■感想など■

2011年10月31日

【ボクキミ】1

◆◆ プロローグ ◆◆



 ──『世界』のヴェールは剥がされた。


【この世界には通称『ウィッチ』と呼ばれるバランス調停者(単に『守護者』とも呼ばれる)が多数存在し、人知れず人々の平和と安寧を日々護っている。】

 そういう噂が、今まで全く無かったわけではない。

 だが、その事を口にするのはほとんどが感受性の豊かな思春期の少年少女や、感性の鋭い、いわゆる自分の世界に没頭しがちな芸術家肌の「クリエイター」と呼ばれる人種に多かったため、その“ある意味において真実を暴いていた言葉”は、よくある「セカイ系」の妄想として一蹴され、その“正しい認識”は常識という名の凡庸たるヴェールで再び塗り潰され、二度とその者の意識に上ることが無いのが常であった。
 それが変化を見せ始めたのは、世界中の誰もが忘れもしない……いや、忘れることなど出来ようもない、去る1999年の7月、後に「ホリゾント」と呼称される(もちろん本名ではなく仮名だった)男性『ウィッチ』が表の世界に姿を見せた事に端を発する。

 ──いわゆる「ホリーの反乱」または「7月のホリー」と呼ばれるものがそれだ。

 「ウィッチ(魔女)」なのに「男」なのはおかしいと思うかもしれないが、その成り立ちを知ればそうでもないと感じるに違いない。『ウィッチ(witch)』とは日本では「魔女」と訳される事が多いが、もともとの語源は古英語の「wicce」(ねじ曲げる、変化させる、魔術を行うという意味のインド=ヨーロッパ語系のアングロサクソン語)と「wicca」(賢い女性を示す中世英語)で、古代の多神教の男性信者と女性信者を意味しているそれらから「witch(ウィッチ)」という言葉が生まれたと言われている。つまり広義的にはウィッチには性別(男女区別)的な意味合いは無く、「魔術を行う者」という意味で、男性にも適用出来るのである。

 2011年の現在、この日本において「ホリーの反乱(7月のホリー)」を知らない者はいない。
 人々を護るべきウィッチが、その人々に対して矛を向け、彼の嘲笑が響き渡るなか、数百万人の命が一瞬にして失われたあの日。
 膨大な魔力をその身に受け不死となったホリゾントを、7人のウィッチが命を賭して永久凍結し、次元の狭間に封印したあの日。
 あの、1999年の7月を。
 そして今や『ウィッチ』という存在を知らない者もまた、一人もいなかった。


 それはここ、東海南浜高等学校にいる、1年F組の北沢哉汰(きたざわ かなた)も例外ではなかった。


■■【1】■■



「ごめんね」


 その女性は彼の右手に、そっと白くてほっそりとして少しひんやりとした左手を重ねて、涙に濡れた声で、そう言った。
 少年は母親や姉以外の女性にキスされたことなど今までの生涯で一度も無かった。
 初めてのキスだった。

 そう。

 初めて、だったのだ。

§         §         §


 なんだこれ?

 哉汰は視界を覆い尽くしながら目の前で揺れている「豊満」そのものの肉の塊を見ながら、ただただ絶句していた。


 ──事のあらましはこうである。


 『呼び声に誘われるようにして路地裏に足を踏み入れたら、空からおっぱいが降ってきた』


 ……冗談のようでいて、本当の話だ。

 学校帰りの商店街の外れだった。
 帰宅部の彼は、いつものように肉屋の店先から漂う揚げたてコロッケの香ばしい匂いによる抗し難い誘惑に辛うじて耐えつつ、夕暮れだというのにやや閑散とした商店街を歩いていた。
 天気は上々。
 そろそろ紅く染まり始めた雲の下にはカラスが数羽飛んでいる。
 9月の初めにしてはここ最近は残暑も無く、今日も過ごしやすい穏やかな一日だった。
 家に帰ったら、学校で友人に借りた月刊漫画雑誌の最新号を読もうと思っていた。
 楽しみだった。
 先月、巨乳の幼馴染と異世界で再会したところで敵国の王国騎士であるイケメンライバルが現れ、あわや絶体絶命の危機! という場面で終わっていたお気に入りの漫画を、とりあえず真っ先に読むつもりだ。
 その巨乳の幼馴染が可愛いのだこれが。戦いの結末もさることながら、彼女との恋の行方もとても気になる。ちょっとエッチな雑誌だから、ちょっとエッチな展開もあるかも……と期待してたりするのだ。
 ホームルームが終わって礼をしている最中から、彼の頭の中はその事でいっぱいになっていた。

 そんな時だ。

 ──不意に『声』が聞こえたのは。

『ええと、東海南浜高等学校1年F組、出席番号6番の北沢哉汰君。あ、あなたの秘密をばらされたくなければ、今すぐ……ええと、次の路地を左に入りなさいー!』

 当然無視した。

 ちょっとだけ彼の心が動いたのは、決して声が若い女性で、しかも少し鼻にかかったような甘ったるくて色っぽい感じだったからでは、断じて無い。
 今の声が周囲には聞こえず自分だけに聞こえたという事が周りの人々に何の反応も無かった事からも明白で、しかもわざわざ学校からフルネームから全部把握されている上に「あなたの秘密をばらす」と脅迫めいた内容だったからだ。
 それでも無視したのは、何か自分がとんでもなく面倒な事に巻き込まれつつあることを、肌で感じ取ったからかもしれない。
 漫画とかライトノベル的な異世界召喚モノは、他人事だから面白くてドキワクするのであって、それが自分に降り懸かるような事態は絶対に勘弁願いたかった。
 大体が心に直接語りかけてくるヤツにロクな人間はいない。
 そもそも人間かどうかも怪しいが。
『あっあっあっ、あのっ! 無視しないで! 無視すると、ほ、ほんとうにバラしちゃうよ?』
 長い人生、こういう“おファンタジー”な展開も一度くらいはあるだろう。
 なにせ「ホリーの反乱」なんてものが起こるような世界なのだから。
 慌てふためいた感じにおろおろと気弱な声で制止してくる幻聴に、哉汰はあくまで聞こえないふりを決め込んで歩みを速めた。
『家の本棚の上から2番目にある英和辞典の中身には、巨乳モノのDVDが入ってるでしょ? あと、ベッドの下に昔の教科書の入ったダンボールがあるけど、その中にえっちな本のグラビアページだけスクラップしたノートがあるよねっ! それから……』

 ──従うしかなかった。

 そうして、呼び声に誘われるようにして次の路地へと足を踏み入れたら、“空からおっぱいが降ってきた”のだ。
 そもそも血気盛んな思春期真っ盛りの中学生にとって、女の肉体は麻薬と同じだった。
 特におっぱいは毒と同じだ。正常な判断力を失わせる。
 だから、空から“その人”が
「ここ! ここだよ!」
 と言いながら、まるで重力を感じさせない浮遊感でふわりと地面に降り立った時も、哉汰はただぼんやりと目の前でゆらゆらとたわわに揺れている重そうな双丘から目が離せず、すっかり正常な判断を誤った。
 つまり、「人が空から降りてくる」という異常性に気付かなかったのだ。
「え?」
 目の前に立っていたのは、20代後半にも見えそうな(ただし30代には見えそうにもなかった)、実に肉感的に成熟した大人の女性だった。
 そしてその人は、実に奇妙な姿をしていた。

 ──そのうえ、むやみやたらとエロかった。

 そうとしか言いようが無い。
 誤解を恐れずにいうならば、ハッキリ言って“あたまおかしかった”。
 上半身は、腕も肩も、ついでに言えば山盛りの胸の半分ほども露出している、コルセットかビスチェみたいな形の、ピンクと白で構成されたコスチュームだった。首には白いフリルの付いたピンクのチョーカーが巻かれ、喉の部分に不思議な美しい光を放つ蒼い宝石が装飾されていた。そしてほっそりとした両腕の先には、精緻なレースの施された上品な白い手袋。下半身はふんわりと広がりピンク色した、ミニの三重フリルスカートで、むちむちとした肉付きの太股と、そこから伸びたすらりと長い両足は、踝までが透き通るような白さのナマ足だった。
 その足先は手袋と同じようなレースがあしらわれた純白のソックスで、右足首に巻かれた足首飾りのフリルベルトは、チョーカーと同じピンク色だ。そしてこれでもかと高いピンヒールのパンプスは、その武器にでもなりそうな凶悪なシルエットとは反する、夢見るようなパールピンクだった。
 全身のトータルイメージは、商店街の薄暗い路地裏にはとても似つかわしくないピンクと白とふわふわでひらひら。

 どこのセクシー系新人アイドルだろう。

 そんな格好だ。
 それだけでも十分人の目を引きそうなのに、その中でも特に目を引くのは、ちょうど哉汰の目の前でとんでもない深みを見せるクレヴァスだった。
 言わずと知れたおっぱいの谷間だ。
 文庫本くらいの本だったらすっぽりと挟んで隠してしまえそうだった。映画とかアニメとかには、巨乳の女スパイがよくそこに小型銃のデリンジャーとかスパイの秘密道具とかマイクロフィルムとか隠してる描写があるが、目の前のお姉さんの深い深いクレヴァスは、コルトガバメントでも平気ですっぽりと隠せそうだった。
 哉汰の視線は上半身から下半身に移り、それからもう一度胸に移動した。そしてそこまで視線を走らせて、ようやくその上……顔へと移動したのだった。
 そこで改めて認識したのは、胸元まで垂れるふわふわとしたピンクの髪だった。
 その髪に彩られ、ほっそりとした卵形の顔は、お淑やかそうで優しそうな癒し系。青みがかかった瞳は困ったような、今にも泣き出しそうなほど気弱な感じに潤んでいて、そして、ぷっくりとしてうっすらと開いたサーモンピンクの唇からは、キラキラした真っ白の歯が覗いている。
 ちょっとトロそうな感じだが、ほんわかとした可愛らしい美人だった。

 印象としては、どこもかしこもふわふわだ。

 浮世離れしていて現実味が無い。

 しかも格好は破廉恥きわまりない、けしからんほどの肌の露出で、胸は鈍器な凶器になりそうなくらい巨大だ。
 “どかん”と遠慮無くこちらに立体的に迫ってくる。3Dカメラで写真に撮っておきたいくらいだった。
『そういえば……』
 と、哉汰は思った。
 ちょっと前に仲間内で『デッド・オア・アライブ』という格闘ゲームが流行った事がある。国籍も人種も様々な美少女と、その美少女達の大き過ぎるくらい大きなおっぱいによる“乳揺れ”を一つのウリとする、その手の人々には有名なゲームだ。その略称『デド・アラ』に出てくる一番巨乳なキャラよりも、目の前のお姉さんのは一回りも二回りも大きなおっぱいに見えた。
 端的に言えば、お姉さんの頭よりも確実にでかい。
 アニメ的デフォルメされた3Dゲームのおっぱいよりでかく見えるというのは、もはや犯罪である。
 それなのに、おっぱいの半分は飛び出すように露出していたし(ビスチェの上から薄くはみ出しているのは、あれは乳輪ではないのか!?)、フリルスカートは股間が見えそうなほど短い。
 そして全身ピンク&白で、ふわふわ&ひらひらである。
 総じて、都会の夜の繁華街を歩いたら1分も経たずに目を付けられ、ちょっとでも人目が途切れたらあっと言う間に暗がりに引き込まれてレイプされそうな、そんな“ガードゆるゆる”なテイストのコットン・キャンディ(綿飴)みたいな女性だった。
「………………」
 黙ったままじろじろと全身に視線を走らせた彼に、女の人は困ったように、そのすっきりとした綺麗な眉を寄せて、こう言った。
「あの……信じて欲しいけど今は信じてくれなくてもいいから、ボクとキスしてくれない?」
この記事へのコメント
魔法少女のどっち把握
Posted by 青玉 at 2011年10月31日 08:49
ああ違う違う、そうじゃなくて『コロッケうまそう!』と思ったんだ
Posted by 青玉 at 2011年11月01日 12:37
また間違えたorz
正しくは『推力さんの新しいTSモノキタ─(゜∀゜)─!!』でした
Posted by 青玉 at 2011年11月01日 12:41
 何と答えたらいいのかわからないので静観してました(笑)。

 これ、去年、『「ギガンテス13」〜闘う巨人と愛の歌〜』の最終回のコメントで書いていた魔法少女ネタです。ぼちぼちと書いていたものがある程度の量になったので公開に踏み切りました。
 週一連載(月曜0時更新)になります。
 完結してからスタートしようと思いましたが、なんだかそれだといつまでたっても始まらない気がするので、自分で自分を追い込むつもりで(笑)。

 イメージネタは例の「僕と契約して魔法少女になってよ!」とか日曜朝の幼女枠アニメとかより、『奥様は魔法少女』に近いかも。
Posted by 推力 at 2011年11月02日 01:43
なるほど、元設定は「ナイトウィザード」ですね。アレのコミック版にも♂→♀なキャラがいましたが……。今後の展開に期待します。
Posted by KCA at 2011年11月07日 05:07
>KCAさん
 すみません。
 「ナイトウィザード」は、名前は知ってますが内容まではわかりません。
 「元設定」とはいっても、変身して♂→♀という設定は、今ではありふれた凡百の基本設定でしかないと思います。
 確かに元設定・元ネタ・インスパイア・オマージュ等のネタ探しは楽しと思いますが…(「私だけが知っている」「私は気付いた」的な?)。
Posted by 推力 at 2011年11月09日 09:31
 魔法絡みで「変身して♂→♀」といえば、最近ではラノベ原作の『けんぷファー』などが記憶に新しいですが、漫画・ラノベ・同人なども含めればそれこそ枚挙に暇がないです。
 変化球では『天使な小生意気』もそうでしたね。あれは魔法少女ではないですけど。

 また、「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」を充てれば、「現代科学では不可能だけど未来や宇宙人の科学で性転換」ネタを含めたら、それこそ星の数ほど。


 ナイトウィザードは、調べました。
 『ナイトウィザードヴァリアブルウィッチ』 作/菊池たけし・F.E.A.R.・猫猫猫
 ですね?
 これの「藤原竜之介は心臓がドキドキしたら女に変身する。」と。
 知りませんでした。


 で、いろいろ調べてるうちに『おと×まほ』という作品の基本設定やイメージに、コレ(『ボクキミ』)がそっくりだと気付きました。
 やべぇ(笑)。
 そういう意味では『おと×まほ』パクリでしょうか(言われる前に書いておきますね)。
 読んでおかないと駄目かしらん。

 まあ、書いてしまったものは仕方ないのでアップします(笑)。
Posted by 推力 at 2011年11月09日 09:56
ファイナルファイト……いや、皆まで言うまい
Posted by 青玉 at 2011年11月11日 03:23
 ポイズンですか?
 魔法とは関係ないですが…??
Posted by 推力 at 2011年11月24日 15:06
 今になって「魔法少女のどっち把握」の意味がわかりましたw

 「魔法少女の、どっち(かと)把握(した)」

 かと思い、「どっち」って何と何を比べて?とか思ってましたが、

 「魔法少女のどっち(と)把握」

 なのですね?
 つまり『咲-Saki-』の「のどっち」……原村和の「羽化ver」と。

 どっちかっていうと、イメージソースはやはり『奥様は魔法少女』+『まどかマギカ(まどコス)』だと思います。
Posted by 推力 at 2012年06月20日 09:20
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