■感想など■

2012年02月20日

【ボクキミ】17

■■【17】■■

 カナケンの言葉によると、最近この町でも不可思議な現象が多々目撃されているらしい。
 曰く、人がいないはずの場所から人の気配がした。
 何もない空間から石や瓦の破片が飛んできた。
 急に空の一部がフラッシュみたいに光った。
 不意に耳元で誰かの声が聞こえた。
 挙げ句は、何か黒くて恐ろしいモノを裸の女の人らしい影が追っていた……など。
『裸っていうか半裸だけどな……それがユウだとしたら、だけど』
 学校の帰宅途中、哉汰は公園のベンチで、商店街の肉屋で買った揚げ立てのコロッケを齧っていた。
 公園はちょっとした草野球が出来そうなほど広いが、今は子供の姿も無く、犬を連れた老人が遊具の近くを歩いているだけだ。
「はふっ」
 コロッケに歯を立てると、サクサクっとした衣からじゅわっと香ばしい油が染み出し、噛み締めると牛挽き肉の肉汁とホクホクとした馬鈴薯の甘みが口いっぱいに広がる。
 いつもなら自然と笑みがこぼれるその味覚にも、今日の哉汰の気は晴れなかった。
『……それだけ不思議な現象が目撃されてるってことは、つまりケガレの発生件数が増えてるってことか』
 いつの時代もどこの町でも、少なからず不可思議な現象というものは起きるものだ。
 ただ、滅多に起きなければやがて人の記憶の中から薄れ、やがて自然と忘れさられていくものである。人間は日常を送るために、その日常を脅かすであろう非日常を、自ら理由付けて忘却に葬ってしまおうとする精神作用があるからだ。
 それが世界のバランスであり、ウィッチがケガレから護ろうとしている「人の平穏」というものでもある。
『頻発する怪異は人の精神均衡を揺るがし、ウィッチの魔力障壁を浸食する……か』
 優也から聞いた言葉を反芻してみる。
『……漫画の世界だけの話だったら、良かったんだけどな……』
 怪異が、今までのように非日常を代表する「異常」でなく、当然日常に存在する「通常」であるという認識を人に与えれば、やがてそれはウィッチという存在が認知される事にも繋がり、結果として識域外偏向魔法が不完全となって、いずれはウィッチ・ユウの姿が皆の目にも捉えられるようになってしまうかもしれない。
 それはケガレや、彼らの中でも知能を有するようになったモノ達に使役されるサーヴァント達にも、無防備に身を晒す事にも繋がってしまうのだ。
 そのため過去にはウルフの主導において、街一つ全ての住人の記憶を操作し、怪異に関する記憶を消去した例もあるという。
 もっとも、それには膨大な魔力と多数のウィッチの協力が必要……らしいのだが、その後の“揺り返し”も凄まじく、精神に異常をきたして死に至った住民が何人もいたらしい。

 ──人を護るための魔法で人を死に至らしめる。

 故に現在では、ウィッチの間でもその方法は「外法(げほう)」として規定され、禁忌とされていた。
『こんなにも頻繁にケガレが発生して、ユウが変身しなくちゃいけなくて、街のみんなも異常を感じ始めている。原因はなんだ? 何か、この街でメチャクチャやばい事でも起ころうとしてる?』
 哉汰はゾッとして身を震わせた。
『こんな時に……ユウ……何してんだよ』
 思わず溜息が出る。
 結局、下校時刻になっても優也は学校に来なかった。
 メールの返事も無いし、電話しても留守電に繋がるだけだったのだ。
 哉汰は白い息を吐いて油の染みたコロッケの包み紙を丸めると、ベンチ脇のゴミ箱へと投げ入れた。
「ん?」
 ふと視界の隅に人影を感じ、哉汰は目を凝らした。
 公園の反対側の出口。
 ベンチから100メートルほど離れた、公園の外にある舗装道路の脇に、男連れの女性が立っている。
 すぐ横にあるのは、男が乗ってきた車だろうか。女性はその助手席に乗り込もうとドアを開けたところだった。
 遠いのとサングラスをかけているため、顔はよく見えなかった。
 それでありながら、こんなに離れているのに一目ですぐに女性だとわかったのは、彼女がフェミニンな格好をしていたからではない。
 おそらくはとても長いのだろう黒髪を後頭部で簡単に結い上げ、黒のハイネックのセーターを身に着けており、グレーのスラックスにスニーカーっぽいソールの靴を履いている。
 むしろ服だけなら、遠目には男にも見えなくはなかった。
「すげー……」
 それが遠目でもハッキリと女性だとわかったのは、彼女が「スゴい体」をしていたからだった。
「でかっ」
 思わず目が吸い寄せられ、釘付けになってしまうくらい胸が大きかったのだ。
 セーターを内側から破らんばかりに押し上げる、巨大でいて、かつ素晴らしく形の良い全方位型決戦兵器が、助手席に身を滑り込ませる際にやわらかくたゆんだ。
 まるでセーターの下に西瓜かバスケットボールでも押し込んでいるかのようだ。
「他にもいるんだなぁ……ああいう女(ひと)って」
 ウィッチ・ユウのおっぱいも大きかったが、今の女性のおっぱいは体にぴったりとしたセーターを着ている分だけ、何割り増しにかユウよりも大きく見えた。
 それにユウと比べて背筋がしゃんと伸び、立ち居振る舞いが凛としてて、ユウのあのほにゃほにゃとした頼りない雰囲気とは比べるべくもない。
 ユウとは似ても似つかない、カッコイイ大人の女って感じだ。
「恋人かな? いいなぁ……」
 公園の木に邪魔されて運転席に乗り込むスーツ姿の男の顔は見えなかった。車のガラスにも全面スモークがかかっていて、助手席に乗り込んだ女性も既に見えない。
『今からだとデートして食事してホテルとかでエッチ? ……いいなぁ……』
 高校生の身としては、そういう“オトナデート”に憧れてしまうが、金も車も社会的立場も無い以上、今の自分には無理だと諦めてしまうほか無い。
 二人が乗り込んだ後、車内で何か話しているのか、車はなかなか発車しなかったため、哉汰はやがて興味を失い、ポケットからケータイを取り出した。
『……もう一回……電話してみるか』
 何度もするのも気が引けて、優也に一度しか電話していなかったが、もう夕方だ。
 土曜から理由があってメールも電話も出来ない状態にあるとしても、もう三日になるのだから、さすがにもう通じるかもしれない。
 そう思いケータイを開いた哉汰の視界を、さっきの車が滑るように走り去っていった。
この記事へのコメント
おや、じゅうにんのようすが……

怪しくなってきましたね。ハラハラドキドキさせてくれます
Posted by 青玉 at 2012年02月20日 15:14
 ポケモンのミュウツーネタはわからんです……(._.;)ゞ
Posted by 推力 at 2012年02月21日 10:58
ミュウツーネタじゃありませんよ。普通にポケモンが進化するときのナレーション。

ユウより何割り増しかで大きく見えるなんてそれはもう大変な持ち物ですね……
Posted by 青玉 at 2012年02月21日 12:32
 うわ、そうなんですか。
 いえ私、ポケモンをプレイした事が無いものでして……(笑)。
Posted by 推力 at 2012年02月22日 00:23
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