■感想など■

2012年07月12日

【ボクキミ】55

■■【55】■■

 部室を出ようとした哉汰に高階は言った。
 女の魔女(ウィッチ)は胎内にパートナー以外の精液を入れると不浄が溜まり、やがて堕落(フォールダウン)を起こす。これは男性型ウィッチには無い性質であり、堕落したウィッチは例外無く淫魔(サッキュバス)へと失墜(ソウル・ロスト)するのだと。
 そうなると後は、坂道を転がり落ちるように本人の意思とは関係無く他の男の精液を求めるようになり、やがて淫魔から高淫魔へと堕格後、不浄で練られた陰の気をケガレに喰われ、そのウィッチは、やがて魔神(ダイモン)として覚醒する。
「おそらく今のユウは、高淫魔となってまだ日が浅い。危険な状態であるのは変わらないが、今ならきっと救えるだろう」
 それは、どういう意味か。
 
 ──お前にはお前の救い方があるし、魔神化する前に救う方法はそれしかない。

 ──他の誰でもない。お前だけにしか出来ない救い方だ。

 ──だからこそ、俺達はわざわざ未熟で阿呆なお前をユウの元に向かわせるんだ。

 実際、哉汰もなんとなく感づいてはいた。
 男達に抱かれていたユウの髪が、段々暗く濁っていったことがあった。
 あれは、ユウに性遺伝子……精子をフェラチオで提供する前の事だ。
 だが精子を与えるようになってからは、髪の色が元のピンク色に戻らなかっただろうか?

 穢された体と魂は、哉汰の性遺伝子……おそらく「純魔力」とでも言うべきもので、浄化出来るのだ。

 でも高階の口から直接聞かされるまで、それを自分ではどうしても認められなかった。
 ただの自分のエロ妄想だったら、取り返しがつかないからだ。
 たとえ高階の表情が「それが正解」だと言っているように見えたとしても。 だから、

「お前の中で練られた陽の気を、ユウの中に注ぎ込むんだ」

 そう真面目な顔でハッキリと言われ、激しい脱力感に襲われた。
 だが、これで目的が定まった。
 そう思った時、哉汰は不思議なほど気持ちが高揚し、体全体が熱を帯びたことを自覚したのだった。

§         §         §


 高階と別れ学校を出た哉汰は、リンケイジ・ジュエルを握り締めながら、高階に教えられた通りにユウへと呼び掛けた。
 そうして呼びかけながら、街を、商店街を、住宅街を歩く。
 どこか一箇所に留まって呼びかけても問題ないような気もするが、そうしていないと落ち着かず、むしろ集中出来なかったのだ。
 コンビニで購入したゼリー状の健康補助食品を流し込み、やつれた顔で体を引き摺るようにして歩く少年を、人々は不気味なものでも見るように見たが、そんなのはどうでも良かった。
 だが、何も感じなかった。
 何が悪いのか。
 どうして感じられないのか。
 気ばかり焦って、握り締めた手の平に汗が滲んだ。

 そしてそれは、いつも学校帰りに優也と通る、公園に差し掛かった時だった。
 ケータイにメールの着信があった。
 高階からだった。
 時刻は10時を少し回った頃だった。
 そこには、ウルフの調査で、例のWebサイトを発見したこと。そのプロバイダも特定したこと。直ちに配信を停止し完全削除したこと。また、データをアップロードしていた人物の特定もしたことなどが記述してあった。
 さっきの会話中、何度か高階はケータイをいじっていたが、どうやらウルフに連絡して調査を指示していたらしい。
 まだ、高階と話してから1時間も経っていない。
 驚異的な速さだった。
 自分が最初、あんなにも時間をかけながら全然見つけられなかったサイトを、会話から拾い上げた情報から特定しただけでも凄いのに、データをアップロードしていた人物の特定までこの短時間でしてしまうとは。
 残念ながらその人物は偽名の上、プロバイダに提出されてた住所や電話番号を含めた個人情報も、巧妙に組まれたデタラメだったらしい。もちろん、サイトプロバイダの契約ページにアクセスした際に使用・登録されたフリーメールアドレスからドメイン管理会社を特定し、そのドメイン管理会社にアクセスログを提出させ、利用しているプロバイダを割り出し、且つIPアドレス(Internet Protocol)を特定して個人を割り出すことも可能らしいのだが、今はまだそこまでには至っていないのだという。

 ──こんなにも情報に対しての処理も対処も早い組織が、ユウを一向に見つけられずにいる。

 ウルフなら、あのサイトの画像情報や、写真に写り込んでいた人物の着衣・背格好、それに変死体として発見されたサーヴァントの身元から交友関係を洗い直し、そこからユウの足取りを辿る事は容易いようにも思えるのだが。
 それほどまでにユウの身の隠し方は凄いのだろうか。
 彼らが、不完全な足取りしか掴めないほどに。
『そんな相手を、俺が見つけられるのか……?』
 哉汰は不安になったが、「今、それよりも確かなのは、リンケイジ・ジュエルによる交感」だと言われれば信じるしかなかった。
 デジタルな電子通信や情報収集より、「魔法で通じ合う気持ち」の方が確実だと言われる状況に、複雑な気持ちを感じざるを得なかったが。
『俺が、じゃなくて、俺だから見つけられる。そう、先生は言いたいのか。……いや、言ったのは真美さんだっけ?』
 公園のベンチに座り、目を閉じて心を落ち着け、全身に張り巡らされた神経網を意識すると、そこに編み込まれ構築されているのだろう魔力回路に想いを巡らせる。
 不思議だった。
 さっきまで、闇雲に街中を歩いていた時より、ずっと心は澄んでいた。
 ウルフが到達出来なかったユウへの道を、自分だけが可能に出来ると、期待されている。
 そう思えたことが原因だろうか。
 現金なものだ。
 他人の期待という裏づけがあって、初めて自信が生まれるなんて。

【ユウの選んだパートナーであるお前なら、この宝石にリンクした優也の魂に呼びかけることも、おそらくその居場所を特定することも可能だろう】

 そんな高階の言葉が蘇る。

 本当だろうか?

 本当に、この宝石からユウへと呼び掛ける事が出来るのだろうか?

 自分の声は、まだユウに届くのだろうか?

『疑問に思うな……信じろ……信じるんだ……』
 ともすると萎えそうになる心を奮い立たせ、哉汰はユウへと一心に呼び掛けた。
 ジュエルを握った手を額に当てて、祈るように想いを込めた。
『ユウ……ユウ……ユウ……』
 そうして20分ほども経った頃だろうか。
 寒空の下、冷たい風に体がすっかり冷えて凍えていた。だがそれとは逆に、頭が奇妙なほどすっきりと澄みきっている。
 震えが這い上がり、歯の根が合わずにカチカチと音を立てるが、ユウの事だけを想いながら、ユウへと呼び掛け続ける哉汰は、やがて、何かが自分の心を“触った”と感じた。
 そして幻聴ならぬ幻臭とでもいうのか、その瞬間、ユウの、あのふんわりとして香(かぐわ)しい優しい匂いが、哉汰の鼻腔をいっぱいに満たしたのだった。
『ユウ!?』
 哉汰の心に触れた“それ”は、戸惑っていた。
 恐れ、怯え、そして苦しみながら哀しみを滲ませていた。
 それは迷子になった小さな男の子が泣きじゃくりながら母親を求める様にも似て、弱々しく、そして頼りなく、庇護欲をこれでもかと刺激するものだった。
『そっちか』
 哉汰は目を開き、ベンチから立ち上がって北の方角を見た。

 ──繋がった。

 そう思った。
 “それ”のいる方向が直感としてわかる。
 何も考える必要はない。
 ただ走れ。
 そこにユウがいる。
 俺を待っている。
 救って欲しいと待っている。
 護って欲しいと待っている。
 哉汰はそう信じ、体が動くままに、向かうままに駆け出していた。

 今度こそ。

「今度こそ」

 ユウが望むままに。

「そうだ」

 時が促すままに。

 何より……

「ユウ!」

 この気持ちが、求めるままに──。


この記事へのコメント
フラグ・・・これ以上転がり落ちないよね?あとは上がるだけだよね?
Posted by アンディ at 2012年07月12日 01:32
 と、私は思ってますが……。

 というところで、実は哉汰Sideのストックが無くなったので、以後しばらくは、ユウSideのみの更新となります。

 ユウの堕落、「彼」の行動、その辺の描写が主になるので、苦手な方はまた辛い展開が続きます。

 「僕オマエ」の焼き直しっぽいのは自覚してます(笑)。
Posted by 推力 at 2012年07月12日 09:59
うわああああああん
しばらく休みます
Posted by アンディ at 2012年07月12日 10:10
 ユウの浄化はたっぷりと濃密な“らぶらぶちゅっちゅ”を予定していますが、いつもの事ながら私の話は予定は未定で決定ではない感じなので、その頃はまた、よろしくお願いします。
Posted by 推力 at 2012年07月12日 10:39
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