■感想など■

2012年07月05日

【ボクキミ】53

■■【53】■■

 男性ウィッチ、ホリゾントのパートナーは、彼の幼馴染みである、12歳の女の子だった。
 二人は周囲が微笑ましく見守るような、初々しく仲睦まじい恋人同士だったと言われている。今となっては事実かどうかもわからないが、子供らしい純粋さで、真面目に将来を誓い合っていたらしい。
 ロリコン?
 うるせぇ阿呆。黙って聞いてろ。

 世界は善意で満ちているわけじゃない。
 だが悪意だけで出来ているわけでもない。
 彼女はその事にまだ気付く前の、自分を取り巻く優しい世界を無条件で信じていた、普通の女の子だった。
 その女の子が、ある日、ホリゾントの知らない所で、学校帰りに行方不明になった。
 再び発見されたのは、バブル後期に立案され、発注元の倒産によって建設途中にもかかわらず放棄されたホテルの、装置が設置される前のがらんとした地下ボイラー室だった。

 ──死体だった。

 見つかった時にはもう死体になってた。
 死後2日は経ってた。
 腐敗が既に始まってて、どこから飛んできたのかわからないような蝿の幼虫の寝床になって、うぞうぞと白い粒がびっしりと蠢くその姿には、あの可愛かった面影のカケラも無かった──らしい。

 なぜ死んだのか。

 殺されたんだよ。

 ケガレに操られたサーヴァント達に寄ってたかって犯され、ぐちゃぐちゃに殺されたんだ。
 可愛かった顔も潰されて、親でも元の顔が思い出せないくらいだったらしい。
 周囲に流れ出して黒くシミになっていた血液の量から、おそらく生きたまま全身をナイフで刻まれ、刻まれながら顔を何度も何度も殴打されて、出血性のショック死を引き起こしたんだと判断された。
 現場は、検証に当たった所轄の、捜査一課の中でも猛者揃いで知られる橘班が一様に押し黙り、口を引き結んだと言われるほど、凄惨を極めていたらしい。
 それだけじゃない。
 犯行の様子は最初から最後まで「スナッフ・ムービー(殺人ビデオ)」としてビデオに撮られ、ホリゾントに送られていた。
 ホリゾント──ホリーはもちろんウィッチとしての名前で、本名は別にある。
 その本名の住所に、直接送られてきたんだよ。
「お前の正体は知っている」
 そう言いたいんだと、誰もが理解した。
 彼女を殺したのが変質者なんかじゃなくサーヴァントの仕業だとわかったのは、何よりそのビデオがあったからだ。
 ウルフが後にホリーの所持品から回収したビデオには、泣きながら犯され、ただひたすらホリーに助けを求めながら顔を殴られ続ける女の子の姿が映し出されていた。
 ああ。
 見た。
 ホリーの本当の名を呼びながらコンクリート剥き出しの部屋の中を半裸で這いずり逃げ惑う彼女は、手や肘や膝の皮膚が剥けて、まるで赤い絵の具で部屋中をペイントして回っているようだった。
 顔をぼかし音声が変えられた男達は、笑いながら少女の小さなお尻を蹴り、手足を踏み、髪を掴んで引き上げては節くれ立った拳骨で顔を殴りつけていた。
 腫れ上がって変色した彼女の顔は、生前の写真より一回り大きく見え、鼻は曲がって鼻血が吹き出し、前歯は残らず折れて無くなっていた。
 艶やかな黒髪が綺麗だったはずの頭は、その髪が所々ごっそり引き抜かれてボロボロになっててな……スペルマらしい白濁した粘液が、そこらじゅうにべったりとこびりついていた。

 ひどいもんだ。

 こんな悪夢が現実にあっていいのか。
 さすがの俺もそう思ったよ。

 「助けて」と叫べば頬を拳で殴られた。
 逃げようと這いずれば腹に蹴りが突き刺さった。
 12歳の、か弱く健気な女の子に、普通の人間が出来る所業なんかじゃなかった。
 ホリーじゃなくても、それを見た全ての人間に、男達に対する殺意が沸く、吐き気を催すような映像だったよ。
 女の子は思っただろうな。

 どうして私が。

 なぜ私が。

 そして死の間際に思ったに違いない。
 恨んだに違いない。

 ホリーとなんか知り合わなければ良かった。

 ホリーの恋人になんかならなければ良かった。

 ……そして、愛しい恋人がそんな目に遭ったビデオを見せられ、平気な男などいない。
 ビデオを見たのだろうその日から、ホリーは姿を消し、次に人々の前に姿を現した時、ホリーはもう元のホリーじゃなかった。

 ──ホリーはケガレに取り込まれ、魔王になっていた。

 膨れ上がった魔力は恋人を殺したサーヴァントの男達を容易に探し出し、ホリー──ホリゾントは小便を漏らしながら許しを請う彼らを、生きたまま細切れ肉に引き千切った後で、恋人を護れなかった己を憎み、救ってくれなかった世界を恨み、絶望と怨嗟で人々の魂を消し去った。

 大虐殺だった。

 一つの都市が壊滅し、死体が溢れて処理しきれないものから腐っていき、疫病が発生したことで更に死体が増えた。
 聞いた事が無い?
 教科書にも無かった?
 当たり前だ。
 ウルフがどれだけ動いたと思ってんだよ。
 まあ、いいから最後まで聞け。
 あんな事態を二度と繰り返さないため、ウルフは以前にも増して注意深く、ウィッチとその周辺の関係者を護ってきた。
 俺が教師になったのは、成長の止まった優也を極力近くで護るためだ。
 自宅及びプライベートには真美さんがいるから問題無い。
 だが学校は違う。
 いくらウィッチでも学校の中まではガード出来ない。
 だから俺がいる。
 そして、真美さんは近世希(まれ)に見るほど強い力を持っている、歴代屈指のウィッチだ。
 あのホリゾントを倒せたのは、真美さんがいたからと言っても過言じゃない。
 だからこそ油断した。
 彼女に育てられ、ウィッチの何たるかを教え込まれた彼女の子供なら、パートナーを護るなど容易いだろうと。
 だが、魂を汚すのに必要なのは、何もパートナーを殺すばかりではない。
 直接ウィッチの体を穢し、心を穢し、慎重に慎重を重ね、汚濁した男の精液を毎日のように子宮へと注ぎ、陰の魔を練ったんだろう。
 パートナーとの繋がりを絶ち、愛を怨嗟(えんさ)に反転し、細心の注意を払いつつ魂を堕落させて悪意で塗りつぶしてゆく。

 そしてケガレは、ユウを取り込み魔王に堕とすだけでなく、ホリゾントの復活をも目論んでいる。

 2011年の現在、この日本において「ホリーの反乱(7月のホリー)」を知らない者はいない。
 人々を護るべきウィッチが、その人々に対して矛を向け、彼の嘲笑が響き渡るなか、数百万人の命が一瞬にして失われたあの日。
 膨大な魔力をその身に受け不死となったホリゾントを、7人のウィッチが命を賭して永久凍結し、次元の狭間に封印したあの日。

 「奴ら」は、あの日を、繰り返そうとしている。

 あの、1999年の7月を。

 真美さんは7人のウィッチの一人であり、その息子であり強大な力を受け継いだ後継者でもあるユウを堕落(フォールダウン)させる事で、ホリゾントにかけられた封印に綻びを作ろうとしている。
 そして、もしユウが堕落(フォールダウン)すれば、ホリゾントなど比較にもならない、「魔王」──「闇の王」を越える「死の王」が誕生するだろう。

 魔神だ。

 俺達ウルフは、何としてもユウをそんなものにするわけにはいかない。
 魔神と魔王が同時に発現したなら、数百万人レベルの話じゃない。
 日本、いや、おそらくアジア圏に存在する多くの国が壊滅する。
 そうなれば世界は混乱し、その数倍、数十倍の人間が死ぬ。
 いいか良く聞け。
 東海南浜高等学校1年F組、北沢哉汰。
 ユウを元に戻せる可能性があるのは、お前だけだ。
 ウィッチ・ユウが選び、護り通そうとしたパートナーの、お前だけなんだ。
この記事へのコメント
ああ、なるほど。
まったく、この作者は(誉め言葉)
Posted by 青玉 at 2012年07月05日 00:11
ゲガレ→ケガレ ですね。どうしてこうなった
Posted by 青玉 at 2012年07月05日 00:12
 修正しました。

 ノリとイキオイで書いてるとこうなります。(←いや、ちゃんと推敲しようよ←してるよ?)
Posted by 推力 at 2012年07月05日 01:57
……あれ?

魔神になる可能性のあるユウを『ルーキーに割いてる暇はない』→『放置でおk』って『ウルフの教訓』から何も学んでないんじゃないですか?
Posted by 青玉 at 2012年07月06日 23:37
 それは54で…。
Posted by 推力 at 2012年07月06日 23:49
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