■感想など■

2012年01月16日

【ボクキミ】12

■■【12】■■

 ホームルームが終わり、引き続いて始まった1時限目は数学だった。
 哉汰は、正直言って勉強があまり好きではない。
 というか、嫌いだ。
 その中でも数学は特に大嫌いだった。
 そしてその原因の一つは、
「みなさん、おはようございます」
 教室前の引き戸を開けて入ってきた、黒縁眼鏡のスーツ教師にある……と哉汰は思っていた。
「それでは今日の日直の方、お願い致します」
 生徒に対するには些か丁寧過ぎる言葉遣いで授業開始の挨拶を促す姿は、絵に描いたような「誰もが持っている数学教師のイメージ」そのものだった。
 パリッと糊の利いたブルーラインのワイシャツに皺の無い背広。黒々とした短めでツヤツヤの髪は整髪料で丁寧に整えられ、身だしなみもバッチリだ。
 格好だけなら、数学教師より外資系商社のエリートビジネスマンと言っても通りそうだった。
「起立! 礼! 着席!」
「はい。欠席者は……金丸君だけですね。では、今日は前回の続き、テキスト第4章の……」
 深く静かに落ち着いた声。開いているのか閉じているのかよくわかないほど細い目。高い鼻。薄い唇。焼けていない肌は白いが、病的というわけではなく、むしろスーツの下の体は骨格を含めてガッシリとしている印象だった。

 高階亮吾(たかしな りょうご)。

 この学校での彼は、教師としては特にずば抜けて優秀というわけでもないし、かといって劣っているというわけでもない。だが、男子生徒の中では、決して評判が良いとは言えない教師だった。
 それなりに顔がいいから思春期の女子生徒にはひどく人気があるが、赴任前の学校で教え子に手を出したとか、密かに若い保護者と、しかも複数の人妻と同時進行的に不倫している……などという噂さえあった。もちろん大半は単なる噂であろうし、そもそもが、女子生徒に人気のある彼に対しての、男子生徒の嫉妬からきたものだろう。
 だが、あながち全て的外れというものでもないらしい……とも言われていた。時折、町なかを色っぽい女性と歩いていたとか、一人暮らしのはずのアパートから妙齢の女性と出てくるのを目撃されたとか、そういう噂があるのは確かだからだ。本人は否定も肯定もせず、薄く笑うのみで要領を得ないため、最初は確認のために問いかけた教師や生徒も、いつしか諦めてしまったらしい。

 実はこの高階は、哉汰が優也から聞いた話によると、小学校の時からの知り合いらしい。
 いわゆる幼なじみというヤツだ。
 その時、高階は中学一年、優也は小学一年であった。
『どんな子供だったか? うーん……勉強の出来るお兄さんって感じかな? 出来杉君? ドラえもんに出てくる? ……どっちかっていうと、スネ夫と丸尾を足してケムマキをかけた感じかなぁ。あはは』
 つまりはまぁ、ものすごくヤな奴だったというわけだ。

 大学が実家から遠方の場所だった高階とは、今年になって彼がこの高校に赴任して来た際に再会したらしいが、14歳の頃から肉体的な成長が止まっている優也を、高階はかつての幼なじみの、年の離れた弟だと思っているのだという。
 もっとも、哉汰が優也から聞いたことによると、それは優也の母による、念入りな記憶操作から思い込ませた「偽りの情報」らしいのだが。

 また、哉汰も詳しくは知らないが、高階は以前、『小さい頃は優也をいじめっこから守ってやっていた』……と周囲に話した事があるらしい。
 だがその話を優也に聞いた時の、曖昧な彼の様子から、実は高階こそが優也をいじめていたのではないか、と哉汰は思っている。

 そしてそれは奇しくも正しかった。

 著名な教育者だった高階の母親は、かつて我が子に対し、中学、高校と、有名私立への進学を強く望んだ。その受験と成績維持のために、常に強いストレスを強いられていた高階は、近所に住み、親同士の面識もあった優也を、いじめのターゲットにしてストレス解消をしていたのだった。
 しかもそれは、肉体的な攻撃ではなく精神的な攻撃を主に行うという、悪質かつ陰湿な方法で。
 そして、ユウが小学生(12歳)の時、高階はで大学に入学(18歳)し、ようやく6年にも及ぶ長いいじめに終止符が打たれた。
 今のユウは外見が14歳で固定化し、学校の書類上では17歳で通していた。
 だがもちろん、実際の年齢は24歳であり魂(精神)もそれに準じている。精神的な強さはかつての比ではないが、それでもどこか高階を苦手としているように見えるのは、かつての体験がトラウマとなっているからかもしれない。
 対する高階は、現在30歳。
 教師生活も8年を過ぎ、教育現場の表も裏も一通り経験した男は、どのように装い、纏えば周囲を欺けるか、PTAや教育委員会の動向を自分の思うままの結果へと誘導出来るか十分に熟知している。
 さすがに、再会した優也を昔のようにいじめるような、ひねくれた攻撃性や幼稚性はもう無かったが、過去の自分の行為が現在の自分にどう影響するか承知しているためか、優也への必要以上の接触を避けているようにも見えた。
 現在の教師としての体面を重視し、常に冷徹かつ冷静に周囲との距離を測る計算高い心と、周囲との軋轢を避けるために必要以上に慇懃であり続ける態度。
 そんな“いけ好かない”教師である高階と、馬鹿正直で直情的な哉汰が合うわけがなかった。
「……北沢君。天気が良いのは確認しなくても十分わかっていますよね。今は授業中です。教科書を読むのが苦痛だとしても、せめてフリだけはした方がいいと思いますよ?」
「…………」
「超低空飛行だった前回の小テストの点数を挽回したいと思うのでしたら、少しでも授業を聞いておくのが得策だと思いますが」
「…………」
「……まあ、いいでしょう。……他の皆さんは彼の真似をしないように。彼は学問の神様にでも選ばれた特別な人間のようですから、私の授業などを聞かなくても十分なようです。もっとも、それが発揮されるのはもっとずっと先になるようですが」
「…………」
 あくまでも高階の言葉を無視し、窓の外に広がる青空を眺める哉汰へ、後ろの席に座る優也がおろおろとした顔を向けた。
「カ、カナちゃん……」
「カナちゃん言うな」
「いい加減、子供っぽいことやめようよ」
「知るか。俺よりあいつに言ってくれ」
「もうっ」
 高階と哉汰は馬が合わないというか、互いが生理的、根本的に受け付けないのだろう。
 テストの点数が悪いとは言っても、哉汰は中間と期末テストのような査定に関わる大きなテストではしっかりとクラス上位を維持するのだから、高階としては普段の授業を馬鹿にされているようで余計に腹立たしいのかもしれない。
「朋坂くん。お喋りはそのくらいで」
「は、はいっ!」
「……何度も言うようですが、君も、友人はよく選んだ方がいいと思います。問題のある生徒の困った性質が素直な君に移ってしまうような事があれば、お母さんが悲しみますからね」
「あ、えーと……はい……」
 そんなわけで、何かにつけて注意し“口撃”する高階を、あくまで哉汰は無視し、当然ながらそんな態度が高階には気に入る筈もなく……そしてそれを他のクラスメイト達は面白がり、優也だけがハラハラしながら見ている。
 いつの間にかそういう図式が、このクラスでは定番化していたのだった。
この記事へのコメント
分かった、高階は敵だ
Posted by 青玉 at 2012年01月16日 00:10
そして、えろいことするんだな!
Posted by at 2012年01月16日 01:45
 うーん……。
 やはりわかりやすい方がいいんでしょうか……。
 まあ、おいおい(笑)。
Posted by 推力 at 2012年01月18日 11:31
なんだか色々と不具合がありました。
時間設定とか、公開日時設定とか。
で、コメントが消えたり……。
Posted by 推力 at 2012年01月19日 09:43
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