■感想など■

2011年10月25日

[THEM]『Piece.01』「ナイショだよ?」〜あなただから〜

■■【1】■■


「ナイショだよ?」
 そう言って、彼女はちょっと悪戯っぽく微笑みながら世界の真実を教えてくれた。

 ……気がした。


 名も無い草原だった。
 空はどこまでも高く、青く、雲はその青を切り抜いたかのようにぽっかりと浮かんでいる。踝(くるぶし)までも無い背の低い草は、渡る風にゆるやかにその身を委ねて、草原を小波の遊ぶ大海のように見せていた。
 陽光はさんさんと降り注いでいる。
 だが湿度は低く、涼しい風は服の中まで偲び込んで、熱を持った体を優しく愛撫するようにしてなだめてくれる。
「きゃはぁっ!」
 突然駆け出した栗色の髪の女性が“ばたん……”と、駆け出した時と同じくらい唐突に倒れると、驚いたティファはもう少しで隣に座るレッドXIIIの鬣(たてがみ)をぎゅっと掴みそうになってしまった。
 彼女の“奇行”は今に始まったことではないが、それにはやはり時と場合を考えてほしいものだ……と、ティファは思う。
 モンスターをやっとの思いで撃退して、必死にその生息圏から距離を置いたばかりなのだ。
 闘いの間に何かとんでもない怪我でも負ってしまったんじゃないか?
 モンスターの毒が今になって彼女の体を蝕んでしまったんじゃないか?
 ティファやレッドXIIIがそんな風に考えてしまうかもしれない……と、どうして思わないんだろう?
「……もう……」
 ティファはちょっとむっとして、倒れたままの彼女をじろりと見た。
 倒れた拍子にロングスカートが捲れ上がり、その白い脹脛(ふくらはぎ)が見えてしまっている。そのうえ、うつ伏せの頭には草の葉っぱや小さな羽虫が降りかかってしまっていた。
『まるで子供みたい……』
 彼女は、自分よりも2歳年上の“お姉さん”をなんとも言えない気持ちで見つめて小さく溜息をついた。
「エアリス……ねえ、何してるの? 日暮れまでにクラウド達と合流しないと……」
 先行しているクラウドとバレット、それにケット・シーは、この草原を越えて低潅木の尾根を回り込んだ所で小さな村を見つけ、彼女達の到着を待っているはずだ。
 ここからその村までの距離は、せいぜい1〜2時間ほどといったところだろう。しかし、PHSで連絡を取り合ってはいるものの、レッドXIIIが心配して残ってくれたとはいえ、せめて日が傾くまでにはその村まで辿りついていたかった。
 男達二人に「大丈夫!」と見栄を切ってしまった手前、彼らに迎えに来てもらって手を煩わせてしまうのだけは避けたかったのだ。クラウドに、どこか冷たい感じのする瞳を向けられて「だから女二人じゃあ危険だって言ったんだ」なんて、絶対に言われたくはなかった。

 足手まといなんかじゃない。

 私は彼と一緒に行ける。

 それは、不安で押しつぶされてしまいそうな心が必死にすがる、今の彼女の唯一の拠り所だった。
「エアリス……ねえ……」
 ここまでだましだまし走らせてきたバギーは、そろそろ本格的にエンジンの調子がおかしくなりはじめている。こんな所でエンストしてしまう事を考えたら、今すぐにでも出発して村まで超特急で急行してしまいたかった。
 エンジンへの負担など考えずに。
 クラウド達は村で、ここのところもうずっと調子の悪いバギーのエンジンをバラし、徹底的に整備してしまおうと思っているのだ。
「エアリスったら!」
 ティファはバギーのドライバーシートに身を沈め、いつでも出発出来るようにエンジンをアイドリングさせていた。
 けれど、エアリスはぴくりとも動かない。
 なんだかものすごく心配になって、ティファは隣に座るレッドXIIIに「どうしよう?」と視線を向けた。
 紅いケダモノはぼんやりと空を見上げ、大きな欠伸をして、「ぶしょ!」とくしゃみをして、後ろ足で首のところをげしげしと掻いた。
「ん? 何か言ったか?」
「…………いい」
 途方に暮れたティファはエンジンを切ってバギーを降り、倒れたまんまのエアリスの側まで行って、もう一度声をかけた。
 ゆさゆさと肩を揺すってみた。

 それでも、彼女は動かない。

「エ、エアリス! ねえ!」
 ティファは途端にうろたえ、あたふたと彼女を抱き起こす。
 やはりどこか怪我していたのだろうか? 毒でもまわってしまったのだろうか?
 どうして彼女が噛まれた事に気付かなかったのだろう!?
「ねえエアリス! しっかりして!」
 力の抜けた体は以外に重く、それでも仰向けにしたエアリスの顔を覗き込んでティファは

ぺち。

 いたずら小僧の瞳で「にへらっ♪」と笑ったエアリスの額を右手で叩いた。
「いたぁい」
「どういうつもり? もう! 心配したじゃない!」
「きゃあ! ティファが怒ったぁ!」
「『きゃあ!』じゃないっ! エアリス!」
「心配した?」
 ティファの瞳を真正面から覗き込むエアリスの直球な視線に、彼女はどきまぎとして視線を泳がせた。
 彼女はいつもそうだ。
 まっすぐ、何のくもりも無い瞳で心の奥深くを射抜く。
「……あ……あたりまえ……じゃない」
「ふふふふ」
「なにが可笑しいのよ!」
「ちがうよ。嬉しい、の」
「?」
「ティファ、心配してくれたデショ? だから」
「だって……そんな……当たり前じゃない」
「そう?」
「…………お、怒るわよ」
「ね、ティファ」
「え? あ、きゃっ!」

 ダイビングアタックだった。

 エアリスの柔らかい体が、ティファに覆い被さるようにしてぶつかってきた。
 ティファは彼女の体を抱きとめ、しかし勢いを止められなくて、二人して草原に転がった。
この記事へのコメント
ティファのじごくぐるま!
Posted by 青玉 at 2011年10月25日 12:37
 いやいやいや、それだと一気にギャグに行ってしまうのでw
Posted by 推力 at 2011年10月25日 20:20
お元気そうで何よりですw
Posted by 青玉 at 2011年10月25日 22:40
 まだ求職中ですけど(笑)。
 落ち込んでばかりもいられないので、ぼちぼちと。
Posted by 推力 at 2011年10月27日 16:20
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