■感想など■

2012年06月18日

【ボクキミ】48

■■【48】■■

 大量の画像と膨大な情報。
 そこに、ユウに繋がる糸は必ず有る。
 そう信じ続けて、哉汰は画像の数々を凝視し続けていた。
 繰り広げられるユウの痴態。

 淫乱な行為。

 揺れる乳房。

 濡れる陰部。

 震える尻肉。

 爛れた情欲。

 溢れる淫液。

 注がれる精。

 性情報が脳を焼き陰茎に血流を促して熱を帯びた勃起を喚起するが、心は真逆に冷えていった。
 哉汰には悦びに震えるユウの体が、耐え切れぬ嗚咽に震えているように見えた。
 男達の男恨を咥え膣に迎え、腰をくねらせて尻を振る淫婦の行為が、理由も知れぬ罪を償う自傷的な行為に見えた。

 傲慢?

 自惚れ?

『上等だッ!!』
 こめかみに流れる血流が恐ろしいほどの勢いで、ダクダクとものすごい音を立てている。
 鼻腔を伝う湿った鉄の匂いを手の甲で拭えば、そこには真っ赤に走る線が出来た。

【ユウは俺に助けを求めている】

 そう信じることが、今の哉汰の全てだった。

§         §         §


 1月5日はネットカフェが臨時休業となっており、哉汰は優也の自宅や学校周辺、そして街をひたすら歩き回っていた。
 少しでも優也やユウに繋がる糸は無いか、手掛かりとなるものはいないか。
 そう思いながら。
 でも、無かった。
 何も、無かった。
 優也の自宅は相変わらずの無人で人の温もりを全く感じなかったし、冬休みの学校は受験生の冬季合宿とかで、部外者の下級生は長時間校内にいることを禁止されていた。
 街は新春大売出しセールで、この時ばかりはどこも人で賑わっていたが、神頼みに神社で優也の無事を祈ってから「反宗教的なウィッチの無事を神様に祈っている自分の不条理」に思わず苦笑した。

 ただ、ゲームセンターで休憩している時、近くの学生が例の「不審死」の事を話しているのを聞いた。
 去年の大晦日に、繁華街にある廃業して久しいカラオケボックスと、雑居ビル地下のクラブから、少なくとも併せて20人前後の変死体が発見された事件のことだ。
 大々的なニュースにはなっていないが、正月から今日まで、毎日のように街のどこかで不審死体が見つかっているというのだ。
 表面が腐敗していながら内臓は新鮮な、「まるで、ついさっきまで生きていたような腐乱死体」が。
 ウィッチの存在を認知した世界では、ケガレが発生し、それが起こしている事件だと考えるのが妥当だった。
 マスコミや警察、行政はその存在を認めていないため、あくまで「事件」として捜査・報道する方向のようだが、おそらくユウがいなくなった事でケガレと闘う者がいなくなった事が原因に、間違い無さそうだった。
 こんなにも被害が拡大し始めているのに大きなニュースになっていないのは、何か他の、それこそマスコミや市政に介入出来るくらいの力が動いているのも間違い無いだろう。
 たぶん、それはウルフだ。
 哉汰は確信めいたものを感じるが、その肝心のウルフに接触する方法が無い自分には、どうすることも出来ない。
 つくづく自分の無力さを痛感してしまう。

 そして、1月6日。
 昨日の疲れと日頃の不摂生、ほとんど固形物を受け付けない胃のせいか、哉汰は夜になるまでベッドから立ち上がる事も出来ずにいた。
 自業自得だとでも言いたげな母の目を盗み、無力感に苛まされながら、それでも自分を奮い立たせつつネットカフェを訪れたのは、午後8時を過ぎた頃だ。
 もうすっかり顔馴染みになってしまった受付の店員に顔色を心配されながら個室に向かった哉汰は、そこに最新のぺージがアップされているのを見つけた。
 リンクタイトルの日付は1月1日から……6日──つまり「今日」だった。
 「正月合宿」とタイトルまで付けてある。
 そこには、元旦の1月1日から6日の今日まで、毎日、入れ替わり立ち替わり男達に犯され続けるユウの姿がアップされていた。
 ユウの胸元まで垂れるふわふわとした髪の色は、あの夢見るようなピンク色ではなく、既に、黒に限りなく近い赤……静脈から流れ出た血のような暗赤に染まり、その表情は痴呆めいた淫乱そのものだった。
 そして。
「……ッ!?」
 その内の1枚の画像に写り込んでいた背景の一部に、哉汰は確かに見覚えがあった。
「ユウ!」
 もう、我慢出来なかった。
 退出手続きももどかしくネットカフェを飛び出し、自転車に跨って夜の街を走った。
 時刻は既に午後9時を回っている。
 明るい繁華街を抜けて、暗く閑散とした道をひたすらに駆けた。
 体力の落ちた体が悲鳴を上げ、何も入っていない胃袋から胃液がせりあがってきて喉が焼けた。
 脂汗が額を濡らす。
 頭痛と眩暈で倒れそうだ。
 それでもひたすらペダルを踏む。

 闇が。

 闇が迫ってくる。
 街の中を、何かが満ちている。
 哉汰は胸を圧迫する、質量を伴うような圧迫感に歯を食いしばりながらペダルを漕いだ。
 気のせいなどでは断じてなかった。

 知っている。

 ──これを、俺は知っている。

 哉汰の心が震える。
 あの日、あの夜、あの場所で、ユウが闘っていた黒い巨獣に感じた畏怖と恐怖と切迫した感じ。
 対峙することなど想像すら出来ない根元的な虚無感。
 これがそうか?
 これが、そうなのか?

 ──ケガレの気配。

 そう思った時、哉汰の全身を冷たい汗が噴き出した。
 手遅れではないのか。
 いや、まだだ。
 まだ、今なら。
「……ユウ!!」
 あの写真が撮られた場所は、学校のどこかだ。
 哉汰が通う、東海南浜高等学校のどこか、だ。
 しかも、どうやら園芸部の部室っぽかった。
 確証は無い。
 でも確信があった。
 今は、それだけで十分だった。

§         §         §


 体育館裏のフェンスは、以前から一部が破れたままになっていて、遅刻しそうな生徒がしばしば利用している緊急用の抜け穴だった。
 哉汰はふらつきながらもそこから学校に忍び込み、園芸部の部室がある特別教室練へと走った。校舎へは、特別教室錬練にある家庭科準備室の、北側端の窓から入る事が出来た。その窓は鍵が壊れていて、家庭科教師の山崎女史がいつも愚痴をこぼしていた事を覚えていたのだ。まだ修理されていないのは本当にラッキーだった。
 だが園芸部の部室には、鍵がかかっていた。
 哉汰は当たり前のようにガラスを割って中に入った。
 警備員?
 知るものか。
 眩暈。
 頭痛。
 吐気。
 世界が揺れる。
 体力が限界に近い。
 それでも体中の神経が興奮している。
 凶暴な衝動が哉汰の体を高ぶらせていた。

 そして中には。

 カーテンが開け放たれても薄暗い、弱い月光の差し込む部屋。
 すっかり人の気配の途絶えた、冷えきった部室。
 得体の知れないシミが散在する、床に広げられたマット。
 すえた臭い。
 男と女の性臭の、ぬるくこもったような臭い。
 散らばったトイレットペーパーと使用済みのコンドーム。
 部屋の隅のゴミ箱は湿った紙屑でいっぱいだった。

 悪臭。

 醜悪な光景。

 でも誰もいない。
 ユウはおろか、男達も誰もいなかった。
 哉汰は奥歯を噛み締め、目に力を込めた。

 ここでユウは犯されたのか。

 何度も何度も犯されたのか。

 今日も、ついさっきまで、自分がネットカフェで馬鹿みたいに画像を見ている間中、ずっと犯されていたのか。

 前から、後から、上にされて、下にされて、泣いても乞うても許されず、男達が満足するまで犯され続けたのか。

 苦しい。
 胸が締め付けられる。
 苦し過ぎて息が出来ない。
 胸元を掴んで引き千切りそうになりながら、冷たい空気の中で身を震わせた。
「ユウ!」
 その苦しみを全て吐き出すように叫んだ。
「ユウ! なあっ! お前……お前、どこにいるんだよっ!!」
 絞り出すように、叫んだ。

 だが誰も。

 誰も、応えなどしなかった。
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