■感想など■

2012年02月27日

【ボクキミ】18

■■【18】■■

 結局、その後も優也とは連絡が取れず、繋がるのは留守番電話サービスばかりだった。
 そのため、帰宅した哉汰は夕御飯までの時間を使い、今度は自宅の方に電話をしてみることにした。
 実は、今まで直接優也の家に行った事はあっても、こうして自宅に電話した事は滅多に無い。優也に用がある時は、直接彼のケータイにかけていたからだ。
 壁の時計を見れば、6時半を少し過ぎたところ。
『さすがにこの時間なら……』
 緊張気味に優也の自宅番号を呼び出して、コール2回。
 相手はすぐに出た。
【はいは〜い。朋坂でーす! どなたー?】

 やたらと脳天気な声。

 女子高生みたいな口調。

 間違いない。
 優也の母、朋坂真美(ほうさか まみ)だった。
 『見た目20代なのに39歳とはとても思えないような“ぼっきゅぼん”スタイルの、ぽわぽわした癒し系の専業主婦』だと思ってたら『見た目20代なのにそれなりに経験と実力を兼ね備えた超グラマラス人妻セクシー魔法少女46歳(仮定)』だった、本物中の本物魔女だ。
 若干脱力してしまった哉汰は、気を取り直して唾を飲み込んだ。
「こんばんは。あの、オ……僕、優也君の同級生の北沢哉汰です。前に」
【あ〜〜! あ〜〜あ〜〜あ〜〜哉汰くん? お久しぶり〜! いつ以来かしら? また来ますって言ってたのにちっとも来てくれないのね。楽しみにしてるのに〜っ!】
 おっとりとしていながら途切れる事のないトークに若干押され気味になりながら、哉汰はケータイを持ち直す。ぼうっとしていると怒涛の勢いに呑まれてしまいそうだった。
「あ、すみません。それでですね、ユ」
【え? ユウ? ごめんね〜、まだ学校から帰ってないんだけど……ユウに何か用?】
「え?」
 どういうことだろう。
『ユウはおばさんに学校へ行くと言って家を出たのか?』
 なのに優也は、まだ自宅に帰っていないという。
 ケータイを手にしたまま口ごもった哉汰の脳裏に、ほにゃほにゃとした表情をした優也の言葉が浮かぶ。
『母さんには心配かけたくないから、もしボクが母さんに秘密にしている事があったら、それを母さんには聞かないでね?』
 その時はどういう意味なのかわからなかったが、つまりはこういう時のためか。
 ここは、誤魔化した方がいいんだろうか?
 でも今日だけでなく、土曜日からずっと家に帰ってないとか、もしそんな事になってるなら、おばさんに話しておいた方がいいんじゃないだろうか?
 だが、言葉にすればそのような事を次々に脳裏に浮かべていた哉汰は、
【哉汰くんには感謝してるわ。ありがとう】
 という真美の言葉に、その全ての想いを抑え込んだ。
 真美は、哉汰が優也の……いや、ウィッチ・ユウのパートナーになったことは知らないはずだ。
 優也がパートナーを得た事は話したらしいが、その相手が哉汰だとは話していないと、他ならぬ優也が言っていたのだから。

 でも真美は知っている。

 哉汰には、彼女の感謝の言葉でそれがわかった。
 だが、パートナーであるということは魔力補給のプロセスを繰り返していることも承知なわけで……。
『ユウとキスしてることとかもバレバレ!? ま、まさか乳首を吸ってる事とかまで、話してないよな!?』

 ──一気に汗が吹き出る。

 不可抗力とはいえ自分の息子が女になって男とキスし、あまつさえおっぱい吸わせて気持ち良くなってる……なんてのは、いくらこの母親でも気分の良いものではないはずだ。
【あの子が私の跡を継いで一人立ち出来たのは、哉汰くんのおかげだと思ってるわ。感謝してもしたりないくらい。大変だと思うけど、出来たらこれからもユウのこと、よろしくね?】
 ユウがウィッチとして日々活動していることを承知していて、且つ哉汰がそのパートナーであることも把握しているのであれば、彼女はユウが哉汰に対して連絡してこない、または連絡出来ないことの理由も、おそらく当然のように承知しているに違いない。
 とすれば、心配は杞憂なのだろう。
「……はい」
 真美の声を聞いてなんとなく安心した哉汰は、ほっとして肩の力を抜いた。
【ふふっ……あ、ユウが帰ったら、何か伝える?】
「いえ。いいです。別に何か用があるってわけじゃないんで」
【そう? ……ねえ、哉汰くん】
「はい?」
【あの子のこと、護ってあげてね?】
「え?」
【あの子、私に似てあんな感じだけど、思い詰めて無茶しちゃうことがあるから】
 「あんな感じ」というのは、ほにゃほにゃして暢気そうで、特に悩みとか無さそうな感じのことだろうか。
 そういえば、優也である時もウィッチ・ユウである時も、不思議とあの雰囲気だけは変わらない。
『当然と言えば当然か。男だろうと女だろうと、ユウはユウだもんな』

 ちっちゃくてちんちくりんで、黒縁眼鏡とサラサラの髪がやけに子供っぽい優也。

 大きくてグラマラスで、凶悪な巨大椰子の実おっぱいとふあふあピンクヘアがやけに色っぽいウィッチ・ユウ。

 何があっても哉汰を護ると、ほにゃほにゃとした笑みで言い切ってみせた──優也。

 一人で全部背負い込んで、それでも頑張ってる──ユウ。

 優也とユウ。
 やはり同じ人間なのだ。
 それを改めて思う。
「いや、そんな、護るって……僕のほうこそ、ユウに護ってもらってるような……」
【ウィッチの姿は愛の形なの】
「はい?」
 真美の言葉に、哉汰の声が裏返った。
『突然ナニ言い出すんだコノヒト』
 そんな気持ちだ。
 だが真美は、彼女には珍しく真面目で神妙な口調で語った。
 優也が妙齢の豊満な女性の姿になるのは、おそらく彼の「心の形」が彼自身の膨大な魔力ポテンシャルに影響され、それが変身時の魔力行使によって神経網が形作る魔力回路そのものに作用し、過剰起動する事で肉体に干渉してそうさせていると思われること。
 つまり男の子でありながら母性が強く、誰かを護りたい、誰かを支えたい、そして誰かに必要とされたい気持ちがあまりにも強過すぎて、心の在りようが魔力の助けを借りて肉体をああいう形にしてしまったのだと。
 彼女に言わせると、ウィッチ・ユウの豊満過ぎる乳房は、特にその象徴として顕著に発現したものであるらしい。
 また彼女は、こうも言った。
 事象と事象を繋ぐのは因果。
 ウィッチは「愛」でそれを繋ぎ、ケガレはそれを「怨嗟(えんさ)」で断ち切る。
 そしてケガレは対峙したウィッチとそのパートナーの心の繋がりを最も嫌い、なんとかしてその関係を壊そうとするのだという。
『愛……って……』
 「オレとユウの間には愛なんて無いですよ」と、そう言おうとしながらも、哉汰はその言葉を発する事が出来なかった。
 友情もまた、一つの愛の形かもしれないと、前に誰かに聞いたような気がしたからだ。
「護れるかどうかわかりませんけど、僕に出来ることは、全力で頑張ろうと思ってます」
【ありがとう。哉汰くん】
 通話の向こうで、真美のほんわかした顔にやわらかい微笑みが浮かんだのを、哉汰は確かに感じていた。
この記事へのコメント
心の形がウィッチに変身した時に作用して性別まで変わってるってのはうまいですね。
Posted by 通りすがり at 2012年02月27日 20:24
 ありがとうございます!
 アイデアとしては使い古された感が否めないのですが、独自性は後から出ればいいかなーと。
 出てるかどうかは微妙ですが。
Posted by 推力 at 2012年02月28日 10:18
『僕たちの選択』でもありましたね
Posted by 青玉 at 2012年02月28日 20:15
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