■感想など■

2012年07月14日

【ボクキミ】ユウ5

■■【5】■■

 11月1日、火曜日。

 体調不良を言い訳に学校を休み、優也は時間ギリギリまで自分の部屋のベッドの上で膝を抱えていた。
 目の前には、昨日、コートの中に入れられてた、1万円札と5千円札の入った白い封筒がある。
 誰の仕業かは、聞かなくてもわかっていた。
 「彼」だ。
 これは、ユウを昨日の男に「貸し出した」対価の一部に違いない。
 対価の内の、報酬に当たる取り分だというわけだ。
 つまりユウは、文字通り「売られた」。

 ──「売春」させられたのだ。

 「売春するウィッチ」など聞いたこともない。
 人類の守護者、ケガレと闘い人知れず人々の平和と安寧を日々護る者。
 そのウィッチが、よりにもよって「体を売って金を受け取る」など、笑い話にもならない。
 西洋ではケガレに取り込まれた「時の権力者」から身を護るため、娼婦宿に潜んだウィッチが何人もいたらしいが、日本ではウルフの日本支部設立以来、そんな事例は一件も無いはずだ。
 そもそも、こんなことをするために母親から役目を受け継いだのではないのだ。
 昨日、夜遅くに帰宅した優也を、母の使い魔(自己の魔力を『函(パンドラ)』で事象固定して擬似人格を与えた人工精霊)が出迎えてくれた。
 日常的な会話だけなら可能な、(優也から見れば母そっくりな思考・言動をするが、母に言わせれば)ごく簡単な構造の使い魔だった。その使い魔が、6時半過ぎに哉汰から電話があったことを教えてくれた。
 そして
【護れるかどうかわかりませんけど、僕に出来ることは、全力で頑張ろうと思ってます】
 という彼の言葉を、伝えてくれた。
 6時半と言えば、自分があの男に車の中でキスされ、体をおもちゃにされていた頃だ。
 哉汰が自分を心配して電話してくれたのに、自分は男のキスと愛撫に身を任せ、爛れた快楽に身も心も犯されていたのだ。

 そして、金を「受け取った」。

 体を売って金をもらったのだ。

 封筒はクシャクシャになって皺が寄っていた。
 一度、カッとなって丸めてゴミ箱に投げ入れたのを、今朝になって拾い上げて広げたのだ。
 捨てても仕方ない。
 もう「受け取った」事になっているのだから。
 むしろ「彼」の顔に叩き付けて突き返してやった方がいい。
 そう思ったのだ。
 けれど、正直言えば、もう「彼」には二度と会いたくなかった。
 逃げ出したかった。
 でも逃げると「彼」に全てをバラされてしまう。
 ネットに流され、世界中に拡散してしまう。
 自分がウィッチ・ユウであることも、そのパートナーが哉汰であることも。
 そうなれば、自分だけでなく哉汰にも命の危険が降りかかるのだ。
 一度ネットに拡散した情報は、二度と「無かったこと」には出来ない。
 その危険は哉汰が死ぬまで、彼を一生に渡って付け回すだろう。
 今からでもウルフに、高階先生に相談しようか。
 こんな風に、自分の正体がバレそうになった事は過去にも何度かあった。
 その度に、ウルフは上手く対処してくれたではないか。
 そう思って、優也はすぐに頭(かぶり)を振った。

 ──だめだ。

 そうすると哉汰の記憶が消され、パートナーであったことだけでなく親友だったことすら忘れて、全てを無かった事にされてしまう。
 せっかく出会って、わかりあって、積み上げてきた哉汰との思い出が、全部消えてしまう。
 初めて出来た親友だった。
 そして全てを曝(さら)け出せたパートナーだった。
 哉汰以上の人は、もう今後現れない気がする。

 ──機会を待つんだ。

 「彼」だって血も涙も無い悪魔じゃない。
 ただの、ちょっと度の過ぎた偏執的ウィッチ・マニアなだけで、自分のしていることに対しての罪悪感は必ず抱いている。
 いつか自分の行為を悔いてくれる。
 そうだ。

 あと少し我慢すれば。

 あと少しだけ、自分一人我慢すれば。

 大丈夫。
 変身さえ解いてしまえば、全てはリセットされる。
 少なくとも体だけは、全てが無かった事に出来る。
 哉汰には少し心配させることになるかもしれないけれど、少なくとも彼に知られてしまう事だけは避けられる。
 だから、もう少し。
 あと、もう少し。
 そう思いながら優也は10時13分に、部屋の中でウィッチ・ユウへと変身し、窓から空へと身を踊らせた。
 空が明るい。
 空気が冷たく澄んで、何も無ければ、これほど気持ちの良い日も無かっただろう。
 でも。
 雲一つ無い青空の下、自分はこれから「彼」によってどこの誰かも知らない男の元へ、「貸し出され」に行くのだ。
 身を売りに行くのだ。

 割り切ろう。

 大丈夫。
 こんなの、ケガレと闘うよりも、ずっと簡単なことじゃないか。
 命の危険も無いし、ただ言われるままにして、時間が過ぎるのを我慢すればいいだけなのだから。

 割り切ろう。

 心と体を切り離そう。


 哉汰を……哉汰と、自分のこの想いを、護るために──。


§         §         §


 平日の午前中だというのに、その男は家のリビングでスウェットのままTVを見ていた。
 ●●町2丁目3番地の、「加賀」という大理石製の表札が付いた、こぢんまりとした門構えの一軒家だった。
 裏に回り、子供用三輪車などが無造作に転がる、ひどく荒れた庭に降り立つと、ユウはリビングのソファに座る四十代後半らしき中年男に意識を集中して、魔石の魔力障壁(認識外領域)を彼に対してのみ解除した。
 男は急に現れたウィッチ姿の女にひどく驚いたようだったが、すぐに庭に面した大きな窓を開けて、喜んでユウを迎え入れた。
「君が?」
「こ、ここに行けと、言われたので」
「驚いたな。君みたいな子がウィッチだなんて」
「どうして……」
「ウィッチに会えるって言われてたけど、正直、半信半疑だったんだよね」
 その加賀という男は、五十を前に会社をリストラされ、妻と子供は出ていき、ネットにハマっていた時に「彼」の運営するサイトの常連になったのだと、聞いてもいないのに話してくれた。
 少し気弱そうだけど、優しそうな人に見えた。
 だから安心してしまったのかもしれない。
 昨日みたいに、強引にひどいことはされたりはしない。話せば、何もしないで帰してくれるかもしれない……と。
 でも、彼がポケットからあの赤いチョーカーを取り出したのを見て、愕然とした。

 ──なぜこの人が?

 そう思って言葉も無いユウの背後に回り、男は手早くチョーカーを付けると例の「ルーン」を唱えた。
 魔力を持たない(行使する術を知らない)普通の人間にも魔法具の効果を引き出す事が出来るようにしたものが「ルーン」だった。だからユウの驚きは、男が「ルーン」を唱えられたことより、なぜ男が「ルーン」を知っているのかという、根本的なところにあった。
「どうして?」
 と聞いた。
 そして、聞いたことで再び混乱した。
 黒髪の女性の姿に変身してチョーカーを巻かれた時は、同じ「ルーン」で声が出なくなっていた。
 なのに、ウィッチ・ユウの姿のままだと声が出せる。
 これはどういうことなのか。
 そういえばあの日……最初に「彼」に唇を奪われた日も、「彼」が「ルーン」を唱えるまで、声は出ていたはずだ。
 このチョーカーの「真の持ち主」である「彼」の、何かしらの「念」とでも言うべきものが込められていて、それが黒髪の女性──または「ウィッチ・ユウではない姿」になった時だけ、声が出せないようになっているのかもしれない。
 では、この「ルーン」は声を出せないようにするためのものではなく、何か他の目的がある……?
 それを確かめようと目を瞑り、意識を集中させようとしたところで、不意に男に抱きしめられ、唇を吸われた。
 驚きと息苦しさに動転した隙に、口内に“ぬるっ”と男の舌が侵入してきて、そのままたっぷりと蹂躙された。
 抵抗出来なかった。
 体から力抜けて、男の力強い腕に自由にされた。

 いやです。

 やめてください。

 何度も請うた。
 縋るようにして懇願した。
 でも聞いてもらえなかった。
 哀願するたびに口を塞がれ、唇がふやけるくらい唾液をまぶされて嘗められ、吸われ、甘く噛まれた。

 後はもう、昨日と同じだった。

 朦朧としたまま男に何回も何回も繰り返しキスされ、すぐに無意識にそれに応えるようになった。
 ソファに押し倒され、ビスチェを引き下ろされて両方のおっぱいを剥き出しにされて、男が思うままに好き勝手におもちゃにされた。
 嫌なのに、体がそれを裏切っていた。
 体が、そうされることを喜んでいるように思えて、涙が溢れ、目尻から流れた。
 とろけた顔を見られたくなくて両腕で顔を覆うと、腕を押さえられたまま脇を嘗められた。くすぐったさの中に、ゾクゾクとした未知の感覚を見つけて震えた。
 両方の乳首を交互にしゃぶられ、吸われていると、何もかもがもう、どうでもよくなっていった。
「あぁんっ」
 “ちゅううう”と両方の乳首を一度にキツく吸われた時、思わず声が漏れた。
 唇を引き結び、耐え続けていたのに。
 今にも唇から声が溢れ出しそうになっていたから、ずっと堪えていたのに。
「あんっ……あぅんっ……はぁあ〜……ん……」
 いやらしい声だった。
 気持ちよさに酔い、男に媚び、もっともっととねだるような、欲情した雌の啼き声だった。
 一度漏れた声は、抑えようがなかった。
 後から後から溢れて流れた。
 部屋には誰もいなくて、自分と男だけしか聞く者はいない。
 そんな事実がユウの心を開放していた。
「あぁ〜……あんっ……ぁあ……あっ……はあっ……ぅぁあん……」
 むずがるような、拗ねるような、鼻にかかった甘ったるい声だった。
 哉汰におっぱいを吸われた時と同じか、それ以上のいやらしさだった。
 実際、結婚し、子供もいる既婚者のテクニックは、蓄積された経験に裏打ちされた凄さだった。女が弱いところを的確に突き、責め立てる。時に甘く噛み、歯を立て、平たい舌で嘗め、尖らせた舌先でつつく。口付けも、優しく、繊細で、でも時に荒々しく、時に略奪的な野卑さがあった。
 翻弄された。
 声を上げた。

 ゆるして。

 ゆるして。

 たすけて。

 もういや。

 いやなの。

 おねがい。

 おねがい。

 涙がぽろぽろとこぼれ、男に自分から縋りついた。
 このたまらない気持ちを何とかして欲しかった。
 胸が、あそこが、子宮が、体中の全てが何かを求めていた。
 体のどこかで決定的に欠けている部分を、男に埋めて欲しかった。
 男の自分が女になって無くした何かで、再び満たして欲しかった。

【欲しいの】

 女のメンタリティから、その一言を口走りそうになる自分を、ユウは懸命に押し殺していた。
 その言葉が意味するものを、わずかに残った理性は理解していたから。

【抱いて下さい】

 そういう意味に捉えられるのだと、正確に理解していたから。
 あと数分遅かったら、男にしがみついて泣き叫んでいたかもしれない。
 でも、その直前で手に何かを握らされ、しごくように動かされた。
 するとユウは、ごく自然にそれに向けて顔を寄せていった。
 そうすることが当たり前だと思った。

 舌を伸ばした。

 口内に含んだ。

 美味しかった。

 うれしかった。

 体が火照った。

 ぞくぞくした。

 それはやはり、男の陰茎だった。
 熱くて堅くてふにふにしてビクビクしてた。
 口内で脈動する男の命の熱が、喉奥まで飲み込んだ亀頭のつるりとした触感が、それを味わうことが今の自分の全てだと思った。
 背筋がぞわぞわして、うっとりして、悦びが体に満ちた。
 “ぷりゅっ”と小さく囁くような音を立ててあそこから蜜が飛び散ったのを知った。
 唇で、舌で、手で、男の陰茎を舐めしゃぶり、吸い、唇でなぞると、男は気持ち良さそうに吐息を漏らし、頭を撫でてくれる。
 それがまた、嬉しかった。

 ああ……優しい。

 そう思った。
 やっぱり優しい人なのだ。
 そう思って安堵した。
 男は時々、
「君の声を聞かせて」
「また可愛い声を聞かせて」
「おちんちんって言ってみて」
「可愛い唇で言ってみて」
 と囁きながら甘やかすように頭を撫で、耳たぶを触り、首筋を撫でて、おっぱいを揉んだ。
 あまりにも何度も言うものだから仕方なく
「おちんちん」
 と口にしたら首筋から尾てい骨まで“ぞくぞくぞく”と電気みたいな痺れが走り抜けた。
「良く言えたね。いい子だ。可愛いよ」

 褒められた。

 嬉しかった。

 もし尻尾があったら、振りたくっていたかもしれない。
 男に頭を撫でられ、おっぱいを揉まれ、乳首をくにくにといじられながら何度も何度も「おちんちん」と口走った。
 そうすると嬉しそうに微笑んでくれる男の顔がもっと見たくて自然に笑みこぼれた。
「おちんちん美味しい?」
「おちんちん……美味しい……」
「おっぱい気持ちいい?」
「きもちい……おっぱいきもち、いい……」
「乳首は?」
「乳首も……きもちいー……」
「おまんこは? どう?」
「おまんこ……?」
「濡れてる?」
「おまんこ濡れてる……」
「触ってあげたいけど、今日は触るの厳禁だからね」
「あぁ……いやぁ……さわってぇ……おまんこ、さわってぇ……」
 自分が何を口走っているのか、理解していた。
 理解してはいたが、それをいけないと思う自分がいなかった。
 いやらしいことを口にすると、体がたまらなく熱くなり、痺れが走り、頭がぼうっとなるくらい気持ち良い。
 言葉を口にするだけで気持ち良い。
 こんな事は初めてだった。

 結局、男はユウの口内で1回、おっぱいに1回、射精した。
 口内の精液を味わい、ゆっくりと嚥下(えんか)した時、ユウは超絶的なオルガスムスに意識が飛んだ。目の前に火花が散り、一瞬で脳が焼き切れたような強烈な閃光のイメージに満たされ、痙攣のような震えと共に体が硬直し、弛緩した。痛いくらいに乳首が尖り、子宮が啼き、膣がバルーン現象を起こして膣液が大量に垂れた。

 すごかった。

 昨日の比ではなかった。

 確かに女性のウィッチにおいては、男性パートナーとキスしながら膣内に射精される事で、膨大な魔力流入が行われて十分以上の魔力が補填されるうえに、その質も極めて良質である。
 哉汰にも『より純度の高い魔力を供給するには、キスしながらの性交渉中の膣内射精がベスト』と説明した事があるのだ。
 また、膣内でなくとも、口腔内などの感覚受容体が多数集まった場所での接触と精子摂取によっても、若干劣るが多大な魔力補填が可能である。
 でもそれは、魔力回路が形成され安定したパートナーとの間でのみ成されることではなかったのか。
 だが目の前の男は、少なくとも普通の人間だった。
 魔力を精錬出来るような魔力回路が構築されているとは思えなかった。
 パートナー以外の男の精子を体内に入れるとどうなるか。
 そんなこと、母は教えてくれなかった。
 先輩のウィッチ達は誰も教えてくれなかった。
 精液を口から体内に入れるだけでこれだ。
 では、もしあそこから膣内に、子宮に精子を……精液を入れたらどうなるのか。
 膣内射精されたら、どうなるのか。
 想像したら期待感で胸がいっぱいになり泣き出してしまいそうになった。
 そして、
「あぁ……」
 気が付くと「彼」に組み敷かれ、「彼」の下で脚を大きく開いて「彼」の陰茎に膣を蹂躙されているイメージでいっぱいになっていた。


 ──「彼」??


 なぜ「彼」なのだ。

 なぜそこで「哉汰」ではないのだ。

 愕然とし、戦慄し、涙がこぼれた。
 「上書き」されてしまう。
 哉汰との思い出が、「彼」に、見知らぬ男達に「上書き」され、体を、心を奪われてしまう。
 そう思い、絶望的な気分になりかけた時、射精したばかりで半立ちの陰茎が口にねじ込まれ、たちまちその「悲しみ」や「絶望」さえも霧散した。
 カリの部分に残った精液の味に、

 ──狂った。

 ちゅうちゅうと、生まれたばかりの仔牛が母牛の乳首にむしゃぶりつくように、懸命になって陰茎をしゃぶり、尿道の精液を吸い出して嚥下した。
 再び硬くなってくる肉の幹が、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

§         §         §


 深夜3時を過ぎて、ユウは哉汰の部屋を訪ねた。
 この時間であれば、もう彼は眠っていると踏んでの行動だった。
 前回の魔力供給から、既に4日が経っている。
 もう、限界だと思った。
 哉汰の体内の魔力回路は、まだまだ不安定だ。この時期に3日間以上間を開けるのは哉汰の精神に良くない。通常であれば、徐々に精神を蝕まれ、焦燥してゆく頃だろう。
 幸い、哉汰は前世が魔神か魔王クラスのウィッチではないかと思えるほど、体内魔力の濃度が非常に高く、その上純度も桁違いに高い。普通の人間に比べて多少の無理は利きそうだったが、逆に、それゆえに一旦暴走した後、どうなるかわからないという不安もあった。
 自分の都合は、もうどうでもいい。
 とにかく今は哉汰の魔力回路への接続だけを考えないといけない。
 そう思っての、訪問だった。

 いつもはノックし、哉汰の了承を得てから開けて入る窓を、ユウは透過して“侵入”した。
 ベッドに近付き、そこに眠る哉汰の寝顔を見る。
 少し口を開けて無邪気に眠る親友が、なぜかどうしようもなく“可愛い”と感じてしまう。
『カナちゃん……』
 相当、いや、かなり無茶なお願いを、文句も言わずに聞いてくれている親友。
 元男とキスするなんて、実は嫌なんじゃないかと思っても、それを本人に聞くのが怖かった。
 もしそうだとしても、彼は嫌な顔一つせず、こちらが求めるままに応えてくれるのだ。
 そこにあるリスク──危険や代償に関する詳しい話をしないままに巻き込んで、本当に悪いと思っているが、ユウは哉汰をこれ以上“こちら側”に巻き込みたくはなかったのだ。
『カナちゃん……大丈夫、大丈夫だよ。カナちゃんはボクが護るから』
 本当なら、いつものようにあの商店街の路地裏で、『逢魔が刻』にしたかったが、今の自分にはこれが精一杯だった。贅沢は言っていられない。
 枕元に跪き、布団にこもった彼の香りにくらくらしそうになりながら、髪を掻き揚げて彼の唇に顔を寄せた。
 男同士だと単なる汗臭さに感じる哉汰の体臭が、オンナのカラダではどうしてこうも芳しく、官能を刺激される香りになるのか。
「んふ……」
 そっと口付け、彼の唇を嘗めた。
 彼が起きてしまうかもしれないため、残念だが深いキスは出来ない。それでも感覚受容体が魔力回路の接続を果たし、唾液に含まれる『ディフェンシン』という抗微生物ペプチド(抗菌性物質)が、哉汰の中の魔力を、よりロスが少ない形で効率良く伝える“伝達触媒”となってユウに伝える。

 その瞬間。

 ユウは目を見開き、飛び退るようにして哉汰から離れた。
『そんなっ……』
 一瞬で、意識を失いそうになったのだ。
『すごい……』
 脚がガクガクと震え、腰に力が入らない。
 男達の男根をしゃぶり、精液を嚥下した時のような強烈なオルガスムスが、哉汰とのごく軽いキスで感じてしまったのである。
 これはユウの「女性としての性感」が、度重なる哉汰との魔力補給によって開発され、そして「彼」と男達によって花開かされた結果かもしれなかった。
『うぅ……』
 ぎゅう…と両手で体を抱き、体内で吹き荒れる嵐に懸命に耐えようとする。
 あっという間に“スイッチ”が入りそうになっていた。
 これはもう「路地裏キス」(『逢魔が刻』の魔力供給)そのものだ。
 それでいて、魔力の充実度はものすごいのに、与えられるべきものが与えられない不満足感、飢餓感は異常だった。
 もっと寄越せと、体の深遠で欲望が叫んでいる。
 ぞくぞくぞくぞくぞくぞく……と、尾てい骨から首筋の毛の生え際まで、甘ったるい震えが駆け上る。
『あ、まずい……』
 思う間もなく、頭の中がどんどんピンクに染まっていく。
 ほんのちょっとだけの強烈な快感が、ユウの中での欲求を際限無く高めていった。

 ちゅーしたい。

 ちゅーしたい。

 もっともっとちゅーしたい。

 おっぱい吸って欲しい。

 ちゅーちゅーして欲しい。

 ぺろぺろして欲しい。

 息が荒くなり、目が爛々と輝き、まるで獲物を狙う猛禽類のような様相だった。
 動悸が激しく、早く、胸郭の中で飛び跳ねるようにして打ち鳴らされ、乳首が痛いくらいに勃起し、熱を持ち、あそこはとろとろでぬるぬるでべとべとだった。
 完全に「出来上がる」一歩手前の状態だった。
 視線は自然と哉汰の被る布団を下がっていき、彼の股間あたりでピタリと止まった。
 ほんのちょっとのキスだけでこれだ。

 もし、

 もし、他の男みたいに哉汰の陰茎を口に含んだら?

 もし、他の男みたいに哉汰の精液を飲み下したら?

 その素晴らしく魅力的な考えに、口の両端が“きゅう”と笑みの形に吊り上った。
 そうだ。
 哉汰が眠っている今なら、それも可能なのだ。
 ほんの少しだけ、ごく軽く、「眠り(スリープ)」の魔法で眠りを深くして、そっと布団を捲り上げ、彼が着るパジャマ代わりのスウェットのズボンを引き下ろして、トランクスからちょっとだけ陰茎を引っ張り出し……

 ──哉汰の、勃起ちんちんを、嘗める。

 ツヤツヤとした可愛い亀頭をたっぷりと唾を垂らして嘗め、喉の奥まで飲み込み、しゃぶり、その先端から迸る青臭くて生臭くて少ししょっぱくてものすごく美味しい精液を口いっぱいに溜めて、味わって、ゆっくり飲み込んで……。
 そこまで想像して、とうとう我慢出来なくなりかけたユウが“ごくり”と喉を鳴らした、その時だった。
「ュゥ……」
 ほんのかすかに。
 ささやくように。
 哉汰の口から、ユウの名が聞こえた。
『ボク……今、何を……』
 一瞬で、ユウの顔が苦痛に歪む。
 快楽に呑まれて、哉汰の陰茎をしゃぶり、咥え、精液を飲んで啜る想像に心躍らせていた自分が、もうとんでもなく淫乱で穢れたオンナに思えた。
 そしてそれが、男達のオモチャになる事に慣れ、むしろ快楽を得る手段としてそれを容認しかけているように思え──絶望した。
『最低だ……』
 涙が、溢れる。
 眠る哉汰の顔を見られず、ユウは彼に背中を向けた。
 ぼろぼろと涙が頬を伝い、おっぱいに落ちる。

 やがてユウは無言のまま、窓を透過すると、一度も振り返る事無く深夜の空へと飛び上がっていった。


この記事へのコメント
こじんまり→こぢんまり


ダークな中にも希望が感じられる不思議な魅力が満載ですね……フフフ……
Posted by 青玉 at 2012年07月14日 00:18
 修正しました。

 希望は…残しておきたいですねぇ……。
Posted by 推力 at 2012年07月18日 11:32
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/56480023

この記事へのトラックバック

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★