迎えても死産となる事が多かったのだ。
 故郷を訪れた旅人が言った。
 神は、『彼』等のような頑強な生物が星を覆う事を、決して良しとはしなかったのだと。
 それ故に、『彼』の種族は「番」との繋がりを大事にした。
 すなわち、一度「番」になった二体は、相手が死ぬまで別の者と「番」になる事は無かったのである。

 『彼』の父と母は、『彼』をこの世に生み出してからも、相手を代える事は無かった。今はもういないが、『彼』には妹がいるはずだった。その妹もまた、『彼』の父と母から産まれた、二人の“魂の設計図”を受け継ぐ者だった。
 それが、今は『彼』しかいない。
 『彼』だけが、父と母の遺志を胸に秘め、生きている。
 だから『彼』は誇れるのだ。
 偉大なる戦士の血を受け継ぐ。
 その現実を。

         §         §         §

 そういう意味では、“彼等”の行為は、『彼』の認識の範疇を越えていた。
 常識的では無かった。
 一体の雌が、多数の雄によっての種付けを望むなどと……。
 そしてそれを、雄は受け入れているのだ。自分の“魂の設計図”が、未来に受け継がれないかもしれないのに、それを当然の事のように受け入れているのだ。
 彼等は正常ではなかった。
 何かが狂っている。
 そう思うしか、無かった。

 廊下の暗闇に潜みながらも、『彼』は超感覚でもって、部屋の中の様子を手に取るように把握していた。
 布擦れの音。
 声。
 喘ぎ声。
 濡れた声。
 溜息。
 切なそうな息遣い。
 ベッドの軋む音。
 聞こえるのは、生殖行為の音。
 種付けの音だ。
 異種族である彼等の行為を、『彼』は見た事が無い。その音は『彼』に、抑えられない知的好奇心を喚起させた。
 ドアに近づき、鍵のかかっていないそれを薄く開ける。
 獣でありながら、『彼』は人間用に作られたドアを、音も無く開ける事に長けていた。調度品さえ、『彼』は苦も無く扱ってみせる。それは人間に混じって育った『彼』の、一種の才能と言えた。
「うはっ……うっ……くふっ……あっ……」
 引きつり、喉の奥に何か詰まったようなくぐもった声が、鮮明に耳に飛び込んでくる。闇の中でも日の光の下のように克明に見る事の出来る『彼』の眼は、ベッドの上で繋がる二つの影を見た。

 獣。

 だった。
 サイドベッドのランプに照らされた影は、一つが相手を組み敷き、組み敷かれた方は獣の姿で相手に尻を奉げている。
 『彼』は、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と、得体の知れない興奮で全身の毛皮が逆立つのを感じた。
 人間も獣なのだ。
 オイラたちと同じなんだ。
「ひいいんっ……」
 ひときわ高く放たれた声は、組み敷かれた方のものだ。
 黒髪を振り乱しながら悦びの声を上げる雌は、『彼』の仲間の女性である。
 名をティファという。
 そして彼女を組み敷き、思うまま貫いている雄も、『彼』の仲間の男性だ。
 彼は名をクラウドといった。
 『彼』は、ティファとクラウドが愛し合っている事を知っている。
 そしてそれ故に、彼等二人は「番」なのだと思っていた。ずっと。
「いいっ! いいのぉっ!」
 はしたなく上がる悦びの声は、獣の行為よりも遥かに淫らだ。そして“みっともない”と、思う。少なくとも、『彼』の種族も野を駈ける草食動物も、生殖行為の最中に高く声を上げたりはしないのだから。
「あっ……もっと! もっと! ……あっ……あっ! ……あ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 泣きながら涎を垂らしながら汗を振りまきながら垂れ下がった乳房を振りたくりながら、ティファの尻はクラウドの太股の間で、はじけるような音を立てる。そして声は誰に聞こえようがお構いなしとでもいいたげに、高く高く響くのだ。

 なんと無様で破廉恥な姿だろう。

 『彼』は漂ってくる、汗と涎と愛液と精の、人間の雄と雌の匂いに吐き気を催しながら、それでも目を逸らす事が出来なかった。
 牧場で見た乳牛(ちちうし)のように肥大したティファの乳房は、醜く膨らんだモンスターの毒嚢のようだ。痴呆のように半開きに開かれた唇は、意味不明の言葉を吐き出しながら涎を垂らしている。その姿は優しい瞳で『彼』の毛皮を撫でてくれるいつもの彼女のものではない。強くて優しいティファのものではない。
 そして腰を馬鹿みたいに前後に動かしているクラウドは、戦闘中の凛々しい戦士の姿など夢だったのかもしれないと思わせるほど、雄の本性を露(あらわ)にしていた。彼は少し影のある瞳で、けれどつよくつよく今日を見つめる、『彼』の手本となるべき『戦士』だったはずだ。

 これが人間の交尾なのか。

 これが、生物にとって神聖であるべき生殖の行為なのか。

 『彼』にはわからなかった。
 だから『彼』は、ただ、見ている事しか出来なかったのだ。
「あふっ……くううん……」
 クラウドが、ティファをごろん……と仰向けにする。彼女は自分で陰毛の茂る秘部を両手で押し開き、ぺろりと下唇をなめた。それは、得物の肉を前にした肉食獣の仕種だ。獰猛な光は、ティファの瞳にこそ宿っている……。

ぶちゅっ……ぷぷっ……ぷっ……

「あっはは〜〜〜〜〜っ……」
 笑うかのように空気を吐き出し、ティファは彼の挿入と共に尻を揺すってその侵入を促した。彼はティファの両脚を抱えると、上から打ち付けるようにして覆い被さり、彼女を貫いた。
「はひぃっ!」
 たまらないのだろう。
 振りたくられる頭は黒髪を振りまき、頭上に上げられた両手はシーツを握り締めて震えている。
 『彼』からは、クラウドの硬く引き締まった尻が、ややナナメに見えている。背中の筋肉がうねり、そのうねりが尻の筋肉をより硬くしているように見える。彼の脚の間からは、彼自身の垂れ下がった陰嚢とティファの陰部が、あからさまに覗いていた。逞しい彼の陰茎を、美味しそうに口をいっぱいに開いて呑み込んでいる膣は、だらだらと涎を垂らし、それが太股の内側と尻を濡らして光をはじいていた。
 『彼』の聴覚は、その、粘膜を晒した“内臓”が立てる音を微細に拾う。

ぶびっ……ぶりゅっ……ぶちゅっ……ぶりゅっ……

 粘液質の、ぐちゃぐちゃとした生肉の音だった。
「ひいっ……いっ……ひいっ…………ひいっ……」
 時は永遠に感じられたが、しばらく続けられた律動は、不意にティファが上げた、押し潰されるカエルのような声によって遮られた。
 すると続いてクラウドが「ぐうっ……」と喉の奥でうめき、全身を引きつらせる。
「まっ……まだっ……」
 ティファはこう言った。
 しゃくりあげるような音に引き摺られて聞き取りにくかったが、『彼』の耳には確かにそう伝わっている。そして彼女がそう言った途端、彼は素早く腰を引き、びくびくと体を震わせた。
 『彼』の鼻は、何が起こったのか瞬時に把握した。
 彼は射精したのだ。
 届いてくるのは、濃密な子種の匂いだった。しかし、それはどうやら、彼女の膣内での事ではないようだった。
「…………………………」
 これもまた、『彼』には理解できない人間の行為だった。子供を作る……“魂の設計図”を子孫に伝えるための行為でありながら、どうして人間は、クラウドは、ティファの胎内(なか)に射精しないのだろう……?
 クラウドは深く息を吐くと、無造作に彼女から体を離し、向こうを向いてベッドに腰掛けた。『彼』からは死角になり、彼の表情は読めない。
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