■感想など■

2012年02月06日

【ボクキミ】15

■■【15】■■

 二日後の金曜日の夕刻。
 いつものように商店街の路地裏でめくるめく官能の時間を……もとい、大切な魔力補給を済ませた二人は、いつものように、誰に見咎められる事もなく帰路についていた。
 今日でこの「路地裏キス」も既に7回目を数え、二人ともすっかりその行為に慣れた。最初の頃のような緊張感や、誰かに見られるかもしれないという差し迫った危機感は、今となってはほとんど無くなっていると言っていいほどだ。
 そして、路地裏ではユウの「その方が効率良く上質な魔力が補給出来るから」という言葉を信じ、「乳吸い」も常習的に行うようになっていた。
 唾液を混ぜ合い、交換し合う、舌を絡ませるディープキスの後、ユウはビスチェ風コスのカップ部分をずりさげて両乳房を恥ずかしげに“ぼゆん”と剥き出し、哉汰はすぐに左右の乳首へ順番に何度もキスをし、舌を這わせ、甘く噛む。魔石による電磁波遮断域であるのをいいことに、ユウは特に抑える事もなく甘ったるい矯声を上げ、時折、母親が愛しい子に乳をあげながらそうするように、哉汰の髪を優しく何度もまさぐった。
 そして哉汰は、最初の頃はあれだけ抵抗を感じていたはずの背徳的行為に、すっかり没入していた。
 もともと彼も意固地に拒否したいわけではなく、むしろ願ったり叶ったりだったなのだが、まさか自分から「おっぱい吸わせて」と言い出すわけにもいかず、結果としてユウのついた明らかな嘘(「その方が効率良く上質な魔力が補給出来る」という言葉)に、自ら乗った形となっていたのだ。
 このままでは、ユウに請われたら、流されるままその場でセックスしてしまうかもしれない。
 そういう恐れは確かにあるし、それだけは禁忌としていなければいけないという思いはあった。
 そのため、逆に「ここまでならいいじゃないか」「それだけは避けなくてはいけないから、むしろこれで自分を抑えているんだ」というズルい言い訳を、哉汰は自分に与えてしまったのだった。
 彼も血気盛んな思春期の少年なのだ。
 人格的、道徳的に完成された大人ではないのだから、そんな甘い自己欺瞞も仕方がないと言えた。
 むしろ若さ迸る高校男子が、今なお己を暴走せずにいられる方が不思議かもしれない。

 日が落ちて、すっかり暗くなった路地裏から出て、どこか「イケナイコト」をしている共犯めいた意識を抱いたまま、哉汰と優也の二人はしばらく無言で歩いていた。
 学生服で並んで歩くこの男子高校生達を見て、数分前には片方が妙齢の女性の姿でキスを交わし、乳房を吸い、吸われ、とろけるような官能を与えあっていたと思う者は誰もいないだろう。
 二人共、気まずさはとうに薄れた。
 今はなんとなく気恥ずかしく、それでいて離れがたいような、奇妙な感覚が心を満たしているのだ。
 路地裏の魔力補給の後は、いつもこうだった。
 まるで情を交わして愛を満たし、ラブホテルを出たばかりのカップルのようだが、もちろん哉汰にも優也にもその意識は無い。
 特に哉汰はこれでも、クラスにも何名かは潜伏している腐女子達が喜びそうな、いわゆるBL(ボーイズ・ラヴ)などまっぴらゴメンだと本気で思っているのだ。
「ふうっ……」
 吐息がすっかり白い。
 赤紫から深い藍色に染まった空を、カラスが物悲しげな鳴き声を上げて飛んでゆく。
「そういえば、ウィッチに使い魔とかマスコット的なキャラはいないのか?」
 哉汰はふと、商店街の寂れたペットショップが近々閉店する事を思い出し、いつも感じていた疑問を口にした。
「使い魔?」
 解けかけたマフラーを直しながら、大きめの黒縁メガネの奥からつぶらな瞳がきょとんと哉汰を見た。
「ほら、黒猫とかカラスとか。アニメの魔女っ子モノにも、そういうのっているだろ?」
「『僕と契約して、魔法少女になってよ』とか、そういうの?」
「いや、それはよくわからんけど」
 優也は時々、哉汰の知らない話(ネタ)を唐突にする。
「う〜ん……自分の魔力を『函(パンドラ)』で事象固定して擬似人格を与えた人工精霊を、そういうふうに身の回りに遊ばせてるウィッチも実際いるみたい。だけど、ボクの知ってる人の中にはいないかな?」
「なんでだ?」
「何度も言うけど『函(パンドラ)』の形成と維持には結構魔力が必要で、たとえ極小であってもそれを維持し続けるってのはすごく大変なんだよ。それに、魔法の発動中にああいうマスコット的な存在に回りをうろうろされるとすごく気が散るし……」
「あ〜……まあ、なぁ」
 実際、あの手の魔女っ子アニメのマスコットというのは、うるさくて生意気で足手まといで邪魔くさく、口を何重にも固く縫い付けるか、サンドバックに入れて声が出なくなるまで滅茶苦茶に殴りつけてやりたくなるものも少なくない。
 ……と哉汰は思ったが、言葉を濁したまま言わないでおいた(絵面にしたら幼児が泣きじゃくった挙句にトラウマ抱えて昏い目をしそうな想像だから)。
「そもそも創り上げた自分自身の能力を超えるものは出来ないから、どうしても受け答えは自分の知識内に留まるし、反応もパターン化されるからすぐに飽きちゃうみたいだね」
「人工無能みたいなもんか?」
 哉汰は、結構前に流行った簡易応答の会話シミュレートプログラムを口にした。
「……うーん……それよりはもっと上等だけど……。それでも根気よく何年も育てれば、それなりに独自性を持った思考能力が形成されて小学生並な知能を持つこともあるみたいだね……」
「なんか、思ったより不便だな」
「時を経て知能を有するまでになったケガレは、自分のサーヴァントに自分の存在の一部を植え付けて、独自性を持ったまま操れるようにも出来るみたいだけど、むしろその方が使い魔っぽいよね」
「人間を使い魔にするのか!?」
 哉汰はギョッとして優也を見た。
「操られている意識は無いみたい。あくまで自分の意志で思考し、決断し、行動しているつもりで、その実、ケガレの意思に添う形でしか動けない感じ。全てはご主人様のために……ってね」
「……サーヴァントってのは、近くにいたらわかるもんなのか?」
「いやぁ〜……残念ながら、ケガレと違ってボク達ウィッチもウルフも自信を持って位置や人物を特定するのは無理。特別な魔力とか波長を発してたらわかるけど、サーヴァントって基本的にただの人間だからね。ケガレの発現と行動範囲、それから事前に把握しておいたサーヴァントに該当しそうな人物の行動から推測して特定するしかないんだ」
 つまりそれは、「ケガレが発現するか行動を始めてからでないと、サーヴァントが存在するかどうかすらわからない」ということにならないか?
「ヤバいだろそれは」
「ヤバいよ〜。だからウィッチはその正体も、パートナーの存在も知られてはいけない。特にパートナーはウィッチにとってのウィークポイントだから、何を犠牲にしても護らないといけない。カナちゃんも自分がウィッチの……ボクのパートナーだって、誰にも言わないでね」
「カナちゃん言うな。……わかった。オレもオマエがウィッチだって事は誰にも言わない。当然だ。秘密は守るぜ。……しかしそれにしても、責任重大だな」
「大丈夫。カナちゃんは何があってもボクが護るから」
「カナちゃん言うな。でも、まあ、よろしく頼むわ」
「うん」
 ビスチェ風衣装からあふれ出しそうな、豊満な巨大椰子の実おっぱいを揺すりながら、“ウィッチ・ユウ”は輝くような笑みを浮かべた。
「えっ!? ……ぅわっ!」
 不意に突風が舞い、哉汰は目を閉じた。
「ッ……」
 左目にゴミでも入ったのか、痛みに涙が滲む。
「大丈夫?」 
 心配そうな声に、哉汰はもう一度優也を見た。

 ──幻覚だ。

 目の前に立つ優也は、さらさらとした髪の、少し華奢な、いつもと変わらないただの男子高校生だった。
『なんか……相当キテるな……俺』
 自嘲気味に口元を歪めながら左目を擦る哉汰を、優也は複雑そうな笑みを浮かべてじっと見ていた。
この記事へのコメント
今日の更新はないのでしょうか?
早く続きが……読みたいです……!
Posted by 青玉 at 2012年02月13日 07:05
 すみません。
 執筆ストックが無くなったので書いてました。
 あと3回分は自動投稿設定にしておきました。

 エロ分少ないですが、お付き合い下さい。
Posted by 推力 at 2012年02月14日 16:17
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