■感想など■

2012年07月09日

【ボクキミ】54

■■【54】■■

 自分が唾を飲み込む音が部室内で妙に響いて、哉汰は思わず息を止めた。
 話が大き過ぎて現実味が薄い。
 だが、高階の表情と口調、何より哉汰の心のどこかが告げていた。
 これは事実であり、嘘や誇張など無い、紛れもない本当の事なのだ、と。
「……そんな……」
 パートナーである自分がユウを救えなければ、ユウは魔神と化して再び数百万人の──いや、それ以上の人々が命を落とす。
 当然、その中には自分だけでなく、両親や親戚、学校の友人や先生や近所の顔見知りや、商店街の人々も入るのだろう。
 たぶん、いやおそらくきっと、誰もが自分に何が起きたのか理解する暇も無く魂魄を抜かれ、肉体は速やかに死へと至る。 それも全て、

 ──自分が、ユウを救えなければ。

 全身を冷や汗で濡らす哉汰には気付かないかのように、
「真美さんは現在、近隣諸国から集まった名だたるウィッチの方々と共に、ウルフの日本支部中枢でホリゾントの封印強化儀式の最終段階に入っている。ウルフの長老方が、優也の現状や捜索状況を彼女の耳に入れたがらないのはこれが原因だ。彼女は再封印の要であり、今となっては、ウルフにとってだけでなく、日本とそのアジア周辺諸国にとっての最重要人物だからな。この件に関して、あの人をあてにするのは無理だと思え」
 高階はそう言って真正面から哉汰を見た。
「いや、ちょっと待て」
 哉汰は眩暈さえ感じてテーブルに手を着いた。

 つまり、ユウを探し、救い、魔神化を止めるのは哉汰一人に課せられた使命だということか。

 何が『ウィッチとして一人立ちしたばかりのルーキーの行方を探すより、ずっと重要度の高い案件』だ。
 ユウを救う方が何倍も何十倍も何百倍も重要で、そして危険じゃないのか。
 たとえ魔力と人員が膨大にかかろうとも、総力を挙げてユウを保護すべきなんじゃないのか。
 それこそがウィッチの、そしてウルフのすべきことなんじゃないのか。
 哉汰が必死の形相でそう言うと、
「確率の問題だ。現段階では、ユウが魔神化する確率よりも、ホリゾントが復活してしまうだろう確率の方が遙かに高い。何も手を施さなければ、ほぼ100%だ。目の前に、『支柱が折れて今にも崩れそうな橋の上にいる100人』と、『爆発しないかもしれない不発弾が土台に埋まったビルの中にいる1000人』がいるとする。どちらを優先するかと言われたら、まずは放っておけば確実に死ぬだろう100人を先に救おうと思うんじゃないのか?」

 ──どういう理屈だ?

 いや。
 確かに理性では、その理屈もわからなくはないが、感情がそれを許さない。
 哉汰は、無言のまま高階に背中を向けた。
「どこに行く?」
「ユウを助けに行くに決まってんだろ」
「待てと言ったはずだが?」
「このまま待っててどうするんだよ!?」
「ユウの居場所のあてはあるのか? さっきも言ったが、自己満足で闇雲に探しても、意味なんか無いぞ」
「じゃあ、どうすりゃいい!?」
 カッとして振り返ると、そこには「頭の悪い生徒を前にした教師」そのものの顔をした高階がいた。
「これを持っていけ」
 彼はリンケイジ・ジュエルを哉汰に放ると、軽く肩を竦めて息を吐く。
「ユウの選んだパートナーであるお前なら、この宝石にリンクした優也の魂に呼びかけることも、おそらくその居場所を特定することも可能だろう」
「本当か!?」
「俺には無理だった。だが、お前なら出来る。……そう、真美さんが言っていたんだから間違い無い」

 そう思うんだったら最初からそう言え。

 口にしかけたその言葉を飲み込んで、哉汰は深呼吸を一つ、した。
「真美さんを信じてるんだな」
「今世紀最強のウィッチをなめんな」

 ……今世紀最強だったのか。

『いやいやいや、おかしいだろソレ』
 まだ21世紀になって間もないのに、もう今世紀最強なのか。
 まさかそれは、今後もそれほどのウィッチはもう現れないだろうという確信から付いた称号なのか?
 あの、のほほんとした雰囲気の天然系エロ主婦と、そんなとんでもない称号がどうしても結び付かないが、目の前の教師が本気で信じているのだけはわかった。
『誰得属性だな』
 今世紀最強の天然系エロ主婦ウィッチ。
 どんだけ“盛れ”ば気が済むのか。
「今ちょっと失礼な事を考えたんだろうが、事態が事態だから真美さんには秘密にしておいてやる」
「人の心まで読めるのか!?」
「自覚が無いのか? 思い切り顔に出てたぞ」
「マジ?」
「……人から指摘されたこと無かったのか?」
 そういえば、優也にはよく考えている事を先読みされていたが、あれはユウのウィッチとしての力がさせていたわけではないのか。
 哉汰はそう思い顔を顰めかけ、慌てて高階から顔を逸らした。
「確率はホリゾント復活より低いとはいえ、決して安心していいレベルじゃない。ユウが魔神となってからでは、全てが手遅れになる。今はまだ高淫魔レベルに留まっている段階だろう。だが恐らく残された時間は少ない。大任だが、今はお前に頼る他無い。ユウを救ってくれ」
 流れるように綴られる体の良い責任転嫁の言葉に、哉汰としては苦笑するしかない。
 おそらく高階には……いや、ウルフには、まだまだ哉汰に語るべきではないとされている理由や事情や都合があるのだろう。
 踊らされている……と思わなくは無い。
 でも、今は都合良く踊らされてやるしか、ユウに近付く方法が無いのも事実なのだ。
「先生は?」
「当然、お前一人に全部任せるわけにいかないからな。バックアップは用意するさ」
「バックアップ?」
「万一の時のために、別動隊からも人を集める。封印強化に関わっている真美さんをはじめとしたウィッチ達も、ある程度の目処が立てば人員を割くことが出来るから、そうすればすぐにでもユウの救済に向かえるだろう」
「……救済? 救出じゃなくて?」
 哉汰の言葉に高階は心底不快そうに顔を歪めた。
「……魂の救済だ。意味は、わかるな? ユウをホリゾントの二の舞にしてくれるなよ」

 ──ゾッとした。

 哉汰の背中を悪寒が走り抜ける。
「あんたたちウルフは……ユウをホリゾントみたいに封印……いや、……殺す……つもりなのか!?」
「…………」
「どうなんだ!?」
「必要ならば、そうする。当然だ」
「なんで!?」
「……最近、ここいらで発生している変死事件を知っているか?」
「それが今、何の関係…………あるのか!?」
 哉汰の問いに、高階は答えない。
 だが、それが答えだった。
「現在ウルフが把握している変死事件の被害者は、大半がサーヴァントとして過去にウルフから監視対象認定された人間ばかりだ。記憶を消したり『ギアス(行動制限)』をかけて泳がせていたが、ホリゾントの封印が綻んだ事でケガレの支配を再び受けるようになったらしい。ユウと接触した痕跡が皆無だったため、支部でも見逃していたようだ。まあ、クズが片付いたと思えば丁度良い」
「なっ……」
「おっと。今更『この世には死んで良い人間なんかいない!』とか、頭おかしい博愛主義者みたいな戯言を吐くなよ? サーヴァントに与して因果を外れた連中っていうのは、いずれロクな死に方をしないからな。ほっといても自殺・他殺・事故・疾患、その他諸々の不審な理由で遠からず死んでただろうな。だが……今後、一般の人間に被害者が出ないとも限らない」
「ユウが……人殺し……?」
 あの“ほにゃほにゃ”とした癒し系の、万年お天気頭みたいな天然魔女と「殺人」が、どうしても哉汰の中では結び付かない。
「もっとも、まだ確定したわけじゃないし、ユウが直接の死因だとも断定出来ていない。過去にウィッチが堕落(フォールダウン)して人を殺した事例は、『ホリーの反乱(7月のホリー)』の他にも無いわけじゃないが、それだってかれこれ100年以上も前の話だからな。だが……ゼロじゃない以上、可能性は可能性として考えておくべきだ……というのが、長老会の意見だな」
「だから……ユウを、殺すのか!? ウィッチを護るのが、ウルフの使命なんじゃないのかよ!?」
「勘違いするな。人々の安寧を護るウィッチをバックアップするのが、俺達の使命だ。人々を見殺しにしてまでウィッチを護るのは、他ならぬウィッチの意思・理念・存在理由に反するんだ。人々を護るウィッチが、人々を害する魔神になるというのなら、むしろそれを全力で止めるのが俺達の成すべき使命だ。それが嫌なら、お前はお前の使命を果たせ」
 言葉も無かった。
 リンケイジ・ジュエルを握り締めた哉汰の右手が震える。
「俺が、ユウを……救う……」
 救えなければ、ユウはウィッチやウルフ達の手によって殺されるか、もしくはホリゾントのように封印されてしまう。
 だが、救うとは具体的にはどうすればいいのか。
 穢された体と魂を浄化するには?
「救い……方……」
 これがゲームのセーブデータであれば、フォーマットして書き込まれたデータを消去するか、新たなデータで「上書き」すれば、不本意なデータは消えて無かった事になるのだが。
『データを……上書き……あ〜〜……』
 思い至った「浄化方法」に、哉汰の顔に血が上って熱くなった。
「お前にはお前の救い方があるし、魔神化する前に救う方法は、やはり“それ”しかないだろう」
「だから人の考えを読むなよ!」
 自分の厨二的エロマンガ思考を覗き見されたような気がして、哉汰は恥ずかしさに身悶えしそうになった。
 だが、高階の表情は真剣だった。
 「それが正解」だと言っているようにしか見えなかった。
「阿呆。それは他の誰でもない。お前だけにしか出来ない救い方だ。だからこそ、俺達はわざわざ未熟で阿呆なお前をユウの元に向かわせるんだからな」
 高階は訝しげに眉を顰める哉汰に、
「法治国家で未成年が持てる武器は限られてる。まあ、使うような事態は無いと思うが、使うと決意した時には躊躇わずに使え。その場所にいるのが、ユウ一人だけとは限らないぞ」
 そう言って、どこから出したのかスタンガンと伸縮式の警棒を机の上に転がした。
この記事へのコメント
『組みして』は『与して』の誤用ですよね。

ドゥリンダルテ!

ユウの居場所が分からなくて手を出せなかったのが最大の問題だっわけで、その方法は最初から思いついてたはず……

捜索をしなかったのではなくて捜索できなかったという解釈でいいんですかね?
Posted by 青玉 at 2012年07月09日 05:36
 『与する』は常用外で、通常は『組みする』だと思ってましたが……windowsのIME変換の付属辞書では『組みする[一般的][動作]「活字の組み、組み写真」』『与する:味方する→くみする「敵に与(くみ)する、与(くみ)しやすい:常用外』とか出ますね。

<調べ中>

 「組みする 意味」でググるとYahoo!辞書やgoogle辞書などのネットでは一緒くたになってますが、
 他のページでは

もちろん、「組する」は “与する” と かくのが 本来の 表記法です。新明解国語辞典第4版では《「組する」とも書く》と しています。広辞苑では「組する」を みとめておりません。“与する” だけです。

 という記述もあるので、修正しておきます。

 というか、わからなかったら、かながきにしとくのが無難なんでしょね。



>捜索をしなかったのではなくて捜索できなかったという解釈でいいんですかね?

 その辺、わざとうやむやにして、真実がどこにあるのかわからなくしているつもりです。
 上手く表現(伏線回収)出来ればいいのですが、ウィッチもウルフも「人類の味方(ウルフはウィッチの味方・友)」としていますが、決して慈善団体でも人権団体でもなく、一番最初(プロローグ)に「バランス調停者」と表記してあるように、完全な「人類の守護者」ではないです。
 前半で描写しておきながら、後半(ユウの堕落過程)になって描写しなくなったものの中には「読み手には忘れておいてほしいもの」が多々あります。

 また、高階の言葉も真実ばかりではなく、「相手が哉汰だからこそ」隠したり誤魔化したり、果てはミスリードを誘っている所があります。
 「ユウの居場所が分からなくて手を出せなかったのが最大の問題」と哉汰が思えば高階には上々で、なぜグダグダと過去(しかも私情の入ったショッキングな内容)の話とかした後に「哉汰がリンケイジ・ジュエルを使えばユウを見つけられる」とわかっていて最初に言わなかったのかと言えば、高階の中にも思惑があり、その思惑は彼自身の想いとは別に、長老会や真美自身の考えも入ってるからです。そもそも哉汰にはホリゾントの過去なんか関係無くて、逆にその内容がショッキング過ぎて、パートナーであることに恐怖を抱いたら意味無いんじゃないか、とか。

 再封印で真美の手が離せないというのも、ある意味においては嘘で、読み手が「今世紀最強にしてはマヌケじゃね? ザルじゃね?」と思うとおり、ユウの魂が壊れる寸前まで助けられないのは、あまりにも親として馬鹿過ぎるし、今世紀最強の称号が過分に過ぎるだろうと高階が思わせたい(哉汰→読み手)から……なんですが、わかりにく過ぎたりしますか?
 本当に「のほほんとした雰囲気の天然系エロ主婦」であるだけのウィッチが最強を冠することは出来なくて、時には肉親までも目的のためには犠牲に出来る人間しか、人はついてこないと思ってます。
 自分の息子を「下手すれば死ぬかもしれない状況」にわざわざ追い込んでまで成したかった事があるから「気付かないふり」をしていた……と設定していました。真美は、優しく見えます(後ほど「ユウ5」で出ますが、哉汰と電話で会話したのは真美自身ではなく、彼女が作った使い魔=人工精霊で、まだ本編に本当の真美は出てきていません)が、とても非情で、冷徹に物事を見て、でも根本的には優しいです。決定的な間違いを起こす前に、そのための予防策(防御布陣)を敷いておくような……この辺、「魔法少女リリカルなのは」の戦技教導官としてのなのはがイメージソースに入ってるかもしれません。あの子よりもっとあたまおかしいですが。

 そもそも今回のケガレ絡みの「近隣諸国のウィッチ召集」が本当に行われているのかと言えば、高階がそう言っているだけに過ぎないわけで、つまり描写している「哉汰視点(視野)の物語の狭小さ」では、それが真実かどうかと確かめる術が無く、世界を多角的に捉えられないため不整合ばかりが目に付く→書き手が都合良くミスリードを仕込める形式をとってる時点で「何が真実かわからなくて、とりあえず目の前に提示されている情報を信じるしかない」という、なんだか読み手にはストレスばかり強要する感じになってますね。


 というように、後の展開とかも全部ネタばらしして解説した方がいいんでしょうか……?


 いや、もう、「もっと単純に書け、エロが主なんだから!」とか自分で思いながら書いてる時点で、なんか失敗してる気がします。

 本編はあらすじとポイントだけ書いておいて、書きながら補完して展開していってるところがあるので、伏線とか上手く機能してない部分が多々あります。
 その辺はもう、ごめんなさいと言うしかなくて。
Posted by 推力 at 2012年07月09日 10:04
 「ドゥリンダルテ!」が何なのか一瞬わかりませんでしたが、サバトちゃんが持ってる超電磁スタンロッドの事ですね(笑)。

 私の中で思い出したのは、『黄金拍車 異次元騎士カズマ』のドゥーリンダルテ(カズマが騎士になった記念に主エトワールから贈られた←正しくは戦友ロランから譲り受け、エトワールに捧げた剣で、彼の座右の銘、『こいつぁすごいぜ』が刀身に刻まれてます)なんですが、古いですね(笑)。
Posted by 推力 at 2012年07月09日 10:14
自棄にならないでくださいな。
それほど熱心に拝読しているということですから。

>エロがメイン
ぼくはおっぱいがメインだと思います!
Posted by 青玉 at 2012年07月10日 00:05
 自棄?


 確かにおっぱいメインだと思います(笑)。それも巨乳以上。カップで言えばFカップ以上。
Posted by 推力 at 2012年07月11日 23:02
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/56224051

この記事へのトラックバック

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★