■感想など■

2012年07月29日

[THEM]『Piece.04』「あなたをさがしてる」〜見つけたい真実〜

■■【1】■■


 朝起きて部屋の外のトイレに行こうとした時、お腹が“しくしく”っとした。

 “重い”までいかなくて、なんとなく体の中にどんよりとしたものが溜まってる感じ。
 いつものあの感じだ。
 近い。
 あと1〜2日といったところだ。
 予定通りとはいえ、正直、またか、と思った。
 プラ・スティック(硬化樹脂材)のプレートがついたドアを開け、トイレに入る。
 蓋を上げて、下着を下ろして少しひやっとする木製の便座に座る。
 それだけでなんとなく気分までダウンしてくる。

“神様は……どうしてこんなものを女にだけお与えになったのだろう……?”

 それが“苦行”などではなく、むしろ女性にだけに与えられた“特権”なのだと思えるまで、彼女は、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
 力を抜いてふっと息をつく。
 陶器製の便器に、勢い良く尿が当たる音がする。
 慌てて、少し尿の出を抑えた。
『だめね。ホントに』
 昨日の夜に、遅くまで黒髪の友人とおしゃべりしながら、ブランデーをちょっと多めに垂らしたお茶を飲んでいた。
 ……寝る前にトイレを済ませておくべきだった……と、彼女は思う。
 何度そう思った事か。
「今日、あったかいかな……」
 トイレの窓からは、朝焼けに染まり始めた、晩秋の空が見えていた。


 ティファ=ロックハート。
 黒髪の友人の名前だ。
 「ロックハート」という名前は、やっぱりカッコイイと思う。
 もちろん、「ゲインズブール」という名前がカッコワルイと思った事など無いけれど、それでも彼女のその名は、強い彼女に良く似合っていると思った。
 受けるイメージは、「頑強な意志」……とか、「気高い理想」……とか。
 そう言うと彼女−ティファは曖昧に笑って誤魔化してしまうけれど(ひょっとして意味を取り違えてる?)、2つ歳下の彼女の瞳の奥には、同世代の女の子には無い強い光が見える気がした。
「ふう……」
 自然と溜息が出る。
 ティファは、自分をどこかで蔑(さげす)んでいる気がする。
 自分で自分を、好きでいてあげていない気がするのだ。
 その反動かもしれないけれど、彼女は私を見る時、どこか羨(うらや)むような視線で見ることがある……と、彼女は感じていた。

 それは決して良い事ではない。

 自分は完璧な人間ではないし、彼女が憧れるような女でもないのだ。
 確かに、困ってる人がいれば放ってはおけないし、理不尽な行いには断固として抵抗する。
 けれど全ての人に愛を感じているわけでも、全ての蛮行に異を唱えるわけでもない。
 皆が思うような聖女などではないのだ。
『お腹空けば、食事するし、お肉もお魚も、美味しいって、思う。
 やだなーって思う男の人には「あっち行って!」って思うし、女の子に手、上げる男の人なんか「おんなじことしてやるぞ!」って思ったりもする』
 同じなのだ。
 他の、どこにでもいる女性と。
 決して重荷ではないけれど、それでも、ティファや他の仲間の見せる憧憬や敬意、時に憐憫……そんな視線がなんとなく心をザワつかせる。
 もっと普通に扱って欲しい。

 古代種最後の生き残り。

 セトラの末裔。

 そんなものではなく、ただの、一人の女性として。


 便器に溜まった少し色の濃い尿を貯水槽の水で流して、備え付けの手洗いで手を洗った。
 横25センチ、縦40センチくらいの鏡に顔を映して、しばらく見てみる。
「……ぶす」
 連日の強行軍で、肌が思ったより荒れてしまっている。
 ケアもろくに出来ないし、手持ちの乳液の残りもわずかだ。
 その上、果物はたっぷり摂っているはずなのに、ストレスのためか少し便秘気味だった。

 こんなときだからこそ、女でいたい……と、彼女は思う。

 心の余裕を無くしたままで男の人と一緒に旅を続けるのは、女としてあまりにも寂しいと思うのだ。
 誰が褒めてくれるわけでもない。
 男の人のために化粧をするのではなく、自分のためにするのだ。
 自分が自分でいるために、自分らしくあり続けるために。
 それを、化粧っ気の無いティファにもわかって欲しいと、彼女は思う。

 トイレから出てもそのまま部屋に戻らず、彼女はホテルの2Fの中程にある小さなラウンジまで歩いた。
 一旦起きてしまっては、もう中々寝付けないだろうし、今日の朝は少し早めに出立(しゅったつ)すると“リーダー”が言っていたから、このまま起きていようと思ったのだ。
「あれ? クラウド?」
 そのラウンジに、その“リーダー”である金髪の青年は、いた。
「……ああ。エアリスか」

 元気が無い。

 昨日のモンスターとの闘いで受けた脇腹の傷は、ケアルガで完治したはずだけれど……。
 魔法が無ければ、正直危なかったと、彼女は思う。
 腹膜が破れ、腸の一部がはみ出していた。
 彼は、神羅の近接戦闘特殊強化兵「ソルジャーファースト」だった男だ。
 真偽はともかく、彼の強靭な身体と異常なほどの戦闘能力は、それを真実として周囲に信じ込ませるには十分過ぎるほどだった。
 その彼の、しなやかでありながら強固な抗撃力を誇る腹筋を易々と突き破るほどの攻撃に、エアリスはぞっとして脚がすくんだ。

 先に動いたのはティファだった。

 甲殻モンスターにとどめを刺し、すぐさまクラウドに駆け寄って血まみれになりながら腸を押し込んだ。
 叫ぶ彼女の声に弾かれるようにして、エアリスがマテリアで彼の傷を修復し体力を回復させた。
 自浄作用と免疫力の向上によって感染症は抑えられ、増血作用の活発化によって、失われた血色もすぐに元に戻った。
 しかし、急激に血液が失われた事によるショック症状は収まらず、結局安全圏まで逃れるまで闘いに参加する事は出来なかったのだった。
 この街に到着出来ただけでも良しとしなければならない。
 なのにこの、無表情にクールを決め込んだ青年は一刻も早い旅への復帰を望み、一日宿泊しただけで早朝から出発すると言い張ったのだった。
 壁の、どこか古めかしい時計を見上げると、時刻は午前5時34分を指していた。
 あと20分もすれば日の出だろう。
 このラウンジへの集合は、午前7時の筈だった。
 まだ1時間半もある。
「ずっといたの? ここに」
 彼の向かいのソファに腰掛けた。
 パジャマ代わりの薄いキャミの上に、部屋に備え付けのガウンを着て、肩にショールを羽織っただけの姿だ。
 日中であれば、決してこんな姿で廊下には出なかっただろう。
 排尿して体温が逃げたために、少しだけ寒かった。
「だめだよ。休まないと」
 口調が、手のかかる弟にするみたいになってしまう。
 彼女に弟などいなかったけれど。
 彼は彼女の言葉に顔を上げ、何かを言いかけて、そして何も言わずに目を伏せた。

 睫(まつげ)が長い。

 この角度で見る彼の顔は、やはり男にしては整い過ぎている気がする。
 ミッドガルのスラムでドン・コルネオの取り仕切る娼婦棺『蜜蜂の館』に潜入するため、彼を女性に仕立てた日の事を思い出す。
 マスカラをつけなくても長くて形の良い睫に、少し嫉妬してしまった事も。
 そのため頬に塗ったファウンデーションが少し濃くなってしまったのは、彼女だけの秘密だった。
「気にしてる? 今日のこと」
 彼は答えない。
 相変わらず、何を見ているのかわからない視線を低いテーブルの上に向け、膝の上に両肘をついて、合わせた手の甲にすっきりとした顎を乗せている。
「ごめんね。ちゃんとサポート、してあげられなくて。
 ダメだよね。しっかりしなくちゃ。
 次からはちゃんとするよ。約束する」
「……違う」
 彼はようやく顔を上げ、困ったような、一所懸命に笑いを噛み潰しているような微妙な顔で彼女を見た。
 顔を少し斜めに向けて、唇の右端を“くっ”と上げている。
「エアリスのせいじゃない。しっかりしなくてはいけないのは、俺の方だ」
 そう言って、肩を竦める。
 その仕草は、彼女の心の奥底に眠る記憶をかすかに刺激し、揺り起こす。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/57169256

この記事へのトラックバック

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★