■感想など■

2011年02月08日

[LIPS]『Piece.03』「二人の静謐」〜こぼれる想い〜

■■ Scene.01 ■「ティファ」■■






 …………どこからか……物音がしていた………………。




 …………遠い……とおいところから…………。

 ううん……違う……


 ……あれは……バスルームの扉が開いた音ね……。
 そして…………そしてあれは、キッチンの蛇口をひねる音だわ……。

 ふふふ……

 毎日慣れ親しんだ、私とあの人の「お城」だもの。
 どこに何があるか、何がどんな音を立てるかなんて、目を瞑っててもわかるわ。

 あれ?

 ……足音が聞こえてくる……。

 これは……あの人の足音……。
 おかしいな……今あの人はジュノンに行ってる筈なのにな……。


 そう思っていると、ひんやりとした布が、額にのせられた。
 身体が火照って……だるい……。ぼんやりとした目を開くと、私の事を心配そうに覗き込んでいる、ツンツンチョコボ頭が目に入った。
「あ……あれ?」
 目を瞬いて、見直す。
 やっぱりクラウドだ……。
 でもどうして?
「良かった……気が付いたか?」
 ……なんて…………なんて顔してるの? この人ってば……。
 まるで…………そう……まるで……寂しくて泣きそうな子供みたいな…………。
 でも、その顔を見ると、私の胸はじわん……と熱くなる。
「大丈夫か? ティファ……」
 心配しなくても……ただの風邪じゃない。
「うん……」
 喉ががらがらしてる。乾いている。
 精一杯「大丈夫」って気持ちを込めて笑おうとしたけど、引きつってあんまり成功したとは言えなかった。
「……どうし…………どうした……の?」
「……丸1日半、ずっと眠ってたんだぞ」
 1日半?
 あれ?
 ええと……。
「……今日……何日?」
 彼に水を一口飲ませてもらいながら、私は聞いた。クラウドの答えに、ちょっとだけ……驚いたから。
 彼が神羅のジュノン支社に向かって……もう5日も経ってたなんて……。
 彼は椅子に座ったまま口の前でまるで拝むように手を合わせると、目を閉じて「はああ……」と息を吐いた。
 そして私を、ものすごく恐い顔で、睨んだ。
「なんで……言わなかったんだ」
 けど、声は静かで……だから、なおさら恐い。
 だって、この人がこういうしゃべり方する時って、本当に本当の本気で怒ってる時なんだもの。
「……だって……クラウド……忙しそうだったし……あ、その……私も……平気かなって……ね?」
「……平気な奴が倒れるか?」
「……だって……ただの風邪だもん……」
「今年の風邪は、ノースコレル型のヤツだって言ってただろ?」
「だって…………あ、でも、私の演技もなかなかでしょ?」
「ティファ」
「クラウドが気付かないんだもの。ゴールドソーサーの劇に出ても十分やっていけるって思わない?」
「ティファ!!」
 私は彼の大きな声に、びくっとして、つい、シーツで顔を隠してしまった。

 ……恐い。

 やだ……ホントのホンキで怒ってる……どうしよう……。
 彼が舌打ちする音が聞こえた。
 そろそろと顔を出すと、彼は片手で顔を覆って大きく溜息をついた。
「……ごめん………………悪かったよ……大きな声出して」
 彼は自己嫌悪に覆われた顔で、バツが悪そうに私から視線を反らした。
 そして、私がシーツに頭を引っ込めた拍子に落ちた布を、枕元の洗面器に浸して堅く絞る。
 私はそれをずっとじっと見てた。
「…………」
 そして、唇をきゅっ……と噛んだ私の額に、布を乗せた。
「シエラさんが来てくれなかったら……どうするつもりだったんだ?」
「………………」
「……こんな冷たい床に倒れて、あの人が見つけた時には、肺炎になりかかってたんだぞ?」
「………………」
「頼むよ……ティファ…………俺を……俺を不安にさせないでくれ……」
 彼は哀しげに、苦しげに言って、頬にかかった私の黒髪を撫で付けてくれた。
 私は、そっと彼の手を取って、すりすりと頬擦りする……。
「ごめんなさい……あなた……」
「俺達……夫婦だろ? たった……たった二人の夫婦じゃないか……」
 つい、「夫婦って普通二人よ」って言いたくなったけど、止めた。
 だって……彼の瞳がものすごく哀しそうだったから……。
「ごめんなさい……ごめんなさいね……」
「調子悪いのに、平気な顔して、俺がそれで嬉しいと思うのか?」
「ごめんなさい……」
 何も言えない。
 言えなかった。
 ただ……ただ謝ることしか出来なかった。
 彼が、きゅ……と私の首に手を回して、優しく抱きしめてくれる。
 私は、でも、その彼の温もりが嬉しくて、反省しなくちゃいけないのに、風邪に、ちょっとだけ感謝していた。
 最近は、私も彼もずっと忙しくて、こうしてゆっくりする時間も無かったもの……。
「だめ。うつっちゃうわ」
 私は、口付けしようとする彼の唇を指で押さえて、わがままな子供を叱るように軽く睨んだ。
「いいよ」
「だめよ」
「いいよ。そうしたら、今度はティファに看病してもらうから」
「もう……知らな……ん……」
 言い終わる前に唇を塞がれた。
 長い……長い長いキス……。
 5日ぶりの……キス。
 私に熱があるからだろうか……。
 彼の甘い唇と、柔らかな舌は、どこかひんやりとして……とても心地よかった。


 まだちょっと食欲無くてお腹は空いてなかったけど、無理にでも食べておいた方がいいって言うクラウドの言葉に、私は、彼が作ってくれた野菜スープを飲んだ。
 入っているのはジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キャベツ、マッシュルームだけ。
 マッシュルーム以外がとろとろになるまで煮込んだスープは、塩だけで味付けされてるけど、野菜が良いのか、すごく美味しい……。
 これ、実は私が前にクラウドに作ってあげたスープなんだ。
 彼が、シドとバレットに付き合って二日酔いになった時に。
 ちゃあんと……覚えててたんだなぁ……。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「いえいえ」
 二人してくすくす笑う。
 あー……何だか久しぶりだな……ほんとに……。
 こんなにのんびり二人でいるのなんて……。
 ………………。
 ……新婚なのになぁ……。

         §         §         §

「いやだ、もう……。自分の奥さんのストリップなんて見ても、面白くないでしょう?」
 洗面器にお湯を入れて、彼は着替えと一緒にベッドまで持ってきてくれた。
 正直言って、チョコボプリントのパジャマが汗を吸って気持ち悪かったから、「汗をかいたから、体を拭いて着替えた方がいい」って彼が言った時、素直に返事したんだけど……でも彼、どこか嬉しそうなのよね……。
 聞けば、この2日間、私の世話は、彼がずっとしてくれてたみたい。
 おしっ……あ、えと、下の始末もしてくれたって聞いた時は、さすがに顔から火が出そうになって、熱が上がったかと思ったけど……。
「いや、面白い」
「……ばか」
 この2日間、苦しそうな私のパジャマを着替えさせている時は、とても裸を見ている余裕なんて……そんな気分なんて無かったみたい。
 私が自分で着替えられるのを楽しみにしてたのね。
 いっぱい見てるくせに。
 私の体で知らない所なんて無いくらい……。
 ほんと、えっちなんだから……。
 でも、彼の目は優しい。
 ものすごく。
 それに、背中を拭いてくれる手は、私をうっとりとさせるほど、私への気遣いと優しさに溢れていたから……。
 だから、ちょっとサービス……かな。
 私は、彼がじっと見てる前で、黄色地に青い川チョコボがプリントされたパジャマを渡し、代わりのパジャマを受け取って着た。

 ふふ……

 彼の匂いがする……。
 自然と、たぶんきっと、にへら〜ってしまりの無い顔になってたと思う。
 でも、仕方ないよね。
 これ……この青地に普通の黄色チョコボ(それともこれって山チョコボなのかな?)がプリントされたパジャマは、彼のなんだ。
 あ、もちろんちゃんと洗濯してるから、汗の臭いがする……とかじゃないの。
 なんて言うのかな……う〜ん…………わかんないや。
 でも、そう、彼に包まれてるみたいな……抱きしめられてるみたいな…………って、
「クラウド、何してるの?」
 気が付いたら、私がボタンをつけるそばから、クラウドが外していってた。
「な? ティファ……」
 そうして、私の首筋にちゅ……ってキスをした。
「……あ……」
 じゅん……と、たちまち、私の体を甘い疼きが走り抜ける。
 でも、
「ぜっ……たいダメ!」
 私は彼を押しのけて、さっさとシーツを頭からかぶって「ころん」と背を向けた。
「……まだ何にも言ってないだろ?」
 傷ついた……って声のクラウド。
「えっちしよって言うんでしょ? ダメよ。大体、私まだ熱あるんだから」
 心細そうな彼の声に、思わず優しい声が出そうになったけど、ここで甘い顔しちゃダメなんだから。
 だって、私、もう3日もお風呂に入ってないのよ?
 髪なんて脂でべとべとだし、口だって……そういえば、彼、よくキスしてくれたわよね。
 私だったら、いくらクラウドでも、2日間も歯を磨いてなかったら、絶対キスしてあげないのに……。
 それに大体、病み上がりの妻にえっちしようなんて人が、どこにいるのよ。

 ……ここにいるんだけどさ……。

「俺は平気だよ」
 クラウドはまだ言ってる。
「私はかまうの!」
 私だって、すっごくすっごくすっごくすっごくしたいんだからねっ! 本当はっ!
 でも、嫌なものは嫌なの!
 絶対嫌なの!
 誘惑しないで欲しい!
 ………………だって………………。
 ……汚くなってるもの……。
 そんな所、クラウドに触らせたくないし、もし見られたりしたら、私は絶対落ち込んじゃう。立ち直れないわよ。
「今更なんだよ。俺ずっとティファのおしっこ」
「クラウド」
 彼の言いかけた言葉にかあっとして、つい私は、冷たい声でピシリと言いながら、肩越しに彼を見た。
「あんまりしつこいと、もうこれからずーーーーーっと、ちゅうちゅうもさせたげないし、ぺろぺろもしたげないわよ」
「あ……いや……それは……困る……」
 こんな時になんだけど……。
 トドメの一言ってヤツに、彼がごにょごにょと言葉を濁すのが、すっごくかわいい。
 「かわいい」って言うと、彼が傷つくから、口に出しては言わないけど、きっと顔に出てたと思う。
 だって、本気で困ったように眉を顰(ひそ)めた彼が、私の視線から顔を反らしたもの。
「…………治ったら……そしたら……しよ? いっぱい……いっぱいしよ? ね?」
 う〜ん……我ながら甘いなぁ……。
「…………………………」
 唇を尖らせる彼に「あなたいくつ!?」ってツッコミを入れてあげたくなるけど、でもそんな所も好きだから止めた。
「ま、いいや」
 ツンツンチョコボ頭の、私のダンナ様は……カッコつけて肩を竦めて笑った。
 そうして、シーツをかけ直して、私の頬に軽くキスをする。
「あなたがこんなに優しいなら……また病気になろうかな……?」
「ティファ!」
「やんっ! ウソ、ウソだってばっ!」

 ばかだけど……。
 えっちだけど……。
 でも、最高に優しくて、最高に素敵な……私の……。
 大切な……人。

 好きよ。
 ずっと。


         −おわり−

■■[LIPS]『Piece.03』「二人の静謐」〜こぼれる想い〜■■
この記事へのコメント
最近更新なくて寂しいです・・・お元気ですか?
Posted by ばんそうこう at 2011年02月22日 01:40
 死にたくなるほどの闇の中にいます。
 今は、気力がありません……。
Posted by 推力 at 2011年02月23日 15:14
どうぞゆっくりと英気を養われてください
Posted by とと at 2011年03月05日 21:03
推力さん無事ですか?
関東だと輪番停電もあるみたいですが
Posted by ばんそうこう at 2011年03月14日 01:08
生きては、います…。
Posted by 推力 at 2011年03月25日 18:47
待ち遠しいです
Posted by 青玉 at 2011年03月26日 19:25
生きているならそれで十分!
TSおっぱい小説期待しております!
Posted by ばんそうこう at 2011年03月27日 00:44
生存が確認できて安心しました。
Posted by 通りすがり at 2011年03月27日 22:55
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