■感想など■

2012年07月02日

【ボクキミ】52

■■【52】■■

 「さっき、リスクを抱えてまで救い出さなければならない状態にはない……って言ってたよな。本当にユウは大丈夫なのか? まさか……」
 哉汰の言葉に、高階は胸ポケットから平たくカッティングされた蒼い宝石を取り出してテーブルの上に置いた。
「それは?」
「リンケイジ・ジュエル。この宝石は、ウィッチ・ユウの魂にリンクしている」
「魂?」
「正しくは『魂魄体(エルダー)』に、だ。輝きが失われてない以上、命だけは健在だ。だが弱い。いつもはもっと輝いてるんだが……」
 哉汰は宝石を手に取り、じっと見つめた。
「光が見えるか?」
「ああ」
「なら大丈夫だ。その光はウィッチと契約した者か、それに追従するもの、ウィッチが心許した者にしか見る事は出来ない」
 宝石は内側から光を発し、哉汰の掌を青い光で照らしている。
「もしこの光が消えたら、ユウはどうなるんだ?」
「同調者(リンカー)が死ぬと光も消える。透明度を失って濁り、時には割れる事もある。もちろん、光っている時にこの宝石が割れても、同調者には何の影響も無いがな」

 死ぬと消える光。

 弱くなった光。

 それはつまり、ユウが弱って今にも命が消えそうになっているということなのか。

「ユウが、ずっとそんな危険な状態にあったなんて……」
 正直、男達に犯され、体を穢されたとしても、命までは失わないと思っていたところがあった。
 だが、事は既にそういうレベルでは無くなっているのだ。
「何を言ってる? むしろ、命の危険があったのはお前の方だ」
 ところが高階は、本気で意外そうな顔で哉汰を見た。
「俺? なんで俺が」
 哉汰がそう言うと、高階は舌打ちして髪を掻き毟った。丁寧にセットされていた黒髪が乱れ、今まで高階とは無縁だと生徒の誰もが考えていた男臭い「野生味」が急に増した。
「だから俺は言ったんだよ。その程度の自覚しかないガキがパートナーじゃあ、いつか取り返しのつかない事態になるってな。なのに、再三の注意にも優也は耳を貸さなかった。あいつも阿呆だ」
「……どういうことだ?」
「説明しとけって言ったのにしなかったユウも悪いが……まあ、それは仕方ないか……」
「だから、何の話だよ!?」
「……頭の悪いお前にもわかるように教えてやろう。いいか、良く聞け。優也はおそらく、抵抗すればお前を殺すとか、お前に危害を加えるとでも言われたんだろう」
「……なっ!?」
「まあ聞け。そして他の人間に相談したり知られても同様にすると言われれば、優也の性格上、大人しく従うしかない。なにせ、少々怪我しようがウィッチであれば平気だ。致命的な欠損でもない限り、ユウから優也に戻れば全て元通りだ。そもそも通常の人間には、たとえばそこいらのチンピラどころか警察の豆鉄砲みたいな拳銃でもウィッチに致命的なダメージを与えることは、まず不可能だからな。だから、自分さえ我慢すればお前を護れると思えば、ユウは進んでその方法を取るだろう。だがそこに隙があった」
 予想していなかったわけではない高階の言葉に、哉汰は唇を噛んだ。

 ウィッチにとってパートナーの存在は諸刃の剣だ。

 ウィッチを護り、その精神的な支えとなり、魔力提供をするかけがえのない存在であるパートナーは、敵にその存在を知られれば、それはそのままウィッチにとって最大の弱点となる。
 ユウは普通のウィッチと比べて、性が反転してしまう分だけその正体が露呈してしまう可能性は低いと言えた。そのため、「ウィッチのパートナーには異性が選ばれる事がほとんどである」という性質上、哉汰と行動を共にする事が多くても、哉汰がパートナーの線からは、まず外されるだろうと想定されてたのだ。
 もちろん、その危険性はゼロではないため、低いレベルであるものの、現在もウルフによる優也と哉汰の監視と警護は、常に継続しているのが現状であった。
「優也は、自分の価値を軽く見すぎていたんだ。あいつは昔からそういうところがあった。自分さえ我慢すれば──なんてのは、体(てい)の良い逃げでしかない」
 まるでユウの事なら何でも知っているとでも言うような、その高階の口調に、哉汰がカチンと来なかったかといえば嘘になる。
 真美さん以外では、優也に最も信頼されているという自負が少なからずあったからだ。
 だからというわけではないが、哉汰は少し意地悪く
「けどさ、先生はいぢめてたんだろ?」
 と言って高階を睨んだ。
「誰を?」
「優也をだよ」
「俺が?」
「小学校の一年生から何年間も、先生は何かにつけて優也に辛く当たってたらしいじゃないか。それっていぢめていたってことだろ?」
「優也が言ったのか?」
「いや、いぢめられていたとは言わなかったけど……」
 意外にも強い目付きで睨まれ、哉汰は言葉を濁らせた。
「ふん……ただの憶測を想像で膨らませて妄想にまで膨らませるのは、いつもエロい事ばっかり考えてる弊害か?」
「なっ……」
 高階は殊更にわかりやすく深い溜息を吐くと、ケータイを開いてボタンを押した。
 そして何をしているのかさえわからないスピードでボタンを操作すると、再びケータイを閉じてスーツの内ポケットに仕舞った。
「私は真美さんに頼まれて、甘ったれたユウの性根を叩き直し、鍛え、精神的な強さを身に付けるための協力をしていたに過ぎん。『高階』の男は、この日本でウルフの活動が開始された昔から、『朋坂』の家に生まれるウィッチの協力者であり、警護者であり、そしてまた同時に監視者でもある。まあ、その事実は一部の人間しか知らない事になってるがな。……もっとも、多少ストレス解消になってた事も否定しない」
 ウィッチの子供が常にウィッチの力に覚醒するとは限らない。
 また、覚醒の時期もまちまちであり、成人後にようやく顕現する事もある。
 そういう話を、以前、哉汰は優也から聞いたことがあった。
 高階の話からすると、優也は小学生の時には既にウィッチの能力に目覚め、その力は育成と保護にウルフの協力や警護を受けるほど強いものだったということだ。
 つまり、優也は小学校の頃から、ウィッチとして成長を期待され、周囲から見守られていたのだ。
『言ってみれば、ウィッチ界のサラブレッド?』
 歴代ウィッチの中でも屈指に強力な能力を持つ、ウィッチ・マミ。
 その息子であり、幼少より強い力を持っていた優也。
 その初めてのパートナーが、ウィッチの事を何も知らない、その厳しさも怖さも何も知らない、知ろうともしなかった、
『俺……』
 哉汰は、今更ながら自分の立ち位置がひどく曖昧で不安定なものだと知った。

§         §         §


 一刻も早く優也を探しに行きたいと思い、クラブハウスから出て行こうとする哉汰を、高階は呼び止めた。
 手掛かりも無くただ闇雲に歩き回っても徒労に終わるだけで、それは単なる自己満足に過ぎない。
 2日前の、少しでも優也やユウに繋がる糸は無いか、手掛かりとなるものはいないか、ひたすら優也の自宅や学校周辺、そして街を歩き回っていた自分をそのまま否定されているような気がしたが、最後には神社で神頼みさえした事を思い出して何も言えなかった。
 そこには「こんなにも懸命に親友を探している自分なのだから」と、ユウを救えない自分への免罪符にしていた部分が確かにあった気がしたからだ。
 だから、高階の言うままに、逸(はや)る心を押さえつけてベンチに座った。
 そんな哉汰に、


 ──ケガレはウィッチを「喰う」。


 高階は苦い口調で、そう言った。
 その表情は今までのどこか飄々としたオトナの顔ではなく、後悔と苦渋に満ちた、ただの、まだ若い男のものだった。
「ケガレはウィッチの魂を汚し、堕落させて自らに取り込む。特に、知能を有するまでに成長したケガレは、そうすることで“魔王”になれる。──いや、ウィッチのパーソナリティを侵蝕し、個としての意識を維持したまま魔王にする」
「魔王?」
 高階の言葉の半分もわからなかったが、とりあえずその単語だけは理解した。
「いわゆる、ロープレで勇者に倒される世界の敵の親玉のアレだが、実際はあんなにも甘くない。交渉も議論も譲歩も折衝も通用しない、感情的な揺らぎなど一切持ち合わせていない、純粋な悪意の塊みたいな奴だ。いわば、一切の生を許さず、ひとかけらの情すら認めない、闇の王」
「闇の……王」
「奴が発現すると数百万人規模での魂魄消失が起きる。奴は命の実をもぐ事無く腐らせ、地に落とす。落ちた命は他者をも引き寄せ、巻き込み、闇に閉ざし、そしてその魂は永遠に救われず、輪廻(リーン・サイクル)から外されて永遠に苦しむ事になる。『七月のホリー』はそうして起きた」
「七月のホリー……ホリーの反乱……」
「……俺は、それを止められなかった」
 苦痛に耐えるかのように拳を握り締めた高階は、まるで、ホリー(ホリゾント)を知っているかのような口調だった。
 『七月のホリー』または『ホリーの反乱』と呼ばれる、ウィッチによる大量虐殺事件が起きたのは1999年の7月、12年前の事だ。
 その時、高階は18歳……高校生か中学生だったはずだ。
 残っている文献では、ホリーは二十代後半の成人男子だったはず。
 中高生と成人男性の接点とは、何があるだろう?
 最も有り得るのは、血縁関係だろうか。
 または、今の哉汰と高階のような、生徒と教師の関係とか?
「?……先生はホリーの」
「一つ、昔話をしてやろう」
 哉汰が尋ねようと口を開くと、高階はそれを遮るようにして話し始めた。

「俺達ウルフが、教訓として常に肝に銘じておかなければいけない、決して忘れてはいけない……忘れられない、一つの物語だ」

この記事へのコメント
うーん、ユウがウルフに浩汰の保護を依頼しなかったのはなぜでしょ。
浩汰に知られたくないことがあっても機密は保持できるような。
頭悪い子が騙されて身を持ち崩すのはいいですが、実年齢二十代の男性としてはちょっとアホの子すぎかなと。
Posted by tai at 2012年07月04日 09:15
浩汰 → 哉汰

本当にちゃんと読んでいますか?
Posted by 青玉 at 2012年07月04日 21:10
>tai さん
 その辺りの事情も追々、そしてユウsideで明らかにされていくのですが、細かい章を単発的に公開していくと、どうしても「疑問に思ったことに対して、すぐに答えが提示されない」ため、それが憤りや不満となるかと思います。
 本や、全部を一気にアップした作品であれば、御自分のペースで読み進める事で、おのずと答えが見つかるのですが、ペース配分を筆者に握られている状態ではそれもままならず、つい書いてぶつけてしまうものだと理解しています。
 私がそうでしたし。
 (勘違いならごめんなさい)

 でも、そんな疑問をぶつけてもらえるのは嬉しいです。
 ありがとうございます。

>青玉
 ゆったり、構えましょう。

 一瞬、自分がまた間違えたかと思って全部チェックしなおしてしまいました(笑)。
Posted by 推力 at 2012年07月04日 22:01
 すみません。青玉「さん」が抜けました……自分こそ落ち着けって感じですね(笑)。
Posted by 推力 at 2012年07月04日 22:02
>青玉さん
>浩汰 → 哉汰

あらら
「汰」のほうにだけ神経いってましたーす。

>推力さん

ブログコメント欄ということで、ライブ感あるレスポンスを許容していただいているものと思い、読んで感じたことをそのまんま書かせていただいています。ありがとうございます。
「作品に対する」憤りとか不満であるというのではないです。
ただ、一読者としては掲載時点で明らかになっている事柄からの感想にしかなり得ないわけです。
当然、作者さん側からは「それは後で明らかになります」ということだと思いますが、真相が徐々に明らかになっていく進め方であると、進行中の事柄について思ったことを素直に書けば「なぜ〜なのか?」「もし〜なら〜ではないか」がまず出てきてしまうわけで……
どうかご寛恕いただければ幸いです。
Posted by tai at 2012年07月05日 01:00
 承知です。
 時々、答えられないもどかしさに「あ〜う〜」となるだけで(笑)。
 答えて全部バラした方がいいのかな→でもバラすと面白くないしな→いやでも、そもそもこのロジックの組み方って読み手には面白いのか?→じゃあやっぱり全部〜以後ループ
Posted by 推力 at 2012年07月05日 02:02
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