■感想など■

2012年06月16日

【ボクキミ】ユウ1

◆◆◆ SIDE -ユウ- ◆◆◆

■■【1】■■


 護りたかった。

 全てのものから。

 護りたかった。

 取り巻く様々な悪意から。

 はじめての、友達を。


 それがボクの、たったひとつの望み。



 ────だった。



§         §         §


 朋坂優也は自分をホモセクシャル(同性愛者)だと思ったことは、今まで生きてきた人生の中で、ただの一度も無い。
 初恋は──これが「恋」なのだと自覚的に人を好きになったのは、小学校6年生の時だ。相手はクラスメイトの女の子だった。笑顔の可愛い、ポニーテールが良く似合った大人しい子だ。席が隣同士になったのがきっかけで一緒に帰るようになり、結婚の約束さえした。中学への進学を期に、彼女が父方の郷里へ引っ越す事になり自然消滅してしまったが、今でもいい思い出だ。最近になって、風の便りでは良い人と結婚し、来年には子供も生まれるそうだから、自分がこうしている間にも月日は無常に過ぎてゆくものだと、しみじみ思ったりもした。
 中学に進学してからは、思春期の入り口に立った級友達と一緒に、雑誌の巻頭ページを飾るグラビアアイドルに心ときめかせ、級友の兄の所蔵だと言うアダルトビデオに興奮し、中二の夏休み前には彼女と呼べる女の子もでき、その子とはペッティングする仲にまでなった。
 でも14歳で肉体年齢が止まり、「普通の関係」が周囲の「普通の人達」との間で構築出来なくなってくると、当たり障りのない、深く関わる事のない浅い関係でしか、人と接する事が出来なくなった。
 そして季節は何度も巡り、心を深く静かに密やかにする事に馴れていった。
 人々の目に留まらぬよう。
 目立たぬよう。
 記憶に残らぬよう。
 それは、生きながらにして自分を殺してゆくことと、同義だった。
 そんな時だ。
 彼に出会った。

 ──眩しかった。

 彼の発する命の輝きが、眩しかった。
 今思えば、彼の何に、どこに惹かれたのか覚えていない。
 どこかで憧れにも近い感情を抱いたのかもしれない。
 優也は、肉体年齢は14歳でも、この世に生を受けてから24年が経っていた。いくら精神的に成熟していないとはいえ、魂は24歳なのだ。10歳も年下の少年に憧れを抱くとは思いもしなかったが、実際にどんどん惹かれていったのだから仕方なかった。
 もちろんそれは恋などではない。
 そもそも優也自身、男同士でそれは有り得ないと思った。
 彼とどうこうとか、そんなものじゃないのだ。
 『友情』と呼べる関係が彼と構築出来れば、それで満足だった。それで十分だった。
 知れば知るほど、彼の心の、魂の有りようが眩しく感じられ、そして惹き付けられていった。
 なのに。
 彼を一目見た母が言ったのだ。

「あの子しか、いないんじゃない?」

 愕然とした。
 何日も悩んだ。

 それはない。

 そんなのは、ない。

 せっかく、この体と宿命のせいで久しく忘れ、自ら遠ざけていた男同士の友情を、拙いまでもようやく育み始めていたのに。
 母は、彼を「ユウのパートナー」にする事を薦めたのだ。
 もちろん、常套的なウィッチの魔力補給法を思うと、彼をパートナーにするのは躊躇われた。
 当然だ。
 確かに、パートナーからウィッチに対して行われる魔力供給に際しては、その親和性が重要視される。
 そのためパートナーには、信頼し、一定以上の愛情を感じている相手が選ばれる事が多いのだ。
 それは、高い親和性の元に交わされる信頼と愛情のこもったキスは、魔力回路への浸透性が最も高いからだった。

 ──でも、ウィッチではあっても、自分は男なのだ。

 それに彼は男で、友人で、そしてウィッチやウルフやケガレや、そもそも意識的魔力行使の世界からは元々遠い存在なのだ。
 それをパートナーとする事は、彼を否応無くその世界へと引き込む。
 それが自分に出来るのか。
 そうした自分を、自分は許せるのか。

 でも、その逡巡は、たった一度のキス(魔力補給)で吹き飛んでしまった。

 自分がかくも快楽に弱い人間だとは、その時まで思いもしなかった。
 相手は自分と同じ男なのだ。
 だから、彼との行為に溺れるなど有り得ないと思っていたし、どこかで、そう心から信じてもいた。

 でも裏切られた。

 自分の心と体に裏切られた。

 肉体的な快感だけではない。精神的な充足感、満足感、多幸感は半端ではなかった。
 自分の心のどこか欠けた部分が補完され、それだけでなく溢れるほどたっぷりと満たされ、それこそ有り得ないほどの強烈な幸せを感じた。
 世界がキラキラと輝き、体に力が満ち満ち、もう誰にも負けないと思えた。
 これならどんなケガレにも悪意にも、絶対に負ける気がしなかった。

 「正しいパートナー」はこういうことか。

 「共に生きたいと思える相手」とは、こういうことなのか。

 「運命に定められた絆」とは、つまりはこれがそうなのか。

 先輩ウィッチ達が口を揃えて言っていたことが、ようやく頭でなく、心と体で理解出来た。
 そうしてどんどん、彼との行為にのめり込んでいった。
 体と心が全て満たされるという誘惑に、どうしても勝てなかった。
 今まで、決して満たされる事のない飢餓感を常にどこかで感じていた自分にとって、それは至上の甘美であり至福であったから。

 だがそこに、

 いや、だからこそ、そこに


 ──油断が生まれた。


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