■感想など■

2011年06月25日

[LIPS]『Piece.04』「二人の睦」〜愛しあうということ〜

■■【4】■■

「ティが嫌なら、薬は使わないよ。けど、俺の精子が遺伝子的にティのそれと受精しにくいってのは、変わらないんだぜ? 薬を使っても使わなくっても、俺との子供が欲しいと思うなら、ある程度の覚悟はしなくちゃいけない…………それは、わかるよな?」
「……う……ん…………でも…………」
「ティはさ…………ティは…………『俺との子供が欲しい』のか? それとも『ただ子供が欲しい』のか?」
「……!!? ……どういう…………意味!?」
「……言葉の通りだよ」
「…………私が、誰のでも良いから、ただ子供が欲しいって……そう思ってるっていうの!?」
「………………ティ……」
「……私はっ!!……」
 彼女は身を起こすと、怒っているような……泣き出してしまいそうな……そんな、“痛い”瞳で彼を見た。息苦しさに喘ぎ、震える唇を開いて、空気を貪る。
「私は、あなたの赤ちゃんが欲しいの! あなたとの赤ちゃんが欲しいのっ! あなたじゃなくちゃ、ダメなのっ!」
「……………………」
「どうしてそんな事言うのっ!? 私っ……わっ……わたしっ……」
「ごめん……ごめんティ、ごめん」
「わたっ……わっ……わたしっ……」
「ごめん、ごめん悪かった、ティ、俺が悪かった」
 しゃくりあげ、ぽろぽろと涙をこぼし、顔をくちゃくちゃにした彼女を、彼はひたすらに謝りながら抱きしめた。裸の肩を引き寄せ、滑らかな背中を、子供をあやすようにポンポンと優しく叩く。
 クラウドは唐突に、彼女が自分との子供をどうしてこんなにも欲しているのか、わかったような気がした。

 家族。

 それこそが、彼女の求める「幸せの形」なのだろう……と。
 愛する夫と、その夫との間に生まれた、愛する子供。彼女の求めるものが全て、そこに集約されているのではないだろうか?
『俺は……ひどいことを言った……』
 後悔の想いが、胸に満ちた。
 けれど、その「幸せの形」が適わないと知ったら、彼女は「俺」から離れてしまうのではないか? ……そう彼が無意識に恐れを抱いてしまったのだとしても、それを責められる人間はいないだろう。
 「子供の作れない男」が、すなわち彼女にとっては「必要の無い男」なのだとは、思いたくないのだ。
『ティは……俺を愛してくれる。愛してくれている………………けど、このまま子供が出来なかったら、そしたら俺は……』
 少年時代の、「金髪の小僧」が胸の奥から顔を出そうとしていた。
 臆病で、人を信じられず……けれど、初めて自分を理解してくれた……自分と遊んでくれた、黒髪の少女だけを無心に求めていた、あの頃の自分が。
 求めて……求めて……求めるが故に、遠ざかった。

 逃げていた。

『逃げたくはない』
 けれど、失うのは、もう嫌なのだ。

きゅう……

 胸の上で泣きむせぶ、愛しい彼女を抱きしめる腕に、自然と力がこもる。
「……………………」
 窓に目を向ければ、天空でその傾きを変えたのだろう。少しだけ開いたカーテンの上部に、満月の下半分が顔を出していた。
 風の無い夜。
 中天に輝く満月からは、邪を凪ぐ、人には感じる事の出来ない風が吹くという……。

 ……例えてみるならば、初夏の太陽のような……。
 満月の話をしてくれたのは、彼の心の奥底に眠る茶色い髪をした…………そんな……。そんな……優しい微笑みの中で、悪戯っぽい瞳がきらきらと輝く……女性だった。
 その彼女が、少し困ったように眉根を寄せて、上目使いに首を傾げたまま、神妙な面持ちで彼に教えてくれたのだ。

 だから、負けちゃダメなんだよ?

 何がどう、「だから」なのか、「何に」負けてはいけないのか……その時の彼にはわからなかった。いや、わかる事が出来なかった。
 そして彼女は、彼女を太陽だと形容した彼に、こうも言ったのだ。
「前にティファも、わたしの事、太陽みたいだって、言ってくれたの。だったらティファは月ねって、わたし言っちゃった。だって、わたし、月って大好きだもん。強く光ったり、しない。けど、いつも、ジッと見つめてる……見守ってくれてる……。そんな気がしない?」
 そう言った彼女は、通りかかったティファを見つけると、突然彼女に抱き付いて、そして真っ赤になった彼女に軽くキスをした。

 彼は、妻を抱きしめながら、心に巣食う邪(よこしま)な想いが、その風に吹かれて霧散することを願った。
 愛しい妻を信じきれずに、疑い、恐れ、戸惑うこの心を、何も考えずにただ彼女を愛した日々まで戻してくれる事を願った。

 そんな彼を、冬の夜空に穿たれた、光の国の窓のように冴え冴えとした、


 月が、見ていた。


         −おわり−

■■[LIPS]『Piece.04』「二人の睦」〜愛しあうということ〜■■
■■〜月が見ていた〜■■

「2011/06/10 01:00」投下開始
「2011/06/25 01:00」完了
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/44666176

この記事へのトラックバック

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★